公開日 2025/09/09 06:40

パナソニック 技術革新の最前線で見据える、テレビのさらなる可能性

VGP2025SUMMER受賞:パナソニック 大竹隆太郎氏
聞き手 大橋伸太郎/記事構成 編集部:徳田ゆかり
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VGP2025SUMMER 受賞インタビュー:パナソニック

70年以上にわたるテレビ開発の長い歴史の中で、さまざまな技術を生み出し、進化させてきたパナソニック。2025年度の新モデル、新世代有機ELパネル「プライマリーRGBタンデム」を採用し、高画質と高音質を極めたフラグシップテレビ “Z95Bシリーズ” が、アワード「VGP2025 SUMMER」において批評家大賞を受賞した。

最新のテレビがもたらす価値と、それを実現させた数々の技術、そしてテレビのこれからの方向性について、注目されるテレビ事業の今後も含め、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社 テレビ事業部の大竹隆太郎氏が語る。<インタビュアー:大橋伸太郎(評論家/VGPアワード審査委員長)>

大竹隆太郎氏(左)、大橋伸太郎氏(右)

パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社
副社長執行役員 テレビ事業部長
大竹隆太郎氏

受賞モデルZ95B、その技術革新と有機ELの進化

大橋 このたびは、VGP2025 SUMMERでの批評家大賞ご受賞おめでとうございます。受賞モデルである「Z95B」 は、有機ELテレビの最上位機種として、プライマリーRGBタンデム パネルが採用され、発光層が昨年までの3層から、今年は赤/濃い青/緑/濃い青という4層構成になり、発光効率の向上で輝度アップ、光の純度の向上で色再現性が改善されました。

TV-65Z95B

御社が従来から採用するマイクロレンズ有機ELパネル、そしてQD-OLEDと、今のテレビには2種類のパネル方式が存在しています。明るさの面では前者、色純度の面で後者が優っている印象がありましたが、今回のプライマリーRGBタンデムを採用したパネルは、輝度の優位性に加えて色純度でQD-OLEDに肉薄したと感じます。現在の2つの方式についてどうお考えでしょうか。 

大竹 このたびは栄誉ある賞を頂戴しまして、誠に有難うございます。評論家の皆様から高いご評価をいただいたことで、技術陣にとっても大変な励みとなりました。

有機ELが直面する最大の課題は明るさで、液晶よりコントラストは優れるが、リビングでの視聴を想定すると足りないとのご指摘をいただいていました。けれども昨年からマイクロレンズアレイを搭載したパネルで輝度が大きく改善し、さらに今年導入したプライマリーRGBタンデムで明るさに加えて色の再現性が大幅に拡大しました。また、黒の深み、明るい部屋でのコントラストも改善して立体感が得られたと感じています。 

4層構造の「プライマリーRGBタンデム」

今後のパネルの進化については、パネルデバイス自体の向上に加え、当社では自発光デバイスへの対応に自信を持っていますので、有機ELパネルの能力を最大限に引き出す独自のモジュールの設計、そしてパネルの放熱機構を追求していきたい。さらにハリウッドのクリエイターとのコラボレーションを通じて、光や色の表現、再現性、正確性といった面も強化していきたい。そのためにも、輝度と色域をさらに高めたいと考えます。

大橋 受賞モデルZ95Bについては、ベゼルのデザインも印象的です。音の力強さに大きな影響を及ぼしていますね。薄型テレビ全体の趨勢として細いベゼルが主流ですが、今回あえてこのデザインを採用した経緯をお聞かせください。

ディスプレイ下部にラインアレイスピーカーを配置するスペースを確保したZ95Bシリーズのベゼル

大竹 今回のベゼルのデザインには社内でもかなり議論がありましたが、パナソニックが2017年の有機ELテレビ初代モデルから貫いてきた、高画質とそれにふさわしい音をパッケージ化したこの形を今回も採用しました。

2019年モデルでの上向きのイネーブルドスピーカーの導入も、現在多くのハイエンドモデルが採用するに至った先駆けと自負しています。多くのお客様にリビングテレビの視聴体験を楽しんでいただくために、いい画と音のパッケージでのご提案には引き続きこだわってまいります。

大橋 近年は韓国や中国の製品も急激に進出していますが、国内メーカーさんの製品は、地上デジタル放送の画質を非常に上手に表現していらっしゃる。1440pからアップスケールする際の超解像やノイズリダクションの技術がポイントでしょうか。

