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ガジェット 【連載】佐野正弘のITインサイト 第95回

NTTドコモの通信品質が改善傾向。それでも残る不安材料とは?

Gadget Gate
公開日 2024/02/08 11:05 佐野正弘
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2023年、都市部を中心に通信品質が大幅に低下し、問題視されてきたNTTドコモ。そうした状況に同社も対策を余儀なくされ、2023年12月までに300億円を先行投資し、将来の需要も見据えた通信品質対策を実施してきた。

そこで、2月2日に同社は記者説明会を実施。ネットワーク本部長 常務執行役員の小林宏氏が一連の対策の成果と、今後の品質改善に向けた取り組みについて改めて説明している。

2024年2月2日の説明会に登壇するNTTドコモの小林氏。同社は通信品質の著しい低下を受けて急ピッチで改善を進めている

■改善の兆しをみせる通信品質。大規模イベント対策の成果も



まずはトラフィックが多い、あるいは今後の増加が見込まれる全国2,000箇所以上の “点” に向けた対策について。こちらは2023年12月時点で計画していたよりも若干超えるくらいの進捗で、90%以上のエリアでの改善が進んだとのこと。改善箇所のダウンロード時の平均通信速度も、2023年5月時点と比べ1.7倍に上昇したという。

全国2,000箇所の “点” に向けた対策は計画より上振れて進捗しているそうで、ダウンロード時の平均通信速度も1.7倍に上昇したという

そしてもう1つが、主要な鉄道動線などの “線” に向けた対策。こちらも2023年12月まで既存基地局を活用した対策を進め、対策後は電車乗車時間の90%で、動画視聴を不便なく利用できる環境を実現できたとしている。小林氏によると、残りの10%の時間についても動画の品質が落ちたり、時折ダウンロード待ちが発生したりすることはあるが、全く動画が再生できない状況に陥るわけではないという。

鉄道動線など “線” に向けては既存基地局による対策が一通り完了したそうだ。これにより、電車乗車時間の90%で動画視聴を不便なく利用できるようになったとしている

そうしたことからSNS(X)においても、通信サービス品質に対するネガティブな声は、2023年3月時点と比べ約75%減少したとのこと。小林氏は「品質改善が顧客に届いていると認識している」と、一連の対策に自信を示している。

同様に、NTTドコモでは大規模イベントに向けても通信品質対策を進めてきた。直近の大規模イベントとなった「コミックマーケット103」での対策は、以前の記事でも取り上げているが、その結果、通信品質の低下が指摘されていた「コミックマーケット102」と比べ、ダウンロードの通信速度がおよそ1.5倍に上昇。Xでのネガティブな投稿も、およそ80%減少したと小林氏は話している。

以前の連載で触れた「コミックマーケット103」の対策でも通信速度は向上、Xでのネガティブな声は大幅に減少したという

一連の対策によって、NTTドコモ通信品質が改善傾向にあることは確かだろう。だが問題は、今後同様の事象を引き起こさないことであり、そのためには通信品質の低下をいち早く検知して対策を打つ必要がある。とりわけ、2023年の通信品質低下においては、他社と比べその検知が遅れたことが深刻な事態を招いた、との指摘が多くなされているだけに、品質の検知体制強化が強く求められるところだ。

そこでNTTドコモも、既に導入しているSNSや生成AIなどを用いた通信品質のチェックに加え、新たにスマートフォンアプリの利用データを活用して、通信品質低下を早期に検知する取り組みを進めたことも明らかにしている。スマートフォンアプリを使った通信品質の検知は、競合が既に積極活用しているものだ。NTTドコモはその活用があまり進んでいなかったことから、一連の指摘を受けアプリの積極活用に踏み切ったといえそうだ。

通信品質低下をいち早く検出する策として、他社が既に取り組んでいるスマートフォンアプリからのデータを積極活用する方針も打ち出している。既に「d払い」のデータ活用を進めているとのことだ

小林氏によると、まずは利用者が多いスマートフォン決済の「d払い」アプリのデータを活用した対策を進めるとしている。d払いでは元々、決済画面を開いてからバーコードが表示されるまでの時間を取得して、アプリの品質改善に役立てていた。そのデータを通信品質の改善にも活用することで、通信品質の低下を早期に図りたい考えのようだ。

