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現代のマスタリングに合わせた明るくクリアな音

「ノウルズ・カーブ」が目指す高音質とは?GLIDiCの最新TWSやリファレンスイヤホンから探る

公開日 2025/08/12 06:30 佐々木喜洋
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イヤホンやヘッドホンの高音質化のアイデアとして今注目される「Knowles Curve(ノウルズ・カーブ)」。ドライバーや半導体など音響部品を提供するKnowles(ノウルズ)社が提唱するもので、人間の音の聴こえ方や最新の音楽を研究し生み出されたものとなっている。

そのノウルズ・カーブに準拠したGLIDiC(グライディック)の完全ワイヤレスイヤホンと、ノウルズによるサンプル用のリファレンス有線イヤホンの試聴を通じて、ノウルズ・カーブの狙う高音質のポイントを探った。

 

ノウルズ・カーブをチューニング方式に採用した完全ワイヤレスイヤホン

ソフトバンク コマース&サービス(SB C&S)のオーディオブランドであるGLIDiCから今年5月に発売されたのが、完全ワイヤレスイヤホンのハイエンドモデルとなる「GLIDiC TW-9100」。実勢価格は34,272円前後だ。

GLIDiC 完全ワイヤレスイヤホン「GLIDiC TW-9100」(オープン価格、市場実売価格34,272円前後/税込)

ブランドのハイエンドモデルらしく多機能かつ高音質の製品だが、中でも注目すべきポイントは本機がノウルズの提唱するノウルズ・カーブに基づいて設計されているという点だ。GLIDiC TW-9100がノウルズ・カーブで実現した新しい音質とはどのようなものだろうか。

まずノウルズ・カーブについて説明する。ヘッドホンやイヤホンでは「ハーマン・カーブ」という特性曲線に基づいて音質設計をすると高音質のリファレンスとなると言われてきた。それに対して近年ノウルズが新たに提唱したのが「ノウルズ推奨カーブ(Knowles Preferred Listening Response Curve)」、通称ノウルズ・カーブである。

ノウルズ・カーブとハーマンカーブの違い

その背景には長年使用されてきたハーマン・カーブに代わる、最新の測定技術で最新の音楽事情に合わせた新しい基準が必要であることが挙げられている。このために海外の「ビルボード200」を様々な年齢層のユーザーで実証確認した研究を行った。その結果、8kHz以上の帯域が重要で、特に16kHzを12dB上げるのが最適な結果を生むということがわかった。これは経験的には知られていたが、それをノウルズが初めて定量化できたということになる。

これに基づいて、ノウルズではダイナミックドライバーにBAドライバーを用いたトゥイーターを追加する設計を提案した。そうして設計されたのがGLIDiC TW-9100である。

 

GLIDiC初のアクティブノイズキャンセリングも搭載

GLIDiC TW-9100に話を戻そう。TW-9100はノウルズ・カーブ準拠のモデルらしく、高音域用にノウルズ社製のBAドライバーと、中低域用に9.2mm口径のダイナミックドライバーを搭載したハイブリッド・ドライバーモデルだ。

高域にBAドライバー1基、中低域用にダイナミックドライバー1基を搭載

アクティブノイズキャンセリング(ANC)機能も内蔵され、GLIDiC初となる「アダプティブ Hybrid ANC」を搭載している。アダプティブというのは適合させるという意味で、周囲のノイズやイヤホンの装着状態に応じて、ANCの効き具合を自動で最適化するということになる。ANCはモード変更してすぐに効くのではなく、1 - 2秒後にノイズキャンセル状態になるので、この間はなんらかの分析をしてからノイズキャンセリングを開始しているようだ。

ノウルズのBAドライバーのサンプル。なお、どれがTW-9100に使われているかは明かせないとのこと

また電車での車内アナウンスなどを聞き取りやすい「クイック外音取り込み」機能が搭載され、日本の通勤通学事情を考慮した設計がなされていることが窺える。実際に試してみたが、ノイズ低減効果はかなり高く、電車内では不快な音はほとんど消える。ANCは強力だが、クイック外音取り込み機能を使わなくても車内アナウンスや周囲の会話は十分に聞き取れる。

この他にも最新の完全ワイヤレスイヤホンらしく、マルチポイント接続やIPX4の防滴性能など、多彩な機能を搭載している。連続再生時間は、イヤホン単体で約8時間(ケース併用で約29時間)としている。実測でも単体で約7時間から8時間は再生可能なようだ。

