公開日 2016/12/01 11:22

マランツ「SA-10」の “ディスクリートDAC” は何が画期的なのか? 角田郁雄が徹底解説

高い技術力が豊かな音楽性に結実
MMM-ConversionでD/A変換を行う

1bit化された信号は、D/Aコンバーターを経由しないとアナログ化できない。ここで活躍するのが、筐体内部の右側に配置されているアナログオーディオ基板の手前に配置された「MMM-Conversion」である。そして2つめのCPLDが、D/A変換部への信号の送り出しの役割を果たす(ビットの先頭値を整えながら、D/A変換するフリップ/フロップ回路に信号を出力する)。移動平均フィルターによって合成されアナログ化し、L/Rのバランス信号を割り当てる仕組みだ。

SA-10筐体内部の右側に配置されているアナログオーディオ基板。写真の上側がフロントパネル側

I/V変換回路も巧みだ。電流は抵抗で電圧に変換するのだが、オペアンプなどのアクティブ素子を使わず、ビシェイの音質を極めた高精度抵抗でI/V変換している。クロック回路は、この1bit DACの直近に理想的に配置され、アイソレータを介してMMM-Streamと同期を保ってジッターを低減する。“とても静かな”ディスクリート構成ΔΣ1bitDACに仕上がっていることに、私はワクワクさせられた。

電圧に変換されたアナログ信号は、さらに高域ノイズを低減するローパスフィルターへ繋がる。ここでは、マランツお家芸のハイ・スルーレートのHDAM-SA2を用いた3段構成のバッファー、電流帰還アンプによる2次ローパスフィルター、電流帰還アンプによる差動アンプという回路群によって、アナログ信号として出力される。全体を見渡すと、実に精密感に溢れ、オーディオマインドを掻き立てるような内部技術である。

MMM-Coversion

この1bitDACの真上のシールドボード上には、このDACの音を最大限に発揮できる高品位なゲイン切替機能付きフルディスクリート・ヘッドフォンアンプも搭載している。

搭載する電源部のトランスは、SA-11S3の2.2倍、SA-7S1の1.3倍の大きさで、デジタル回路、アナログ回路の直近に高品位なカスタムコンデンサを使ったローカル電源を配置する。

デジタル音源を、アナログレコードのような柔らかさ・繊細さで奏でる

その音の特徴は、CDを再生しても、アナログレコードのような柔らかさ、繊細さを示す。奏者や歌い手が、11.2MHzDSD変換により、高密度で生々しく再現されることが特徴だ。同時に広く深い空間に、あたかも眼前で演奏されているかのように、音像が自然に定位する。これはマランツが長く追求してきた音楽の空間性である。

音元出版の試聴室に設置されたSA-10

読者の皆さんが試聴する際には、微妙な音の質感を探るために、楽器数が少ない穏やかなヴォーカル曲、器楽曲を最初に再生すると良いであろう。SACDにしても、最新のハイレゾ音源にしても、きっと肉声のような質感の声が聴けるだろう。

ジャズでは、トランペット、テナーサックスなどのベル(ホーン)に微細な響きが加わり、シャープさや重厚さが増していることが分かるだろうし、ドラムのシンバルにもアナログレコードに迫る鮮烈な響きが体験できるはず。

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