B&Wスピーカーの象徴、ノーチラス・チューブ。「700シリーズ」から探るそのサウンドの真髄
炭山アキライギリスの名門スピーカーブランド、Bowers & Wilkins(以下B&W)を象徴する技術のひとつとして知られるノーチラス・チューブ。トゥイーターに用いられるこの独自構造は、長年にわたり同社の設計思想を支えてきた。
そして現在、その技術はフラグシップだけでなくミドルクラスの700シリーズにも投入されている。今回はその700シリーズの主要モデルを用いて、ノーチラスチューブの役割や構造的な特徴、そしてサウンドについて炭山アキラ氏が徹底解説する。
フロア型とブックシェルフの4モデルを用いて検証
われわれオーディオマニアにとって、B&Wというとついつい800シリーズの存在が大きすぎて、他のシリーズと注目度に差をつけてしまいがちだが、もちろん弟たちもひとかどの再生能力と音楽性を有し、中でも現行700 S3シリーズの正統派ハイファイぶりには、私も個人的に長く注目してきた。
B&Wの中で、というよりオーディオ全体の金字塔的アイコンとして、ノーチラスという作品を挙げることに、異議を唱える人は少ないだろう。ノーチラス=オウム貝の名に相応しい、渦巻き型のシェープが特徴的な4ウェイ・スピーカーである。ご存じの人も多いかと思うが、改めて解説しておくと、あの形状は単なるコスメティックな意匠ではなく、スピーカーの理想を極限まで追求した形だ。
スピーカーのほとんどは“共鳴”現象を使って音を出している。有名なのはバスレフの低域共鳴だが、実は密閉型でも最低域までフラットに再生するため、ユニットの最低共振周波数とキャビネット内の空気による共鳴を用いて、低域を稼いでいるものだ。しかし、ご存じの通り共鳴というものは信号に対してリニアな動きではなく、理想をいうならそれに頼って音作りをすることは、厳密なハイファイとはいえないということになる。
その理想を愚直なまでに追求し、商業的なスピーカーとして結実したのが、かのノーチラスである。技術上、商売上の妥協といったものを一切見せることなく、初めて見た人をギョッとさせる、しかし極めて理論に忠実な形でノーチラスが世に出たことは、20世紀末に起こった奇跡の一つだと、個人的には考えている。
スピーカーの形式に「ホーン型」というものがあることは、ご存じであろう。小さな振動板の先へ、指数関数的に広がるメガホンのようなホーンを取り付けることで、極めて高効率にユニットの振動を音波へ変換する方式である。
ノーチラスのウーファーに取り付けられたあの渦巻きと、中低域以上のユニット背後へ伸びる角(つの)のような造形は、ホーンの開口部分にユニットを取り付け、指数関数的に音道が狭まっていく「逆ホーン」と呼ばれるもので、ユニット単体の共鳴による低域の持ち上がりを効率的に抑えつつ、ホーンと同様にユニットへ適正な負荷をかけることにより、振動板のバタつきを抑えて耐入力を向上させる。
その技術をそっくりそのまま引き継いで構築されているのが、800 D4シリーズや700 S3シリーズの一部に採用されている、トゥイーターの「ノーチラス・チューブ」である。最低共振周波数付近の盛り上がりを効率的に抑え、理想的なダラ下がりの特性を持たせることで、ネットワーク素子を軽くして音の鮮度を保ちながら耐入力を確保する、とても理にかなったトゥイーター・キャビネットだ。
今回は、700 S3シリーズの中でトゥイーター・オン・トップの製品と、バッフルにトゥイーターがマウントされた製品で、音の傾向を比較してみよう。700 S3シリーズのバッフルマウント・トゥイーターも背後にノーチラス・チューブを持ち、一定の逆ホーン効果を有していると考えられる。
表現する音場の大きさが段違いのブックシェルフ
まず「707 S3」から聴く。13cm口径のコンティニュアム・コーン・ウーファーと、2.5cm口径のカーボンドーム・トゥイーターの2ウェイ・ブックシェルフ型、シリーズ最小の製品である。トゥイーターはバッフルマウントだが、取り付けの工夫でバッフルを通じた振動の影響を最小にする、デカップリング技術も投入されている。
クラシックはさすがに大型フロアスピーカーと比べればいささか小ぢんまりするが、空間感をよく表現し、音像と音場が違和感なくつながるのが実に好ましい。小編成やコーラスなら、そこそこ以上の音量も稼ぐことができるから、かなり汎用性も高いと太鼓判を捺せる。
ジャズはごくシンプルなマイクで生録に近い音源なのだが、まさにスピーカーの存在を無視して2人の演奏者が火花散るフリー演奏合戦を繰り広げる。間合いを測るお互いの目に燃える炎が見えるような熱演だ。
ポップスはバスドラムやローエンドのエフェクトこそ若干細くなるが、軽やかにキビキビ音場成分が飛び回るさまを巧みに描き出すのが好ましい。ヴォーカルはけれん味なく抜けが良い。このクラスでここまで高度な表現ができるのだから、B&Wは本当に侮れない。
続いて、「705 S3」を聴こう。間に706 S3があるが、サイズ的にはほぼ706 S3と同じで、ウーファーは16.5cm口径となり、トゥイーター・オン・トップとして、天板に独立させたバージョンといった恰好のモデルである。
