【インタビュー】LUMIXはワークフローまで革新。“体験提供”でカメラ市場が盛り上がる大きな流れを創る
DGPイメージングアワード2025受賞インタビュー パナソニック
プロとプロシューマーの垣根を低くする若手映像クリエイターの活躍や、“推し活” で新たにカメラの価値に気づく若者など、様々なシーンで今、カメラを取り巻く環境が大きく変わろうとしている。そのような中、課題として指摘されるワークフローにスマホ用アプリ「LUMIX Lab」「LUMIX Flow」を提案。さらにカメラファンが集う場「LUMIXコミュニティ」を開設するなど、機器だけにとどまらない多彩な取り組みで注目を集めるパナソニック「LUMIX」。カメラを楽しむ新潮流創造へ挑む意気込みを、同社・津村敏行氏に聞く。

パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社
副社長 執行役員
イメージングソリューション事業部長
津村敏行氏
プロフィール/松下電器産業(株)(現パナソニック(株))入社。ポケットベル、携帯電話、スマートフォンなどの通信機器の設計開発・商品企画に携わり、2014年発売の「LUMIX CM1」の開発を機にイメージング事業に深く関わり現在に至る。好きな言葉は「日に新た」。趣味は写真/動画撮影、映画鑑賞、ランニングなど。
満を持して登場したS1シリーズ第二世代機「S1RM2」「S1M2」「S1M2ES」
―― DGPイメージングアワード2025総合金賞を「LUMIX DC-S1M2」が受賞されました。おめでとうございます。ハイエンドモデル「S1シリーズ」の発売から約6年を経ての第2世代機となります。開発背景や発売後の反響をお聞かせください。
津村 フルサイズミラーレスに参入した2019年、S1シリーズとして「S1R」「S1」「S1H」という個性の異なる3つのモデルを発表しました。その正統な後継モデルとなります。スチルと動画をハイブリッドで使いこなすユーザーをターゲットに、プロフェッショナル用途でも十分に使っていただけるスペックを備えています。
今回もお客様のニーズに合わせた「S1RM2」「S1M2」「S1M2ES」の3モデルを揃えています。「S1RM2」は高解像のイメージセンサーを搭載し、高速かつ高解像で階調豊かな描写性能を実現しており、写真撮影の方がメインターゲットになります。もちろん動画性能にも妥協はなく、LUMIXで初めて8K動画記録に対応しています。
今回、動画撮影部門の総合金賞をいただいた「S1M2」は、動画撮影をメインにしながら、高速の写真撮影も楽しめます。特にこだわったのが豊富なコーデックやスロー表現です。日本で増える若手映像クリエイターの制作するミュージックビデオでも、時間軸をどう表現するかに大変こだわりがあり、そのトレンドにもしっかりお応えしています。
ダイナミックレンジの性能を重視、部分積層型CMOSイメージセンサーを初めて採用して高速撮影を可能にしました。60pの2倍スローや24pの5倍スローにも対応するなど、動画に求められるほぼすべての表現能力を備えることで、初代「S1シリーズ」では実現できなかった性能を網羅しています。
さらにARRI社とのパートナーシップ契約により、Log撮影機能「ARRI LogC3」(別売のアップグレードソフトウェアキー「DMW-SFU3A」が必要)に対応しています。プロシューマーからプロのシネマ領域に至るまで、これ1台で対応することを可能としました。
加えて内部RAW収録では、これまではカメラに対して別途レコーダーを、そのレコーダーに対して別途バッテリーを用意しなければならないといった、本来のクリエイティビティでないところでの準備の手間についても改善を図っています。
若手映像クリエイターからも好評の映像制作アプリ「LUMIX Flow」
―― ワークフローに対してもこだわられていて、好評の「LUMIX Lab」に続き、映像制作アプリ「LUMIX Flow」が登場しました。
