JBL「Summit EVEREST」の到達点。ハイエンドオーディオの新たな境地に山之内 正氏が迫る
頂点を目指してきたJBL設計哲学の真価
JBLが完成させた「Summit EVEREST」は、創立80周年記念モデルであると同時に、同ブランドの到達点を示す新世代のフラグシップだ。つねに頂点を目指してきた設計哲学の真価が問われる存在だけに、メーカーの意気込みの強さも格別。入念な準備を重ね、導入の機をうかがってきた。
JBLが新たなフラグシップを開発中という噂は数年前から耳にしていたが、具体的な兆候は1年半ほど前に遡る。2025年5月にミュンヘン・ハイエンドで“Summitシリーズ”の「MAKALU」、「PUMORI」、「AMA」を発表した際、JBLは80周年の節目となる2026年に向けて上位製品の開発を進めていることを示唆したのだ。
その1年後の今年6月、ウィーンで開催されたハイエンドで、予告通りにSummit EVERESTと「Summit K2」を初公開。変貌を遂げた外観と別格というべきスケールの大きなサウンドを目の当たりにし、強い衝撃を受けた。
その3か月後、待望のEVERESTが日本に届き、東京のブルーノート・プレイスで試聴会が行われた。広大な会場を鳴りっぷりの良い音で満たし、レコードで聴くジャズの醍醐味を堪能。並外れた浸透力と指向性の広さはホーム用スピーカーの域を超え、ハイエンドオーディオの新たな境地を切り開いたことを強く印象付けた。
そして10月、ついにEVERESTをじっくり試聴する機会が訪れた。輸入元の試聴室はこれまでこのスピーカーを聴いたなかで最も家庭のリスニングルームに近く、家庭用として設計されたEVEREST本来の用途にふさわしい環境といえる。
異なる環境で3回聴くことによって、この記念碑的スピーカーの真価が見えてきた。まだ全容は見えないものの、ポテンシャルの高さは疑いようがない。
新規設計のドライバーユニットの狙い
頂点を目指すことの意義は、設計者が一番よくわかっているに違いない。2025年のSummitシリーズ発表の場で、登山家のベネディクト・ベームが「未踏ルート」から登頂を目指す難しさを語っていたことを思い出す。
「DD66000」から20年を経て新たなフラグシップを投入するのだから妥協は許されず、「伝統と革新」を尊重する設計思想を貫くためには、思い切った技術的革新に挑む必要がある。困難が伴う「未踏ルート」をあえて選ぶことで、いまだ到達したことのない境地を切り開くことができるのだ。
EVERESTのコンプレッションドライバーに新たに採用したマニフォールド構造は、まさにその「未踏ルート」の一つで、音質改善の核心となる技術だ。
Summitシリーズで採用したD2コンプレッションドライバーは、ダイヤフラムと磁気回路それぞれをデュアル構成とすることで基本性能を高めていたが、EVERESTではそのD2ドライバーを3つ組み合わせ、120度等間隔に配置。3組のドライバーの音を合成するマニフォールドを経てソノグラス製HDIホーンから放射される仕組みだ。
複数のドライバーを組み合わせる手法は根本的な困難を伴う。各ドライバーの構造と特性を高精度に揃えないと干渉や歪みを引き起こすおそれがあり、マニフォールドの構造と仕上げには桁外れの精度が求められるのだ。
一方、それらの課題を克服すれば、複数のコンプレッションドライバーを用いることの長所は計り知れない。対向配置/デュアル構造のドライバーを3組に増やすことで、各ドライバーへの負荷を抑え、歪みを最小限に抑えることができるのだ。個々の振動系の負荷が小さいほど、最適な駆動範囲で余裕のある鳴り方になると理解すれば良い。EVERESTは低域と中低域もデュアル構成なので、その余裕はすべての音域に及ぶ。
オーケストラの弦楽器パートの構成を思い出してほしい。原則として2人で1つのプルトを組み、そのプルト数を第1ヴァイオリンの場合は6ないし8まで重ね、12-16名で同じ楽譜を演奏する。コントラバスの場合は6-8名で演奏するのが基本だ。
複数の奏者が同じ音を弾くことによって、管楽器群とのバランスを確保し、音の厚みとダイナミックレンジは一気に向上する。同じ楽譜を1人や2人で演奏しても十分な音圧は得られないし、少人数で無理に大きな音を出そうとすると、音色が荒れてハーモニーが破綻してしまう。
D2ドライバーを3組に増やしたEVERESTのコンプレッションドライバーは、個々のドライバーの負荷を抑えることで歪みを低減する効果が期待できる。さらに、位相を正確に揃えて3組同時に駆動することで、最大音圧で鳴らしたときに余裕が生まれ、ダイナミックレンジの改善と正確な音色表現を両立できるようになる。
コンプレッションドライバーを統合するマニフォールドはEVERESTとK2だけの装備だが、ミッドバスの追加はAMAを除くSummitシリーズに共通するアプローチで、こちらも音質改善への貢献度がきわめて大きい。