今後はさらに動画視聴アプリなども活用して、通信品質低下を早期に検知する体制を強化したいとしている。また現在は、個人情報保護の観点から端末のGPS情報は使わず、端末が接続している基地局の情報から位置を判断しているというが、将来的には許諾を得た上で、GPS情報を活用して通信品質が低下している位置を特定する取り組みも進めていきたいとのことだ。

従来NTTドコモがアプリの情報を活用してこなかったのは、個人情報への配慮が大きかったと考えられる。そのため積極活用に踏み切ったことからは、同社が通信品質の回復に向けて、なりふり構わず取り組んでいる様子を見て取ることができる。エリアと品質は通信サービスの要だけに、同社が非常に強い危機感を抱いて対策を進めていることは間違いない。

■さらなる通話品質向上に向けた、5G基地局の増設



ただ、一連の対策をもってしてもなお、場所によっては通信品質が向上していないという声もある。それが現在のNTTドコモの弱さを示している、と筆者は感じている。

小林氏はそうしたエリアがいくつかあることを認識しているものの、都市部や建物内を中心として工事自体が難しいところや、新しい設備を設置するためのビルオーナーらとの交渉や調整が、順調に進んでいないところが多いと答えている。

これまで同社が説明してきた一連の通信品質対策においても、新しい設備を設置するにあたり、地権者との調整に苦慮している様子を見て取ることができた。それだけに、NTTドコモが品質改善を進める上では、トラフィック対策に効果的な5Gの新しい基地局を設置するロケーションを思うように確保できていないことが、通信品質改善に向けた大きな課題となってくるように感じている。

それは、通信品質で急速に評価を高めている、ソフトバンクとの比較からも見て取ることができる。ソフトバンクは英ボーダフォンの日本法人、イー・アクセス、ウィルコムという複数のモバイル通信事業者を買収して現在の姿となっているが、中でもPHSを扱っていたウィルコムは、電波出力が弱く広範囲のカバーが難しいPHSが、携帯電話よりエリア面で不利な状況を挽回するため、より多くの基地局を設置するべく場所の確保に力を入れていた。

それだけに、ウィルコムの資産を引き継いだソフトバンクは、基地局を設置する場所を他社より多く確保している。それが、基地局を多数設置する必要がある、5G時代の競争力向上につながっているようだ。同社からはNTTドコモのように、5G基地局の設置場所で苦労しているという話を聞くことはない。

さらに今後の動向を考えると、場所の確保に苦しむNTTドコモが不利な状況に陥る可能性も出てきている。それは、5G向けに割り当てられた高速大容量通信ができる周波数帯の1つ、3.7GHz帯の課題が解消に向かいつつあることだ。

3.7GHz帯は、楽天モバイルも含めた携帯4社全てに免許が割り当てられている帯域なのだが、これまで衛星通信と干渉してしまうという問題を抱えていた。そのため、首都圏では基地局からの出力を抑える必要があるなど多くの制約があり、有効活用できていなかった。

だが、2024年度に衛星通信事業者側の対応によって、干渉が緩和に向かいつつあるようだ。それを受けてKDDIは、3.7GHz帯の基地局整備を2024年度に本格化するとともに、既存基地局の出力を上げて5Gのエリアを大幅に広げる計画を打ち出している。

3.7GHz帯が衛星通信と干渉してしまう問題が解消しつつあることから、KDDIは2024年度から、3.7GHz帯を使ったエリアの整備を本格化。既存基地局の出力も上げてエリアを急拡大させる方針を示している

一方のNTTドコモは、携帯4社で唯一、3.7GHz帯だけでなく、衛星干渉の影響が少ない4.5GHz帯の免許も割り当てられている。そのことから、これまで4.5GHz帯を積極活用して高速大容量通信が可能な5Gのエリア整備を進め、「瞬速5G」として5Gで高速通信ができるメリットを打ち出してきた。だが、地権者との交渉で順調に整備を進められなくなっており、その間に3.7GHz帯の問題が解消してきたことから、4.5GHz帯を持つ同社の優位性が失われようとしているのだ。

それだけに、NTTドコモが通信品質を維持向上させるには、地権者との交渉をいち早く進め、5Gの基地局を設置できる場所を少しでも多く確保することが強く求められる。ただ、基地局の設置場所は、どこでもいいわけではない。設置に適した場所は既に他社も確保済み、あるいは確保に動いていることから、今後同社を苦しめる大きな要因となることは間違いないだろう。

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