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公開日 2025/03/05 06:30
低域の量感や音像をしっかり狙える

フルオープン型イヤホンの高音質を狙え!xMEMS社の最新ユニット「Sycamore」の実力は?

佐々木喜洋

最新MEMSスピーカー「Sycamore」を体験!


これまでMEMSスピーカー(MEMSドライバー)は主にイヤホンに応用されてきたが、xMEMS社は小型スピーカーにも応用できるMEMSスピーカー「Sycamore」(シカモア)を昨年11月に発表、世界最大のエレクトロニクス見本市「CES2025」で展示を行った。その展示デモ機を実際に試聴することができたのでレポートする。



「CES2025」にて披露されたxMEMS社の最新MEMSスピーカー「Sycamore」を体験


まず「Sycamore」について簡単に解説する。用途としては最近流行の「ながら聴きイヤホン」でOWS(Open Wearable Stereo/フルオープン・ワイヤレスイヤホン)、スマートウォッチ、スマートグラス、AR/VRヘッドセット、そしてPCスピーカーやスマートフォンスピーカーが考えられる。


「Sycamore」ユニット自体のサイズは8.41×9×1.13mmで、重さはわずか150mgだ。これは従来のダイナミックドライバー・パッケージのサイズの1/7、厚みは1/3だという。さらにIP58規格の防水性能を有する。



これまでのダイナミック・ドライバーより小型で軽量なことも特徴


従来MEMSデバイスは小型ゆえに高い音圧を得ることが難しかったが、xMEMS社では既に発表している「Cypress」(サイプレス)の超音波変調技術を応用してニアフイールドスピーカーとして使用可能な音圧を確保している。xMEMS「Cypress」については以前PHILE WEBでレポートしているので詳細についてはそちらを参照して欲しい。


また従来MEMSスピーカーはトゥイーターに使用されることが多かったが、この技術でフルレンジとしての使用も可能となる。その応用例として向いているのが、最近流行の“ながら聴きイヤホン”であるOWSだ。フルオープン型イヤホンとも言う。


xMEMSのCES2025での展示はまさにこのフルオープン型イヤホンのデモ機である。ただしワイヤレスではなく、有線イヤホンとして製作されている。これは変調回路などがまだ大きいからだが、将来的にはチップ化されることでワイヤレスイヤホンにも搭載可能となる。


低域の量感や音像をしっかり堪能できる


下の写真がCES2025で展示された「Sycamore」の試聴機だ。まだ世界に1つしかない。プラスチックケースに入った大きな箱は超音波変調の回路や電源などであり、これは試作機なので大きいが製品においてはワンチップ化される。現状でもバッテリーでの駆動が可能だ。



プラスチックケースは変調回路、左の黒い小さい箱がDAC、上の大きな黒い箱は電源


下の写真が「Sycamore」ユニットを搭載したイヤホンで、イントラコンカタイプのように耳介に引っ掛けて装着するが、イヤピースやイヤパッドはない。実際にデモ中も自由に会話が可能で、装着したまま周囲の音がすべて聞こえた。 



試作のイヤホン。オープンタイプで耳を塞がずに使用できる




まだプロトタイプなので若干使いにくいが、フックはメモリーワイヤーになっていて耳の周りに回すことができる。これによっていわゆるShure掛けで装着する。


音の出口は縁のところで、別方向にはベントホールもある。ただし必要なバックボリュームはダイナミックドライバーよりはだいぶ小さいということだ。



縁にあるポート部分がから音が出る


今回は「iPhone 15 Pro MAX」のストリーミング音源を使用して試聴した。実際に音楽を聴いてみると驚くほど音が良い。まずフルオープン型イヤホンで問題となる低音の量は、最新のOWSイヤホンと比肩できるほどにたっぷりとある。しかし驚いた点はそれだけではなく、低域の音像がとてもシャープなことだ。これはいままで聴いたどのOWSイヤホンとも異なり、まさにMEMSスピーカーで期待するような正確で解像力が高く歯切れの良いベースラインが聴こえてくる。これは新鮮な体験だ。


ウッドベースのピチカートは軽めだがタイトで鋭い。普通のOWSイヤホンでは低音がゆるく軽いためベースラインに物足りなさを感じるが、「Sycamore」の場合にはベースがタイトで歯切れ良いのでそうした物足りなさが少ない。まるでBAドライバーのウーファータイプのような切れ味だ。


中音域はヴォーカルがクリアで鮮明、歌詞がとても明瞭に聴き取れる。高い音が伸びやかで端正なのはMEMSスピーカーに期待できる通りだ。全体的にぼやけることなく、フォーカスがぴったり合った鮮明な音を楽しめる。実のところ、今よりも超低域成分の少ないレッド・ツェッペリンなどのクラシックロックではドラムスのアタック感が十分に楽しめ、下手な密閉型のイヤホンよりも音が良いのではないかと思ったほどだ。


立ち会ったxMEMSの担当者に(もちろんイヤホンを装着したまま)この音の印象について聞いてみると、それは「Cypress」と同じく超音波変調技術による効果だという。


特性も優秀、量産による価格低下にも期待


実際に性能図を見せてもらった。これは「Sycamore」と一般的なダイナミックドライバーを用いたOWSをオープン環境で比較した特性図だが、MEMSで期待する高音域だけではなく、低域特性も優れている。これはもちろん「Cypress」も同じなので、ユーザーのイヤホンの装着が悪くて密閉度が低下しても低域性能が落ちないので使いやすくなるということだ。



低域と高域の双方で優秀な特性を実現している


正直、この粗い造形のプロトタイプから、これほど良い音がするとは信じがたい。CESでのゲストの反応も良かったということだ。


また防水性能が高いというメリットもOWSにより向いている。普通のイヤホンならばドライバーは露出できないが、MEMSの場合には仮にドライバーが露出しても問題は少ない。「Cypress」ユニットを用いて手慣れたイヤホンメーカーが製品として作り込んだら、どのように素晴らしいOWSイヤホンができるのだろうかと考えてしまう。


音漏れはあるがさほどでもない。一般的なリスニング音量で、ファミレスの中で隣の席で聞こえにくい程度のものだ。


価格面でもそれほど現行のxMEMSのユニットと変わらないと言うことだ。半導体なので量産すると価格の低下が期待できる点もMEMSデバイスならではだ。


そして可能性もまた高い。このユニットはまだプロトタイプだが、もっと小さく、もっと細く、使用する機材に合わせて作成が可能だという。


MEMSは2025年第1四半期に「Sycamore」のサンプリング出荷を開始、2025年10月から量産を開始するということだ。現段階でもプロトタイプながら、その性能の高さと革新的な設計には驚嘆できる。「Sycamore」は音響分野における革命的な製品となるだろう。


そして今年のCESでは別記事で解説した、ノウルズが提案したOWSにおける「ノウルズカーブ」を搭載したハイブリッドモデルも登場している。これらはまだ要素技術の段階であり、まだユーザーの手に製品として届くには時間がかかる。しかしOWSの分野における革新は静かに始まっている。まだ時期尚早かもしれないが、来年のOWS市場の進化が楽しみである。

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