JBLの新たなるアイコン、“スタジオモニター”直系のフラグシップスピーカー「4369」が降臨!
ブルーバッフルを搭載するJBLの新たなるフラグシップモニター「4369」。今年創刊200号を迎えた『季刊・オーディオアクセサリー』の表紙を飾った、JBLの2ウェイスタジオ・モニターの最高峰である。
『季刊・オーディオアクセサリー』が創刊したのは1976年であるが、くしくもあの絶大な人気を博した伝説のモデル「4343」が登場した年でもある。1937年に登場したLansing Iconic以来のDNAを継承するJBLの“新たなるアイコン”、そのサウンドを土方久明氏が読み解く。
80周年記念モデルの“隠し玉”
2025年10月17日、「東京インターナショナルオーディオショウ」のハーマンブース。開場とほぼ同時に1台のスピーカーの幕が取り払われた。想像を超える威風堂々たる佇まいに、そこにいた誰もが感嘆した。ブルーバッフルとウォルナット天然木突板仕上げのエンクロージャー。今や貴重な存在となった15インチ(38cm)の大口径ウーファーとホーンが搭載された、大型のスピーカーがそこにある。
そう、JBLスタジオモニター直系のフラグシップモデルが、ついにベールを脱いだ。その名は「4369」。前モデル「4367」の登場から、実に11年ぶりの登場となる。
2026年に創業80周年を迎えるJBLは、昨年よりその記念碑的プロジェクトとしてSummitシリーズを発表してきた。2ウェイ・ブックシェルフ型のAma、フロア型のMakalu、およびPumoriである。
しかし、「4369」はそれらとは潮流を異にする存在だ。本機はあくまでスタジオモニターという、JBLが往年より守り続けてきた流派に属するモデルである。1962年の「D50SM」に始まり、日本で空前のヒットを記録した「4343」(1976年)、「4344」(1982年)、「4348」(2002年)、そして「4367」へと連なる、正統な血統だ。JBLはこんな“隠し玉”を用意していたのか。
新開発の38cmウーファーと中高域ドライバー+ホーン
設計・開発は、カリフォルニア州ノースリッジにあるJBLの音響エンジニアリング施設にて、近年の同社スピーカー設計のキーマン、クリス・ヘイゲンを中心としたチームが担当している。
ここからは、「4369」の内容を前モデル「4367」とも比較しつつ見ていこう。まず、ユニット構成は「4367」同様の2ウェイで、バスレフ型を採用。周波数レンジは28Hz - 25kHz、感度93dB、インピーダンス8Ω、スピーカーターミナルはバイワイヤリング対応だ。
各ユニットは新規設計となる。低音域には、新開発の15インチウーファー、2219Nd-1を搭載。新設計された通気性と高剛性を持つアルミキャスト製のフレームが用いられている。
また、Summitシリーズでも採用された、JBLの特許技術であるディファレンシャル・ドライブ構造を搭載。磁気回路を前方と後方の二重に配置し、ボイスコイルを両側から駆動する技術だ。振動板素材はピュアパルプコーンで、コッパーキャップとショートリングを組み合わせ、歪みを低減させている。
3インチのデュアルボイスコイルを採用することで、大口径ウーファーにありがちな制動不足や中域の濁りを明確に排除しながら、強力な低音再生を実現した。
高音域は、Teonex製リングダイアフラムを2枚用いたデュアルダイアフラム構造のコンプレッションドライバー、D2830B D2を搭載し、JBLが長年培ってきたホーン理論を現代のリスニング環境に最適化したHDI(ハイ・ディフィニション・イメージング)ホーンと組み合わされる。
同ドライバーの駆動部は、独立したボイスコイルとネオジム磁気回路により構成され、従来型の3インチ・ダイアフラムと同等の放射面積を持ちながら、質量とモーターフォース比を大幅に低減させ、結果的に出力を高めながら、滑らかで広帯域の周波数特性を実現した。また、ウーファーとのクロスオーバー周波数は800Hzとなっている。
ネットワーク部はマルチキャップ・クロスオーバーデザインを採用。大容量コンデンサーを多数の小型コンデンサーで置き換えることで、理想的なコンデンサー動作の指標のひとつであるESR(等価直列抵抗)を低減、微小信号の再現力を高めた。
トゥイーターの位置を耳の高さへと最適化
そして、この2つのユニットを支えるキャビネットは、「4369」の大きなハイライトと言っていい。25mm厚のMDF材を基本構造とし、フロント下部には16mm厚のサブバッフルを追加。実質40mm厚となる堅牢な構造を形成している。内部には上下方向のパネルを結ぶ2本のブレースが配置され、不要共振を徹底的に抑え込む。
