「コスパだけでなくクオリティで選ばれるテレビメーカーに」。TCL本社幹部が語る日本市場「トップ3入り」戦略
TCLは、中国・深センにあるグループ本部オフィスや液晶パネル工場の内部を一部の日本メディア向けに公開。アジアパシフィック地域のマーケティングを統括する張国栄氏らがインタビューに応じ、日本のテレビ市場でシェアトップ3入りを目指すことなど、戦略を明かした。
TCLは日本のテレビ市場を重視。「世界での活動にも好影響」
TCLの張国栄(チョウ・コクエイ)氏は、「この30年、TCLはテレビ事業に注力して発展してきました」とあいさつ。「20年前は日本のメーカーが世界をリードしていたし、10年前は韓国のメーカーが伸びました。これからは、パネルの生産能力がある中国や台湾のメーカーが伸びていけるのではないでしょうか。つまり、パネルから一貫したテレビ生産能力を持つTCLにとって伸びていける市場になってきているのです」と語る。
そして「現在、テレビ事業に一番投資をしているメーカーがTCLだと思っています」とコメント。この十数年、TCL CSOT(※液晶パネル製造を行う子会社。TCLだけでなく世界各地の様々な企業にパネルを供給している)だけでも6兆円規模の投資をしていることや、中国以外にもインドやメキシコ、ベトナム、ポーランドにも製造拠点を構えていること、アメリカや日本ではセールス部門だけでなく研究開発部門も置いて地域に合わせた製品開発を行っていることなどを紹介した。
また、TCLは日本市場を非常に重要視していると説明。「日本は人口も経済的にもトップレベルの国。テレビ関連市場も5000億円規模で、これだけの市場はなかなかありません。海外メーカーにとって非常に魅力的な市場です」とコメントする。
張氏はまた「特に、日本には技術レベルが高いメーカーが多いですよね。ソニーさんやパナソニックさん、白物ならダイキンさんなどもそうです。そんなメーカーと勝負していくのは我々にとって大きなチャレンジです。こうしたメーカーと並んで日本のユーザーに認められれば世界的にトップレベルのブランドだと言えると思っています」とも説明。
「日本メーカーの影響力は世界でまだまだ高く、特に東南アジアでは、ハイエンドといえば日本メーカーという認知です。TCLも、日本で認められればそれが世界各地での活動にも好影響を及ぼすでしょう」と、日本市場への魅力を語った。
日本でもテレビシェアトップ3を目指す。「コスパだけのブランドではない」
張氏は、日本のテレビ市場のシェアでトップ3に入ることを目指すと宣言。
シェア拡大へのポイントとして張氏が挙げたのが「商品力」「ローカライズ」「ブランディング」といったキーワードだ。「なかでも、日本市場での最大の課題はブランド力だと思っています」と張氏。
「商品力では他社さんにも負けていないと自負しています。商品力が負けていないのにTCLがシェアを取れないのは、やはりブランド力がまだ足りないからだと受け止めています」と述べ、オリンピックのトップパートナーとなったことも活かしながらブランド力強化を図るとした。
また、ブランドイメージを高めるために製品ラインナップの戦略も再考。「7年ほど前、日本市場へ参入する際にはコストパフォーマンスの良さで勝負しようという戦略でした。しかし今は、テレビをできるだけハイエンドにもっていきたいという戦略です。そのために大型化とミニLEDモデルの充実を進め、日本を始めとするグローバル市場で勝負していきます」とし、クオリティにこだわるユーザーから真っ先に選ばれるようなプレミアムなブランドというイメージも付けていきたいと語った。
商品力という点では「日本にも拠点を置き、市場で認められる製品を常に研究しています」と説明。「ただ、今までも日本向けモデルを出していましたが、ローカライズがまだ足りませんでした。これからはローカライズを強化して、いかに日本の皆さんに認めてもらえるかに注力していきます」と続けた。
なお、ローカライズという点では、現在も日本向けの画質チューニングを施すなどしているとのこと。そうした個々の商品のローカライズに加えて、「例えば高リフレッシュレート対応モデルを日本には多く投入したり、販売店さんごとにもラインナップを変えたりといった展開にも注力していきたいですね」という。
また、大型テレビは予想以上に日本でシェアをとれている状況だとのこと。「75インチ以上では20%以上のシェアをとれているのではないでしょうか。そういった強みのあるところでしっかりやりながら、別の部分も強化していきます」と張氏は語った。
ただ、日本の記者団からは「日本での大型テレビ市場はまだ小さいし、各社がハイエンドモデルを投入する有機ELテレビも市場が落ち着いている。日本のハイエンドテレビ市場は今、TCLにとってそれほど旨味があるとは言えないのでは?」という質問も。
これに対し張氏は「ハイエンドモデルでシェアを狙うのは、ブランド力を高められるからです」と回答。「ミドルレンジやエントリーモデルは元々強いので、ハイエンドでブランド力を高められればやり方はいくらでもあると思っています」と述べた。
TCLの画質へのこだわりと他社との差別化ポイントとは?
