公開日 2018/07/06 08:20

【第212回】噂の静電型トゥイーター搭載イヤホン! 「FitEar EST Universal」発売直前レビュー

[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
高橋敦
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サウンドの特筆点は中高域。高度な次元でクリアながら豊かさも両立

それではサウンドをチェックしていこう。
なお、実は僕、春先にESTカスタム版のサンプルも試聴させていただいており、そちらを初めて聴いたときの衝撃も織り交ぜてお届けします。

「……え!?なにこの中高域!?
女性ボーカルのサ行の鋭さや息遣いの描き込み、シンバルの金属感や薄刃さ、ギターの歪みのエッジ感といったシャープネスの要素が抜群に良い!その上で、それらに刺さりだとか尖り、荒れといったネガティブな要素がほとんど全く付帯しない。それどころか上質なほぐれを感じさせる。

シャープネスの要素が抜群に良い中高域。かつ、音の響きも豊かに表現する

ひとつひとつの音がきめ細かな粒子によって表現されていて、そしてその粒子によって音の響きも豊かに表現される。それでいて、フィルム的粒子感やレンズのボケ味を生かしたような美しさに偏るわけではなく、フォーカスの決まった鋭い描写でもあるのだ。

「シャープさとソフトさ」「キレとボケ」「明確さと粒子感」など、相反しがちな要素が異様なまで高度に兼ね備えられている。もちろん、それらを兼ね備えた方向性のイヤホンがこれまで他になかったわけではない。

…のだが、ESTはその方向性でのレベルが、僕がこれまでに体験してきた範疇にないどころか、想像の範疇すら超えてきた。「理想として思い描いていた音」を超えて、「これが理想だったのかと呆気に取られる音」だ。

ご本人の声とピアノのみで歌い上げられる早見沙織さん「琥珀糖」では、その中高域の魅力が特に発揮される。ピアノの響きの濃さを余さず表現し、空間をそのしっとりとした響きの粒子で満たす。しかし視界がぼやけるような濃さではなく、すっとした空気感もある。

音の自然な広がりは最上級ではないが、イヤモニとしての密閉度を最大限に確保した上で、そちらも十分に確保されている。ヘッドホンにおける「開放型ではなく密閉型のヘッドホンとしては上々の空間表現」といった感じを想像してもらえればと思う。

同時録音ではないが、そのピアノを弾いた後にそのままピアノの前で録音したというボーカルの表現も絶品。この歌ではフレーズの合間での息遣いも、曲の雰囲気に合わせて様々な柔らかさにコントロールされ、それによって曲の雰囲気がさらに強められている。そのそれぞれのニュアンスの届け方が素晴らしい。

例えばシャープさに偏ったイヤホンで聴くと、どのブレスも鋭めに聴こえてしまい、「柔らかさの中にも速さがある」といった絶妙なところが埋もれがち。対して、ESTの中高域は固有の魅力を備えつつも、音への反応は実に素直で鋭敏だ。それでいて速さや鋭さを描き出す時、そこが行き過ぎることもなく耳心地が良い。

でも低域は弱いんでしょ?と思われるかもしれないが、こちらにも不足は感じない。Robert Glasper Experiment「Human」のようなクラブ系のディープなローエンドとなると、さすがにその全てを捉え切ることはできないが、本当に超ディープな帯域より上、一般的な低音の再現は十分だ。相対性理論やペトロールズといったバンドサウンドでのベースやドラムスには普通に対応する。

タイトで速いタイプではなく、程良いボリューム感やナチュラルな立ち上がりが持ち味。また特にドラムスは、ESTならではの中高域で空気感、鳴りや抜けのニュアンスがしっかり引き出されるおかげか、全体としてかなり良質な印象だ。

低域についてはイヤーチップでのチューニングも効きやすい印象。
例えば僕の場合、
●標準L→低音の抜けは良いけど、軽やか過ぎるかも
●スパイラルドットL→低音はしっかり出るけど、膨らみ過ぎかも
●スパイラルドットML→低音も十分出るし膨らみ過ぎない

と、少しずつベターと思われるサウンドに調整していった。スパイラルドットには中間サイズも用意されており、L→MLでフィット感や遮音性を維持しつつ低域を調整できた。FitEar純正と傘の高さや開口の径がかけ離れたものではないおかげか、中高域側の感触はキープしながら調整できたことも幸いだった。

イヤーチップ各種とクリーニングブラシ、ケーブルクリップ。イヤーチップの開口部はかなり大きめ

というわけで、実は今回は「僕の耳穴と標準Lの組み合わせでは、ESTの低域の実力を引き出せない」&「スパイラルドットMLに変えても、ESTの中高域の魅力は損なわれない」と判断して、イヤホン製品レビューとしては例外的に、付属品ではなくスパイラルドットMLサイズを装着した状態を主に行ったことも遅ればせながら報告しておく。カスタム版ESTの音の印象に一番近い組み合わせだったということも、そのようにした理由の大きな一つだ。

ベターなセッティングに追い込めば、ESTはここまでに述べたような素晴らしい音を生み出してくれる。「歌や演奏の機微、ニュアンスに耳を澄ませて余さず聴き込みたい。でも聴き疲れるのは嫌」なんてわがままなニーズにさえも応えてくれそうだ。

もちろん好みに合う合わないはあると思うが、この方向性の音が好みな方にとっては、至高の一品となる可能性を備えている。FitEar EST Universalはそういう領域に到達したモデルだ。

高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。


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