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公開日 2026/06/01 06:30
連載「”画と音”で選ぶ、大橋伸太郎イチオシの1本」

4K UHD BD『ワン・バトル・アフター・アナザー』、“映像にのみこまれる”没入感。できるだけ大画面・高画質で見るべし!

大橋伸太郎

現行最高クオリティのパッケージメディア、4K Ultra HD Blu-ray。そのなかでも、ホームシアターのリファレンスにぴったりな「画と音」に優れた1本を、大橋伸太郎氏がピックアップしてご紹介する。今回は現在発売中の『ワン・バトル・アフター・アナザー』。オーディオビジュアルファン必見の見どころ・聴きどころをチェックしよう!


 『ワン・バトル・アフター・アナザー』



1000860562 7,590円(税込) ワーナー ブラザース ジャパン/ハピネット・メディアマーケティング


あのカーチェイスは『シャイニング』? キューブリック風のラジカル喜劇


ポール・トーマス・アンダーソン(以後PTA)が傾倒する映画作家に、ロバート・アルトマンとスタンリー・キューブリックの名が挙がっている。アルトマンは作風、題材が似ているので納得できるが、キューブリックは意外だった。


しかし、はたと気付いた。『ワン・バトル・アフター・アナザー』のクライマックス、えんえんと3台のカーチェイスが繰り広げられる波打った道路は『シャイニング』の雪の迷路ではないか。刺客に追われ絶体絶命のピンチに陥るが、自身の機転で大逆転する少女ウィラは少年ダニーなのだ。ハンディカムを使った背後からの追尾撮影や、カメラの水平移動が多いことも共通している。



(C)2025 Warner Bros. Entertainment Inc. and Domain Pictures, LLC. All Rights Reserved.



『ワン・バトル・アフター・アナザー』の主人公ボブ・ファーガソンは過激派組織「フレンチ75」の元闘士である。映画は移民拘留センター襲撃に始まり、本編162分の大半が、違法移民が盤居する米墨国境の「聖域地帯」が舞台。しかし、それがPTAの政治的スタンスを映していると考えたら早計である。PTAは政治から距離を置く映画作家だ。彼が描くのはきまって何かに「憑かれた」人間たちである。


ポルノ映画、石油、新興宗教、オートクチュールの仕立屋…。人間の可笑しさ、恐さ、哀しさ、グロテスクさがPTAの一貫したテーマだ。それは容赦なく戯画化され、おちょくられる。フレンチ75は「世のため」にテロを繰り返すわりにだらしなく、ウィラの母ペルフィディアは司法取引で仲間を簡単にゲロってしまい、釈放されるとさっさと行方をくらます。


一方、対比的に登場する白人至上主義の秘密結社のほうは多少は怜悧で、身内の異端分子の粛正を首尾よくやってのけるが、結局、娘っ子ひとりどうすることもできないのである。ラジカリズムの醒めた喜劇化もキューブリックに通じるものがある。



(C)2025 Warner Bros. Entertainment Inc. and Domain Pictures, LLC. All Rights Reserved.



見事の一言に尽きる映像。できるだけ大画面・高画質で見るべし!


本作の映像は見事の一言に尽きる。CH1の夜更けの不法移民の解放、CH5聖域都市の夜更の擾乱も見応え十分だが、すべてがCH11のクライマックス、4分強続くカーチェイスに収斂していく。


筆者は劇場でこのシーンまで来てIMAX上映で観なかったことを悔やんだ。本作はIMAX撮影でなくアメリカンビスタのフルサイズである。しかし、IMAXに劣らない映像にのみこまれる異様な没入感がある。家庭でも55インチ以上のフォーカス感、精細感、コントラスト、階調、色再現の諸条件が揃ったディスプレイで観てほしい。肌に粟を生ずる迫力が生まれるはずだ。


本作は音響も素晴しい。冒頭CH1の移民拘留センター襲撃から市中の爆弾テロ、CH2銀行襲撃失敗と車での逃走、CH4森の空高く軍用ヘリがあらわれロックジョー警視の指揮する機動部隊が親子の隠れ家を急襲、CH5/7夜更けのバクタン・クロス全域に動乱が広がり、CH11クライマックスのカーチェイスと、アクションシーンは鮮鋭感豊かな効果音が音場広く散開し緊迫感を募らせていく。


音楽担当はジョニー・グリーンウッド。CH3白人セレブの優雅な結婚披露宴とビリー・G捕獲のオーバーラップ時のオリジナルスコアは印象的だが、既存音源のひねった使い方が巧く、人種浄化をモットーとする白人至上主義結社のクリスマスを祝うシーンにビング・クロスビーやペギー・リーでなく、エラ・フィッツジェラルドが歌うクリスマスソングが流れるアイロニーに苦笑。



(C)2025 Warner Bros. Entertainment Inc. and Domain Pictures, LLC. All Rights Reserved.



映画とは、俳優の肉体を通じて表現するもの。PTAは現在の映画界でこの信念を最も感じさせる映画作家である。本作ではレオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン(アカデミー賞助演男優賞)、ベニチオ・デル・トロ、タヤナ・テイラー、チェイス・インフィニティから見事な演技を引き出した。


彼がSFやファンタジーを撮らないのは、こうしたジャンルではCGに代表されるデジタル映像技術に負うことが避けられないからだが、これからは分からない。PTAが次にどんな映画を撮るか、誰を起用するか、楽しみである。


SPEC


製作:2025年/米 ジャンル:洋画アクション 監督:ポール・トーマス・アンダーソン 出演:レオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン 本編ディスク:約162分、ビスタ、Dolby Vision 本編音声:英語Dolby Atmos、英語Dolby Digital 5.1ch、日本語Dolby Digital 5.1ch 字幕:日本語、バリアフリー英語、日本語吹替用 デジタル配信中

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