津村 「S1シリーズ」に限らず、写真や動画を楽しまれる方に機器をトータルで提供するだけではなく、ワークフローの利便性を高めることに力を入れています。写真用途で「LUMIX Lab」というスマホ用アプリを出し、動画では標準的だったLUT(ルックアップテーブル)を変えて楽しむ提案が大変好評です。そして、S1RM2の発売より映像クリエイターに向けた新アプリ「LUMIX Flow」の提供をスタートさせました。
シナリオを考えたり、絵コンテを組み立てたりするのは楽しいのですが、数人や少人数のチームで動画を作るとき、大量に撮ったカットを並び替える作業がとても煩雑で時間を要し、大きな課題となっていることがヒアリングから明らかとなりました。
「LUMIX Flow」は、撮影に出かける前に絵コンテをセットしておけば、絵コンテに沿って「次はこのカットです」とアナウンスしてくれます。丸1日撮影した後に撮りこぼしのカットが見つかった、そんな最悪の事態を防ぐことができます。さらに、オッケーテイクをレイティングしておくと、編集ソフトに流し込むと自動で時間軸に並べ替えられ、ほぼ完パケに近い状態が出来上がり、編集における手間を大きく省くことができます。
本アプリの企画に参画してくれた若手映像クリエイターからも絶大な評価をいただいています。30秒から1分という時間の中に、シナリオをしっかり組み、数多くのテイクを入れて制作するショート動画の関心が高まっていますが、動画は編集が面倒だという先入観から敬遠されている方も少なくなく、長編を含めたワークフローをさらに改善していきたいと考えています。
―― LUMIX Labもファームウェアアップデートにより、自分が色合いの参考にしたい画像を放り込むだけで生成AIが自動でそれに似た色作りをしてLUTとして出力してくれる新機能「Magic LUT」が追加されました。
津村 クリエイターには自分の好きな絵づくりがあります。プロなら自分で作ることができますが、なかなかハードルが高い。そこで、好みの写真の色味をもとに、AIが分析してLUTを生成してくれる「Magic LUT」を提供することで、誰でも自分の好みの色表現で撮影することを可能としました。
これからもカメラ単体でなく、ワークフローの利便性を同時に高めて、リッチな映像をいかに効率的に撮れるかを突き詰めていきます。そこではお客様のニーズをどれだけ把握できているかで、提供できる価値も異なってきますから、企画段階からターゲットユーザーのところへ足を運び、現場を直に見ることを徹底しています。
若い人の間に広がるスマホにプラスしてカメラを持つニーズに注目
―― 交換レンズに対しても市場からいろいろな要望が寄せられていると思います。今年6月に発売したコンパクトな大口径標準ズームレンズ「LUMIX S 24-60mm F2.8」が人気を集めていますが、11月20日には超望遠5倍ズームレンズ「LUMIX S 100-500mm F5-7.1 O.I.S.」が登場、こちらも話題を集めています。
津村 望遠には「LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S.」がありますが、それを上回る領域をカバーする、しかも、LUMIXらしい手ブレ補正を効かせながら、持ち運びに便利なポータブルサイズのものをという声を非常に多くいただいていました。
「S1M2」は高速連写性能に優れ、野鳥や鉄道、レースなどのスポーツシーンの撮影に非常に向いており、そのようなシーンで「LUMIX S 100-500mm F5-7.1 O.I.S.」は機動性と高い追従性能を発揮するレンズとなります。組み合わせたときのマッチングが大変よいレンズで、実は「S1M2」が出るタイミングを狙っていました。
―― 各地でタッチ&トライのイベントを開催され、大変盛況とお聞きしています。
津村 LUMIXとしてこだわりの強い手ブレ補正も、カメラのボディ内手ブレ補正(B.I.S.)との連動制御による「Dual I.S.2」に対応し、望遠側で7.0段分の補正効果を発揮します。タッチ&トライでは様々なシーンで撮影いただき、楽しみの幅が広がると好評でした。ぜひ手に取ってお試しいただきたいですね。フルサイズSシリーズレンズは2019年3月の発売からいよいよ20本となり、単焦点から超望遠レンズまで幅広いラインナップとなりました。
