ガジェット 公開日 2025/05/15 11:32

スマホが売れない環境下でソニーが打ち出す「Xperia 1 VII」での勝ち筋

【連載】佐野正弘のITインサイト 第159回
Gadget Gate
佐野正弘
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ソニーは2025年5月13日、スマートフォン “Xperia” シリーズのフラッグシップモデル新機種「Xperia 1 VII」を発表した。

Xperiaシリーズといえば、2024年のフラッグシップモデル「Xperia 1 VI」で大きな変更が加えられたことが記憶に新しい。実際Xperia 1 VIは、従来機種で大きな特徴となっていた4Kディスプレイを止め、強いこだわりをもっていた複数のカメラアプリを統合してスマートフォンらしいインターフェースに変更。より普遍的なスマートフォンに近づいたことが大きな賛否を呼んだ。

ただそれらの変更によってスマートフォンとしての使い勝手が向上したこともまた確かで、市場では好意的に受け取られたようだ。そうしたことから今回のXperia 1 VIIもXperia 1 VIの路線を継承、ディスプレイは19.5:9比率のFHD+解像度となっている。

ソニーのフラッグシップモデル新機種「Xperia 1 VII」。賛否が分かれた前機種「Xperia 1 VI」のディスプレイを踏襲し、19.5:9比率でFHD+解像度の約6.5インチディスプレイを採用している

確かにスマートフォンとしての使い勝手が向上すれば利便性は高まるのだが、一方で個性が失われることで他社製品との違いも減少し、あえてそのメーカーの端末を購入する理由が失われてしまう。その末に待ち受けているのは体力勝負の価格競争で、そうなればスマートフォン事業の規模を大幅に縮小しているソニーに勝ち目はない。

そこでソニーには、ユーザーの利便性を高めながらもXperiaシリーズらしい個性を両立することが求められているのだが、Xperia 1 VIIでは特にオーディオ関連で強い個性を打ち出している印象だ。実際Xperia 1 VIIは音楽プレーヤー「ウォークマン」の技術を取り入れ、3.5mmのオーディオ端子部分に金を加えた高音質のはんだを使用、伝送ロスを最小限に抑えるなどして、有線イヤホン接続時の音質向上を図っている。

Xperia 1 VIIは新たに「ウォークマン」の技術を導入、オーディオ端子に金を加えた高音質はんだを用いて有線イヤホン接続時の音質向上を図っている

多くの人が知る通り、現在はワイヤレスのイヤホンやヘッドホンが広く普及したことで、有線のイヤホンなどで音楽を聴くニーズ自体が減少。既にスマートフォンからオーディオ端子そのものが消えつつある。実際ソニーと同様、長年ハイエンドモデルにオーディオ端子を搭載し続けてきたシャープも、2024年発売の「AQUOS R9 Pro」でオーディオ端子を廃止している。

それゆえ2025年に有線イヤホンでの音質向上を進めるソニーの取り組みはかなり異質といえ、多くの消費者に響くとは考えにくいのだが、高い音質を求める人達には確実に “刺さる” こともまた確かだ。とりわけXperia 1 VIIのように、高額で販売数を多く見込みにくいハイエンドモデルでは、継続購入しているファンの購買意欲を落とさないためにも、どこかでソニーらしさを取り入れた強い個性を打ち出す必要があると考えたのではないだろうか。

ただ4Kディスプレイの廃止が支持を得たように、個性があまりにスマートフォンのトレンドとずれてしまっては、よりライトな層や新規ユーザーの購買につながらないという課題も抱えることになる。そうしたことを意識してか、今回ソニーがXperia 1 VIIで大きく打ち出しているのが「Xperia Intelligence」である。

ソニーは昨今のトレンドでもあるAI技術の活用を積極的にアピールするべく、カメラを中心にAIを活用した機能を「Xperia Intelligence」として打ち出していく方針のようだ

これはAI技術を活用したXperiaシリーズの機能の総称というべきものだが、ソニーはAIアシスタントなどの開発はしておらず、Xperia 1 VIIにもソニー独自の文章作成や画像生成、文字起こしなどの機能は搭載されていないわけではない。ではどのような機能がXperia Intelligenceに当てはまるのかというと、Xperia 1 VIIの新機能としてアピールされている「AIカメラワーク」や「オートフレーミング」がその代表例となる。

AIカメラワークは、AIによる被写体のトラッキングで動く被写体を画面中央に捉え続けながら動画を撮影できる機能。オートフレーミングはAI技術により被写体をクローズアップし、 “引き” と “寄り” の2つの動画を同時に撮影できる機能だ。

Xperia Intelligenceに位置付けられる新機能の1つ「オートフレーミング」。AI技術を活用した被写体を追従し、“引き”と“寄り”の2つの動画を同時に撮影できる

ソニーはXperiaシリーズで、写真や映像の写実性に長年こだわってきただけに、被写体の一部を消す “消しゴム” 機能など、自社のAI技術を用いて誰にでも分かりやすい写真や映像の編集・加工機能を提供しているわけではない。そのため消費者に「AIを使っている」と訴求しても、分かりにくさがあったのは正直なところだ。

それだけに、AIを活用した機能をあえてXperia Intelligenceとしてブランド化することにより、XperiaシリーズがAI技術で目指す機能の方向性はそのままに、消費者に分かりやすくAIを使っていることをアピールし、販売拡大につなげる狙いがあると考えられる。

一方で、AIアシスタントや検索、写真加工など多くの人がAIと聞いて想像する機能は、Androidを提供しているGoogleの技術をそのまま採用しキャッチアップを図っていくとのこと。ソニーはスマートフォンメーカーとしての規模が小さく、開発にかけるリソースも減少していると考えられるだけに、AI技術でも得意ではない分野は他社技術を積極活用していく方針のようだ。

AIアシスタントや画像加工などの、スマートフォンで一般的なAI関連機能にはGoogleの技術を活用。自社で強みを持たない部分は他社技術を活用する方針のようだ

以上をまとめると、Xperia 1 VIと同等のディスプレイを採用して利便性を向上させつつ、オーディオなどの強い個性で従来のXperiaファンにアピールしながら、カメラを中心としたXperia Intelligenceで新規性も打ち出し新しい利用者を取り込む……というのが、ソニーがXperia 1 VIIに込めた狙いといえるのではないだろうか。スマートフォン市場が非常に厳しい環境の中、規模が縮小し限られたリソースの中で、バランスよく機能・性能向上を図り、可能な限り幅広い層にアピールをするべく最大限努力している様子はよく伝わってくる。

とはいえ、厳しい環境の影響はXperia 1 VIIにも少なからず出ており、従来のXperiaシリーズのフラッグシップモデルでカメラやオーディオなどと同様、主要な機能として位置づけられてきたゲーミングに関しては、新機能がなく明らかに注力度合いが弱まっている。ターゲットを狭めればその分販売にも影響が及ぶだけに、Xperiaシリーズ、ひいてはソニーのスマートフォン事業の今後を考える上でも非常に気がかりだ。

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