公開日 2019/08/22 06:15

パイオニアのミドル級AVアンプ「VSX-LX304」レビュー。精緻な音場再現と“音楽力”を備えたIMAX Enhanced対応機

【特別企画】アトモスのバーチャル再生にも対応
大橋 伸太郎
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ただし、このサンプラーディスクは新フォーマットIMAX Enhancedのいわば名刺代わりである。IMAX Enhancedの効果をあえて強調する内容ではあったが、一種のサービス精神と受け止め、発売された2種のIMAX Enhancedエンコードの4K UHD BDのひとつ、『ジャーニー・トゥ・ザ・サウスパシフィック』(IMAXエンターテインメント製作作品)の視聴へ移った。

『ジャーニー・トゥ・ザ・サウスパシフィック』

ランニングタイム45分程度のアメリカ版『宮古島』のような環境ソフトだが、一転してこれがじつに心地よいのだ。Advanced MCACCはIMAX Enhancedでも適用され、音場の深さ、S/Nのよさが発揮され、映像の水平線の彼方から音楽やSEが涼風になってやって来る。音場が全方位的に均一に広がりよく解れて澄明度が高く、オブジェクトの動線が明瞭だ。

画面表示からもIMAX Enhancedが有効になっていることを確認できる

冒頭のダイブする少年達を水中カメラでとらえたシーンは、試聴室の天井近くから次々に水音が聴こえ、しかもそれが映像の入水地点とぴたりと一致する。この鮮度感とスピード感こそがDTS:Xの持ち味である。これにIMAXマスターの雄大な画角が加われば、鬼に金棒だ。有力コンテンツが目白押しのIMAX Enhanced、期待してよさそうだ。

高精度な音場補正とアンプの持つ音楽性が作品に込められた意図を引き出す

続いて、UHD BDの近作から2作品を視聴した。まず定番の『ボヘミアン・ラプソディ』から。Advanced MCACCのもたらす音場の澄明さ、密度がここでも発揮される。オブジェクトの分布と音量バランスが絶妙で、例えばチャプター8のフレディが新曲の着想を得るシーンは、リフの音場への浮かび上がらせ方が美しく、その神秘的な体験を際立たせる。続くコーラスパートの多重録音のシーンは、スピーカーからの音圧と距離感が均一に聴き手を取り囲み、葛藤に苦しむフレディの心の内圧の表現であることが伝わる。歴史的録音に秘められていた真実に立ち会う臨場感がここにある。

(c) 2018 Universal Studios and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

ライブエイドのシーンは、ディスプレイのサイズとシステムの規模を超えた雄大な音楽が現れる。Advanced MCACCの高い補正精度が多数配置されたスピーカーの干渉が生む歪みを消し去った結果、現実の試聴室の限界を超えた深い奥行きと広がりをもたしたのだ。

「RADIO GA GA」でのオーディエンスの合唱は、試聴室いっぱいに高く太い奔流となって現れる。ここまではAdvanced MCACCの精度によるところが大きいと言えるが、VSX-LX304が描き出すそれは、歌声が一つになって生まれた倍音が清々しく美しい。そうして、ポップミュージックが大衆の祈りや希望の籠もった人類のアンセム(賛美歌、頌歌)に変わる。主人公が最早ポップカルチャーの帝王ではなく、大衆の心を癒して燃え尽きようとしている聖人であることに気付く。同時にこのAVアンプの持つ「音楽力」にも。

アトモス再生で確認できた確かな駆動力と高度な位相管理

次に見たソフトが『ファーストマン』。ニール・アームストロングのアポロ11号月面着陸を描き、2018年アカデミー音響効果賞を受賞した。宇宙空間は無音の世界。スペースオペラは別にして、シリアスであるほど、音響効果と劇伴音楽のコンセプトが問われる。本作の監督、デイミアン・チャゼルは、『セッション』『ラ・ラ・ランド』と音楽をモチーフにした映画で名声を得た。本作のサウンドデザインと、それをVSX-LX304がどう表現するか興味が持たれる。

(c) 2018 Universal Studios and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

映画の前半は地上が舞台である。冒頭のチャプター1、大気圏再突入とモハーヴェ砂漠への着陸は、後半の無音の世界と対照的な、分厚い大気の壁を突破する圧力と膨大な質量の描写がポイント。VSX-LX304はアナログ構成だがダイレクトエナジー技術を導入しており、パワーのピックアップに優れ量感の表現も十分だ。サラウンドの移動表現も切れがあり大気の摩擦の描写が轟音となって試聴室を吹き抜ける。

チャプター4、宇宙船乗組員の訓練用に3軸のシミュレーターがNASAに設置されたシーンでは、イマーシブサウンドの威力が発揮される。VSX-LX304の7.1.2ch再生で試聴室一杯にシミュレーターの高々とした骨組みが現れ、不気味な金属質のきしみ音が聴き手を中心に等間隔で360度回転を始め、じっと耳を澄ませていると酔いそうになる。9本のスピーカーの音量が揃っていて位相管理できていないと、オブジェクトの回転運動がいびつになり映像と不一致になり感興を削ぐが、均整の取れた音の球体が出現するのは、Advanced MCACCが正確な音場を生み出しているからである。

次ページアナログ/デジタルの経験を活かした素性の良いAVアンプだ

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