―― カメラでは “オールドコンデジ” がZ世代から人気を集めていますが、2月に発売された「DC-TZ99」が金賞を受賞され、人気を集めています。購入層や用途に特徴は見られますか。
津村 「TZ」=「トラベルズーム」でメインは旅行用途ですが、“推し活” のイベントの撮影に使われるケースが多いようです。イベント会場では一眼の超望遠レンズの使用が禁止されていることが多く、ポケットにも入るコンパクトさで光学30倍ズームを誇る「DC-TZ99」が人気を集めているというわけです。望遠はスマホも苦手とするシーンですからね。
購入者の内訳を見ても二極化しています。旅行を主な用途にしたご年配の方々の購入は確かに多いのですが、20代 - 30代が約3割を占め、男女比でも女性が約3割、そのなかの約半数が30代以下という状況です。ミラーレスとは少し異なった傾向を示しています。
スマートフォンにプラスしてカメラを持つニーズが若い人の間に広がりつつあり、私達も大変注目しています。“推し活にカメラ” という切り口は、新しいお客様にカメラの楽しさを知っていただく絶好の機会です。カメラブームの再来を感じさせるこうしたトレンドに、メーカーがタイミングよく製品やサービスでお応えしていかなくてはなりません。弊社がどのような価値を提供できるのか、もう一度深掘りして考えていきたいですね。
シネマ映像制作やライブ配信でプロと同様のことを一般の方がやり始めている
―― 御社のイメージング事業は昨年春、プロAV事業とパナソニック映像株式会社をパナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社へ移管され、新体制がスタートしました。コンシューマー市場ではどのようなシナジーが生まれていますか。
津村 パナソニックにはもともとプロフェッショナルAV部門があり、VARICAMなどの映像制作用シネマカメラや、スタジオカメラ・リモートカメラ・ライブスイッチャーなどを含めた映像配信システムに強みがあります。画像処理エンジンの技術に共通性を持たせるなど、開発面でのシナジーは従来からありましたが、新体制でプロフェッショナルの現場をよく知るエンジニアが同じ部門に入ったことで、かなり多くのシナジーが出ています。
V-Log撮影や4:2:2 10bit記録をミラーレスの世界に先んじて採り入れたのも、プロフェッショナルAV部門でシネマまで手掛けていたので、民生のお客様のニーズがいずれここまで来るはずだと確信していたからです。そのような事例はたくさんあります。

さきほどお伝えしたワークフローの革新にもプロフェッショナルの知見が生きています。反対に、民生機のミラーレス技術を用いて、「DC-BGH1」というボックスタイプのカメラをプロフェッショナルのライブ配信に耐え得る仕様に進化させたマルチパーパスカメラ「AW-UB10」がプロルートで花開いています。
映像分野ではプロとプロシューマーと呼ばれるアマチュアの境目がなくなってきて、プロが普通にミラーレスカメラで映画を撮ったり、アマチュアがプロ用の撮影機材を使ったり、作品の作り方が大きく変化しています。特にシネマ映像制作とライブ配信では、これまでプロしかやらなかったことを一般の方がどんどんやり始めています。そこで生まれる新しいニーズに対して、我々の掛け合わされた知見によりベストな回答が導き出せています。まさに狙い通りのシナジーが出ていると確信しています。
―― 「Inter BEE」でも昨年からLUMIXの展示を復活されましたが、機能・性能が大きく向上する民生機に対してプロの関心が高まっているとお聞きします。
津村 展示会でもプロ機と民生機の両方を展示する機会が増えましたが、そこで、カラーコレクションが大変楽になってきたことが一つの変化として挙げられます。色合わせはプロの現場では非常に重要視されています。プロの目はレンズの色味まで見抜きますからね。「今度の新製品のレンズ、ちょっと色味が違わない」とプロから指摘されると光学エンジニアも慌ててしまうそうです。
