公開日 2014/08/29 11:55

【第97回】ここらでまとめてみようか? いまのイヤホンドライバーの種類と特徴を!

[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
高橋敦
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▼ダイナミック型のポイント

では続いてはまず、ダイナミック型ドライバーの場合のポイントを紹介していこう。

●振動板口径

まず、ドライバーの口径が大きい=空気を動かす振動板の口径が大きい→低音再生に優位!ということが単純に成り立つ。例えばヴァイオリンとコントラバスのように、低音を豊かに響かせたい楽器は大型化するものだ(弦楽器の場合は弦長の問題もあるが)。ドライバーの振動板の場合も大口径の方がその点では有利になる。

しかしただ大口径化しただけでは強度が足りず、駆動の勢いに負けて振動板がぶれたり暴れたりして、音が不正確になる。とはいえ強度だけを重視して振動板の厚みを増せばその重さによって駆動が鈍くなる。そのバランスをどうするか、あるいは他の要素の強化で補うのか、そのあたりが技術者の腕の見せ所だ。後述の振動板の素材や形状の工夫に磁石の強化など、解決手法は様々にある。

Sony「MDR-EX1000」「MDR-EX600」の振動板はイヤホンとして最大級の16mm径

また一方で、小口径ドライバーにも利点がある。小口径振動板は大口径振動板よりも強度が高くなるし軽量だ。それが俊敏で正確な動作につながる。音の切れのよさや歪みの生みにくさに優位があるのだ。

他に、小口径ドライバーはその小ささを生かして、耳に差し込むノズルの先端近くにドライバーを搭載するといった設計も可能。より鼓膜に近い位置からよりダイレクトに音を届けることで音質を高める。そういった狙いの製品も実現されている。

また大口径ドライバーは当然全体的に大きくなるので、ハウジングのデザイン、快適な装着感の確保は難題。対して小型小口径ドライバーはそこにも強みを発揮するので、装着感重視の小型イヤホンでの採用例も多い。

小口径ハイエンド、Sennheiser「IE 800」

●振動板の材質や形状

振動板に求められる主な要素は強度と軽さ、そして固有の響きの少なさだ。駆動の勢いに負けて変形することなく、駆動を損なう重さではなく、内部損失が適度に大きく固有の音色を付け加えてしまうことがない。そういったことが求められる。

その実現のためにまず重要なのは振動板の材質。現在の主流は、現代生活ではなじみ深いPET(合成樹脂)だ。前述の要素をおおよそ十分なレベルで満たし、また成形しやすいので厚みや形状の工夫もしやすく、そして材料コストも生産コストも安い。振動板の材質について特に記載がない製品は、これかこれに類する材質を採用していると考えてよいだろう。

振動板の材質といえば印象深いのは往年のソニー「N・U・D・E」シリーズ。「サファイヤ蒸着」「アモルファスダイアモンド蒸着」「バイオセルロース」と、何かすごそうなもののオンパレードだった。いずれも前述の要素を高度に満たすために採用されていたものだ。

現在に話を戻すと、独自性をいちばん発揮しているのは、JVCの「ウッド」シリーズだろう。木材を極薄成形して振動板にしている。木材というのは古くさい素材のようで実は様々な特性に優れており、下手な人工素材ではそれに及ばない。しかしこのように微細な成形を行うには職人技に頼るしかない部分もあり、生産性には弱みがある。それでもしかしそれを採用しているのがJVCだ。

JVCのウッドイヤホン最上位「HA-FX850」

他にも例えば、同じくJVCはカーボン系素材の採用や、PETをベースにカーボンナノチューブをウェットコーティングするといった手法を開発。またDynamic Motionは樹脂系と思われるがPETではない素材を採用していたりする。ソニーが「XBA-H2/H3」に採用している「液晶ポリマーフィルム振動板」も見逃せない。

Sony「MDR-EX1000」の液晶ポリマーフィルム振動板。材質の独自性に加えて、形状にも工夫が見られる

振動板において材質の他に重要なのは形状だ。厚みにしても強度と重量の兼ね合いを見ての設定は容易ではない。振動板の部位によって厚みを変える、放射状やスパイラル上のリブ(突起や溝)を設けることで強度を上げるといった手法もある。このあたりはドライバー設計者の力量や、あるいは綿密なシミュレーションによって高められるところだ。この部分は製品情報として特には強調されていない場合も多いが、発表会等の報道でドライバーのアップ写真などがあったら、ちょっと気を留めてみると面白い。

●マグネットの大きさや種類

ドライバーの駆動力のいちばんの源はマグネット。限度はあるにせよ、基本的にはその磁力はなるべく強い方が駆動力が高まり、より俊敏で正確な駆動を見込める。

磁力を強める単純な手段のひとつは、磁石を大きくすることだ。つまりより大口径の磁石を使えば駆動力が高まる。大口径振動板の大型ドライバーは磁石も大口径のものを搭載できるので、振動板の大きさ重さと磁石の強さの釣り合いは自然と確保されるとも言える。

注目の手法はDynamic Motionが採用している「振動板は8mm径でドライバー全体もサイズもそれに準ずるが、しかしマグネットは10mmドライバー相当の大きさ」というもの。ドライバー内でのマグネットの配置をより外周側に寄せることでそれが実現できたという。振動板の大きさ重さと磁石の強さの比率が磁石優位に傾くので駆動力に余裕が生まれ、俊敏さと正確さが高まるはずだ。実際にそれを感じさせる音がしている。

Dynamic Motion「DM008」の「PowerDynamicDriver」技術の解説図

磁力を強めるもうひとつの手段は磁石の種類。例えばそもそもの磁力が強い「ネオジム(ネオジウム)マグネット」を使えば、同サイズでもより強い磁力を確保できる。実際、その採用を売りにしているイヤホンも多い。ただしネオジムマグネットはいわゆる「レアアース」なので、原材料コストが高いのが難点。

次ページダイナミック型のデュアルドライバー構成もある

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