クラシックは声の抜けが劇的に向上した。以前聴いた印象では、ウーファーの口径が大きくなると再生音に余裕が増す半面、キビキビ・ピチピチとした躍動感は一歩後退する傾向があったが、トゥイーターがキャビネットのくびきを逃れると、そして純粋なノーチラス・チューブが装着されると、これほど音離れが良くなるのか、神経質さを感じさせずに解像度を高めることができるのかと、改めて深く認識した。
ジャズは音像の実体感が大幅に向上し、人間が息を入れて楽器を鳴らしているのだ、ということが音の勢いと潤いからはっきりと伝わってくる。Dレンジが広く、どのパッセージに新たな音が呼応していくのか、道筋が見えてくるような気がするのが、実に楽しい。
ポップスは、707 S3がキビキビと身を翻すような軽やかさと躍動感が魅力とすれば、こちらは広大で立体的、重層的に重なって広がる音場を丹念に表現していくことが魅力であろう。表現する音場の絶対的な大きさが段違いで、軽やかに音場成分が舞い散るのが素晴らしい。707 S3と706 S3では得意・不得意が比較的はっきりしているのだが、705 S3になると両者の利点を重ねた上位概念、という印象がある。器の大きなスピーカーである。
音の品位や解像度、正確さ。次元が違うフロア型モデル
続いて、フロア型の試聴に移ろう。まずトゥイーターがキャビネットに内蔵された「704 S3」から聴く。ここからは3ウェイとなり、コンティニュアム・コーンはスコーカーに用いられる。このスコーカーはバイオミメティック・サスペンションと呼ばれる最新ハイテクダンパーで支えられ、微小域の反応が素晴らしく良いことで知られる。
ウーファーはパルプ・スキンの立体複合コーンで、スコーカーと同じ13cm口径のものが縦2発の並列駆動となっている。トゥイーターは裏にノーチラス・チューブを持ち、振動の影響を受けないマウントだ。シリーズ初代から累計しても、一番占有床面積の小さなフロア型の700 S3シリーズなのだという。日本向きの製品といえるだろうか。
クラシックはなにぶん小編成の音源を聴いているものだから、大編成オケ作品などに比べると、ダブルウーファー3ウェイの旨味が生かしにくかったかなと思うが、それでも低域の厚みや張り上げた声の余裕、安定感はさすがと唸らされるものがある。
ジャズは演奏に余裕が加わった感じは確かにあるのだが、わずかに頭を抑えられたようなもどかしさを感じなくもない。ノーチラス・チューブが独立しているかいないかでこの差が出ているのか、これはもう聴き比べてみるしかないではないか。
ポップスはローエンドが圧倒的に伸びていることが分かる。量感も豊かだが、だらしなく膨らんだ結果ではなく、明らかに器が大きくなった鳴り方である。音場はとりわけ左右方向へ極めて広く、声に余裕がもたらすコクが乗るのも実に好ましい。
最後に「703 S3」を聴く。704 S3に比べればウーファーが16.5cm、スコーカーが15cm口径と大きくなっているのも大きな特徴だが、やはりトゥイーターがバッフルから独立していることが、最も大きな違いといえるだろう。
クラシックはソロ歌手とコーラスの立ち位置の違い、遠近感がくっきりと表現される。ウーファーとスコーカーの口径が大きくなれば、それだけ機敏さは若干なりとも鈍くなるのが普通だが、本機の場合そんな常識は通用しない。実物大の定位がこんなに豊かに響くのかと、仕事であることを忘れて聴き耽りそうになった。
ジャズはギョッとするような生々しさと音色の芳醇さ、抜けの良さをすべて兼ね備えている。私が日頃聴き慣れている、至近距離で仲間が練習する管楽器の音に、極めて近い表現である。
ポップスはほんの僅かに最低域方向がソフトだが、それも好みの問題といった程度である。薄紙を1枚ずつ重ねていったような精密で重層的な音場を、本機は見事に描き分け、再構築することに成功している。ヴォーカルは抜けの良さで703 S3、緻密さで704 S3という感じで、どちらかが圧倒的に優れているというより表現の方向が違う感じである。
今回はトゥイーターがバッフルへ取り付けられているか、トゥイーター・オン・トップとして独立して天板に装着されているか、という違いに注目して音を聴き比べてきたが、結論を申し上げれば、後者の方が明らかに、そして圧倒的に音の品位や解像度、アキュラシーが勝っていた。もちろん価格も相応に違うものだから、無条件でトゥイーター・オン・トップをお薦めするのも若干のためらいがあるが、もしあなたが正統派のハイファイを求められるなら、コストのかけ甲斐がある部分のように思うのだ。
また、今回のテーマから離れ、改めて700 S3シリーズを総覧していうならば、末弟の707 S3でも相当に高度なハイファイを追い求めることが可能だし、音質的な類縁をしっかりと保ちながら、そこから遥かな高みへとラインアップが続いていく。音の好みが700 S3シリーズとマッチすれば、あとはご予算次第で選んでも失敗のない製品群である。
さらに、今回は聴かなかったが長兄の「702 S3」は、そのままオーディオ試聴に使うことができるくらい、ワイドレンジかつ大スケールで反応に優れた逸品である。かなりのベテランにも安心して薦められる、中堅というにはもったいない実力派だなと、700 S3シリーズを再認識した。
(提供:株式会社ディーアンドエムホールディングス)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.201』からの転載です