ガジェット 公開日 2025/05/01 14:18

「DAZN」無料も内容が非常に複雑、「ドコモ MAX」から見えるNTTドコモの戦略転換

【連載】佐野正弘のITインサイト 第157回
Gadget Gate
佐野正弘
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NTTドコモは先日4月24日に新サービスの発表イベントを実施し、「ドコモ MAX」「ドコモ mini」など複数の新料金プランを発表している。新料金プランは6月5日より提供される予定だが、今回の新プラン投入によってオンライン専用の「ahamo」以外はほぼ全て入れ替えとなる。

そしてeximo、irumoの提供から2年に満たない期間での入れ替えという異例の取り組みからは、NTTドコモの大きな戦略転換が見えてくる。そのことを示しているプランの1つが、新料金プランの中でNTTドコモが最も力を入れている「ドコモ MAX」だ。

NTTドコモは2025年4月24日に新料金プランを発表。中でも力が入れられているのが、「eximo」の後継となる「ドコモ MAX」だ

■新料金プラン「ドコモ MAX」。従来プランeximoとの違いから分かる、その狙いとは?



これはeximoの後継に当たる大容量プランで、通信量に応じて料金が5,698円から8,448円に変化する変動制を採用している点はeximoと変わらない。それでいてeximoと比べると、1,000円以上の値上げがなされているのだが、その分多くの付加価値が用意されている点が、eximoとの大きな違いとなっている。

その1つが「DAZN for docomo」が無料で利用できることだ。DAZN for docomoはスポーツ映像配信サービス「DAZN」のドコモ版というべきもので、月額料金はDAZNの「DAZN STANDARD」と同じ月額4,200円となる。

それゆえドコモMAXを契約すれば、各種割引を適用しなくてもDAZN for docomoに4,248円をプラスすることで使い放題のモバイル通信サービスが利用できる計算となる。DAZNはここ最近、毎年のように大幅な値上げが続いて利用者の不満を高めているだけに、ドコモ MAXがDAZN利用者にとっては非常にメリットのある内容であることは間違いない。

ドコモ MAXの最大の特徴は「DAZN for docomo」の利用料が月額料金に含まれていること。月額4,200円のサービスが実質無料で利用できるメリットは大きい

そしてもう1つの大きな付加価値が国際ローミングで、海外でも月当たり30GBのデータ通信が追加料金なしで利用できる。従来、NTTドコモの回線契約者が国際ローミングを利用するには「世界そのままギガ」を契約して国・地域や時間に応じた料金を追加で支払う必要があったが、ドコモ MAXでは追加料金を支払う必要なく30GBまでのデータ通信量が200以上の国・地域で利用可能になる。

実はこの仕組みはahamoで提供されていたもので、海外旅行に行く人の中には、安く国際ローミングを利用するためにahamoを契約するという人も多くいた。それだけにドコモ MAXは、海外渡航が多い人にも大きなメリットのあるプランといえるだろう。

他にもドコモ MAXには、「Amazonプライム」や「Leminoプレミアム」を最大6カ月間、実質無料で利用できる施策が用意されているほか、割引施策に関しても顧客からの要望が多かったという長期契約者向けの特典「長期利用割」が新たに追加されている。非常に多くの付加価値が用意されていることは利用者にとってもメリットだ。

ただその一方で、安く利用するには適用が必要な割引が多く非常に複雑だ。割引をフルに受けるには長期利用割で20年以上の契約が求められるのに加え、「dカードお支払割」では年会費がかかる「dカード GOLD」以上の利用が必要になる。加えて「みんなドコモ割」や「ドコモ光 セット割」、そして「ドコモでんき」のセット契約で適用される「ドコモでんきセット割」も必要なことから、最大8,448円の月額料金を月額5,148円にまで引き下げるハードルは非常に高いと言わざるを得ない。

ドコモ MAXの概要。DAZN for docomoや国際ローミングをはじめ付加価値は多いが、一方で安く利用するには割引も多く非常に複雑なプランとなっている

それゆえ、特にスポーツに関心がないという人達からは、発表直後よりSNSなどで「メリットが薄い割に複雑すぎる」と批判の声も少なからず聞かれた。NTTドコモはahamoのシンプルな料金設計が高く評価されてきただけに、なぜこれだけ複雑な料金プランを用意する必要があるのか?という疑問を抱く人も多いだろうが、NTTドコモの狙いは経済圏ビジネスの拡大、さらに言えば優良顧客の囲い込みで収益を高めることにある。

