ティアックからのクリスマスプレゼント。ネットワークオーディオと過ごす“すてきなホリデイ”
2025年ホリデーシーズンの12月20日、ティアックからA4サイズのネットワークトランスポート「NT-507T」が発売された。現在ネットワークトランスポートに求められる要件を満たしていながら、約30万円というプライスは、ティアックからオーディオファイルに向けてのクリスマスプレゼントといえそうだ。贈り物を受け取った子供が箱から玩具を出すかのようなトキメキをもって、本機の詳報をお伝えする。
オーディオファイル的に“遊べる”機能満載
「もういちどティアックブランドで本格的なオーディオ製品を作ろう」とUSB-DACの「UD-H01」とプリメインアンプ「A-H01」が登場したのは2011年のこと。お求めやすい価格と高い品質で話題を集めた。翌年にはヘッドホンアンプ、CDプレーヤー、USB-DAC、プリメインアンプの4モデルを「Reference 500シリーズ」としてリリース。
タスカムブランドのポータブルマルチトラックレコーダー「HS-P82」をデザインモチーフとしたコンパクトなボディに最新のスペック、そして何より出来の良さで人気を博す。その後ブラシュアップとラインアップを拡充させ続け、オーディオファイルからの信頼を勝ち得てきた。
この冬登場したNT-507Tは、Reference 500としては初となるストリーミング/音楽ファイル再生用ネットワークトランスポートだ。USB入力対応のDAコンバーターやプリメインアンプ、SACD/CDプレーヤーと接続するだけで、最大DSD 22.5MHz、PCM 768kHz/32bitのデジタルファイル再生やストリーミングサービスが愉しめる。
さらにSFPポート入力端子を用意するほか、roon readyにも対応と、オーディオファイル的に「色々遊べる」のも見逃せないポイントだ。
カスタムパーツや機構面でも音質を追求
箱から取り出すと、手のひらにズッシリと重く、ヒンヤリとした金属の触感が伝わる。天板のスリットから大型のトロイダル電源トランスの姿が顔をのぞかせ、リニア電源回路を搭載していることがわかる。充実したコダワリのリニア電源回路は、上位ブランドにあたるエソテリックのDNAを受け継いでいるといってもよいだろう。ちなみにネットワーク系、オーディオ回路、LED表示用でトランスの巻き線を独立させたカスタム品。
機構面でもエソテリックの血を受け継いでいることが伺える。天板は開放感のある音場が得られるよう、フロントパネルとの間に少し隙間を設けるセミフローティング構造としたほか、脚部も定位感と響きが両立できるというStress-Less Footを採用。前2点、後ろ1点の3点支持である点も同社らしいポイントといえるだろう。
フロントパネルはシンプルそのもの。入力経路や動作モードは中央に並ぶLEDで表示し、その下にはトグルスイッチを配置。電源スイッチかと思いきや、これがLED消灯スイッチというから驚きだ。電源スイッチは左側にあり、その横にはUSB-Cの入力端子を配置。USBメモリを差し込むだけで、手軽にデジタルファイル再生が楽しめる。
背面にはイーサネット端子としてRJ-45のほかSFP光入力端子が用意されている。近くにはRoon Onlyモード(RAAT)に切り替えできるスイッチが用意されている。
クロック入力などは用意されておらず、デジタル出力はUSB(TYPE-A)のみとシンプル。クロック入力などの遊びはできないものの、SFP入力とRAATモードの用意はオーディオファイルにとって「色々試せる」嬉しい要素だろう。そのほか、LANケーブルを床に這わせたくない人には嬉しいWi-Fi入力も用意されている。
技術面では心臓部に、第4世代のネットワーク/ストリーミング再生エンジン「TEAC Network Engine G4」の搭載がトピック。「オーディオ銘機賞 2026 金賞」やステレオサウンドグランプリ・ゴールデンサウンド賞を受賞したエソテリックのネットワークプレーヤーGrandioso N1に「ESOTERIC Network Engine G4」を搭載していることから、規模感こそ違えど、共通点は多いように思われる。
話を伺うと従来よりもCPUの演算処理速度を向上させたほか、メモリバッファーの量が増えているとのことだ。それではお楽しみの試聴に移ろう。
Qobuzから定番クリスマスソングをチョイス
スピーカーにBowers&Wilkins「802 D4」を、プリメインアンプにアキュフェーズ「E-3000」を用意。プリメインアンプにはオプションスロットが用意されているので、DAC-60というDAコンバーターボードを挿入し、NT-507TとUSBケーブルで接続した。
そのほかネットワーク機器として、SFPポートを用意するDELAのスイッチングハブ「S100」とオーディオサーバーのN1Aをセット。全てのネットワーク機器をRJ-45規格のLANケーブルで接続した状態でNT-507Tの試聴を始めた。
NT-507Tがホリデーシーズンの販売であることにちなみ、試聴曲はクリスマスソングで始めることにした。クリスマスにちなんだ名曲の中から、Qubuz経由で2000年のCM放送で使われて以来、25年にわたり定番ソングとして親しまれている竹内まりやの「すてきなホリデイ」をチョイスした。
