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公開日 2013/11/01 12:41

さようならプラズマ − パナソニックのプラズマ撤退を考える

大橋伸太郎
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パナソニックがPDP(プラズマパネル)生産を終了し、プラズマ方式テレビの生産と販売も2013年度製品をもって終了することを公式に発表した。同方式の国内唯一のパネル/セットメーカーであったパナソニックの撤退は、日本市場でのプラズマテレビの事実上の終焉を意味する。

“最後のプラズマ”となったVT60シリーズ

真の勝者は誰か

この事実について、プラズマ方式が液晶方式に敗北した、という論調で語られることが多かろう。しかし、筆者の感想はそうではない。

それは液晶方式テレビを世に送り出し、国内トップシェアの座をパナソニックから奪ったシャープの現在の苦戦ぶりを見れば分かるはずだ。

パナソニックが大画面テレビを液晶方式に切替えた最初の世代の製品(WT5)はIPSα、つまりパナソニックディスプレイ製だったが、今年発売の第2世代「FT60」シリーズはIPS、つまり海外製パネルである。薄型テレビ戦争の勝者はプラズマでも液晶でもなかった。日本が負けて韓国、台湾、中国(アジアと総称)が勝ったのである。

2012年液晶テレビの旗艦機「WT5」シリーズ。IPSαパネルを搭載していた

こちらは2013年旗艦液晶テレビ「FT60」シリーズ。IPSパネルに変更された

私が音元出版に在社していた2006年頃、当時のパナソニックのAV事業部長に最近の液晶方式の伸長について正直な感想を尋ねたところ、生産性が高くコストダウンに有利なプラズマ方式が最終的に勝つ、という答えが返ってきた。しかし、現実はそうならなかった。

ここには深い示唆がある。生産性の高い<方式>が勝つのでなく、生産性の高い<企業>が勝つのである。代表的な韓国パネルメーカ2社もプラズマ方式を手掛け、画面サイズでパナソニックと競い合っていたことはご存知の通り。しかし、液晶方式の需要が多いと判断すれば、速やかかつ躊躇なく、ドラスティックに事業の軸足を移す。日本メーカーとの違いである。

プラズマテレビの光と影

テレビ用ディスプレイとしての画質上の優劣を見れば、液晶方式とプラズマ方式は、実は現在も一長一短である。国内テレビメーカーの大半が液晶方式に切替えた2000年代半ば、液晶方式はメーカー間の技術競争の切磋琢磨で画質が急激に向上し、依然画質では勝っていたプラズマ方式は、逆に液晶方式と比較した場合の弱点である明るさ、精細感の改善とそのプロバガンダに腐心するようになった。つまり、追う側と追われる側が入れ替わったのである。

その一方でプラズマ方式の長所の方は進歩の手を緩めていく。パナソニックの内覧会に招かれる度に、筆者はプラズマ方式に依然付きまとう画質上の弱点である暗部での誤差拡散ノイズ、RGBのトラッキングエラーによるカラーブレイクといった弱点の改善がはかばかしく進んでいないことを繰り返し指摘してきたが、プラズマ方式の高画質を損ねている瑕疵(きず)は、結局最後まで克服されなかった。

エコポイントによるテレビ特需が生まれ、続いて東日本大震災と原発事故による電力の逼迫が起きる。後者はプラズマ方式の最大のウィークポイント(高消費電力)を直撃した。4Kを待たず、311でプラズマ方式は事実上終わっていたのである。

筆者は日立のプラズマテレビを数世代に渡り自宅でレファレンスに使用してきたが、プラズマ方式には数々の優れた特長がある。画質上の長所に広色域とコントラスト、視野角の広さが上げられるが、この二点は、まさに今年の液晶方式が課題にしているものである。

プラズマ方式が薄型テレビの敗者であったとは一概に言えない。壁掛けテレビと言っていた、2000年代に入ってからの薄型大画面を牽引したイメージシンボルはプラズマ方式であったし、商品化に至らなかったが、東芝が発表した自発光方式のSEDや、量産開始間近と表明されている4K大型有機ELテレビもプラズマ方式で培った技術開発の影響下にある。大画面薄型テレビ時代はプラズマがもたらしたのである。

IFA2013のパナソニック・ブースに展示された56型有機ELテレビのデモ機。「量産開始間近」とアナウンスされていた

東芝とキヤノンが開発していたSED。ブラウン管と同様、電子を蛍光体に衝突させて発光する自発光型で、高輝度、高精細、高速応答性、高コントラスト、高い色再現性など画質に優れているのが特徴とされていた。(写真は2006年CEATECに出展されたもの)

「無敗神話の終焉」ではない

今回のパナソニックの撤退についてジャーナリズムで語られるもう一つの論調は想像するに、「パナソニック無敗神話の終焉」だろう。

HD DVDとブルーレイディスクが次世代DVDの覇を競い合い後者の勝利が濃厚となっていった時期に、某経済紙でこんな記事報道があった。要約するとこうである。連勝、というものがないことがAV家電の方式競争。VHSでホームビデオ戦争の覇者となったビクターはコンパクトムービーの規格でソニーの8ミリに敗れた。CDを世に送り出したソニーのMMCDは次世代規格で東芝のDVDに敗れた。しかし、その一方で連勝し続けているメーカーがある。それは松下電器である…。

しかし、この記事は重要な事実を見落としていたのだ。ビデオディスク規格での、LDに対してのVHDの敗北、ポストアナログカセット方式でのMDに対してのDCCの敗北と、松下電器(当時)にも負けゲームはあった。

松下電器の強さは国内市場での圧倒的な販売力にあった。だから、最も強い力である同社を味方とした技術規格は必ずといっていいほど勝利した。しかし、パーソナルオーディオをはじめとする趣味性の高い分野では必ずしも無敗ではなかった。そして2000年台に入ると家電流通革命が起きる。

2000年代を目前にして起きた代表的なAVの規格争いに、次世代CD方式をめぐる争いがあった。ソニーのSACDに対するパナソニック(当時は松下電器産業)のDVDオーディオという図式である。さて、その結果は果たしてどうだったか。

両者とも<敗者>だったのである。どちらも真の普及に至らなかった。この戦いは今見れば、ハイレゾリューションオーディオをめぐる戦いだった。真の勝者は当時想像もつかなかったところから現れつつある。そう、<配信>である。

この事実は技術の優劣ではなく、生産・流通といった産業構造の変化や、グローバルな消費者行動の変化が勝者を生み出す現代の特徴を象徴的に指し示している。さて、次の勝者は誰だろうか。

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