テレビ開発のキーマンであるTCL BU プロダクトマネジメントセンター総経理の宦吉鋒(カン・キチホウ)氏は、「2019年、世界初の量子ドットミニLEDテレビを投入したのはTCLでした」と同社の技術力をアピール。
「技術力を高め、バックライトを分割制御するエリア数もできるだけ細かくし、高輝度・高コントラストで高画質な製品をお客様にお届けしたいというのが我々の設計思想の基本です」と語る。
ハイエンドモデルに注力する姿勢の象徴とも言えるのが、日本でも5月に発売を開始した4K量子ドットミニLED液晶テレビ「C8K」。テレビ画面の四隅にある黒い縁(映像の非表示領域)を限りなく排除した「Virtually ZeroBorder」技術を搭載するなどしたプレミアムモデルだ。
「メーカー各社ともバックライトの制御エリア分割数を年々増やしていますが、それによる高画質化競争も頭打ちになりつつあります。そこで他社がまだ実現できていないゼロボーダー技術が日本市場におけるTCLの大きなアドバンテージになるのです」と説明する。
「しかも、画質を犠牲にすることなくゼロボーダーを実現させています」と宦氏。「チップやLED発光素材なども全面的に新しくなっていますし、拡散板にも新技術を投入して光を極力小さく当てられるようにしました。バックライト制御も全体的に回路を見直していますし、エリアごとの制御に加えてLED1個ずつのコントロールも改良しています」と言葉を添える。C8Kには22個もの特許が投入されているのだという。
また、C8Kは、高コントラストで色も鮮やかなVAパネルの特徴を持ちながら視野角も広いという独自パネル「HVA」の上位モデル「WHVAパネル」を搭載。「業界のなかでも最高クラスの液晶パネルだと自負しています」という同パネルでゼロボーターを実現したことで、映像への没入感も向上したのだと説明した。
実際に暗室でC8Kの画質を体験するデモを記者も体験できたが、特に印象的だったのがハロー現象への対応力。暗いシーンで小さな物体が発光しながら動くテスト映像でも、被写体の周囲がぼんやりと光るハロー現象はほぼ確認できないレベルを実現できていたように思う。
一方で、人肌の表現などには日本メーカーとは異なる傾向も見られた。個人的にはこうした部分も今後のローカライズの対象にし、日本人好みの画質にチューニングしていけば、より隙のないモデルへと仕上がっていくのではないかと感じた。
TCLのテレビは「他社より1世代分リードできている」
そのほか、Bang & Olufsen(B&O)とコラボした音質面も宦氏はアピール。「コラボ発表したときは『そこまで音質向上を意識しているのか』と反応も大きかったですね」と語る。
「ただ単純にブランドロゴをつけただけわけでなく、もちろんしっかり共同開発しています」と宦氏は説明。「可能な限りB&Oの思想を反映するため、カスタマイズした部品を使ったりもしていますし、チューニングにもB&Oが携わっています」としたほか、「B&Oが重視しているのは『リアルな音響』であり、人の声の良さであったり、透明感を引き出せる性能です。そうした部分をしっかりクリアできたと思っています」と言葉を続けた。
また、ゼロボーダー技術は量産能力にも高いレベルが必要だと説明。「生産ラインは他の製品とはまったく別のカスタマイズされたものになっています。ゼロボーダーの全面スクリーンで他社より1世代分リードできたと思っています」とコメントする。
そして「日本では『匠』という言葉がよく使われますが、我々もテレビの匠という考えで日本市場に良い製品を投入していきたいですね」と述べた。
白物家電も日本展開へ
また、前述の張氏も「ゼロボーダーのようなテレビは他社からはまだしばらくは登場しないでしょう。パネル製造会社のTCL CSOTと連携した開発ができるからこそ、ゼロボーダーが実現したのです。」とコメント。TCL CSOTをグループに持ち、コスト面とサプライチェーンの完熟度に優れることもTCLの強みだとあらためて説明する。
なお、TCL CSOTは有機ELパネルの生産ラインも持っている。日本の記者団からは有機ELテレビの展開予定についても水が向けられたが「有機ELパネルの大型化にはコストがかかり、その改善は今のところ難しい状況です。大型化には液晶パネルのほうが合っているでしょう」とし、液晶テレビに注力する考えを示唆。
「もちろん有機ELにもメリットがあり、それは中小型デバイスのほうが適していると言えます。焼付きの問題もあるため、スマートフォンなど商品サイクルが短いもののほうが合うと考えています」と回答した。
さらに、エアコンなどの白物家電も今後は日本市場で積極的に展開していきたいとコメント。そこを手掛けられるのもTCLの特徴でありチャンスであるとし、テレビも家電も含めたスマートホーム戦略を進めていく考えを示した。
