公開日 2022/10/24 22:00

第10世代iPadレビュー。まるで“iPad Air SE”、無印iPadは別モノに進化した

発売直前の注目モデル


■横向きのステレオ再生スピーカーを内蔵



第10世代iPadは内蔵スピーカーが横向き2スピーカーシステムになった。ボトム側のみのステレオスピーカーという仕様だった第9世代iPadより音質の向上が期待できる。

あいにく手元に第9世代iPadを用意していなかったので、9.7インチのiPad Proと聴き比べた。ステレオイメージの鮮度、音場の広がりは明らかに第10世代iPadの方が豊かだ。また第10世代iPadは内蔵スピーカーによる空間オーディオ再生にも対応する。

iPadの内蔵スピーカーで空間オーディオ対応の動画作品を視聴した

続いて、同じ横向き2スピーカー・ステレオシステムの第5世代iPad Airと、内蔵スピーカーの音質を比べた。Apple TV+で配信されているオリジナルドラマ『インベージョン』シリーズ1の第2話、ラストシーンの米軍特殊部隊がエイリアンに初めて遭遇するシーンを再生してみたところ、iPad Airの方がより重心が安定した低音と、張り艶のあるダイアローグを聞かせた。足もとの空間描写がとても安定している。

第10世代iPadも細かい効果音の粒立ちは鮮やか。舞い上がる砂粒の臨場感は迫力たっぷりだ。立体的な空間描写も冴えている。あえて指摘するならば低音のバランスを少し持ち上げたい。内蔵スピーカーによるシアター鑑賞の迫力ではiPad Airに軍配が上がる。

第10世代iPadはUSB-C端子を搭載した。ハイレゾ対応のDACを内蔵するポケットサイズのヘッドホンアンプが使いやすい。Apple Musicによるハイレゾロスレス再生が手軽に楽しめるオーディオプレーヤーとしてもおすすめしたい。

USB-C端子を搭載したことで、USB接続のハイレゾDAC搭載ヘッドホンアンプがとても使いやすくなった

■フロントカメラをビデオ会議用途に最適化



第10世代iPadはフロントカメラの位置が変わった。現行モデルのiPadはフロントカメラが本体トップの位置にある。そのため、本体を横向きに構えると左右側のどちらか(Magic Keyboardを装着すると左側)にフロントカメラが向く。ビデオ通話にiPadを使うと、何となく通話相手の方に顔を向けにくかった。

フロントカメラが配置されているポジションが変更された

第10世代iPadでは、本体を横向きに構えるとトップの位置にカメラがくるので、ビデオ通話の相手に対して画面越しながらも正面向きに対峙し、目線を向けながら話しやすくなった。ただ、代わりに、セルフィー撮影の際にはシャッターボタンの押し方を工夫しなければならない。もっとも、iPadのフロントカメラを使用する頻度は圧倒的にビデオ会議の方が多いと思うので、さほど不便には感じないだろう。

■専用キーボード「Magic Keyboard Folio」も試す



新しく登場する第10世代iPad専用のアクセサリー「Magic Keyboard Folio」も試した。iPad本体のカラーバリエーションは4色あるが、キーボードはホワイトのみを展開する。

キーボードの筐体設計はセパレートタイプとした。キーボード側をiPadの側面にあるSmart Connectorに接続し、背面カバーはマグネットでペタッとくっつける。背面カバーには角度調整ができるキックスタンドがある。

Apple Pencilでペン書き作業を行う際には、キーボード側を360度回転させてもいいし、取り外してiPadを平置きにもできる。キーボード側はiPadのディスプレイを保護するカバーの役割も兼ねる頼もしい部位だが、背面カバーと両方を装着したまま片手だけで長時間持ち続けるのはちょっとしんどい。電車の中で電子書籍を読んだり、仕事の資料に目を通す際にはセパレート筐体の着脱機構を上手く活用したい。

Magic Keyboard Folioはキーボード側を返してiPadを平置きにできる

キーボードの打鍵感は、11インチのiPad ProとiPad Air兼用のMagic Keyboardにとても近い。フルサイズのアルファベット/数字キーはタイピングが快適にこなせる。トラックパッドのサイズや感度についても、筆者はすぐに馴染めた。

フルサイズのキーボードを搭載。ファンクションキーもある

背面カバーにはキックスタンドが搭載されている

ただやはり本体側がキックスタンドなので、ひざに乗せた状態でのタイピングはなかなか慣れない。筆者はiPadをテーブルが用意されていない記者会見やイベント取材に持ち出す機会が多くあるので、従来の無印iPad用「Smart Keyboard」のように、ひざに乗せて安定するキーボードも欲しい。

デジタルペンは従来の無印iPadと同様に、第1世代のApple Pencilのみサポートしている。筆者のように、機能豊富な第2世代のApple Pencilを使い慣れてしまうと、なかなか第1世代のペンに後戻りできなくなるが、第10世代iPadが「初めて使うiPad」になる方にとっては特に不自由は感じないかもしれない。

ただ、やはりApple Pencilのペアリングや充電のために、毎度「USB-C to Apple Pencilアダプタ」とUSB-Cケーブルが必要になるのはやや不便だ。アップルにはiPadに直接挿せる「USB-C仕様の第1世代Apple Pencil」を開発してもらいたい。

USB-Cを採用する第10世代のiPadで、Lightning端子を搭載する第1世代Apple Pencilを充電・ペアリングができるように新しく発売されるアクセサリー「USB-C to Apple Pencilアダプタ」

■無印iPadは「別モノ」に進化を遂げた



第10世代iPadは本体のデザインだけでなく、専用アクセサリーと組み合わせた場合の使い勝手もかなり変わる。第9世代までの無印iPadとは「別モノ」として捉えるべき、新種のiPadだ。

オールスクリーンデザインになることから、第9世代のiPadよりもApple Pencilによる作業効率の向上が望める。オーディオビジュアル系エンターテインメントの再生品質についても、第5世代iPad Airに迫るレベルに到達した。そのぶん価格は第9世代のiPadよりも少し上がっているが、上位iPad Airのエッセンスを踏襲する手頃な価格の「iPad Air SE」的なモデルが誕生したと前向きに受けとめて活用したい。

第10世代iPadは「A14 Bionic」チップを搭載している。iPadによる様々なタスクを快適にこなせるほど十分なパフォーマンスを備えるチップだが、M1以降のApple Siliconに対してiPadOS 16の大事な新機能のひとつが使えない点に注意したい。マルチタスクの操作性を高める「ステージマネージャ」だ。

ステージマネージャはiPadで様々なアプリを同時に使ってスムーズに作業を進めたい時に役立つ機能だ。もしiPadをMacBookのようなモバイルPCに代わる、あるいはその役割を補完するデバイスとして便利に使いたいのであれば、ステージマネージャはぜひ使いこなしたい。

自身がiPadに期待することや使い道をじっくりと吟味しながら、選択肢が広がった現行iPadの中から自分に合ったベストな1台を選ぼう。

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