公開日 2023/03/16 06:40

ASMR=ダミヘ?カナル型じゃない=インイヤー?増加する“現代オーディオ用語”を知る

[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域【第269回】

それが「オープンバック型=開放型」と「クローズドバック型=密閉型」。それぞれ短くして「オープン型」と「クローズド型」と呼ばれる。こちらは振動板背面側のハウジング等が開放 or 密閉されているかを表している。ヘッドホンの場合は、ハウジングのイヤーカップがメッシュやスリットなどで開放されているのがオープン型の外観上の特徴だ。

ヘッドホンにおけるオープンバックの代表モデルの最新世代機、Sennheiser HD 660 S2

ただし、オープンバック/クローズドバックの遮音性や音の傾向は、カナルじゃない/カナルのそれと相似。会話の中での行き違いが生じにくいのは不幸中の幸いか…。ただ、両者は全く別の技術内容を指しているため、「カナル型かつオープンバックなイヤホン」のように、両者が組み合わせて用いられる場合もある。

それを言い換えると、「クローズド型のオープン型イヤホン」といったような言葉も生まれてしまう。しかも、これは可能性の笑い話ではなく、そのような製品は実際に存在する。例えばFiiOは「ドライバーの背圧を適切に外部に排出するセミオープン構造」を採用したカナル型イヤホンも積極的に展開。総じて良好なサウンドを実現している。

FiiOのハイブリッドIEMのフラグシップ「FH9」。カナル型でありつつ一目でわかるオープンさ

こういったモデルは、イヤーピースを耳に入れて外耳道を密閉=クローズドにする装着スタイルでありつつ、フェイスプレート部分等でハウジングを大きく開放したオープンバック構造を採用。オープン型らしい音の感触を備えている。

となると、「(イヤーピースを耳の穴に入れるのが苦手だから)オープン型のイヤホンでおすすめのやつない?」という意図の質問に対して「じゃあこのモデルなんかおすすめだよ(とオープンバック構造のカナル型イヤホンをすすめる)」なんて悲しいすれ違いが生まれてしまうかも?まあ、実際そこまで極端な行き違いは滅多に起きないだろうが、ちょっとした行き違いは起き得るはず。留意しておいて損はない。

また、最近では、外耳道を塞がないどころか、外耳もほとんどあるいは完全に塞がないスタイルのイヤホンも登場しているので、注視しておきたい。前述のambieやLinkBuds、骨伝導イヤホンなどだ。外耳道の開放を焦点にするならこれらの方こそ「オープン型」の名にふさわしい気もしてくる。

そんな流れの中で注目したいのが、「耳の前にスピーカーが浮く」というイメージの形状を採用したソニー「Float Run」だ。2007年発売の同社パーソナルフィールドスピーカー「PFR-V1」を想起させるところもありつつ、現在のソニーによって現在のニーズに向けて作り込まれた要注目アイテムだ。

Sony Float Run。耳の手前のユニットから耳の中に向かって音が狙い撃ちされてくるようなイメージ

この製品の紹介でソニーが用いた「オフイヤーヘッドホン」という言葉にも注目。この「オフイヤー」という表現、このFloat Runや骨伝導型のように、外耳道を全く塞がない位置に発音体を置くスタイル全般の名称としてもわかりやすいのではないだろうか。

さて、ではやっとこれが最後、「イントラコンカ型」の説明だ。

「intra-concha」の接頭語的な「intra-」は「−−の中」の意味。続く「concha」はまさにカナルじゃないイヤホンが収まる部分、外耳の中のあのあたりのくぼみこと。イントラコンカ型は、その装着場所をインイヤー型よりもさらにピンポイントに言い表している呼び方なわけだ。

このイントラコンカ型という呼び方は、使われ方もピンポイント。イヤホンやヘッドホンの分野で、カナル型じゃないこの形のことではなく、他の何かを指してイントラコンカという言葉が使われることは筆者が知る限りにはない。

なので「インイヤー型はカナル型も含めた全てのイヤホンを指す場合もある」「オープン型はオープンバック構造を指す場合もある」といった意味の重複による行き違いは、イントラコンカ型においては起きないはず。これはこの呼び方の大きな強みだ。

