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PRエネルギッシュかつ緻密な音像表現

スピーカー自作派に贈るフォステクスの新たな挑戦。最新トゥイーター「T360FD」の魅力を多角的に検証

2023/02/28 生形三郎
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フォステクスの試聴室にて、最新のトゥイーターユニットの秘密に迫る



自作スピーカーユニットの製造元としていまや希少な存在と言える国産ブランド・フォステクス。「かんすぴ」のような誰もが手軽に作れるスピーカーキットから、NHKをはじめとする放送局用のモニタースピーカーまでを手掛ける、唯一的な存在である。

そんなフォステクスから、同社初となるFolded Diaphragm方式のトゥイーター「T360FD」が発売となった。この方式は、いわゆるハイルドライバー方式の発音構造によるもので、別名AMT(Air Motion Tweeter)などとも呼ばれる。スピーカーに詳しい方ならご存知のように、この方式ならではのスピード感や音の質感など独自の魅力を持ち、一部メーカーのスピーカーにも採用され続ける方式である。

スピーカーの自作に活用できるスピーカーユニットを継続的に発売しているフォステクス。フルレンジからトゥイーター、ウーファー、エンクロージャーまでさまざまなラインナップを揃えている。今回は最新のトゥイーターユニット「T360FD」をさまざまなシステムで試聴し、その魅力を深堀りする

早速、フォステクス試聴室でウーファーやフルレンジユニットと組み合わせた試聴や、筆者宅のチャンネルデバイダー&マルチアンプシステムに組み込んでの試聴を実施したので、その感触をお届けしたい。

生形三郎氏が「T360FD」の魅力に迫る

応答速度が早く、スピード感のある緻密な描写が特徴



Folded Diaphragm方式(ハイルドライバー方式)は、物理学者であり科学者であるオスカー・ハイル博士が発明した方式で、プリーツ状に折りたたまれた、金属エッチングされたフィルム状の振動板が高速で開閉することで発音される方式である。遠目に見ると、リボン状の振動板のリボントゥイーターや平面振動板ユニットと似ているが、方式としてはまったく異なるものとなる。

フォステクスブランドとして初のFolded Diaphragm方式のトゥイーター「T360FD」(49,500円/1台/税込)

特徴としては、振動板の質量が非常に小さく、かつ一般的なダイナミック型の振動板と比べて振動板の振幅距離自体が短いため、応答速度が非常に素早いことが挙げられる。それによって、非常にスピード感のある緻密な描写が実現できるのだ。これは、静電型のドライバーとも共通する特徴だ。さらに折りたたまれた振動板は、ドーム型のトゥイーターと比較しても非常に大きな表面積を有しており、より高速なレスポンスと低歪なサウンドを得やすいという利点がある。これらが、この方式ならではの音の魅力を形成していることは間違いなく、多くのファンを持つ由縁である。

柔らかい素材がプリーツ状に何度も細かく折りたたまれた振動板

一方で、この方式のドライバーは、限られた数少ないメーカーのみにより発売および採用されているという現状がある。自作スピーカーユーザーの方ならご存知のように、この方式のユニットを使用する場合は、一般に購入できるものは数社程度に限られてしまう。

「T360FD」の内部構造

「T360FD」の構成パーツ

そこに名乗りを上げたのがフォステクスというわけだ。今回このユニットを開発したフォステクスカンパニー技術部の保坂 元氏によると、「シンプルな構造が故に、それぞれのパーツが音に及ぼす影響が想像以上に大きく、振動板はもちろんのこと、鉄やネジの材質にまで吟味を尽くした」といい、まさに国産ブランドであるフォステクスならではのこだわりと贅を尽くしたスペシャルな内容になっているという。

フォステクスの開発チームに話を聞く生形氏(左)。右がメインの開発を担当する保坂 元氏、中央が乙訓克之氏

これは、自作ユーザーのハートを大いにくすぐるものである。私自身も、フォステクスがついにハイルドライバーを開発したのかと、発表を耳にしたときからワクワクが止まらなかった。

