カーオーディオ市場の熱い“前哨戦”。東北勢躍進の震源地「イーストジャパンサウンドコンテスト」をレポート
東北地方最大規模のカーオーディオコンテスト「イーストジャパンサウンドコンテスト2025」(通称:イーコン)が、4月20日(日)に岩手県一関市の「花と泉の公園」にて開催された。北は北海道から南は関西地区まで、120台以上の音質にこだわった車が集結し、音質チューニングのスキルを競い合った。

カーオーディオコンテストは、野外でイベントが開催できる春から秋にかけてがメインシーズンとなっており、4月のイーコンはその一番槍となるビッグイベント。特にここ数年、全国大会における東北勢の勢いは強く、イーコンはまさに今年のカーオーディオ市場の“前哨戦”。冬の間に新調したシステムやチューニングの追い込みがいかに評価されるのか、エントラントも気合十分で挑んできている。
著名オーディオ評論家に加えて、西日本の有力ショップ、AV Kansaiとジパングのショップオーナーに音質をチェックしてもらい、今後のアドバイスをもらえるというのも大きな魅力。自分の実力を客観的に知るとともに、夏・秋に控える全国大会「ユーロコン」「ハイコン」への課題を改めて洗い出すチャンス。エントリーは1週間も経たずに埋まってしまったそうで、コンテストにかける期待の高さもうかがえる。

イーコンは、一関市のオーディオショップ、サウンドフリークスの佐藤さんと、コンセプトファクトリー(青森県)の下道さんを中心に、イングラフ、サウンドツアラー、ラビッド、サウンドスペース、サウンドエスパス、コール松本の8社の東北地方のカーオーディオショップ+カーオーディオクラブ(大阪)によって自主的に運営されている。
今回は新たに秋山 真氏が審査員として加わり、小原由夫氏、山之内 正氏、土方久明氏、岩井 喬氏、峯岸良行氏による6名体制で、まだ肌寒い朝の9時前から審査がスタートした。コロナ禍の中断を挟み今回が6回目となるが、年々参加台数が増えていることから、審査をよりスムーズに行うための運営スタッフの骨折りも絶えない。

今年の注目車両をいくつかピックアップしてご紹介しよう。
イングラフ(青森県)からエントリーした日隅伸逸さん。BMWの愛車でカーオーディオコンテストに参戦する常連である。「今回はRESOLUTのDSPとAUNEのネットワークプレーヤーを新調しました!」と意欲たっぷり。特にブルックナー9番の空間再現性は素晴らしく、前後や奥行き方向の広いサウンドステージは、カーオーディオであることを忘れるほどの没入感。ピッコロやトランペットなど、それぞれの楽器の肉厚感もしっかり味わわせてくれる。

「審査員の方には、ちょっと低域が出過ぎ、と言われたのですが…自分的には好みの音にしっかり仕上げられたので満足です!」と出来栄えに笑顔を見せてくれた。

ゴールドのヤリスクロスは菱沼友彦さん(アインジール・東京都)。DYNAUDIOのEsotan3ウェイシステムにサブウーファー、それらを珍しい(?)morelのアンプで鳴らすという組み合わせ。先日2ウェイから3ウェイにアップデートしたばかり。アンプ類は座席下にコンパクトにまとめている。

「やっぱり声でしょう!声がいいと運転がより楽しくなるんです!」と菱沼さん。3ウェイにしたことでより深い表現力を獲得できたようで、サム・スミス&宇多田ヒカルの「Stay with me」のハーモニーの溶け合いにも心が躍る。


日産のオーラ・ノートで参戦する霜田英之さん。昨年、東京都杉並区に新たに立ち上がった専門ショップ・イーダオンキョウからのエントリーである。「今年の2月に車を買い替えたばかりで、前回のリーフからオーディオシステムを一部持ち込みつつ、新たにアップデートしました」とのこと。FIIOのDAPから、audisonのBluetoothモジュール「B-CON」に飛ばすという比較的シンプルなシステムで構成している。

霜田さんは、「S/Nの良さはもちろんですが、フォーカルのスピーカーを使っていまして、フランスらしい華やかさを出せるといいなと思って作りました」とこだわりを熱弁。実際に聴かせてもらうと、音楽の美味しいところをぎゅっとしぼり出したような明快なサウンドで、天井から音が降ってくるような、包み込まれるようなサウンドが魅力的。


サウンドエスパス(福島県)のショップデモカー、フランスのDS「DS4」は今回印象的だった車のひとつ。シトロエン傘下に誕生した、国内でも見かけることの少ない珍しいブランドである。田巻修一さんが店長を務めるカーオーディオショップで、ラズパイのVolumioを活用した独自の再生システムを構築しているのが特徴。フロントのタッチパネルで、選曲など直感的に操作することができる。