中低域を専用ドライバーで駆動することでウーファーとコンプレッションドライバーそれぞれの負荷を減らし、歪みの少ない再生音を狙うのが基本だが、内側のミッドバスの再生音域をコンプレッションドライバーに近付けることで、中域のスムーズなつながりを実現する効果も同時に狙っている。
堅固な骨格と強靭な筋肉の持ち主
今回、マークレビンソンのフラグシップ機器(No.5101、No.626、No.631)を組み合わせ、CDとSACDを中心に音を確認した。普段聴いている試聴音源を用いて、技術的な背景を理解したうえでEVERESTの音を聴くと、新しいフラグシップに設計陣が求めたことがよくわかる。
「微に入り細を穿つ」音とは少しニュアンスが異なる。ディテールはきめ細かくテクスチャは豊かなのだが、線の細い音とは一線を画し、どの音にも実体感がそなわるというのが、さまざまなジャンルの音楽を聴いた総合的な印象だ。
身体にたとえると、堅固な骨格と強靭な筋肉の持ち主だ。それに加えて、息の勢いや脈動の強さを併せ持ち、生命力に富んでいる。そこまでは前作のEVERESTの音とも共通するのだが、正確に言うと、強力なネオジウムマグネットを投入した磁気回路の強化が功を奏し、実際には力強さは明らかに前作を上回っている。
演奏の「高揚」がもたらす説得力がきわめて強い
そして、もう一つの重要な進化を見逃すことはできない。音のなめらかさとテクスチャの豊かさを獲得したこと。それこそが新しいEVERESTの真骨頂であり、今回の世代交代の核心なのだ。
カルメン組曲の弦楽器の厚みと潤い、木管楽器の音色のきめ細かい描き分けは、これまでのJBLのフラグシップとは次元が異なる。トゥッティの音圧が桁外れに大きいので、瞬発力や打楽器の強靭なアタックに耳を奪われがちだが、注意深い聴き手なら、音色を鳴らし分ける精度の高さを聴き逃さないはずだ。
管弦楽編曲版の録音を聴いたので、歌の旋律はクラリネットやファゴットが演奏しているのだが、まるで歌手が歌っているように表情が豊かで、繊細かつ情熱的に歌い上げる。演奏の技巧的なレベルの高さは最近のオーケストラだから文句のつけようがない。それよりも「歌」の上手さが真っ先に聴き手を魅了する。ここは新しいEVERESTにそなわる重要な資質のひとつだ。
ニッキ・パロットのボーカルを聴くと、歴代EVERESTを上回る声のリアルな感触と、コンプレッションドライバーとホーンの組み合わせでなければ得られない実在感に気付く。
一方、今回の進化で重要な要素は、そのリアリティ以上に、「歌」そのものの表情の豊かさに聴き手の意識が及ぶことだ。中高域の歪みの少なさ、なめらかな質感描写などが前作とは次元が異なる領域にまで向上しているため、歌手の歌いっぷりや表情の起伏の大きさがより強く感じられるようになり、まさに「よく歌う」のだ。
歌の表現が深まることとも関連するのだが、演奏の「高揚」がもたらす説得力がきわめて強い。そこに今回のEVERESTのもう一つの進化を聴き取ることができる。いつもと違うテンションの高さがステージのミュージシャンから伝わったり、それを聴き手が共有することでさらに強い高揚が生まれることがある。その高揚が生む独自の空気感は、実演ではしばしば体験するものの、録音と再生装置を介してリアルに実感するのは稀なことだ。
今回はストルゴールズ指揮、BBCフィルのショスタコーヴィチを聴いて、その異様なまでの「高揚」を共有することができた。たんに解像度が高いだけでは伝わりにくいが、優れた録音には、興奮や高揚した空気がもたらす温度感などの重要な情報が含まれている。
EVERESTの音が非凡と感じるのは、その重要な要素をもらさず引き出す能力が際立っていることに理由がありそうだ。
ブルーノート・プレイスでレコードを聴いたときにも多くの聴き手がその感覚を共有した。EVERESTを一人でじっくり聴くのは特別な体験だが、大勢で同時に楽しむときにも特別な空気を共有できる。そんなスピーカーは実はそう多くない。EVERESTがホームオーディオの枠を超えた存在と思わせるのは、そこに理由がある。
Summit EVEREST 試聴イベント情報(2026秋)
Summit EVERESTはこの秋、以下の試聴イベントにて体験いただけます。貴重な機会となりますので、ぜひ奮ってご来場ください。
■11月7日(土)/8日(日)
東京・マラソン試聴会
・会場:KANDA SQUARE
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町2丁目2-1
・主催:ダイナミックオーディオ
■11月13日(金)/14日(土)/15日(日)
大阪・大阪ハイエンドオーディオショウ
・会場:ハートンホテル心斎橋 別館
〒542-0086 大阪府大阪市中央区西心斎橋1-5-24
・主催:大阪ハイエンドオーディオショウ実行委員会



