大竹 日本の地上デジタル放送の表現では、MPEG2を使っての1440pに特化したチューニングが鍵だと思っております。1440pのコンテンツを美しくフルHDに変換させるノウハウを蓄積していますから、4Kテレビでは4Kの解像度に2段階でアップスケールし、地上デジタル放送コンテンツの再生で4K画質に相応しい高精細さを実現するのです。 

ノウハウとしては、過度なピーキング、エンハンスを求めるよりは、地上デジタル放送の信号の中にある階調表現、高周波域の信号を丁寧に拾い上げて処理することで、あたかも4Kの信号のような高精細な映像をお届けする。無理にピークを立たせるよりも、情報を欠落させずに処理することを重視します。

大橋 テレビの方式について、有機ELと液晶方式を等価に考えている向きもありますが、御社は有機ELを画質面で優位とお考えかと思います。液晶方式の今後をどう見ておられますか。 

大竹 ミニLEDのバックライト技術の進化によって、液晶テレビの明るさや画質の面で大きな進歩がありましたし、デバイスの話題が注目されるのは業界全体としてとても良いことですね。一方で有機ELの輝度も向上し、互いの技術が近づきつつあるというのが、現状の認識です。

とはいえ、デバイスごとの特性の違いは依然として存在します。有機ELならではの自発光による画素単位の高いコントラストや高精細感は、液晶では追いつけない領域だと考えます。また輝度についても、今の有機ELの性能であれば、明るいリビングといったお客様の視聴環境に十分応えられると考えております。

私たちとしては、それぞれのデバイスの特徴を理解し引き出した上で、価値をお客様に正しくお伝えすること。サイズやカテゴリに応じて最適なデバイスを選定してニーズにお答えすることが重要だと考えています。有機EL一本にこだわるスタンスではなく、常に時代やニーズに応じてベストなデバイスを選択するのが我々の姿勢です。

テレビの国内市場動向とパナソニックのプロモーション展開

徳田 現在の国内のテレビ市場の動向についてもお聞きします。最近のお客様の嗜好、サイズや価格帯のトレンドはどんな状況でしょうか。

大竹 昨年はオリンピックの影響もあって一時的に市場が盛り上がりましたが、今年はそこから少し落ち着き、夏商戦で平常に戻ってきました。そしてミニLEDが大きなトピックの1つであり、我々も注力したいと考えています。

金澤 需要は数年前からあまり変化はありませんが、55インチサイズが主流として定着してきました。サイズアップの伸びは最近では鈍化していて、国内の住宅事情を考えると落ち着いてきた感がありますね。

高インチのところでは、ミニLED液晶 のお手頃なモデルが最近のトレンドとなっていて少しずつ普及してきている印象です。液晶と有機ELに加えてミニLEDが登場し、お客様にとって高画質かつリーズナブルなものを選びやすい状態になってきて、選択肢の多様化が進んだと思います。

徳田 くらしスタイルシリーズといったライフスタイル提案型の商品も展開されていますが、今現在のパナソニックのテレビのラインナップはどのように展開されているのでしょうか。

金澤 テレビ事業部では4Kビエラを開発しており、リビングに置かれるテレビとしての基本性能や画質を徹底的に追求したライン。まさにZ95BシリーズやW95Bシリーズといった製品が該当します。コミュニケーションネットワーク事業部では、くらしスタイルシリーズを開発していて、こちらは暮らしの中での使い勝手や置かれ方をさまざまに想定し、テレビ本体としてのスペックだけでなく、新たな体験価値が商品のポイントとなります。4Kビエラとは同じレイヤーで比較されるものではなく、当社独自の新たな価値をご提案しております。

パナソニック株式会社 コンシューマーマーケティング本部 部長 金澤貞善氏

徳田 販促やプロモーションについて、昨今はどのような手法でお客様とコミュニケーションを取られていますか。

金澤 今年度も引き続き、Fire TV搭載を前面に出したプロモーションを行なっています。Fire TVによって特に若年層への認知度が大きく向上しましたので、この効果を踏まえ「感動を、もっと大きく。」というコンセプトで大画面で感動が増幅する「テレビそのものの価値を高める訴求」と、ハードウェアや高画質/高音質の「ファクト訴求」の2軸でTVCMや交通広告、デジタル広告での展開を行なっています。

