公開日 2023/03/02 06:40

知識ゼロからの「真空管交換」。“球転がし”で真空管アンプをもっと楽しもう!

12AX7と300Bを交換して聴き比べ!

まずは前段=小さい方の真空管から交換してみよう!



さて、球を取り替える、と言っても何をどこから手をつけたらよいのでしょう。やっぱり一番大きくて目立つ管を替えるといいのかな…?

否。山崎さんによれば、実は300Bのように大きくて目立つ出力管よりも、手前の小さな入力管から替えるほうが、変化の効果が大きいのだとか! 変化の比率でいうなら、入力管:出力管=10:2くらいの割合なのだそうです。入力管は増幅率が高いので、まずは前段から換えてみるのも一つの手。前段も後段も一気に替えてしまうと、何がどんな変化をもたらしてくれたのか分かりにくいので、段階を経て換えていくのがオススメとのこと。

そのようなわけで、まずは初段管の12AX7(ヨーロッパでは「ECC83」と呼ばれますが、同じです)を、いくつかのメーカーの球で聴き比べてみます。山崎さんには3本のヴィンテージ管、1本の現行品を持ってきていただきました。

12AX7は足が9本。真空管を抜き差しする時は力を入れすぎて壊さないよう慎重に行おう

そうそう、真空管を取り替える時には、必ず電源を落とすことをお忘れなく。そして、直前まで使っていた球は熱を持っているので、火傷しないようにご注意ください。

聴き比べに使用した音源は、エジプト生まれのソプラノ、ファトマ・サイードのセカンド・アルバム《カレイドスコープ》、180gアナログLP盤です。オペラ・アリアのほか、シャンソンやミュージカルやジャズの名曲まで、ダンスにちなんださまざまな歌が収められており、サイードの変幻自在な声の魅力を味わえる楽しいアルバム。この中から、ヨハン・シュトラウスIIのアリア〈ウィーン気質〉を聴き比べてみました。

ファトマ・サイードの「カレイドスコープ」(180g重量盤LP、5419.716760)

その1:ユーゴスラヴィア製、1970年代のヴィンテージ管
とてもエレガントかつコクのある音色です。サイードの声の密度、オーケストラのバランスの良さがしっかりと伝わる、聴きやすい響きです。最初に聴いた1本なので、以下の真空管は、こちらを参照点としています。

今回試聴した「EVOLUTION 300」にもともとついていたユーゴスラヴィア製12AX7をまずは試聴

その2:スロヴァキア製、JJエレクトロニクス、現行品真空管
1本目とまるで響きが変わりました! 小さな入力管1本でこんなに印象が変わるとは、正直驚きました。こちらは音像に広がりが出て、解像感が増したように感じます。歌い手が体全体で表現しているものが鮮明に伝わる印象です。現代的な音、と言えるかもしれません。

JJエレクトロニクス製(スロヴァキア)

その3:ドイツ製、テレフンケン、1970年代のヴィンテージ管
ユーゴスラヴィアのヴィンテージ管よりも、やや解像度が上がった印象。上品でどこか色っぽさもある音色。全体的にバランスが良く、音の密度も感じられました。マニアの間で人気の高い管なのだとか。筆者はこちらが好みだったかも……。

テレフンケン製(ドイツ)

その4:日本製、ナショナル、1970年代のヴィンテージ管
4本の中ではもっとも端正な響き。きちんと解像、きちんと広がる、なんとも「真面目」な仕事をしてくれる真空管。海外製品のようなクセが少なく、スキもない印象です。見方によっては個性があまりないとも言えそうですが、国産の信頼できるところでもあります。

ナショナル製(日本)

パッケージにはなつかしの「ナショナル」のロゴ

4本の入力管を聴き比べてみて、ハッキリとそれぞれの個性と違いがわかりました。12AX7という双極管は、見た目はとても小さいけれど、どれだけパワフルに役割を果たしているかを実感します。 買ってみて使ってみるまで、(とくにヴィンテージ管は)その性質はわかりませんが、ハッキリと「変わる」ことは確かです!

前段はそのままに、後段300Bは3種類の現行モデルを聴き比べ!



続いては、大きくて目立つ出力管の交換です。中でも人気の高い300Bの球ですが、今回は3種類を聴き比べてみました(入力管はユーゴスラヴィアのヴィンテージ管にて実験)。

左から、PSVANEノーマルタイプの「300B」、PSVANEの「WE300B」、ウェスタン・エレクトリックの「300B」。PSVANEはウェスタンを真似て300Bを作っただけあり、見た目もそっくり!

その1:アメリカ製、ウェスタン・エレクトリック社、300B
「EVOLUTION 300」にデフォルトで装備されている話題の逸品。1870年代からの歴史ある会社の製品で、ペアで21万円! 最新技術によって作られた真空管。帯域がとても広く感じられ、とくに高音域の伸びが鮮やかです。ソプラノの声の張りや、オーケストラの打楽器のパンチ力などがハッキリ届きます。繊細かつ華やかな音色で、音楽や演奏の隅々まで鑑賞したい人にはおすすめです。

その2:中国製、PSVANE(プスヴァン)、ノーマルの300B。
ウェスタン・エレクトリック社300Bのあとに聴いてしまったので、その差は歴然。全体的に音楽がひと回り小さく、痩せてしまった印象に。あっさりとした爽やかな響きなので、この雰囲気を好む人もいるかもしれません。またこの球だけ最初から聴いていれば、問題なく良い音ではあります。

その3:中国製、PSVANE、WE300B(ウェスタン・エレクトリック社のレプリカ)
音のきめの細かさ、音色のふくよかさが出ました。声の輪郭が浮き立ち、オーケストラの立体感も、「ノーマル」のプスヴァンよりは一段深くなった印象です。実際、筆者は日頃この球を使っていますが、音楽鑑賞の時間を豊かに過ごせています。ステップアップとしては、かなりおすすめできる球です。



実際に体験してみると、それぞれの真空管には驚くほど個性があることがわかりました。聴く音源や、自分の好みに応じて、球を替えて音色を変化させることができるのは、真空管アンプを使うことの醍醐味ですね。入力管なら、数千円から高くても2〜3万円で替えることができます。


おまけ。真空管を交換した後などは「バイアス調整」(真空管に流れる電圧の量を調整する)をしておくと音質/メンテナンス面でも安心!
インターネットでヴィンテージ管を探す場合には、偽物も出回っているようなので、明らかに安すぎるものは避けた方が良いそうです。自分で手を入れて工夫することこそ、オーディオの楽しみでもありますから、ぜひチャレンジしていきたいですね!

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