サイズは、近年のJBLモデルの中でも際立って大型だ。「4367」が941×560×425mmだったのに対し、「4369」は1120×630×470mmと大幅に拡大。内容積も「4367」比で約1.48倍に達する。このサイズアップは単なるスケール拡大ではなく、低音域の質的向上と、トゥイーター位置をリスナーの耳の高さへ最適化するという、明確な設計思想に基づくものだ(当時、4367のデモにおいて台座を追加し、高さを調整していた記憶を持つファンも多いだろう)
バスレフポートは、歴代モデル同様フロント面に配置。奥行きも470mmと比較的抑えられており、見た目の迫力に反して設置性は悪くない。
フロントバッフルには2基のアッテネーターを搭載。−1dBから+1dBを0.5dB刻みで調整可能で、HFは1.5 - 6kHz、UHFは5kHz - 25kHzをカバーする。例えば、高域バランスの振れ幅が大きい1950年代のジャズと現代ジャズを行き来するリスニングにおいては、こうした調整機構の存在は極めて有用だと僕は思う。
さらに注目したいのが、フットの存在である。「4369」には、Summitシリーズでも採用されている、カナダのアイソ・アコースティック社によるカスタムメイド品が装着された。
同社のフットは軸上エネルギーを吸収し、軸外には抵抗するという特性があり、特に大口径ウーファーを搭載する本機において高い効果が期待できる。また、従来、JBLのスタジオモニターはフットが装着されていないモデルが多く、ベースやインシュレーター選びに悩んできたユーザーにとって、この点は大きな進化だと思う。
強烈なグルーヴと重厚感、音場の表現性が大きく進化
「L100 Classic 75」や「SP-LE8T」など複数のJBLスピーカーを所有する筆者にとっても、「4369」はまず外観のインパクトが強烈だ。「音楽を聴こう」と語りかけてくるような強烈な存在感がある。
試聴環境は、アキュフェーズのプリアンプ「C-3900S」、パワーアンプは「A-300」(モノラル)を中核に、エソテリックのネットワークプレーヤーから、Qobuzを用いて音源を再生する。
まずはジョン・コルトレーン『ブルー・トレイン』。音が出て数秒で「やってくれたな、JBL」と気持ちが一気に高揚した。基調となる音調は陽性で、感度93dBのメリットを感じる、初期作動の早い、強烈なグルーヴを感じるサウンド。間違いなくJBLスタジオモニターの音だ!ケニー・ドリューのピアノは色彩感に富み、立ち上がりが良い。コルトレーンのサックスは、迷いなく前方へ飛び出してくる。
そして、何より圧巻なのは、今や希少となった38cmウーファーによる低音表現だ。フィリー・ジョー・ジョーンズのドラムは、小口径ユニットをいくつ並べても得られないかもしれない、本当に生楽器のような重量感がある。
続いて、ユリシス・オーエンス・ジュニア率いるジェネレーションYの『ア・ニュー・ビート』を再生。現代ジャズらしいワイドレンジかつ低音量感の多い音源だが、「4369」はそれをまったく苦にしない。38cmウーファーが動いているとは思えないほど低域は明瞭で、床に対して、ウーファー位置が上がったことで、反射の影響から解放されている。量感・スピード・情報量が高次元でバランスし、グルーヴを一切シュリンクさせることなく、エネルギッシュに描き切る。
そして新世代のスタジオモニターらしさが伝わるのが、音場表現の進化である。HDIホーンとの組み合わせにより、指向性は明確に制御され、顔を左右に動かしても、過敏な位相感の変化がない!
だから、女性ヴォーカルのサマラ・ジョイ『ポートレイト』では、血の通った、立体的なヴォーカルがセンターに定位するし、クラシック楽曲のトーマス・アデス『バレエ音楽〈ダンテ〉』では、オーケストラの巨大なステージを立体的に描き出す。JBLにどこまで音場表現を求めるかは好みの問題だが、広いリスニングエリアを確保できる点は見逃せない。
また、微小信号の再現性にも優れており、静寂部に潜む空気感やホールトーンの減衰も美しい。正直に言えば、これ以上の表現力を求めるならSummitシリーズという選択になるが、それと引き換えに、良くも悪くも理知的な方向へ寄る可能性もある。
JBLスタジオモニターシリーズにおいて、「4369」という型番が持つ意味は極めて重い。1937年のランシング・アイコニックに端を発するJBLのモニター思想は、常に“現場で信頼される音”を基準に進化してきた。
その系譜の最新フラグシップとして登場した「4369」は、単なる「4367」の後継ではない。モニターとしての機能美を継承しつつ、Summitシリーズで培われた技術を惜しみなく投入した、事実上の完成形だ。1台176万円という価格は、サプライズと呼んでいい。
「JBLが帰ってきたよ」試聴を終えて、僕は、そう思った。

