公開日 2025/10/10 06:30

いま大注目の「ガラス振動板」を特性から徹底分析。“シャープで素早い”サウンドをSIVGAイヤホンでチェック!

脚光を浴びる新振動板をいち早く採用したイヤホン「Que UTG」

イヤホンやスピーカー向け振動板の素材として、いま “ガラス” に大きな注目が集まっている。ガラスという素材の特性の良さに加え、それを振動板として活用できる加工技術が進化してきたことで、オーディオ製品への活用事例が増えてきているのだ。

今回は、薄型ガラスを展開する日本電気硝子、そしてそれを振動板に加工する台湾企業GAITの技術背景を探るとともに、実際にガラス振動板を採用したSIVGAのイヤホン「Que UTG」の音質を紹介する。

ガラス振動板をいち早く採用したSIVGAの有線イヤホン「Que UTG」(価格:15,980円/税込)

 

ガラス振動板は「シャープで素早い音」

イヤホンやヘッドホンの音を決める中核部品が振動板である。素材によって音質は大きく左右され、これまで紙、樹脂、金属といった素材が使われてきたが、最近まったく新しい素材として「ガラス」が登場した。

ミュンヘン・ハイエンドにて出展されていたガラス振動板の加工技術を持つ台湾・GAITのブース

それではガラスの振動板としての特性はどのようなもので、どのような音になるのだろうか?

端的に言えばガラス振動板の音は、「音の忠実度が高く、かつシャープで素早い音」だ。その理由はガラスが持つ優れた特性が、振動板の特性としてバランスよく組み合わさっている点にある。

第1に、音の伝達速度が非常に速いこと。ガラスの音速は約5,800m/sと紙の1.8倍、アルミやチタンをも上回る俊敏さを備えている。このため、シンバルの音の立ち上がりを鮮やかに描き出し、ピアノの繊細なタッチのような瞬間的な音の再生能力が抜群だ。

第2に、内部損失が大きいことだ。内部損失が大きいということは、言い換えると不要な着色感が少ないということだ。制振性が高いとも言えるだろう。

ガラスの損失係数はアルミの約7.5倍、ベリリウムの約3倍に達し、内部損失の良好な紙に匹敵するようなものだ。このため不要な残響をすぐに吸収する。これにより音が重なっても混ざらず、透明感と明瞭さが両立する。

第3に、軽量でありながら高い剛性を持つこと。重量は紙に近く軽いが、ヤング率に基づく剛性は金属に匹敵するレベルにある。この「軽いのに変形しにくい」という性質は、繊細なニュアンスの表現と力強い低音の両立を可能にする。

このおかげで、消え入りそうな高音からパワフルな低音まで、どんな音量や音域でも音が潰れることなく正確に表現することができる。

つまりガラス振動板は、金属の速さ、紙の軽さ、そして金属を上回る制振性をきわめてバランスよく兼ね備えた、振動板として理想的な素材と言える。

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今年6月に開催された「OTOTEN2025」にもGAITが出展。大小さまざまな振動板の試作機を展示していた

日本電気硝子とGAITとのタッグにより実現

ガラス振動板は日本電気硝子(NEG)が開発した「超薄板ガラス」を基盤に、台湾GAITの加工技術が加わることで初めて現実の製品化が可能になったものである。実のところ、この超薄板ガラス振動板は日本電気硝子と台湾GAITという2社のタッグ以外はどこも作れないという技術だ。

この音の良さは、楽器で使われるADSRで表現すれば理想的な四角形として現れる。ADSRというのはAttack(立ち上がり)、Decay(減衰)、Sustain(持続)、Release(余韻)の頭文字で、音の鳴り始めから終わりまでの時間的な変化を4つの要素で示したものだ。

つまりガラス振動板においては、音が入力された瞬間にすっと立ち上がり、必要なあいだだけ安定して鳴り、入力が途切れるとすぐに減衰する。余計な尾を引かないため、楽器や声が濁らずそのままの輪郭で耳に届くわけだ。

こうした特徴が複合して、ガラス振動板は音楽信号に対して極めて忠実に反応する。結果として得られる優れた解像度とスピード感は、ダイナミック型でありながら平面駆動型ヘッドホンのような繊細さと正確さをさえ感じさせるものだ。

先入観から、「ガラスは割れやすいのではないか」と思われる方もいるだろう。しかし、ガラス振動板に使われているガラスは、「化学強化専用ガラス」と呼ばれる強化ガラスの一種だ。特殊な化学処理をほどこしているため、まず日常的な使用で簡単に壊れることはないだろう。

 

