世界最高峰のヘッドホン再生。Warwick Acousticsのコンデンサー型システム、“ゴールデン・サウンド”への進化
高い技術力を背景にしたコンデンサー型ヘッドホンシステム
ハイエンドヘッドホンの中でも抜きんでて高価なシステムの一つが、イギリスWarwick Acoustics(ワーウィック・アコースティック)が手掛けるコンデンサー型ヘッドホンシステム「APERIO」であろう。
Warwick Acousticsの成り立ちやAPERIO発売に至るヒストリーについては以前執筆したレビューを参照いただきたいが、DSDワークステーション「SONOMA」の開発メンバーが再結集して生み出されたコンデンサー型ヘッドホンシステムSonoma Acoustics「Model One」が誕生した背景に、Warwick Acoustics(Model One登場時は前身のWarwick Audio Technology)が持つ静電型トランスデューサー技術が重要な役割を果たしており、製造・開発もWarwick Audio Technologyが担当していた。
Warwick AcousticsではこのModel Oneのヘッドホン部を強化した「Bravura」も展開しており、そうしたコンデンサー型ヘッドホンシステムの集大成としてAPERIOが生まれたのである。
またWarwick Acousticsは車載オーディオ部門も所有しており、薄型で高効率かつ軽量なコンデンサー型トランスデューサーのメリットを最大限生かすことができる場として、長い間カーオーディオ分野での研究・製品開発を続けてきたという。イマーシブサウンドを実現するために数十個のスピーカーを車内に埋め込んでも、軽量薄型のコンデンサー型であれば車重も抑えられ、効率性も高まるとして、自動車業界からの注目も高まっているそうだ。
昨年、APERIOをブラッシュアップした「APERIO GoldenSound Signature Edition(以下、APERIO GSE)」が発表され、話題となった。本稿ではこのAPERIO GSEの試聴を通し、APERIOからの進化と現在最高峰ともいえるハイエンドヘッドホンのサウンドについてレポートしていきたい。
BravuraからAPERIOへの進化
試聴の前にまずはAPERIOについて解説しておこう。APERIOはBravuraの次なるステップとして、その高い技術力の象徴となるスーパーハイエンドモデルとして誕生した。
Bravuraで用いた独自のコンデンサー型トランスデューサー「HPEL(High-Precision Electrostatic Laminate Transducer:高性能静電ラミネート)」は、振動膜を2枚の固定電極で挟み込むプッシュプル方式の「BD(Balance Drive)-HPEL」に進化。2枚の0.7μm厚BOPP(2軸延伸ポリプロピレン)を高い内部減衰特性を持つアクリル系接着剤で貼り合わせ、一方の接着面側には24金メッキを施している。そして固定電極には高化学エッチング成形した高純度銅OFHCに金メッキ処理を施した。
ヘッドホン部のハウジングには電磁遮蔽性能が高く、高剛性かつ軽量な射出成型マグネシウム合金を導入。イヤーパッドは内部に複合素材の音響吸収クッションを用いており、表面は肌触りの良いパンチング仕様のカブレッタ・シープスキンレザーで覆われている。
ディスクリート構成のクラスAアナログ回路を備えるアンプ部はDAC内蔵型であり、ESS製SABRE 32bit 8ch DACチップをデュアルモノ構成で2基搭載。
PCM 384kHz/32bit&DSD 11.2MHzのネイティブ再生に対応したUSB入力の他、有線LAN、AES/EBU、同軸デジタル入力、さらにはアナログRCA/XLR入出力も装備。音量調節についてはアナログとDSD系がレーザートリミングされた高精度パラレル抵抗ラダーによるアナログアッテネーター方式とし、PCM系は64bit精度固定小数点演算用DSPを用いたデジタルアッテネーター方式を採用している。
APERIOをさらにブラッシュアップした “ゴールデン・サウンド”
そしてAPERIO GSEがこのAPERIOからどのように進化したのかを説明したい。まずヘッドホン部はBD-HPELの振動膜に用いるフィルム素材を変更した。厚みや形状はほぼ同じだが、接着材を塗布するエリアを拡大。グリルとの接着がより強固となり、剛性や応答性が向上したという。
