ティアック「Referenceシリーズ」が切り拓くプレミアムオーディオの未来。開発の背景と今後の構想を訊く
VGP2025SUMMER 受賞インタビュー:TEAC
ハイエンドオーディオのエソテリック、プレミアムオーディオのティアック、プロ機器のタスカムなど、音楽製作から再生に関わるさまざまなブランドを擁する国内オーディオメーカーのティアック。
ティアックブランドが2011年から展開するオーディオシリーズ「Reference」シリーズの最新モデル、ヘッドホンアンプ/プリアンプのHA-507と、ステレオパワーアンプのAP-507が、アワードVGP2025 SUMMERにおける批評家大賞を受賞した。
これら受賞モデル、およびハイエンドオーディオのスピリットを身近に感じさせるコンパクトで骨太な「Reference」シリーズの目指すもの、ティアックのオーディオ展開の考え方について、プレミアムオーディオ事業部長の加藤徹也氏が語る。
執行役員 プレミアムオーディオ事業部長
加藤徹也氏
インタビュー:大橋伸太郎(評論家・VGPアワード審査委員長)
受賞モデルReferenceシリーズ、その開発の背景
大橋 このたびは、VGP2025 SUMMERでの批評家大賞ご受賞おめでとうございます。Referenceシリーズは、エンドユーザーが希望するシステムのイメージに沿って、いろいろな選択肢を提供できるコンポーネントですね。ほかのハイエンドモデルにはない、ティアックらしい製品です。
加藤 栄誉ある賞を頂戴しまして誠に有難うございます。オーディオのすばらしさをお伝えしたい弊社の皆にとって、大変励みになります。
大橋 まずはステレオパワーアンプのAP-507について伺います。前モデルAP-505でパワーアンプのモジュールにHypex社のNCOREが採用されていましたが、今回新たにHypex社のカスタム品であるNCORExが採用されました。そのあたりの経緯をお聞きしたいと思います。
加藤 Hypex社との関わりについてお話ししますと、我々はミュンヘンのハイエンドショー開催時に彼らと直接会って、互いの目指すものや注力することなどやりとりをしてきました。
そこで2023年のショーの際に彼らが新世代のパワーアンプを開発中だと聞いて、それをティアックの次の製品に検討したいと申し出たのです。そしてできあがった試作機を送ってもらい、何度か手直しを依頼しました。
大橋 そういう際は測定値でなく聴感で選んだと聞いていますが、具体的にどんな風に行われたのでしょうか。
加藤 おっしゃるとおり、聴感での判断を行っています。Hypex社の製品の古いモジュールが搭載された機器に、新しいモジュールを載せ替えて比較試聴することができるので、それを繰り返しました。
彼らと何度もやり取りし、最終的にこちらで一部部品の変更を希望してカスタムを施してもらい、この新製品に搭載するバージョンが完成したのです。
その過程でもちろん性能も測定し、問題がないことは確認していますが、ほとんどのところ我々は聴きながら判断していますね。
音楽表現をあますところなく再現するためのこだわり
大橋 試聴の際はどんなソースを使われるのですか。
加藤 我々が大事にするのは、ライブ音源の「ライブ感」です。ホールの響きがきちんと伝わるかどうかなど。
例えば、ライブ会場の表現テストするフランク・シナトラの「Sinatra at the Sands」や、力強さや躍動感をテストする音源など、5種類程度の曲を順番に聴いて、テストを繰り返し行います。すべての製品は、この試聴室で試聴テストを行います。
大橋 AP-507のトップパネルは、リジットに固定せず、セミフローティング構造を採用しています。フットも設置時に床面に寄り添うような構造として、ストレスのないコントロールを狙ったとお見受けしますが、それもライブ感を求めてのことでしょうか。
加藤 ライブ音源を聴いて、会場に自分がいるように感じていただきたいので、音抜けが良くオープンであることは非常に大事なのです。音の「空気感」がきちんと出ていることが肝心で、そのためにいろいろと工夫を凝らしているのです。
大橋 ティアック製品の特徴として、自社製のクロックジェネレーターを単体の製品としてラインナップしています。ReferenceシリーズではCG-10M-Xですが、これは4系統の出力があって、具体的にどんな使われ方を想定されたものなのでしょうか。
加藤 Referenceシリーズの核となる存在はUSB DACで、DAコンバーターに上質なクロックジェネレーターを入れて同期したいという狙いがあります。
USB接続では、PCやストリーマーからアシンクロナス伝送され、USB DAC側のクロックでデータを取り込み再生しますので、外部のクロックでオーディオ信号に変換しますと、音質的に向上するわけです。
またCDプレーヤーをS/PDIF接続する際は、トランスポートとDACの両方にクロックを入れることで、伝送時のジッタ―を抑え、音質の向上を図っています。
大橋 深いところまで想定されての設計なのですね。そして今回のヘッドホンアンプHA-507は非常に高い駆動力を持ち、感度を問わずあらゆるヘッドホンを鳴らすことができますが、具体的にどんなヘッドホンを使って音をつめていかれたのでしょうか。
加藤 製品の検証には、確認の意図でいろいろなキャラクターを試したいので、複数のヘッドホンを使い分けています。
