【追悼】オーディオ評論家 藤岡 誠氏。60年以上にわたりオーディオ評論の第一線を牽引
季刊・オーディオアクセサリー編集長 伊佐山勝則2026年4月25日、オーディオ評論家の藤岡 誠先生がご逝去されました。藤岡先生は1944年の12月19日生まれ。享年は81歳でした。藤岡先生は、2024年に評論家活動を引退されましたが、それまでに歩んで来られた恐らく60年以上にも及ぶオーディオ評論の歴史は私などではとても語ることはできません。
小社刊行の『オーディオアクセサリー誌』創刊初期の頃の雑誌を読み返すと、まるで学生さんのようなお若い容姿でオーディオ評論をご執筆をされている姿があります。大学生の頃からオーディオ評論のお仕事を始められ、菅野沖彦先生のレコーディングの仕事を手伝うなどしながら、そのキャリアを深めていかれたそうです。
そんな藤岡先生という存在を私自身が実感したのは、かれこれ20年くらい前のこと。ラスベガスのCESの会場でお会いしました。先生はサエク・コマースの創業者である北澤貞夫社長(当時)とともに、毎年CESにお越しになっていていました。会場でお会いする度に、「あまり仕事をしすぎるなよ」と仰っていただきました。普段、藤岡先生と一緒にお仕事をするのは先輩方だったので、私のような若造にもお声をかけていただけるなんて……。この言葉でほっとひとなごみできる瞬間があったのを、昨日のことのように憶えています。
小社が主催する「オーディオ銘機賞」においては2011年から2023年までの13年間にわたり、審査委員長をつとめていただきました。厳正な審査会において、その大きな存在感で編集部を助けていただくことが多々ありました。審査会の進行に関しても、「お前の好きなようにやればいいから」と仰っていただき、この言葉にどれだけ緊張をほぐしていただけたかわかりません。
そんな藤岡先生と個人的に深くお付き合いできたのは、今を思えば晩年のことでした。普段のお酒の席では真面目な仕事の話やオーディオの話を一切しない方でした。むしろそういった真面目なお話をすると怒られました(笑)。どんな話をしていたのかは内緒ですが、ただただ楽しい時間を過ごさせていただきました。
一方でお仕事をしている際は、変わりゆくオーディオの世界を憂いていらっしゃいました。メーカーの方々も代替わりして、一緒にお仕事をされた方がどんどんいなくなってしまうことを残念がられていました。その寂しさがどれほどのものなのかは、お察しすることはできませんが、2024年に表明された「引退宣言」は、ご自身のまわりで起こっていく時代の変化も原因のひとつとなったはずです。
当時から隆盛をはじめていたネットオーディオやヘッドフォン再生に関しては、「あんなのはオーディオじゃねぇ」と、気持ちがいいくらいきっぱりと否定し続けました。そんな藤岡先生が追求してきた理想のオーディオや理想の音楽再生については、幸いにも残された多くの評論記事から感じることができます。また、今ご活躍をされているオーディオ評論家の方々やメーカーの方々、編集者たちにも確かな思い出と足跡を残していただきました。
心よりご冥福をお祈りするとともに、先に旅立った方々と楽しいお酒を飲まれているお姿も思い浮かびます。藤岡先生、本当にありがとうございました。
(季刊・オーディオアクセサリー編集長 伊佐山勝則)