今年から新たな試みとして、ハリウッドのクリエイターのみならず、国内のクリエイターとの連携も進めています。映像制作のプロの方々が認めてくださったビエラの価値を、ユーザーにしっかり届けるプロモーション方法を強化しているのです。ネット上での展開としては、弊社ウェブサイト内で、開発者や技術者がものづくりへのこだわりを語る、クリエイターと対談するといった動画などの発信を検討しています。

徳田 店頭でのプロモーション活動についてはいかがですか。

金澤 今回のモデルでは、プライマリーRGBタンデムという新しい技術で、色純度を大幅に向上させています。以前の青/黄/青の3層構成から、新素子では緑と赤を独立させ、最新化された青を2層加えた4層構成に進化しました。そのような新しい有機ELパネルの特徴とその効果について、店頭で小さな模型物などの助成物を使って訴求を行なっています。

 AIがキーとなるホーム連携。広がるテレビの可能性

大橋 近年のテレビでは、AIの活用も大きな流れになってきています。国内メーカーからも積極的にAIを活用したテレビが出ていますが、御社ではどういった取り組みを想定されているのでしょうか。

大竹 確かにAIは今のトレンドのひとつで、我々もオートAI画質、オートAI音質、AI HDリマスター、AI超解像といった高画質化、高音質化技術にAIを活用してきました。加えてネットワークなどに関しては、Tナビの導入やYouTubeのテレビ搭載で業界に先駆けてきましたし、マイホームスクリーンを採用したOSを導入し、放送やネットを問わずにコンテンツをシームレスに見られるといった価値をご提案してきました。

昨年からはAmazon様との協業でFire TVをビエラに採用していますが、今後はその方向でAI技術をテレビにさらに活用していこうと考えています。Amazon様のAIであるAlexaの強みは、音声認識精度が非常に高いこと。曖昧な言い回しや一般的でない名称などでも、高い確率で正しい検索結果が得られます。そういったAIの要素を活用し、お客様の体験をより快適にすることが私たちのスタンスです。

大橋 御社は生活家電全般や、住宅設備も幅広く展開されています。テレビが家庭のオートメーションのハブとして活躍する可能性について、どうお考えでしょうか。

大竹 かつてホームオートメーションについては、オールパナソニックで家中を統一していくといった議論もありました。今はFire TVを搭載させていただき、Alexaを経由していろいろなことができる状態になっていますから、さまざまな可能性が考えられます。今後の方向性は、今まさに協議中の段階です。また来年度は、我々のグループ内の白物家電と黒物家電の事業がひとつの会社に統合される予定ですので、こうした取り組みをより加速していけると考えています。

Fire TVのタイトル画面

大橋 Fire TVの、コンテンツ視聴以外の用途での展望はいかがでしょうか。

大竹 まさに、そこがFire TVを採用した大きな理由のひとつでもあります。テレビの価値はコンテンツを観るだけに止まらず、Fire TVにはまだまだ開かれていない可能性があると思っています。たとえば、「コンテンツをシームレスに探せる」という使い方。録画番組等とテレビの連携についても検討を続けています。その中で、日本でのテレビのありかたとグローバルでの技術潮流をどう融合させるかが、今後の課題であり、可能性でもあると捉えています。

大橋 テレビが生活をサポートするような役割も見えてきますね。

大竹 おっしゃる通りです。私たちが考えているのは、テレビを暮らしの中の中心的な存在として、どう進化させていくかということです。そのためにも、ただ機能を詰め込むだけでなく、お客様にとって意味のある体験をどうデザインするかが今後の大きなテーマになると思っています。

大橋 今年の初めには、パナソニックがテレビ事業を手放すのではないかといった報道もありました。非常に衝撃的なニュースでしたが、その真意について、エンドユーザーが安心できるようなお話をいただければと思うのですが。

大竹 2月の報道の件では、ご心配をおかけして申し訳ございません。パナソニックグループCEOの楠見から、59日に経営改革に関する説明がありましたとおり、家電を統括するスマートライフ領域の中で、テレビは非常に重要な商材であり、パナソニックらしい商品をきちんとお届けするとともに、サービスを継続するという認識は変わっていませんし、テレビ事業が軽んじられるようなことはありません。

地域により、事業の見極めを行う可能性は否定できませんが、特に日本のような重要地域においては、引き続きテレビ事業を継続し、これまでのものづくりの精神を継承して、より強い体制で引き続き高品質な商品をお届けしていく方針ですので、ご安心いただきたいと思います。

大橋・徳田 御社のご活躍に今後も期待しております。有難うございました。

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