定番はソニーのMDR-CDシリーズ。また、ハイインピーダンスモデルの代表格として、当社が以前取り扱っていたベイヤーダイナミックのT1。さらにマスタリングエンジニアも使用しているゼンハイザーHD-800などですね。
ヘッドホンはそれぞれ独自のキャラクターをもっているので、何を基準に考えればいいのかが難しいですが、クセがなく、音がとても自然なフォーカルのUTOPIAや、評判のいい定番モデルであるハイファイマンのSusvaraなどが参考になりました。
以前ミュンヘンのハイエンドショーで展示されていた、イタリアのリビエラ社の高級ヘッドホンアンプAIC10-BalでSusvaraを聴き、非常に感銘を受けました。
真空管アンプで、10Wくらいあり、スピーカーも駆動できるようなモデルで、ティアックが提案するヘッドホンアンプも6W、7Wくらいの出力を目指しました。
大橋 HA-507はプリアンプのボリューム回路にTEAC-QVCS Advanced回路を採用しています。それによる音質上のメリットをお聞かせいただけますか。
加藤 HA-507は完全バランス・デュアルモノ構成で、入力回路以降の回路をバランス化し、最終的に差し引く構成とすることで、ノイズに非常に強い回路にしています。
ボリューム回路については、チャンネル当たり2回路の固定抵抗切り替え式で、いわゆる昔ながらのオーディオ信号をボリュームノブの後ろにボリューム素子に線で持っていくタイプとは異なり、オーディオ回路の基板上にボリューム回路が配置され、信号の引き回しのない最短距離で信号を出力回路に送り出すQVCS Advanced回路を採用しました。
音楽の楽しみを伝えるものづくり、体験の提案
徳田 昨今のオーディオ市況について、どのようにご覧になっていますか。
加藤 アメリカとの関税問題とか、いろいろなものの価格の高騰とか、先行きが見通しにくい状況が続き、お客様も慎重にならざるを得ないのが国内の現状だと思います。
一方海外では日本とはお金に対する感覚が違い、このギャップはあいかわらず埋まりません。日用品とは違って趣味の製品は、価値に対する適切な価格が設定され、その価値やブランドがお客様から認められれば順当に購入していただける、海外ではそんな様相です。
徳田 お客様からその価値を認めていただくに至るまで、どんな活動をなさっていますか。
加藤 やはりどこの地域でも、オーディオのイベントなどで、しっかりと製品を体感していただくことが肝心です。
ただ海外の代理店によってはデモの水準にばらつきがある場合もありますので、弊社のスタッフが現地に赴き、日本国内でのデモと同等のクオリティにできるようアドバイスを行いながらイベント運営に参画しています。
ハイファイオーディオはもちろんですが、昨今は日本をはじめ、中国などでヘッドホンのイベントにも注力しています。
中国や香港でも都市部では日本と同様の住宅事情で、ヘッドホンリスニングのユーザーが多いといいます。中国メーカーのイヤホンも拡大しており、今後も注目されますね
大橋 細部まで緻密な設計を施されているティアック製品ですが、ユーザーはどのような傾向にあるのでしょうか。
加藤 ユーザー像については、正直なところ傾向を完全に把握しているわけではありませんが、やはりオーディオファイルの方々が多いですね。
性能的に尖ったところを求める方はやはり多いかもしれません。年齢層では40〜50代が中心ですね。
500シリーズでは、USB DACのUD-507が根幹的な位置付けで、まずそれをお求めいただくだけで、ハイレゾファイルをヘッドホンで聴くことができます。
さらにパワーアンプのAP-507を組み合わせるとスピーカーで音楽を楽しむことができるシステムが完成します。
またCD再生を希望する方にはトランスポート、より高性能なヘッドホンアンプやプリアンプを求める方にはHA-507をご提案するなど、さまざまなシステムのパターンをご用意し、お客様それぞれが好きなコンポーネントを必要に応じて選択し、追加していくようなシステムづくりをしていただければ良いと考えております。昭和世代にとっては馴染み深い、「バラコン」的な発想ですね。
最近の若い方にとっては、スピーカー再生は高いハードルかもしれませんが、ライブ会場などで生の音に触れる体験をされていると思いますので、スピーカーで聴く音楽を体験していただいて、親しんでいただきたいですね。
我々は、展示会やご販売店様のイベントで、スピーカーから音楽を聴いていただくデモを積極的に展開していますので、そういった体験を通じて多くの方にオーディオに興味を持っていただきたいと思います。
徳田 今後の方向性はいかがでしょうか。
加藤 当社はプロ機器のタスカムブランドで、ミュージシャン側の音作りもサポートしていますから、音楽の入り口から出口までカバーしている当社ならではの音楽に寄り添ったモノづくりができると思っております。
オーディオファンの方には、引き続きティアックならではのオリジナリティーのある商品で、お好きな音楽を高音質で楽しんでいただくお手伝いをしてまいります。
加えて、オーディオのことをあまりご存じではないが、音楽を高音質で聴きたいという方のニーズも視野に入れていきたいと思います。
良い音でお好きな音楽を楽しんでいただきたい、という思いで社員一同モノづくりをしております。
ハイエンドオーディオのエソテリックで実験的なチャレンジも行い、その成果をプレミアムのティアックの製品にも盛り込む、ハイエンドブランドをもっているからこそできることを大事にしていきたいですね。
大橋・徳田 今後とも期待しております。ありがとうございました。