プロデューサーでありパートナーでもある山下達郎が集めた一流のミュージシャンとポップ・オーケストラが奏でるサウンドは、音楽内容はもちろんのことサウンドチェックにも好適だ。折角用意したサーバーからではなくQubuzから選んだのは、ダウンロードサイトで販売されている「すてきなホリデイ」はAAC-LC 320kbpsであるのに対し、Qubuzは44.1kHz/16bitのFLACで配信しているためだ。
再生が始まった瞬間、スピーカーから流れる優しい空気が試聴室を充たし、歌声と歌詞に釣られて心が和らいだ。竹内まりやの優しい歌声、ハープとフェンダーローズピアノの柔らかでまろやかな質感、厚みのあるバックコーラス、そして転調してからの雄大なオーケストラサンドと、この楽曲の旨味をNT-507Tはニュートラルに描き出す。
試聴前「ネットワークトランスポートとDACボードを合わせても50万円以下だから、コレで良ければ幸せだよね」などと担当編集と話をしていたが、これは幸せになれる組み合わせであると断言したい。
カルロス・クライバー初期の名演であるヴェルディ「椿姫」は、真摯で真面目なプレイバックに好感。オーディオ的な凄みではなく、聴かせどころの旨さで躍動的な楽曲の魅力を伝えてくれる。なにより開放的な空間表現に好感。臨場感と実体感、演奏者との距離も適切で、肌合いのよい音触が耳に心地よい。
マイケル・ジャクソンが1991年にリリースした「デンジャラス」は、エッジの立ったリズムからオーケストラサウンドまで、オーディオチェックをする上で「危険」な音がいっぱい詰まったスタジオアルバムだ。その危険な音が入っている曲のひとつが「Who Is It」に入っているベースラインだ。
これはスラップベース奏法の始祖「サンダー・サム」ことルイス・ジョンソンの右手親指とフェンダーのミュージックマン・スティングレイが紡ぎ出す唯一無二の力強い音と迫力。NT-507Tは量感タップリに、それでいて締まった音で試聴室を揺らす。この再現には思わずニッコリだ。もちろん鳴き声を殺すようなマイケルの歌声、その後ろのストリングスにも文句はない。実にエモーショナルな音に「ホントにコレは幸せになれる組み合わせ…」を思わずリピートしてしまう。
SFPポートを活用するとS/Nが大きく向上
続けてNT-507TのSFPポートとDELAのS100と光ファイバーケーブルで接続してみた。するとどうだろう。どの楽曲もS/Nが大幅に向上し、音場の拡がりが得られるではないか。またレゾリューションが上がり、まるで演奏の景色が見える。
ちなみに100Mbps入力も試すと、今度は音像が凝縮したかのようなアナログサウンドに変わる。
ここでNT-507TのフロントパネルにあるLED消灯スイッチを試した。消灯するとフロントパネルのLEDだけでなく、スピーカーまで消えてしまったではないか! いや、スピーカーの存在感が消え音だけが浮かびあがる、現代ハイエンドオーディオの魔法が、NT-507Tには備わっている。これは見えるオーディオだ。
竹内まりやは、それまで窓越しで見ていた世界を飛び出し、その場にいるかのような再現。伝え聞く話によると、実際にオーケストラと一緒のブースで録音されたそうで、確かに竹内とオーケストラが同じ空気が流れているように思える。
色々と聴いたが、最も驚いたのが「Who Is It」。ルイス・ジョンソンのベース弦の震えが見えるかのよう。普通のオーディオシステムではシンセベースに聴こえるが、SFP接続されたNT-507Tの音はベースギターの音。NT-507TとS100はセットで使うことを強くオススメしたいという結論を得た。
Roonを活用すると「感じる音」へと変化
SFP接続のままNT-507TのRoon Only(RAAT)モードを試した。Roonについては別記事を参照して頂きたいが、簡単に言えば「選曲などを他の機械に委ねる(負荷分散)することと、独自の信号伝達(プロトコル)により音質が向上する」と捉えて頂きたい。
RAATの音質は、それまでの「見える音」から「感じる音」へと変化したといってもよいだろう。有機的に音がつながり、ノリがよくなる印象で、おそらく多くのミュージックラバーが好む音であると感じた。もちろんこの音も良いが、RJ-45接続に戻すと、さらに有機的につながるから面白い。聴き応えがあるのはRJ-45接続だ。
竹内まりやが最も楽しそうに歌ったのが印象的。バックコーラスの厚みもたっぷりあり、クリスマスが待ちきれない感情がスピーカーからあふれ出てくるかのようだ。言い古された表現だが「音楽とは、音が楽しいと書く」という意味そのままの、本当に素敵なプレイバックであった。
カルロス・クライバーのヴェルディ「椿姫」は、ドライブするという形容がピッタリのオーケストラサウンドが愉しめる。カルロス・クライバーはクルマ好きで知られているが、まさにワインディングロードを駆け抜けるかのような爽快さ。胸の厚みまで感じるかのような男性ソリストの歌声が、心地の良い排気音にも似て聴き手の心が浮きだたせる。ノリの良さは、この楽曲の本質を突いているように思った。
NT-507Tは、何をやっても音が変わるというオーディオ的な愉しさと、聴き心地の良さという音楽的探究心の両方を充たすプロダクトだ。このティアックからの贈り物を使わない理由はない。読者諸兄は、ぜひNT-507Tで「すてきなホリデイ、すてきなオーディオライフ」を過ごして頂きたい。
(提供:ティアック)
