公開日 2026/06/10 15:08

180インチスクリーンと三管式プロジェクターが共存する理想のシアター兼オーディオルーム。大和ハウスと実現した「三度目の正直」

映画にも音楽にも妥協しない「理想的な部屋」を追求
編集部:川嶋隆寛
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山口さんが“三度目の正直”でたどり着いたシアター兼オーディオルーム。180インチスクリーンを中心に、映画鑑賞、音楽再生、日常のくつろぎが同じ空間に共存している

「家は3回建てないと理想にはならない」と言われることがある。もちろん誰もが3回家を建てられるわけではないし、必ずしも回数だけで住まいの完成度が決まるわけではない。しかし、ホームシアターやオーディオルームのように、映像、音、空間、生活動線、設備計画が複雑に絡み合う趣味の住まいでは、経験の積み重ねが間違いなくものを言う。
今回訪問した山口能範さんの住まいは、その言葉を思い出させるものだった。

山口さんにとって、今回のシアター兼オーディオルームは「三度目」のホームシアターである。最初は賃貸住宅の6畳間に構築したシアター。次に、名古屋のインストーラーによって実家に作り上げたブラックルーム。そして今回が「三度目の正直」。大和ハウスの防音・音響設計を取り入れ、新築住宅の中心に据えたシアター兼オーディオルームである。

いわば、山口さんの映像・音響遍歴の集大成。しかもそれは、単に「家の中に専用室を設けた」というものではない。寝室、書斎、居間、オーディオルーム、ホームシアターがひとつの大きな空間として成立する、生活空間そのものを包み込むような、シアター兼オーディオルームである。

ソニーPROFEEL PROから始まった大画面・高画質への欲求

「最初のきっかけはソニーのプロフィールプロを手に入れたことです」と語る山口さん。
山口さんの映像への関心は1986年に購入したソニーの27インチブラウン管テレビ「PROFEEL PRO KX-27HV1」にさかのぼる。

当時としては大画面・高画質を志向したテレビであり、ここから山口さんの「もっと大きな画面で、もっと良い画で映画を見たい」という欲求が芽生えていった。

レーザーディスク、VHS Hi-Fi、リアプロジェクションテレビ、そしてフロントプロジェクターへと大画面・高画質は移り変わっていった。

1996年にはソニー「VPL-W400QJ」と100インチスクリーンによる初のホームシアターを6畳間に構築した。この様子は、かつて『ホームシアターファイル』誌の「6畳間のホームシアター」特集を飾ったことがある。

PROFEEL PROやレーザーディスクプレーヤーなど、山口さんの映像遍歴を物語る機器群。1980年代から続く大画面・高画質への探求が、現在のシアターへとつながっている

その後、三管式プロジェクター「VPH-D50QJ」を経て、ソニーの名機「VPH-G90J」へとついに到達する。VPH-G90Jは、ソニーの三管式プロジェクターの最上位級モデルとして知られる存在だ。9インチ管を搭載し、RGBそれぞれのブラウン管映像をスクリーン上で精密に重ね合わせることで映像を描く。

現在主流の3LCD、DLP、D-ILAといった固定画素方式とは異なり、CRT方式ならではの黒の沈み込み、階調のなめらかさ、フィルムライクな質感に魅力がある。ちなみに「VPH-D50QJ」は、 上述のホームシアターファイル誌を始めとする専門誌の発行や当ファイルウェブを運営する音元出版のかつてのホームシアター視聴室にも吊り下げられ、取材や試聴で幾度となく使われてきたモデルでもある。

山口さんはG90を長年使い続けてきた。現在でもフィルムを感じさせる、その階調表現や色の出方には強い思い入れがあり、今回の新居でも、VPH-G90Jを再び現役として使うことは最初から計画に入っていた。

ソニーの三管式プロジェクター、VPH-G90J。今回の新居では、天井補強や吊りボルト、配線経路まで新築時から計画し、現役機として天吊り設置された

現在のシアターは180インチのスチュワート「HD130」を中心に構成されている。プロジェクターはJVCの「DLA-V800R」に加え、EMC設計による調整・施工を受けたソニー「VPH-G90 J」を天吊り。