スピーカー&アンプはすべてmorelで構成。5ウェイのスピーカーユニットを囲う菱形のデザインもクールで、まさに運転する喜びを掻き立ててくれる。清涼感豊かな音質に、精緻な低域、無駄な膨らみを持たない切れ味の良さが大きな魅力。高さ方向に加えて、ダッシュボードの奥から音像が繰り出されてくるような、奥行き方向への表現力など、頭ひとつ抜けた構築力を聴かせてくれた。


関西方面からはるばる岩手まで愛車を駆って参戦する参加者も多い。大阪から来た鍵公明さん(AV Kansai)、ホンダアクティでの参加である。「東北のお客さんたちがまいど大阪(注:関西で開催される大型カーオーディオコンテスト)に来てくれるので、私もぜひ行きたい!と思いまして参加しました」と熱い情熱。

弱音部の再現性の豊かさ、またクレッシェンドの滑らかさも格別の味わいがあり、弦楽器の立ち上がりの切れ味も見事。音色感を丹念に追い込み、ダッシュボードの空間を上手に活用することで、軽自動車の限界を超えるサウンドが引き出せるのだと、改めてカーオーディオの奥行きにも心打たれた。

同じく関西エリアから参戦の江口藍里さん(カーオーディオクラブ)、イーコンは皆勤賞で参加している常連のひとり。ベンツのGLAをはるばる飛ばしてコンテストに挑む。「秋山先生が審査曲に選んだアニソン(米津玄師の『Bow and Arrow』)がすごく好きなので特に力を入れて頑張りました!」と力強い。ユーロコンで「アニソンコース」が設けられた際もいの一番に参加を表明した、生粋のアニメファンでもある。

フィギュアスケートの物語を盛り上げる、疾走感や切迫感を情感豊かに引き出していて胸が締め付けられる。GLAに乗り換えて1年半、イートンのスピーカーやDSPをしっかり使いこなしていることが感じられて、声の質感の滑らかさや艶やかさもたまらない。3分弱という短い曲の中で変わる目まぐるしい展開を乗りこなす、音楽愛もたっぷり響かせてくれた。

カーオーディオ関連製品を発売するメーカーや輸入商社もデモカーを用意。コンテストの待ち時間に音が聴けるように準備している。
オーディオテクニカは、新たにトヨタ・RAV4のデモカーを作成。ケーブルによる音質の違いを確認できる車となっており、ノーマルなRCAケーブルとREXAT(レグザット)シリーズの聴き比べができる。REXATは導体や制振構造などを強化したシリーズとなり、実際に聴き比べると特に情報量や解像感は完全に別物。ケーブルにおける“欠損のない伝送”の重要性をあらためて教えてくれる。

2月に発売になったばかりのマイカフィラーを活用した電源ケーブルも注目が高いほか、ピンポイントで制振ができる「バイブレーションコントローラープラス」も引き合いの強い製品だという。「今年もカーオーディオの新製品を計画しています!」と、オーディオテクニカとしてもカーオーディオ製品に引き続き力を入れていく予定だと教えてくれた。

イースコーポレーションは、カーオーディオのニューカマーに向けた新しい国産ブランドADONN(アドン)の取り扱いを開始した。九州発のブランドで、USBプレーヤー「DSD-Z10」は5万円台からスタートと、コンパクトでお求めやすい価格が魅力。DSP内蔵アンプも5万円台から用意しており、“これから”カーオーディオに取り組みたい人も手軽に始められる。カーオーディオの裾野を広げるプロダクトとして期待したい。

フェリースソニードはクワトロリゴの「Fantasia」シリーズが着実なヒットを飛ばしているほか、トライムはBLAMの「10周年記念モデル」も人気。さらに、「KOJOのスティック型アースブロックに挿すと効果がさらに高まるんです!」とアクセサリーによる音質効果のアイデアを積極的にアピールしていた。



午後2時過ぎにはまばらに雨が降り始め、夕方には少々強めの雨模様、表彰式も残念ながら雨の中での開催となってしまった。喜びに湧く参加者も、残念ながら表彰台に上がれず涙を飲んだエントラントもいるのはコンテストの常ではあるが、自分の車の音質の客観的な位置づけを知る、グレードアップのためのヒントを得ることができるのは、コンテストに参加する大きな意義である。
Aクラスの審査を担当した土方氏も、「Aクラスは全体的に非常にレベルが高かったです」と振り返るとともに、「初めて聴くカーオーディオ車両も多く、作り手の思いが込められた車をたくさん聴くことができたのは非常に楽しかったです。真面目にカーオーディオに取り組んでいる音は、やっぱり出音から全く違います。コンテストの結果は残念でも、狙いをしっかり捉えており、今後大きな伸び代があると感じた車も多くありました。今回の結果を踏まえて、ぜひ次のステップアップに活かして欲しいです」と語ってくれた。
始まったばかりの「2025年カーオーディオ戦線」。その最前線を今年もたっぷりお伝えしていこう。
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