GLIDiC TW-9100のイヤホン本体。やや大柄となっている

加えて低遅延モード、低音重視モードなどの機能も搭載している。低音重視モードをオンにすると大幅に低音が支配する音になり、エレクトロ系やヘビーロックなどに向いている。また映画を見る時も低音重視モードの方が迫力を感じられる。

BluetoothコーデックはSBCとAACに対応。高音質コーデック(LDACやaptX)は非対応だが、通信は安定しており、スマホから離れても接続が切れにくい。

専用アプリは用意されていないため、ANCの切り替えや設定変更はイヤホン本体のタッチ操作で行うが、慣れれば直感的に操作可能。音量調整はスマホ側での操作が必要だ。

筐体はやや大柄だが、耳に嵌めてしまうとあまり気にならない。多少耳からはみ出す感じはあるが、これはタッチ操作をしやすくするためだろう。

 

スピード感のある鮮明でクリアなサウンド

肝心の音だが、ノウルズ・カーブという点から予想されるように中高音が強いのではなく、実のところ高い方も低い方も全体に鮮明でクリアな音なのが特徴的だ。音が腰高でハイ上がりという印象ではない。

音質はクリアで声や楽器の鳴りが鮮明だ。歌詞が聴き取りやすく、ベースギターのグルーヴ感が心地よい。いわゆるドンシャリ感はあまりないが、イコライザーを全域で持ち上げたような派手で賑やかなサウンドなのが特徴だ。スピード感もあり、ドラムロールでは躍動感が高い。

明るく元気な音で、多少聴き疲れはするが、初めてのユーザーでも高音質ということがわかりやすいのは長所だろう。このため室内だけでなく電車内や戸外などで音が聴き取りやすい。

向いているのはJ-Popやアニソンなどで、ロックなども良い。

ノウルズ・カーブは16kHz程度の高音域が持ち上がっているが、これは周波数としては女性の声のレンジよりもずっと上で、基音としてはシンバルやハイハットなどの純粋な高音域のレンジである。こうした高域をブーストすることで、リスナーに「高音質」と感じられやすいというのは倍音成分の関係だろう。このため音のディテールが強調され、音楽や音声がよりクリアで生き生きと聴こえるようになる。

つまりノウルズ・カーブというのは腰高でハイ上がりの高音を強調する音ではなく、聴覚的に「明るくクリアで鮮明な音」を提供するものであり、むしろ全域の音はハーマン・カーブのようにバランスが取れている音になる。

 

開発途上のノウルズ・リファレンス有線イヤホンを試聴

この推測を確かめるため、実際にノウルズ・ジャパンを訪問してノウルズ・カーブの参照用設計であるリファレンスイヤホンを試してみた。 

ノウルズ・カーブ準拠の有線イヤホンも試聴

現在ノウルズが開発中の有線リファレンスイヤホンをいくつか試聴させてもらったが、やはり単にBAドライバーを搭載したという以上の明瞭感があり、音がくっきりと鮮明に聴こえた。特に低域の解像感、鮮明さが際立っているのが印象に残った。

GLIDiC TW-9100だけではなく、ノウルズが設計したリファレンスイヤホンでも同様な「明るくクリアで鮮明な音」が確認できたので、これがノウルズ・カーブの音であると確信できた。

またノウルズ・カーブにはもう一つ音楽制作の側面がある。最近ではストリーミングの普及によりパッと聴きの印象で明るくクリアな音が求められるため、現代の音楽制作では高域を持ち上げる傾向があるということだ。多くのマスタリング工程でも「ハイシェルフ」や「10kHzブースト」が使われており、こうした処理を前提としたソースでは、高域を強調しないと制作意図から外れることになり、曇りが感じられてしまうかもしれない。

このように、ノウルズ・カーブというのは好まれやすい「明るい音にする」という側面と、現代のマスタリング事情に合わせるという側面を持つと言えるだろう。GLIDiC TW-9100がとても明るくクリアで派手なサウンドが楽しめるのは、ノウルズ・カーブに準拠したおかげと言える。

ノウルズにおいても、ノウルズ・カーブの普及のためにメーカーが手本にできる様々なリファレンスモデルを用意しているようだ。完全ワイヤレスイヤホンに限らず、今後のノウルズ・カーブ準拠のイヤホンの登場にも期待がもたれる。

 

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