実際に間近で製品を見てみると、その質感の高さを実感することができる。剛性感の高さを感じさせるしっかりとした肉厚な金属製フレーム、音響に配慮して打抜きではなく細かな六角形状にエッチングされた振動板保護用のメッシュグリル、背面には美しい光沢を持った銘板や肉厚な金メッキ端子が装備されている。さらには、製品箱を開梱するとフォステクスのロゴが入った小さな巾着が同包されているなど、スペシャルなモデルとして、細部にわたって入念に設計および開発されていることが窺える仕上がりとなっている。

4箇所に横長の穴が開けられた金属フレーム。このサイズや形状も数多くの試作を経て決定されたものだという

「T360FD」の裏側。彫り込まれたブランド名や型番なども美しい

T360FDを3つのシステムで試聴。設計者の明確な方向性を感じる



では、実際に試聴した音はどのようなものだったか。一聴して、設計者の明確な方向性を感じるサウンドだ。変則的ながら、まずは、この度フォステクスから数量限定で発売となる20cmフルレンジスピーカーユニット「FE-208SS-HP」(8Ω/94.5dB)との組み合わせで試聴した。

フォステクス試聴室にて、フルレンジユニット「FE-208SS-HP」と組み合わせて試聴。パワーアンプには「AP25」を2台モノラルで使用している

シンプルにコンデンサー1発を繋いで6dB/octのハイパスフィルターを通して組み合わせてみると、フルレンジの持つ音色を残しながらも、この「T360FD」が持つ、エネルギッシュかつ緻密な音像表現が音楽再生を支配した。声や楽器の音の像が明瞭な姿で聴き手へと迫る音で、爽快感溢れるサウンドだ。音楽に活気が満ち満ちており、爽快である。音楽ジャンルを選ばずに聴かせる点も流石で、明瞭かつ透明感のある音色バランスは、まさにユニット仕様にある周波数特性表のままのフラットでニュートラルな表現だ。

通常は2ウェイスピーカーの高域担当として使用されることが多いが、今回のようにフルレンジユニットへのアドオンとしても可能。トゥイーターを追加することで低域にも締まりが出てくるなど、トータルとしての音作りができることも自作ユニットならではの楽しみ

ハイルドライバー方式というと、通常は2way以上のスピーカーシステムのトゥイーターとして使用するのが一般的だが、フルレンジスピーカーへのアドオン・トゥイーターとしての使用も実に魅力的であるということを身をもって体感させられた。

次に、同社のウーファーユニット「FW168HS」(8Ω/86dB)と組み合わせた試作箱での試聴を実施。こちらは、試作のネットワークということで、2次(トゥイーター側ハイパス・フィルター)および3次(ウーファー側ローパスフィルター)のフィルターによるネットワークに、さらにトゥイーター用に可変アッテネーターを用いた内容となっている。

保坂氏が自作したオリジナルのエンクロージャーに装着して試聴

トゥイーターのゲインを可変アッテネーターで絞りこんでいることもあってか溌剌さこそ控えめだが、緻密で綿密な表現力はそのままに、むしろ穏やかな聴き心地が快いバランスとなっている。やはりユニットの素性は非常に癖のない音で、同じく癖のないFW-HSシリーズ・ウーファーの持ち味とのマッチングの高さを感じさせ、いまのフォステクスの現代的なサウンドを実感することができた。

さらに、同社が発売している小型のチャンネルデバイダーを使用した2wayマルチアンプによるシステムも試聴。使用ユニットにはフルレンジユニット「FF165WK」が用いられるとともに、エンクロージャーも同社の「BK165WB2」が使われた構成で、マルチアンプシステムといえども、全て同社が提供する製品で組み上げることができる。

フォステクスの現行ラインナップ、フルレンジ「FF165WK」エンクロージャー「BK165WB2」と組み合わせ。チャンネルデバイダー「EN15」を活用してマルチアンプにも挑戦

クロス周波数は2kHz - 2.5kHz程度、トゥイーター側のレベルは-6dB程度で試聴したが、やはり、癖を感じさせない音の鳴り方で、明解かつ爽快な、パンチのあるサウンドが実現されている。マルチアンプの効用もあってか、充実したベースの出方や充実感があり、それぞれの楽器の音が緻密かつ瑞々しい音で描かれるさまが快い。

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