音楽用にはJBLのTiKシリーズを中心に据えつつ、映画鑑賞時には大音量に耐えうる頑丈なホーン型スピーカーを使用するなど、用途に合わせてシステムを完全に切り分けている。この他にも、往年の名機が顔をそろえ、壮観である。もちろん最新の機器もそろっている。

最新機器の導入だけではなく、過去から使い続けてきた名機たちと、現在の映像・音響環境をどう共存させるか。その点にも、山口さんらしいこだわりが表れている。

最新プロジェクターとしてJVC DLA-V800Rも導入。VPH-G90Jと現代の4Kプロジェクターを併用し、往年の名機と最新機器が共存する

三管式プロジェクター時代には欠かせなかったファロージャなど、往年の映像機器から最新の再生環境までを活かし、山口さんの映像体験を支えている

大和ハウス「奏でる家」との出会い

今回の住まいづくりで大きな転機となったのが、大和ハウスとの出会いだった。

山口さんは、定年退職後の暮らしを見据え、50歳ごろから新居を建てる構想を持っていたという。複数のハウスメーカーを検討する中で、大和ハウスが音響に注力した住まいづくり「奏でる家」に取り組んでいることを知る。

防音、遮音、室内音響に関する知見を持ち、しかも住宅そのものの構造や断熱計画と一体で設計できることが、大きな決め手となった。とりわけ重要だったのが、音響設計の専門家である玄 晴夫さんの存在である。

山口さんは大音量で映画を楽しみたいという要望を最初から明確に伝えた。住宅地に建つ家でありながら、映画も音楽も心置きなく鳴らしたい。そのためには、通常の防音室以上の遮音性能が求められる。

大和ハウス側も、モデルルームで実際に音を出し、どの程度の防音性能が必要かを確認。結果として、一般的な楽器練習室の水準を超え、ドラムや音楽スタジオ用途にも対応するD-70相当の高い遮音性能をベースに、さらに山口さんの要望に合わせて強化した仕様が採用された。

防音性能が高いということは、高断熱であり、空調効率にも直結する。実際、この家ではシアタールームを独立した箱として切り離すのではなく、生活空間の大部分を防音・高断熱の空間として取り込んでいる。

映画を見る部屋であり、音楽を聴く部屋であり、くつろぐ居間であり、書斎であり、寝室でもある。だからこそ、年間を通して快適な室温と空調環境を維持できることも重要なテーマとなった。

新築だから実現できた、G90天吊りと180インチスクリーン

山口さんが今回、新築時からホームシアターを中心に据えて家を建ててよかったと感じている点は多い。

まず、180インチという大画面を前提に、部屋のサイズ、スクリーンの高さ、スピーカーの配置、視聴位置をゼロから決めることができた。スクリーン下にスピーカーを置くため、スクリーン下端の高さまで計算し、視聴時の見え方と音の出方を両立させた。

また、VPH-G90 Jの天吊りも大きなポイントである。三管式プロジェクターは重量があり、通常の住宅では後付で天吊りするのは容易ではない。まして防音構造を持つ空間では、天井補強、梁、吊りボルト、防音材、配線経路のすべてを整合させる必要がある。

この点についても、大和ハウスが住宅構造と防音施工を一体で考えられたことが大きかった。住宅会社が建てた後に防音会社が入り、さらにインストーラーが機材を取り付けるという手順では、ここまで統合させることは難しかっただろう。

G90の吊り位置、HDMIなどの配線ルート、床下配管、電源の系統、点検用の配線ピットまで、新築時にすべてを計画できたことが、今回のシアター兼オーディオルームの完成度を支えているのだ。

電源まわりにも手が入っている。

まず、山口さんはVPH-G90 Jを再び現役で使うにあたり、EMC設計に電源まわりの設計・施工を依頼した。

きっかけは、G90を復活させたいという思いだったが、相談を重ねるなかで、プロジェクターやオーディオ機器の能力を安定して引き出すには、電源環境そのものを整えることが重要だと考えるようになったという。

EMC設計の「EMC電源工事」は、コンセント以降で電源を補正するのではなく、分電盤、配線、コンセントまでを含めて、オーディオ/ビジュアル機器に適した電源環境を構築するという考え方に基づく。