これによりクリアで歪みの少ない、一際パンチの効いた低域再生能力を獲得している。また、APERIO発売以降、製造用治具の改良を続けてきたそうで、その成果を反映した治具がGSE向けに新規採用され、生産性が格段に上がったそうだ。
アンプ部はアナログボードの新規開発とデジタルボードの書き換えを実施。その目的はアナログとデジタル、それぞれの信号処理において、完全に同じサインカーブに整えること、そしてイコライザーのゲインレベルをアナログとデジタル双方で同じものにするために行ったという。
デジタルボードについてはCPUチップを新しいものに置き換え、ファームウェアも更新。CPUのパフォーマンスそのものは新旧のチップで違いはないそうだが、これらのブラッシュアップにより、低域の再現性もさらに高まっているという。加えてアンプのボディも放熱用のグリルデザインを変更、GSEバージョンであることを示す金バッチが天板に付与されている。
音楽表現の豊かさ、サウンドの厚みが進化
試聴はWarwick Acousticsを取り扱う完実電気本社にて実施。音源再生にはディスクリートDACを搭載した、ルーミンの新製品「X2」を用い、Qobuzからのハイレゾストリーミングを試す。X2からはUSBで接続。以前のAPERIOとの比較を行いつつ、アナログXLR接続、同軸デジタル接続での音質についても確認してみた。
APERIO GSEのサウンドはAPERIOに比べ、中低域方向の厚み、階調表現が高まっており、ボーカルの存在感が増し、音場についてもより立体的な表現を獲得している。APERIOはコンデンサー型ならではの繊細で分解能の高さが魅力である一方、低域のエネルギーは控えめであり、高域にかけ硬質なニュアンスが加わっているような印象を受ける。GSE化によって、そうした一種のナイーブさを解消し、音楽表現の豊かさ、サウンドの厚みがもたらされているようだ。
オーケストラはハーモニーの密度、厚みが向上し、低域の伸びのゆとり、旋律のコシの太さや実像感が高まっている。ソロヴァイオリンの線の細やかさと芯の太さのバランスも良く、潤い良くレンジの広いサウンドを味わえた。木管パートの厚みも良く、スムーズな音運びも美しい。余韻の爽やかさと階調性の良さも極めて高い再現性を持つ。
ジャズピアノのアタックの細やかさ、倍音成分の緻密な響きも逃さずに描き出し、ウッドベースの力強い胴鳴りの押し出しとも対等なバランスで両立。スネアブラシのアタックも太さがあり、流麗な演奏の機微を抑揚良く引き出している。
ロック音源のリズム隊もどっしりとした重心の低い表現であり、キックドラムのファットな空気の動きや、ベースの粘り良い指の動きも滲むことなく丁寧に描写。ディストーションギターのリフは軽快で、ピッキングのキレが煌びやか。ボーカルの口元のハリの良さ、ウェットでつや良く明るい際立ちに対し、ボディの厚みもしっかりと存在感に満ちた密度で表現している。息継ぎのナチュラルさ、ピアノの爽やかな響きも心地よく、音像の定位も立体的だ。
アナログ接続では「X2」のディスクリートDACが持つ濃密さ、伸び良く艶やかな音色を反映させたリッチなサウンドである。低域の厚く豊かな表現だけでなく、ボーカルの口元の繊細さ、解像感の良さも感じられ、全体的な情報量の多い、ゆとりある表現となっているようだ。
GSE化でアナログ部とデジタル部の音色感を揃えるよう内部回路が整えられていることもあり、低域方向の余裕度と、質感の滑らかさ、ナチュラルなトーンバランスはUSB接続とも通じる傾向であることを実感した。
最後に同軸デジタル接続でも確認したが、USB接続よりも一際緻密でダンピングの良い高解像度サウンドを楽しめる。低域の押し出しも良いが、全体的に引き締まった傾向で、音場の見通しも深い。音像の安定感、実体感も高く、躍動的でリアルさが際立っている。
オーケストラの分離の良さ、余韻の澄み切った表現も見事で、階調性も極めて高い。迫りくるハーモニーの波動、圧倒的な情報量の多さも素晴らしく、リッチな音の響きを存分に楽しむことができた。
APERIO GSEはAPERIOで到達した高みをさらに押し広げ、より有機的で濃密な音楽体験を堪能できるシステムへと昇華させている。音像の厚み、中低域の豊かさによって楽曲の表情や訴求力も一層高まり、さらなる没入感を生む。
Warwick Acousticsが築いてきた技術の積み重ねにより、コンデンサー型の新たな魅力が引き出されているようであり、APERIO GSEはその頂点を飾る、孤高の音を聴かせてくれる。ヘッドホンシステムの可能性、その深淵な表現力の高さを改めて実感できた試聴であった。
(提供:完実電気)

