PR 公開日 2025/07/24 06:30

連載:世界のオーディオブランドを知る(7)“唯一無二”に徹した「ティアック」の歴史を紐解く

Presented by オーディオランド

幻の「映像のティアック」はホームビデオ文化の礎石に。そして “テープ” のオーソリティから “ディスク” のエキスパートへ

さて、ティアックの前身が1953年の東京テレビ音響株式会社だったことを思い出してほしい。この時代、産業界の緊喫の課題はテレビジョン受像機の開発だったのである。音楽用テープレコーダーで産業界に名乗りをあげた後も、ティアックの映像への強い志向は続いていた。1964年の東京オリンピックは、衛星中継やカラー放送をはじめ、映像(テレビ)時代のオリンピックであった。

NHKがアジア初開催国の沽券をかけて、単に競技をオンタイムで実況中継するばかりでなく、視聴者に多角的に体験させるため、NHK技術研究所で開発を試みたのが世界初の「スローモーションVTR」だった。その開発を担ったのがティアック。メカトロニクスの典型のビデオは、ティアックのもっとも得意な分野。映像への志向と想いは強かった。

1977年にはPCM音声信号用として三菱電機、東京電化と共同開発した、レーザーディスクプレーヤー国内初の試作機を作成。1986年には映像記録対応のレーザービデオディスクレコーダー第1号機「LV-200A」を送り出している。これら技術は後に同社の医療用画像、動画記録装置に受け継がれている。

「LV-200A」

しかし1980年代に家庭用ビデオの普及が始まり、オーディオ各社が次々に自社ブランドのデッキを市場に送り出しても、ティアックはホームビデオの開発生産に消極的だった。強大な販売力の家電各社とわたりあい、消耗していくことを避けたのである。しかしホームビデオ文化の礎には、まぎれもなくティアックの技術があったのだ。

ティアックの本分はメカトロニクスにあった。一方磁気テープメディアが老成した技術で、終わりが近いこともティアックはわきまえていた。ティアックのアイデンティティを発揮できる有望な新分野が「光学ディスク」であった。

1970年代、日本に空前のオーディオブームが到来した。ティアックとてテープオーディオに引きこもっていたわけではない。プリメインアンプや三重組格子のユニークなスピーカーを発売したが、あまり熱心でなかった。

1986年にCDプレーヤー第1号機「ZD-6000」が、同年に「PD-250」が続く。価格39,800円の普及クラスだが、16bitのD/Aコンバーターを内蔵し、3ビームのレーザーピックアップを搭載。高速アクセス機能に、録音再生機で名声を得たティアックらしさをみる。

CDプレーヤーはティアックの商品構成上の柱になっていくが、その性能と存在感はテープレコーダーで築き上げた国際的名声に決してふさわしいものではなかった。

看板技術「VRDS」が誕生。オーディオの民主性を体現し続ける2000年代以降

心機一転し、メカトロニクスの技術を活かした最高音質のCDプレーヤーを送り出さねばならない。そうしてティアックの看板技術となる「VRDS」が誕生する。

VRDSは、「Vibration-Free Rigid Disc –Clamping System」の略。分かりやすく説明すると、CDと同径のターンテーブルを持ち、クランパーでディスクを圧着させディスク中央でなく面全体を回転させる。面ブレが発生しないので、レーザーがピットの中央にジャストフォーカス。サーボの電流量を弱めることができ、音質の向上という副次効果も得られる。

音質に特化した斬新なメカニズムVRDSは賞賛を集め、世界のハイファイメーカーが相次いで採用していく。1987年、ティアックはハイエンドブランド「エソテリック(ESOTERIC)」をスタートする。

VRDSはこのハイエンドの新星の看板技術となる。エソテリックブランドでは専らVRDSがトランスポートに搭載されることが多いのに対し、ティアックブランドのVRDS搭載機はDAC一体型であることが特徴。1992年の「VRDS-10」は、VRDSの魅力を広く伝える傑作である。その2年後の1994年に、創業者谷 勝馬氏が他界した。享年75歳。藍綬褒章受賞、NHK放送文化賞を受賞しての逝去だった。

2000年代に入ると、ティアックは変貌の時期を迎える。かつてオーディオメーカーが覇を競った時代、ディスクや放送を謹聴することが音楽の楽しみ方だったが、この一方通行の関係は過去のものになった。90年代のバンドブームを経て、音楽はアクティブに楽しむものに変わったのだ。

ティアックはこの変化を見逃さなかった。音楽を「演る、録る、作る、遊ぶ」ニーズにフォーカスしたのである。このマーケティングには、1971年に北米からスタートしたプロ、ハイアマチュア向けブランド「タスカム(TASCAM) 」による情報収集と知見が大きい。

2000年以降のティアックは、オーディオホビーの草の根的な民主性を体現したといっていい。幅広い音楽ファンにとってウェルカムな価格設定、高級マニアの特権的空間より音楽ファンの生活空間に入っていきやすいパッケージング。今日のアナログリバイバルを予見したように、リーズナブルな価格で初心者に扱いやすいターンテーブルを、中断なく生産してきたことも忘れてはならない。

そうした姿勢を象徴する、まことにティアックらしいユニークな製品がコンパクトサイズのコンポーネント「Reference」シリーズである。最新の “Reference 500シリーズ” は、先のアワード「VGP2025 SUMMER」で全審査員の評価が一致、満票で批評家大賞を受賞したばかりである。

“Reference 500シリーズ” の「HA-507」「AP-507」

ティアックがオーディオ産業を見舞った変化の中、勝ち残った理由の第一は、つねに他の真似を避け、新しい分野を開拓して第一人者となったことにある。テープデッキに始まり、単体DACや外部クロックジェネレーターが好例である。

第二に、企業規模が大きくなると陥りがちな総花的な製品作りをしなかった。スピーカーシステムでは自社ブランドはエントリーゾーンに限定し、上級ゾーンは英タンノイを日本市場向けに企画プロデュースし、老舗の名声を輝かせた。メカトロニクスや記録ヘッドの技術をもってすれば、他に勝るビデオデッキやプレーヤーが作れたはずなのに、映像機器に深入りしなかった。家電販売の消耗戦に突入することを避けたのだ。

第三に、音楽とひとの切り結ぶ関係の受動的なものから、「演る、作る、録る、遊ぶ」能動的な楽しみ方への変化をキャッチし、アクティブなオーディオ、楽しいオーディオへといち早く脱皮した。この先見性は他社にないものだ。

ティアックのこうした特徴を一言でいえば、大の里でないが、「唯一無二」に徹したということだ。しかし、それを成功ならしめたものは、社員たちの自社ブランドへの誇りが生む精神的な結束にあったのではないだろうか。そうでしょう?ムラキンさん。

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