ガラス振動板をイヤホンに採用した初モデル、SIVGA「Que UTG」

実際にこのガラス振動板を採用した例としてSIVGA「Que UTG」を紹介する。市場価格で約16,000円前後と手頃な価格の有線イヤホンだ。実際にこのイヤホンで試聴すると、低域の解像度、スピード感、透明感の高さ、そして着色感の少なさに「ガラスならでは」の特徴がはっきりと現れている。

ガラス振動板をイヤホンとして初採用したSIVGAの「Que UTG」。なおフルレンジのスピーカーでは、すでにマークオーディオなどで採用実績がある

SIVGAは2001年からイヤホンやヘッドホンの開発に携わり、当初はOEMのメーカーであった。そこから徐々に自社ブランド製品に移行し、その過程で日本でもよく知られる高級品のラインナップとしてSENDY AUDIOも立ち上げた。

SIVGAは普及ブランドとしての位置づけではあるが、姉妹ブランドのSENDY AUDIOと同様に、まずパッケージングから好印象を与える。

高級感のある合皮素材のパッケージ

丁寧で高級感のある箱入りで、付属のケースは合皮素材だが、質感が良く手触りも上質である。また、ケーブルの端子部分はELETECHのような高級ブランド並みにがっちりとハマり、接続の安定性が高い点も評価できる。全体の作りがしっかりしており、音質だけでなくアクセサリー類のクオリティも満足度を高めている。

デザイン面では、シンプルで洗練されたボディが特徴で、耳へのフィット感も良好である。長時間の使用でも疲れにくい軽量設計だ。

 

音色を脚色せず、切れ味とスピード感の良さも感じる

今回の試聴には、Astell&Kernの「KANN ULTRA」を使用した。このポータブルプレーヤーのクリアでパワフルな出力が、Que UTGのポテンシャルを引き出すのに適している。

Astell&Kernの「KANN ULTRA」と組み合わせて試聴

イヤーピースについては、付属の標準イヤーピースが一番バランス良くおすすめである。白と黒のバリエーションがあり、大きな違いはないものの、ボーカル重視なら白が適しており、楽器の響きを楽しむなら黒が良い。黒の方が中高音の伸びやかさが強調され、低域もより深く沈み込む印象だ。イヤーピースの選び方次第で低音の量感が変わるため、好みに合わせて調整するとベストである。シリコンタイプの他にフォームタイプも試してみたが、標準のものが最も自然なフィットを提供してくれる。

Que UTGの音質は、全体的に透明感が高く、クリアなサウンドが魅力である。特に低域の解像力がこの価格帯では極めて高く、スピード感のあるタイトで引き締まった低音が楽しめる。ベースラインがぼやけず、素早いレスポンスで音楽のグルーヴを損なわない。音色はニュートラルで着色感はほとんどない。

ボーカル部分では、息遣いやニュアンスが細かく生々しく再現される。中高音域は伸びやかで、楽器の響きが気持ち良く広がる。シンバルの音の立ち上がり、ピアノの鍵盤を叩いた瞬間のアタックが粒立ちよく再現される。これはガラスの速さがそのまま耳で実感できる部分だ。ギターの弦の振動やハイハットの余韻が鮮やかで、空間的な広がりを感じさせる点が秀逸である。

全体的に少し軽めのサウンドシグネチャーだが、それが逆に疲れにくく、長時間のリスニングに適している。ジャンルを選ばず、クラシックからエレクトロニックまで幅広く対応する。着色感がかなり少ないので女性ボーカルの色気が薄れる面もあるが、イヤーピースの選択次第で改善される。逆に音色を脚色することが少ないのでスタジオモニターとしても活用できそうだ。

絶対的な性能はハイエンドモデル並みとはいかないが、低価格でここまでの高音質を実現している点で、コスパは抜群である。特に感じるのは、切れ味とスピード感の鋭さ、そして低域の解像力の高さだ。着色感の無さが、ピュアな音楽体験を提供してくれる。

 

理想的な挙動で全体のクリアさを支える

金属の速さ、紙の軽さ、金属を上回る制振性といったガラス振動板の特性により、Que UTGは音の忠実度が高くシャープで素早いサウンドを実現している。音の伝達速度の速さから低域のスピード感と解像力が抜群で、内部損失の大きさにより着色感が少なく透明感が高い。軽量で高い剛性が中高音の伸びやかさと低音の力強さを両立させ、ADSR特性の理想的な挙動が全体のクリアさを支えている。

このため、音楽信号に忠実で、ダイナミック型ながら平面駆動型を思わせるような繊細さを発揮する。こうしたガラスならではのバランスが、この価格帯で優れたコスパを生み出している。

まさに新しい振動板の誕生を感じさせるイヤホンだと言えるだろう。ガラス振動板を採用した、さらなる製品が続々と登場することを期待したい。

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