公開日 2026/02/09 06:35

アナログ再生への招待状。テクニクス「SL-50C」を、JBLのあるレコードバーで体験!

真空管アンプでレコードを鳴らす阿佐ヶ谷の音楽バー「ニューOmikuji」
小林 裕
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JBLとレコードとお酒。そんな贅沢な時間を楽しめるのが、阿佐ヶ谷に昨年秋にオープンしたレコードバー「ニューOmikuji」である。音楽とお酒をこよなく愛するマスター・嶋 恭助さんと一緒に、テクニクスの最新アナログプレーヤー「SL-50C」を聴いてみた!

テクニクス アナログプレーヤー「SL-50C」を阿佐ヶ谷のレコードバー「ニューOmikuji」でテスト!

真空管アンプとJBLスピーカーがお出迎え

JR阿佐ヶ谷駅の南口から5分も歩かないところに、夜ごと音楽を気持ちよくアナログレコードで鳴らしている店がある。

レコードバー「ニュー Omikuji」。アナログプレーヤーはテクニクス「SL-1200GR2」。そこからTRINNOVの「NOVA」で空間補正を施して、トライオードの真空管アンプ「VP300BD」で鳴らしている、こだわりの構成だ。

音楽バー「ニューOmikuji」の店内

店主・嶋さんは長年DJとしても活動し、音の扱いに関しては実に精緻な感覚を持つ。そんな場所に、テクニクスが新たに発売したエントリークラスのアナログプレーヤー「SL-50C」を持ち込んだ。

ニューOmikujiのマスター・嶋 恭助さん(左)と長年の友人であり本記事の執筆者であるライターの小林 裕さん(右)

比較対象は、この店に置かれているアナログプレーヤー「SL-1200GR2」。本来なら、10万円以下のSL-50Cが挑む舞台としては荷が重すぎるかもしれない。

ニューOmikujiで普段使用されているのは「SL-1200GR2」

だが「アナログの魅力とは何か?」を語るのに、この対比はむしろ好都合だとも感じた。

セットアップ:SL-50Cから伝わる“テクニクス”

内部の緩衝材もすべて段ボールで作られているエコな作りの箱から本体を取り出した瞬間、嶋さんが「コンパクトでいいですね」と笑う。

GR2のような重量級ではないが、スイッチ類などの配置や、触れた瞬間の質感にはやはりテクニクスらしさがあった。

カートリッジはオルトフォンの「2M Red」が標準付属。そのままプラグ&プレイで接続できる

「家で使うなら十分すぎますよ。シンプルでスタイリッシュにまとまってる」

高見えする存在感で、MMカートリッジに加えて高音質の内蔵フォノイコライザー(MMのみ)も搭載されている。そしてこのフォノイコが後の試聴で最大の“武器”として輝くことになる。

接触なきところに快感なし。アナログレコードの魅力

準備をしながらの雑談で、嶋さんにレコードの魅力について伺ってみた。「接触なきところに快感なし、ですよ。針が溝をなぞり、摩擦で音が生まれる…その“物理性”自体が快感なんです」

レコードを取り出したり、針を落とす行為。さらにレコードは“聴く行為そのもの”を変えると言う。

曲順を変えない、A面とB面を意識する、ジャケットを眺める、ライナーノーツを読む──。音楽が、再生ボタン一つの“消費物”ではなく、「作品を体験する」行為に戻る。

嶋さんはレコードの魅力を話しつつ、店のラックから試聴用のレコードを数枚取り出してくれた。DJがレコードを探し、取り出したりする所作にも魅力が宿る。

1曲目:EGO-WRAPPIN'「色彩のブルース」

SL-50Cの内蔵フォノイコライザーから、店のミキサー(ECLER「WARM2」)のLINE入力につないで聴いてみる。カートリッジは店のGR2との比較のために、標準装備の2M Redではなく、店で使用しているオルトフォン「Concorde MKII」をそのまま使用した。