市場飽和と政府の料金引き下げ要請により、携帯電話事業だけで売上を伸ばすのは既に困難であることから、NTTドコモをはじめとした携帯4社は、そのモバイル通信を軸として自社サービスを多く利用してもらい顧客を囲い込む、経済圏ビジネスに力を注いでいる。そして、自社サービスに多くのお金を落としてくれる顧客は、企業にとって優良な顧客でもあることから、料金プランで多くの付加価値を提供して還元し、満足度を高めて更なる囲い込みへとつなげる…..というのが、ドコモ MAXの狙いといえるだろう。

とりわけ昨今のインフレで、携帯電話会社も電気代や人件費など事業運営にかかるさまざまなコストが大幅に上昇している。それだけに携帯各社が料金を値上げするのは必然でもあるわけだが、値上げしてもなお顧客の満足度を高めるには、値上げに負けないだけの大きな付加価値が必要だったのだろう。

もちろんドコモ MAXだけでは、「DAZNに魅力を感じない」という人の受け皿がなく顧客流出につながりかねないが、NTTドコモは既に、シンプルで安価なことで定評のあるahamoを提供している。

そして大容量のオプションを追加した「ahamo大盛り」であれば、使い放題とはならないまでも月当たり110GBの大容量通信が利用可能だ。ゆえにそちらが、DAZNが不要な人やシンプルな料金プランを求めている人の受け皿になり得ると考え、ドコモ MAXでは複雑でも高付加価値という路線を貫いたのではないだろうか。

もう1つ、NTTドコモの戦略転換を示しているのが「ドコモ mini」だ。こちらは小容量・低価格の「irumo」の後継プランとなるのだが、irumoは0.5GBから9GBの4つのプランが用意されていたのに対し、ドコモ miniではプランが4GBと10GBの2つに半減している。

「irumo」の後継となる「ドコモ mini」はプランが2つに半減。ドコモ MAXと比べると、力の入れ具合の弱さが明確だ

プランを2つに絞ったのは、2つのプランで小容量の価格帯のボリュームゾーンを抑えられると判断したためだという。一方で容量の小さいirumoの0.5GBプランは、一部で評判は高かったが、他社への乗り換えを繰り返して利益を得るホッピング行為の “弾” として悪用されることも多く、2023年に経営統合したNTTレゾナントがMVNOとして提供していた「OCN モバイル ONE」からの移行もある程度落ち着いたことから、廃止へと至ったようだ。

irumoは元々、競合他社のサブブランドに対抗するための提供されたプランだった。だが、NTTドコモが提供する低価格プランということもあって人気が非常に高く、既存ユーザーの多くがirumoへ移行したことで同社の収益悪化を招く主因となっていた。

それでもNTTドコモは、経済圏ビジネスのための顧客維持に重点を置いていたことから、収益性が悪くてもなおirumoの販売に力を入れてきた。だが、昨今のインフレにより経営環境が一段と厳しくなったことを受け、新プランでは小容量プランを縮小して大容量プランを充実させ、顧客の数よりも質を追うことで収益性を高める戦略に切り替えたのではないだろうか。

確かにドコモ MAXでDAZNが無料で利用できる点は、スポーツに興味がある人にとって非常に魅力的なものであることに間違いなく、他社の大容量プラン利用者を奪う武器にもなり得る。儲からない低価格帯での競争に見切りをつけ、高価格帯のプランで他社から優良顧客を奪って売り上げを高め、なおかつ経済圏ビジネスを拡大するというのが、新プランに込められたNTTドコモの狙いではないかと筆者は考える。

ただ逆に、新プランによってスポーツに興味のない大容量プラン利用者がNTTドコモに見切りをつけ、顧客離れにつながる可能性はもちろんあるだろう。それだけにサービス提供後、顧客がこれら新プランにどのような評価を下すのかは、大いに関心を呼ぶところではないだろうか。

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