実は、LUMIX Sシリーズの単焦点レンズ「F1.8単焦点シリーズ」はフォルムの統一だけでなく、色味もすべて統一されています。色味の合わせ込みは大変難しいため、なかなかそこまでやられるメーカーも少ないのではないでしょうか。
「S1シリーズ」を発売したタイミングで、さらにひとつ上のランクを目指そうと、レンズの規格をすべて見直しリニューアルしました。最初の4本のレンズを出したときに、プロの方から「若干色味が違う」と指摘を受け、エンジニアがいろいろなデータを分析したところ、ある特定のパラメーターが色味の共通性を持たせていることが分かりました。以来、新開発のレンズにはすべて、そのパラメーターを統一するように作られています。
熱狂するお客様が増えることが業界を活性化させる源泉になる
―― 直近のカメラ市場についてはどのように分析されていますか。
津村 一眼レフからミラーレスへの乗り換えでフルサイズミラーレスが好調に伸びていた動きもほぼ一巡し、ここ3、 4年は性能アップ・機能アップによる単価アップの流れが顕著になっています。需要の底上げという面では、新しいお客様が新たにカメラを使い始めているところが貢献しています。
私達もフルサイズミラーレスやマイクロフォーサーズをすでに楽しまれているお客様に向けた新製品をしっかりご提供しながら、新たにカメラを使っていただけるお客様に選んでいただける普及価格帯の商品強化にも力を入れています。例えばSシリーズの「S9」では価格設定にも非常にこだわりましたし、マイクロフォーサーズのミラーレスカメラ「DC-G100D」では、多くの新しいお客様にカメラを始めていただくことができました。手軽に高倍率ズームを楽しめると人気のコンパクトデジタルカメラ「DC-TZ99」も立ち上がりから好評で非常に楽しみです。
さらに、そこから先にあるステップアップした楽しみ方に対しても、魅力ある商品やサービスを提供していきます。撮って簡単にシェアするワークフローやLUTの楽しさなど、「LUMIX Lab」で実現した世界観をコンパクトの世界でも提供できたらとも考えています。また、交換レンズを変える楽しみを啓発する機会の提供にも工夫を凝らし、新しい世代の中でもう一度、カメラ市場が盛り上がっていく大きな流れを創っていけたらと思います。
―― どうしてカメラを始めようと思ったのか、また、どのように楽しんでいるのか。新しいカメラファンの声を届けていきたいですね。
津村 製品購入後の楽しみ方を提供する一つの手段として、LUMIXファンのコミュニティサイト「LUMIXコミュニティ」という活動を2024年9月30日から始めています。撮った後にみんなで講評し合える、プロの写真家との接点が持てるなど、買った後にも「カメラって楽しいよね」と感じていただきたい。
もっといいものを撮りたいという気持ちや友達も一緒に楽しもうよという世界を盛り上げ、コミュニティをもっともっと大きくしていきたい。“カメラ機器メーカー” という枠を超え、目指すは “体験提供メーカー” です。LUMIXコミュニティに登録者の約15%が20代以下と若い世代が多く、毎月開催している体験イベント、フォトウォーク、撮影会などどれも満員御礼です。
「LUMIX BASE TOKYO」で開催した一周年記念イベントには、数多くの老若男女のLUMIXファンに集まっていただけました。「カメラを楽しむ」という共通言語があるので、ご年配の方々と20代の若い方々が普通に会話を楽しめるんです。雰囲気もすごく明るくて、ファンの方と一緒に磨き上げていく、育てていく姿が理想ですね。
「ファンフルエンサーマーケティング」という言葉も聞かれますが、熱狂するお客様が増えることが、業界を活性化させる源泉になります。単にカメラというモノを購入するだけにとどまらず、「もっと使いたい」「もっと楽しみたい」と思っていただけるように、アプリや体験イベントにも力を入れて参ります。
