公開日 2018/03/02 08:00

アップル「HomePod」レビュー。最初はがっかりな音質、使っているうちに大きく変化

海外モデルをテスト
編集部:風間雄介
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部屋の形状を理解、反射音も活用。低域も動的に調整

それにしても、この変化は何が原因なのか。

オーディオ的には、長く聴いているうちにハードウェアがほぐれ、音が良くなることを「エージングが進む」という。そういう効果も多少はあるかもしれないが、それでは説明がつかないほどの違いがある。

英語版の公式サイトをしっかり読むと、その理由が理解できる。

HomePodは自動的に音響を分析する。ここで活用されるのが、本体中央部をぐるりと取り囲む、6つのマイクアレイとA8チップだ。スピーカーの設置位置に応じて、サウンドを「直接音」と「周囲の音」に分離して再生する。直接音は部屋の中央へ出す一方、周囲の音は左右に出し、壁で反射させるのだという。要するにHomePodは、部屋の大まかな形状や、どこに設置されているかを理解し、それを利用して音質を高めているのだ。

写真のように、直接音と周辺の音を分離し、周辺の音は壁に反射させたりなどして音質を高めている

音を壁に反射させて広がり感を高める技術は、サウンドバーなどにも搭載されている。だがこれをきちんと使うには、あらかじめ外部マイクでテスト信号を拾い、キャリブレーションすることが必要だ。HomePodは特別なキャリブレーションの必要なく、使っているうちに、自然に分析・学習を行う。

また、公式サイトにはこうも書かれている。「HomePodは音楽を継続的に分析し、滑らかで臨場感のある音を実現するために、低域を動的に調整する、高度なアルゴリズムを採用している」。この処理もA8チップが担っているのだという。

「音楽を継続的に分析し」のところが曖昧で、実際のところ、何をどこまでやっているのかよくわからないのだが、スピーカーが再生し、反射して返ってきた音をマイクで拾い、元の音源データと付け合わせることで、音質を高めている可能性がある。それにしても、このあたりの分析結果を一切ユーザーに見せず、イコライジングによる介入も一切許さないのがアップルらしい。

ともあれ、これらの分析・学習を行う前の “おろしたて” の状態と、しばらく聞きこんで学習が進んだ状態とで、明らかに音が変わった。最終的には349ドルという、この手の製品として高めの価格が妥当と思えるほどの音質に進化した。

上部にウーファーを搭載、下部には実に7つものトゥイーターアレイを装備する

この音質の変化を再度確かめようと、設置場所をカーペットの上に変えてみた。すると、またしても最初はモコモコした、妙なバランスの音になったが、その後時間が経つと、バランスが次第に整ってきた。もう一度分析と調整を行ったようだ。

では、このHomePodの絶対的な音質が、通常のピュアオーディオ向けスピーカーと比べてどうかというと、これはまったく性質が違うので、そもそも比較すべきではない。だがX300A Wirelessと比べている海外記事も見かけたので、あえて私見を述べると、試聴位置を固定するのであれば、3-4万円の評判の良いスピーカーを購入し、手持ちアンプなどと組み合わせた方が、はるかに良い音を楽しめると思う。

たとえばHomePodを数時間聴いて(おそらくは)学習が進んだ後でも、「You Look Good to Me」のウッドベースは弱々しいままで、楽曲が本来意図するところを表現できない。自動キャリブレーションによってかなりオールマイティーなサウンドに調整されるが、それでも苦手な曲はある。

また、ボーカルがセンターに定位し、少し右寄りにベース、左にギターがあり…などという音場表現は、安いスピーカーでもしっかりセッティングすれば可能だが、HomePodは現状、2台接続してのステレオ再生に対応していないため、ステレオイメージを再現できない(ただし今年後半には、HomePod 2台を使ったステレオ再生、マルチルーム再生に対応するようだ)。

一方でHomePodの良いところは、部屋の中で聴く位置を変えても、あまり音の印象が変わらないことだ。というよりも、前述したように部屋を使って「直接音」と「周囲の音」を使い分けることで、スイートスポットを広げるような工夫を施している。これは通常の2chスピーカーシステムにはできない芸当だ。

HomePodは、音楽をじっくり聞きこむ用途にはあまり向いていない。ただし、カジュアルに「まあまあ良い音」を楽しみたいという用途にはしっかり応えてくれる。ピュアオーディオ的な聴き方はできないが、一般的にはこれで十分という方も多いはずだ。ハイファイオーディオとは全くの別物なので、すでにしっかりしたシステムを持っている人にも逆にオススメできる。個人的にもかなり気に入っていて、日本で発売されたら、購入してリビングに置きたいと考えている。

HomePodは、単純にワイヤレススピーカーとしてだけ見ても、349ドルという価格以上の音質を備えている。これにSiriの機能強化が行われたら、製品の魅力はさらに高まる。特に欧米では、Siriの早急な機能強化が必要なことは間違いないが、ともあれ、早期の日本発売を期待したい。

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