一方で弱みもある。「そもそもイントラコンカ型という呼び方の認知度が、他の二つに比べてかなり低い」のだ。意味の行き違いを避けるために「イントラコンカ型のおすすめ教えて」と聞いたら、行き違い云々以前に「イントラコンカ型って何?」と全く通じなかったりする可能性も無視できない。

最後に、カナル型 “じゃない” イヤホン三大呼について改めてまとめてみよう。
インイヤー型(インナーイヤー型):外耳道ではなく、外耳に収めるという装着方法を示す名称。カナル型も含めたイヤホン全般を指す言葉として用いられる場合もあることに注意。
オープン型:外耳道を密閉せず開放してあることを示す名称。振動板背面を開放するオープンバック構造を指しても同じ言葉が用いられることに注意。
イントラコンカ型:装着箇所をよりピンポイントに示す名称。そもそもこの名称の認知度がいまいちなことに注意。

それぞれが「カナル型 “じゃない” イヤホンイヤホン」の特徴の一面を切り取って示しており、どれも間違いではない。その上で各注意点には留意しよう。

次ページ今人気!超小型ポータブルUSB……DAC?ヘッドホンアンプ?

前へ 1 2 3 4 5 6 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
クローズアップCLOSEUP
アクセスランキング RANKING
1 BRAVIAが空飛ぶ時代? 動画コンテンツの楽しみ方に押し寄せた大きな変化を指摘するソニーショップ店長。超大画面はさらに身近に
2 ネットワークオーディオに、新たな扉を開く。オーディオ銘機賞の栄えある“金賞”、エソテリック「Grandioso N1」の実力に迫る
3 Nothing、最大40%オフのウィンターセール開催
4 LG、世界初のDolby Atmos FlexConnect対応サウンドバー「H7」。オーディオシステム「LG Sound Suite」をCESで発表へ
5 「ゴジラAR ゴジラ VS 東京ドーム」を体験。目の前に実物大で現れる“圧倒的ゴジラ”の臨場感
6 衝撃のハイコスパ、サンシャインの純マグネシウム製3重構造インシュレーター「T-SPENCER」を試す
7 AVIOT、“業界最小クラス”のANC完全ワイヤレス「TE-Q3R」。LDAC、立体音響にも対応
8 ソニー「WH-1000XM5」に“2.5.1”アップデート。Quick AccessがApple Music/YouTube Musicに対応
9 「HDR10+ ADVANCED」が正式発表。全体的な輝度向上、ローカルトーンマッピングなど新機能も
10 クリプトン、左右独立バイアンプ機構のハイレゾ対応アクティブスピーカー「KS-55HG」新色 “RED”
12/19 11:02 更新
音元出版の雑誌
オーディオアクセサリー199号
季刊・オーディオアクセサリー
最新号
Vol.199
世界のオーディオアクセサリーブランド大全2025
特別増刊
世界のオーディオアクセサリーブランド大全2025
最新号
プレミアムヘッドホンガイドマガジン vol.23 2025冬
別冊・プレミアムヘッドホンガイドマガジン
最新号
Vol.23
プレミアムヘッドホンガイド Vol.33 2025 SUMMER
プレミアムヘッドホンガイド
(フリーマガジン)
最新号
Vol.33(電子版)
VGP受賞製品お買い物ガイド 2025年冬版
VGP受賞製品お買い物ガイド
(フリーマガジン)
最新号
2025年夏版(電子版)
DGPイメージングアワード2024受賞製品お買い物ガイド(2024年冬版)
DGPイメージングアワード受賞製品お買い物ガイド
(フリーマガジン)
最新号
2025年冬版(電子版)
WEB
  • PHILE WEB
  • PHILE WEB AUDIO
  • PHILE WEB BUSINESS
  • プレミアムヘッドホンガイド
  • ホームシアターCHANNEL
  • デジカメCHANNEL
AWARD
  • VGP
  • DGPイメージングアワード
  • DGPモバイルアワード
  • AEX
  • AA AWARD
  • ANALOG GPX