EGO-WRAPPIN'「色彩のブルース」

「EGO-WRAPPIN’の『色彩のブルース』は、アナログ再生でこそ魅力が映える曲なんですよ」と言いつつ嶋さんが針を置く。

音が出た瞬間、嶋さんが少し身を乗り出す。「え?透明感がすごいですね……声の奥行きや、喉の開き方まで分かりますよ」

確かに音の“見通し”は驚くほど鮮明だ。ベースの沈み込みは比較で聴いたGR2ほど深くはないが、ミッドレンジのクリアさはむしろSL-50Cも印象的ですらあった。

アナログを初めて触る人がSL-50Cを買ったとしたら、きっとこの時点で「デジタルでは聴けなかった世界」を体験するだろう。

ウッドベースの弦の湿度、声の震え、空気中に漂う残響……これらを10万円以下で感じ取れるのは驚異的だ。

続いて比較のために内蔵のフォノイコライザーをバイパスし、SL-50CをミキサーのPHONO入力に接続する。音の温度感は増し、厚みも増える。だが嶋さんは不意にこう言った。

「内蔵フォノのほうが、曲によっては“気持ち良さ”が上ですね。音の鮮度が高いですよ」

ニューOmikujiには、DJミキサーとしてECLER(エクラー)の「WARM2」を使用している。エクラーの内蔵フォノイコとテクニクスの内蔵フォノイコとの比較も行った

これはアナログの“根源的な真理”に触れる指摘だ。アナログは、ケーブル1本、コネクタ1つ、余計な回路が音を変える。だからSL-50Cのように「内部で最短距離のまま増幅される音」は、そのまま素直な“鮮度”として耳に届く。SL-50Cはそのことを体験できる構造をしている。

SL-50Cの背面端子。出力はPHONOとLINEのRCA2系統で、背面スイッチで切り替えができる

2曲目:東京スカパラダイスオーケストラ「美しく燃える森」

次に鳴らしてもらったのは、東京スカパラダイスオーケストラ「美しく燃える森」。パーカッションの音数も多く、ホーンセクションの厚みや定位、輪郭がどの程度再現されるのか楽しみだと嶋さんは言う。なるほど、システムの能力が表れる曲だ。

東京スカパラダイスオーケストラ『Stompin' On Down Beat Alley』

SL-50Cで鳴らした「美しく燃える森」は、とにかく立ち上がりがシャープ。スネアやハットなどのドラムのアタックはキレがよく、パーカッションの細かな刻みもスッと前に出てくる。

ホーンのフレーズも絡み合いながらも団子にならず、各パートの位置関係がきれいに浮かび上がる。全体として、画がぱっと開けるような空気感があり心地よい音だ。

一方で、同じ曲をGR2でかけると印象が変わる。ホーンの一音一音にグッとした厚みが乗り、低域の量感も増して、店内の空気をしっかり“揺らす”力が出てくる。

音の輪郭だけでなく“体積”まで感じさせる鳴り方で、音楽全体のスケールが一段大きくなったように聴こえる。

聴き比べを終えて、嶋さんはこう整理してくれた。「GR2は“身体性”、SL-50Cは“見通しの良さ”。この方向性の違いはすごく面白いですよ」

どちらが優れているという話ではない。だが、SL-50Cは価格帯からは想像できないレベルで、音のスピード感と分離の良さを提示してみせたと言えるだろう。

3曲目:宇多田ヒカル「初恋」

次は私が持参した宇多田ヒカルの『SCIENCE FICTION』のアルバムから「初恋」を聴いてみる。現代録音の美点を持った音源で、静寂の中に声が立ち上がり、音場の細部がよく分かる。

宇多田ヒカル 『SCIENCE FICTION』

SL-50Cで再生すると、まず感じるのは透明感だ。イントロの静寂がきれいに保たれ、その中からそっと宇多田の声が浮かび上がる。

背景のノイズ感は少なく、ピアノやストリングスの響きもスッと消えていく。声の輪郭線は細くしなやかで、フレーズの終わりまで美しく伸びていく印象だ。現代的でクリーンな「良録音」の魅力を、そのまま聴かせてくれる鳴り方と言える。

対してGR2では、同じ曲がもう一歩“肉体的”な方向へ寄る。宇多田ヒカルの特徴的ともいえる声の下支えとなる低域の成分がしっかり出て、歌声に厚みと重心の深さが加わる。

