「コスパだけでなくクオリティで選ばれるテレビメーカーに」。TCL本社幹部が語る日本市場「トップ3入り」戦略
TCLのアジアパシフィック地域のマーケティングを統括する張国栄氏らがインタビューに応じ、日本のテレビ市場でシェアトップ3入りを目指すことなど、戦略を明かした。
2025/06/20
TCLは、中国・深センの液晶パネル製造工場内部を一部日本メディアに公開。関係者からは、同社の技術特徴に加えて、 日本のテレビメーカーへのパネル供給状況などについても聞くこともできた。

TCLのアジアパシフィック地域のマーケティングを統括する張国栄氏らがインタビューに応じ、日本のテレビ市場でシェアトップ3入りを目指すことなど、戦略を明かした。
2025/06/20
今回、日本メディアに公開されたのは、液晶パネルの研究開発および製造を行うグループ企業「TCL CSOT(華星光電)」の深セン工場と恵州工場。パネル製造の前工程を深センで、後工程を恵州で行っている。
工場内は基本的に全てが自動化されており、24時間体制での生産が可能。ラインごとにオペレーターがそばにいる…といったようなこともない。
TCLブランドの製品をグローバルで展開するだけでなく、世界中の様々なメーカーにパネルを提供している同社だけに、工場の敷地も半端ではない広さ。深セン工場だけでも、用途やパネル世代別に11の工場と研究開発棟などが建てられている。
我々が見学したのは、新型テレビ向けだという第8.5世代パネルを生産するT2ライン。このラインだけでサッカー場12面分相当だという広さがあり、内部はカラーフィルター、配線、セルの各工程に分かれている。244億元(約4880億円)の投資で建てられ、月産16万枚のパネル生産能力を持つという。
そのほかのラインとしては、最新第11世代パネルを製造するT6ラインや、11世代の8Kパネルを製造するT7ラインなどがある。T6ラインには465億元(約9300億円)、T7ラインには427億元(約8540億円)を投じたという。このほか、液晶、マイクロLED、印刷式有機ELパネルを生産するT9ラインなど、多岐にわたるラインを有している。
さらに、敷地内には旭硝子(AGC)の製造工場も。液晶パネルの大元となるガラスがTCL CSOT専用に製造され、そのまま自動で生産ラインに運び込まれる仕組みになっている。
また、24時間体制でラインを安定的に動かすために専用の太陽光発電施設も敷地内に用意。加えて、製造工程で出た排水の浄水処理施設も持って環境へも配慮しているという。
「通常の液晶ディスプレイだけでなく、ミニLED、マイクロLED、そして有機ELまで、全般的に生産できる能力を持っている点が我々の大きな強みです」
そうコメントするのは、技術企画センター センター長の周 明忠(シュウ・ミンチョウ)氏。「(液晶パネルに関する)すべてのラインナップを持っているので様々な分析ができ、そのため、その時点で最適なソリューションをクライアント企業各社に提供できるのです」と語る。
ソニーやパナソニックといった日本メーカーや、グーグルやサムスンなど世界各国の様々なメーカーにパネルを提供していると同社は説明。TV・業務用ディスプレイKA部 副部長のTony Kim氏は、「日本メーカーとも戦略的な協力体制を築き、ハイエンドなパネルの開発を行っています」とコメントする。
「例えば、とある日本の大手メーカーさんとも良好な関係にあり、そのメーカーさんが展開している液晶テレビにおけるプレミアムモデルの大部分に我々がパネルを提供しています」とのこと。「我々は顧客目線、ユーザー目線を重視しています。ビジネスパートナー各社が最先端のテレビをユーザーに届けられるよう、我々もパネル技術をどんどん進化させたいと思っています」と述べる。
特徴的な同社技術のひとつが、独自開発した『HVAパネル』。一般的に、VAパネルはコントラスト感や黒の表現に優れる一方で視野角がそれほど広くないとされるが、HVAパネルではその課題をクリア。VAパネルの画質的な利点も持ちつつ、広視野角も実現させているという。
同社によれば、従来のVAパネルから全面的に設計を見直したことでこうした進化を実現させたとのこと。材料の選定から見直すなどしたことで、コントラスト比は従来比40%アップとなる5000:1から7000:1に性能向上したという。
HVAパネルは現在のところTCL製テレビのみへの供給だが、TCL独占ではなく他社にも供給していく考えだと説明。「半年から1年後くらいには他社からもHVAパネル搭載モデルが登場する可能性もあります」(Tony氏)という。
そんなHVAパネルとともに、TCL製テレビの特徴なのが、日本でも5月に発売された4KミニLEDテレビ「C8K」が搭載する「Virtually Zero Border」技術。パネルの縁にどうしても生まれてしまう映像非表示領域を極限まで狭めて“ほぼゼロの黒枠”を実現する技術だ。
周氏によれば、大型化すればするほど黒い部分(非表示領域)が必要になるとのこと。「その黒い部分には通常、様々な電気回路が配置されているし、パネルに(大気中などの)水分が入り込むのを防ぐ意味でもこのスペースが必要なのです。その2点が課題でした」と周氏は述べる。
そこで同社では、回路設計を見直し、電気回路を減らすことに成功。様々なビジネスパートナーに相談して、サプライヤーを探して最適な材料を見つけて防水への課題もクリアした。そして製造工程もゼロボーダーを実現したのだという。
同社ではパネル技術の研究開発を常に続けていると周氏は説明。昨年度には同社製パネルのブランドとして『APEX』という名前も付け始めたが、ここには「Amazing(高画質への驚き)」「Protective(ユーザーの身体の保護/視聴時にかかる身体的負担の低減)」「Eco-friendly(省エネ性能および環境への配慮)」「X(今後の発展性/未知数)」という意味が込められているという。
「より高い色域やコントラストで鮮やかに映像を表現できるようにすることで人々に驚きを与える一方で、人の目に対して一番負担が少ない自然の光をいかに再現できるかも追求しています。また、エコ性能ではつい先月の展示会で、世界で初めて85インチパネルで欧州のエコ認定を取得したものを展示したりもしました」と周氏は語る。
また、同社ではLEDディスプレイ専門の開発部隊を立ち上げて研究している。LEDディスプレイ製品開発グループでグループ長を務める陳麟(チン・リン)氏は「過去の直下型バックライトは明るさが足りなかったりと課題もありましたが、ミニLEDバックライトであればそうした部分をクリアできるということで本格的に参入を決めました」と説明する。
陳氏は「輝度が高くて色味もよいのがLEDディスプレイの特徴です。また、ミニLEDは有機ELと比べて消費電力も低くて寿命も長く、さらに、大型化しやすいのもメリットです」とコメント。「すでに120インチ以上のものがコンシューマー用として市場に出ています。マイクロLEDでさらに高画質な製品をつくれる時代ももう目の前まで来ていると思っています」と言葉を続けた。
なお、前述のようにTCL CSOTは有機ELパネルの生産ラインも有しているが、当面はパソコンやスマートフォンなど中小型での展開が中心になるとのこと。「テレビで展開する可能性がないわけではないですが、そのあたりは市場の反応も見ながら検討していくことになるでしょう」とした。
トニー氏はテレビ市場の動向について「全体的に我々としては安定しています。特に大型はまだまだ伸びしろがあると考えています」と言及。「お客様のニーズをいち早くキャッチして技術を進化させていきます」と語る。
そして「直近ではミニLEDバックライトを採用した液晶パネルが今後は主流になっていくと見ています」とコメント。「ミニLED(およびマイクロLED)液晶パネルで有機ELパネルを超える画質を実現するべく、技術開発を続けていきます」と結んだ。