山口邸では、新築工事の初期段階から給電用の配線を通し、完成後に専用分電盤やコンセントまわりを仕上げる流れで施工された。こうした「見えないインフラ」まで建築と一体で計画できたことも、今回のシアターの完成度を支える大きな要素だ。

EMC設計による専用分電盤。新築工事の段階から給電ルートを計画し、完成後にコンセントまわりまで仕上げることで、AV機器に適した電源環境を整えている
オーディオ/ビジュアル機器のために用意されたEMC設計のコンセント群。分電盤から配線、コンセントまでを含めた電源環境の構築が、システムの安定動作を支える

「自分の理想とするホームシアターを、部屋のサイズ、窓の位置、AV機器の配置、電源配線、家具、空調、照明まで、すべてゼロから計画して作ることができた」と山口さんは振り返る。まさに、三度目のシアターだからこその到達点である。

ブラックルームから、暮らせるシアターへ

実家に作った「二度目」のホームシアターは、映画鑑賞に最適化されたブラックルームだった。暗く、没入感が高く、映画を見るには理想的な空間だったという。一方で、音楽を長時間聴いたり、居間としてくつろいだりするには適していなかったとのこと。

そこで今回、山口さんは木目調の内装を選び、小さくても窓を設けることにこだわった。窓の先に見えるのは養老山脈。映画鑑賞時には当然シャッターで遮光するが、音楽を聴く時には外の景色を眺められる。山口さんにとって、それは以前から実現したかった時間だった。

実際、完成後に最もよかったと感じる瞬間を尋ねると、山口さんは「好きな曲が、すごくいい音で聴ける時は、ものすごく感動します」と語る。

映画だけではない。レコードを眺め、音楽を聴き、窓の外に山並みを見る。そこには、かつてのホームシアター視聴に特化したブラックルームとは異なる、暮らしに開かれたオーディオ空間がある。

音響設計面でも、映画と音楽の中間を狙ったチューニングが施されている。スクリーン裏には吸音処理が行われ、壁や天井の吸音・拡散も計画された。

音響設計の基調となるのは、石井伸一郎氏が考案した「石井式リスニングルーム」である。反射と拡散が交互に施され、響き過ぎず、吸音しすぎないという思想が源流にある。

天井にはサラウンドも設置。吸音・拡散を意識した木目調の天井面とあわせ、映画再生時の包囲感を支える

また、家具や本棚、レコードラックなども、生活の道具であると同時に、音響的には拡散要素として働く。専用室でありながら、生活の密度がそのまま音の表情にもつながっている点が、この部屋の面白さだ。

山口邸で興味深いのは、ホームシアターとオーディオを同じ空間に収めながら、両者をひとつのシステムとして混在させていない点である。

スクリーンに向かえば、そこは180インチの大画面とサラウンド再生に没入する映画のための空間になる。

一方、身体の向きを90度変えれば、今度はJBLのTiKを中心とした2チャンネル再生のためのリスニング空間が立ち上がる。

つまり、同じ部屋でありながらも、映画を見る時と音楽を聴く時で、視線の方向も、音の受け止め方も、空間との向き合い方も変わるのだ。

単なるレイアウト上の工夫にとどまらない。

山口さんは、以前のシアターでは映画も音楽も同じシステムで楽しんでいたという。しかし、映画では大音量再生が求められるため、スピーカーユニットに大きな負担がかかることもあった。

そこで今回は、映画用には大音量でも安心して鳴らせる頑丈なスピーカーを用い、音楽用には別のスピーカーを組み合わせる形で、用途ごとの役割を明確に切り分けている。

この切り分けは、音質面だけでなく、鑑賞時の気分にも大きく作用している。

映画を見る時はスクリーンへ向き合い、遮光された空間の中で映像と音響に没入する。音楽を聴く時は、身体の向きを変え、レコードやオーディオ機器を眺め、ときには窓の外に広がる養老山脈を視界に入れながら、音に身をゆだねる。

前者は劇場的な体験であり、後者はより生活に近いリスニング体験である。

音楽再生側にはJBL TiKシリーズを中心とした2チャンネルシステムを配置。スクリーンに対して身体の向きを90度変えることで、映画とは異なるリスニング空間が立ち上がる

