公開日 2025/05/28 11:20

<NHK技研公開>伸縮ディスプレイが多画素化/小型&広視野角カメラを実現する湾曲イメージセンサー/光位相の制御で3D映像の再生を目指す

次世代を担う技術が続々登場
編集部:松原ひな子
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NHK放送技術研究所は、5月29日(木)から6月1日(日)まで、最新の研究開発成果を一般公開するイベント「技研公開2025」を開催する。これに先立ち、5月27日(火)にプレス向け公開がおこなわれ、様々な技術研究が披露された。

本稿では、伸縮可能なフルカラーディスプレイや、広視野撮影を目指した湾曲イメージセンサーなど、「フロンティアサイエンス」領域の展示内容を紹介する。

「技研公開2025」5月29日(木)から6月1日(日)まで

伸縮ディスプレイは多画素化&基板サイズも大きく

「自由な曲面を可能にするディフォーマブルディスプレイ」として展示されていたのが、ゴム基板上に液体金属配線によってLEDを搭載したフルカラーディスプレイ。アクリル性ゴム素材の基板の中に液体金属を封入(印刷形成)することで配線しており、基板を伸ばして配線が細く長くなってもそれに追従して形を変え、断線することなくLEDを駆動できる。

ディフォーマブルディスプレイのサンプル。画面サイズは128×128mm、画素数は32×32(昨年比2.5倍)

ハンカチのように折りたたんだり、さまざまな方向に曲げたり伸ばしたりできるため、長期的には車の内部など曲面を持つ物体に貼り付けたり、ウェアラブルデバイスとして身につけられるディスプレイデバイスを想定して開発が進められている。

約8000回基盤を曲げ伸ばししているとのことだが、断線せずにLEDが駆動している
液体金属はガリウム合金にニッケルなどの金属粒子を混ぜて粘度を調整しており、これによって印刷形成が可能になる一方、金属粒子の凝集や空隙による配線の断線や抵抗の均一性が発生することが課題として挙げられていた。

2025年は金属粒子を微細化することで、凝集および空隙を抑制した均質な液体金属材料を開発。これを用いることで配線の均一な印刷形成が可能になり、ディフォーマブルディスプレイの多画素化を実現。より広範囲な配線も可能になり、ディスプレイサイズの大型化も実現した。

ディフォーマブルディスプレイのサンプルその2。画面サイズは256×128mm、画素数は64×32(昨年比5倍)
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金属粒子を微細化することで均質な液体金属を実現
ブースでは、ディフォーマブルディスプレイや液体金属材料を展示するほか、パネルの伸長によって生じる映像の歪みの補正技術を応用した、パネルの伸長に合わせてインタラクティブに映像が変化するデモンストレーションも実施している。
指圧を加えると、パネルの伸長による抵抗値の変化を検出して、映像が変化するという仕組み

小型で高画質な広視野角カメラの実現を目指す

「広視野撮影を目指した湾曲イメージセンサー」として、凹面状に湾曲させて映像の周辺ぼやけを改善する収差補正方式と、凸面状に湾曲させてパノラマ画像を得る多眼撮影方式の2つのイメージセンサーを展示している。

収差補正方式では、結像面に合わせてイメージセンサーを湾曲させることで、レンズ収差による映像周辺部のぼやけや歪みの改善に取り組んでいる。もとは0.7mm厚ほどのイメージセンサーを、研削とエッチングを用いて0.01mmまで薄型化。

2025年はチップを小型化、貼り付け材料を工夫するなどして、凹面状に湾曲させることに成功し、映像の左右だけでなく上下のぼやけを改善した。また、イメージセンサーにカラーフィルターを搭載することで、映像をフルカラーに刷新している。

凹面湾曲させたイメージセンサー(右)

もとの0.7mm厚のイメージセンサー(左)を、研削とエッチングによりクリアファイル並みの薄さ(中央)を経て、サランラップほどの薄さ(右)にまで薄型化

デモで使われている装置にはレンズが一枚しか使用されていないが、ぼやけや歪みの軽減が確認できた。薄型化や湾曲させる技術は他のイメージセンサーに対してもある程度応用が可能なため、スマートフォンや放送用、医療用など、幅広い種類のカメラの小型化/広視野角化を目指しているという。

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デモの様子。凹面状に湾曲させたイメージセンサーにより映像周辺部のぼやけが改善されている
結像面が変化するズームレンズにあわせて形状が変化するイメージセンサーのデモも行われていた

多眼撮影方式では、より簡便な処理でパノラマ映像が得られる湾曲TFTイメージセンサーを実現。デモでは凸面状に湾曲させた横長のTFTイメージセンサーを、円筒上に並列した7基のレンズと組み合わせて撮影を行っている。得られた複数の画像は、その中から歪みのない部分を切り出して結合を施すのみでパノラマ映像が取得できる。

赤い部分がTFTイメージセンサー
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多眼撮像方式カメラの各パーツ
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多眼撮像方式カメラで撮影
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切り出し画像を結合して得たパノラマ画像

3D映像を再生するARグラスを目指して

自然な3D映像を再生できるARグラスの実現を目指して、「光線の方向を自在に制御できる光フェーズドアレー」の研究も進められている。

光フェーズドアレーとは、回折と干渉の原理に基づき、光線の出射方向を制御する可動部がない光デバイスのこと。今回は電気光学ポリマー導波路と窒化シリコン導波路を積層させた光フェーズドアレーを作製し、光線制御の高速動作と広視野角を両立させている。

今回作製した電気光学ポリマーと窒化シリコンの積層構造光フェーズドアレー

電気光学ポリマーと窒化シリコンの積層構造光フェーズドアレーの構造

電気光学ポリマーによって光の位相を高速に制御、等位相面を任意に切り替えることで、光線の出射方向を制御し、映像を多画素化。また、屈折率が高く微細加工が可能な窒化シリコンを用いて広範囲に光を出射できる導波路型回折格子を作製し、30度の光偏向動作を実現した。

光フェーズドアレーの動作原理
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出射部の顕微映像
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2次元光走査による描画

ブースではこの光フェーズドアレーを利用した2D映像の描写が展示されている。2027年頃までに位相制御部の赤色光対応と出射部の大口径化を図り、2030年頃までにフルカラーの3次元表示を実現するとしている。
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広視野角化を比較で確認できる光偏光動作のデモンストレーションも実施されている

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