ピアノの低音やキックのアタックにもわずかながら重みが乗り、音楽全体の“腰”が据わるような印象だ。

空間の奥行きも一段深く、ボーカルが前に出つつも、その後ろに広がるステージの立体感が感じられる。

それでもこの曲に関しては、両者の差は相対的に小さい。聴き終えて嶋さんは、「SL-50C、かなり良いですよ。この曲はむしろ相性がいい」と評価した。録音の良い現代ポップでは、SL-50Cの透明感と静かな背景という美点が効いてくる。

4曲目:ドナルド・フェイゲン「I.G.Y.」

最後に針を落としたのは、嶋さんが「何百回も聴いた」と語るドナルド・フェイゲン「I.G.Y.」。音の定位、空間の奥行き、低域の安定──すべてが比較に向いた“基準曲”なのだと言う。

ドナルド・フェイゲン『The Nightfly』

SL-50Cでの「I.G.Y.」は、やはり音の通り道がクリアだ。イントロの特徴的なシンセの音がとにかく美しい。ベースラインもタイトにまとまり、音程の動きが分かりやすく浮かび上がる。

各パートが整理されて見えることで、アレンジの巧みさや細部のニュアンスが聴き取りやすく、「なるほど、こういうミックスになっていたのか」と改めて気づかされるタイプの鳴り方だ。

一方GR2では、同じ曲の“重心の深さ”が違ってくる。まず音の安定度が段違いで、ベースとキックが床をしっかりと踏みしめるように鳴る。低域の深さと重量感が増し、そこにシンセやブラス、コーラスといった上ものがどっしり乗ってくる感覚だ。

空間全体を支配する“存在感”が強く、音量を上げても音像が崩れずに前へ出てくる。

聴き終えた嶋さんは、「GR2は音楽の“重心”が深い。SL-50Cは音の“美しさ”で勝負している。どちらも聴いていて楽しさがある」と語ってくれた。

同じ曲を聴いていても、GR2は“身体で感じる音楽”、SL-50Cは“耳で描き出す音楽”という方向性の違いが、ここでくっきりと見えた。

“アナログの入口機”の真価

今回の比較で強く感じたのは、SL-50Cが「アナログの魅力の核心」をしっかり体験させてくれる機種だということだ。しかも、価格は10万円以下。

「SL-50C」はオープン価格だが、市場実売価格は99,000円前後(税込)。10万以下のプライスも嬉しい!

SL-50Cで体験できる“アナログの魅力”は以下の3点だと思った。

(1)“針で音を拾う”というエモーション
針を落とす、盤が回る、音が生まれる──この体験そのものが大きな魅力であり、SL-50C はその工程を極めてシンプルに成立させる。

(2)音の鮮度と透明感
とにかく内蔵フォノイコの優秀さは特筆もの。“短い経路で素直に増幅された音”は、デジタルとは異なる透明感を持つ。

(3)手の届く価格で“アナログ入門の最適解”
SL-50C は抑えられた価格なのに、高音質で音楽を楽しめるという満足感が大きい。

嶋さんが言った言葉が象徴的だ。「これでアナログを始めたら、もう沼に入るのは間違いないですよ」

アナログを“文化として楽しむための第一歩”

SL-1200GR2のように、音楽の生々しい“身体性”まで描き出すハイエンドな魅力も確かに重要だ。しかしアナログレコードの本質のひとつは、音を“体験”として味わうことにあると思う。

針を落とす行為、回る盤を眺める時間、ジャケットの質感、曲が生まれる瞬間の空気……。SL-50Cはそれらすべての入口を、手の届く価格で開いてくれる。

アナログを愛したテクニクスが作った“アナログへの招待状”。それがSL-50Cの本当の姿だ。

■ニューOmikuji Information

東京都杉並区阿佐谷南3-37-6 都ビル2階
(JR阿佐ヶ谷駅 徒歩2分)
営業時間 19-26時
休業日 日曜日(及び年末年始)
TEL 03-6683-3995
Instagram @new_omikuji

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