山口さんが今回の空間で実現したかったのは、映画にも音楽にも妥協しない部屋だった。ただしそれは、ひとつの巨大なAVシステムにすべてを統合することではなく、映画には映画のための鳴らし方を、音楽には音楽のための聴き方を与えることが目的だった。そのために、システムを切り分け、身体の向きまで変える。

以前の シアタールームは、映画に深く没入できる一方で音楽を長く聴くにはやや不向きだった。それに対して今回の部屋では、木目調の内装、窓の存在、レコードを眺められる配置、そして90度向きを変えるリスニングポジションによって、音楽に向かう時間がより自然に暮らしの中へ溶け込んでいる。

映画と音楽を同じ部屋で楽しみながら、その体験を混ぜ合わせすぎない。この距離感の取り方こそ、三度目のシアターで山口さんが到達した、成熟したシステム設計といえるだろう。

「プライベート・ライアン」で実感した完成の価値

完成後のこけら落としとして印象深かった作品は、『プライベート・ライアン』。実は山口さんのリファレンスともいえる一作でもあり、大和ハウスとの打ち合わせや防音性能の検証でも使った作品だ。

過去に大音量再生でスピーカーを飛ばしてしまった因縁の作品だからこそ、今回の頑丈なシステムと強固な防音室で心置きなく鳴らし切れたことに感動があった。

完成後にあらためて目いっぱいの音量で再生した時、山口さんは「あの映画で(過去に)スピーカー壊したので…。だからこの作品を思いっきり音を出して見れるっていうのは、やっぱりそれなりの自分の思ったような完成の証です。ここまで費やした労力、時間、資金には価値があった」と実感したという。

現在もまだ、機器のセッティングや棚、家具、照明の追加など、手を入れる作業は続いている。それもまた、趣味の部屋ならではの楽しみだ。

完成した瞬間がゴールではなく、少しずつ自分の手で育てていく。ホームシアターにもオーディオにもゴールというものはない。一旦その趣味の奥深さにふれれば、さらなる探求への意欲がわいてくる。山口さんのシアターには、そうした手触りがある。

友人を招いて音楽を聴き、お茶を飲む。大音量で映画を楽しむ。ひとりでレコードを眺めながら、あるいは窓の向こうに映る養老山脈を見つめながら、好きな曲に浸る。ここは、機材を置くための部屋ではなく、映像と音楽を中心に暮らすための住まいなのだ。

これからホームシアターをつくる人へ

三度目の正直でシアター&オーディオの到達点にたどりつき、さらなる頂へと探求を重ねる山口さん。最後に、これからホームシアターを検討する人へのメッセージを尋ねると、山口さんは「求めるものは人それぞれ。今は安価でも性能の良い機器があるので、やれる範囲でまずやってみることをお薦めします」と語った。

その一方で、新築で本格的なホームシアターをつくるなら、防音性能はできるだけ高くしておいた方がよいとも強調する。

防音性能を高めることは、遮音だけでなく断熱や空調効率にもつながる。快適な温度環境を保ちやすくなり、冷暖房のエネルギーコストも抑えられる。そして、熱交換式の換気装置も必須だという。

山口さんのシアター&オーディオルームは単なる趣味の空間ではない。映像と音楽を愛し続けてきたひとりのユーザーが、経験を積み重ね、住まいそのものをシアターとして設計した到達点である。

6畳間から始まり、ブラックルームを経て、ついにたどり着いた三度目のホームシアター。そこには、機材への愛着、音への探究心、そして日々を快適に過ごすための住まいの知恵が、ひとつの空間として結実していた。

オーナーの山口能範さん。かつて『ホームシアターファイル』誌には2度登場。三度目の正直で理想のシアタールームを手に入れたとのこと

SYSTEM LIST ●プロジェクター:ソニー VPH-G90J、ビクター DLA-V800R ●スクリーン:スチュワート HD130(180インチ) ●AVアンプ:マランツ SR6015 ●フロントスピーカー:エレクトロボイス LX-15-G2 ●サラウンドスピーカー:LINN UNIK ●オーディオ用スピーカー:JBL Ti10K他機材多数

 大和ハウス工業株式会社の玄 晴夫さん。音響設計を担当した
 大和ハウス工業株式会社 愛知北支店 店長の高島将成氏。山口邸を担当した

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