公開日 2010/08/20 11:25
第12回:松木恒秀さんが語る「ピットイン」との長くて深い関係 <前編>
【連載】PIT INNその歴史とミュージシャンたち
人と人との付き合いやつながりから
いろんな所に呼ばれるようになりかなりの収入を得るようになった
佐藤:そうするとプロになるきっかけは何かあったのかな。
松木:音楽についていうと、こっちは小学生時代から習っていましたけど、バンドの仲間はド素人なんですね。だからジャズやりたいと思ってもできない。ベンチャーズとかビートルズになる。その頃、ちょっとした喫茶店や公会堂でダンス・パーティを開いてパー券を売るやつが出てきた。バンドが呼ばれて行くわけです。そうすると一人5千円もらえた。これが毎週のようにある。当時の大学初任給が2万円前後、これは食えると思っちゃった(笑)。そのうち、うちのバンドのギターが都合悪いから出てくれとか、どんどん呼ばれるわけです。
佐藤:そこから売れっ子セッションマン人生が始まっているわけだ。
松木:現在までずっとそのパターンですね。どこかのバンドに行ったら、そのベースの人から違うバンドを紹介されたり。そこに行ったら、また別のバンドに呼ばれたり。
佐藤:人との付き合い、つながりはとても大切にするよね。人間関係を重んじている。
松木:そんなことを言われると、こっちも良武さんを持ち上げなくちゃならない(笑)。
佐藤:これは本当にそう。ミュージシャンは我の強い人が多くて、足の引っ張り合いも時にはありますからね。お父さんからの血筋なのか義理人情に厚い。決して裏切らない。人脈も広がるよね。となると、ここからプロになったという境目があるのではなくて、なんとなくアマからセミプロ、そしてプロになっていったという感じだね。
松木:そうですね。ダンスホールで演奏したり、グループサウンズ・ブームが到来して、そういうバンドに加わっていたりとか。その頃になると「ピットイン」の評判は耳に入っていました。演奏者とお客さんが、がっちり向かい合うジャズのライブハウスはほとんどなかった。ぜひ一度は出たいと思っていましたね。「ピットイン」に出れば一流、という空気はミュージシャンのなかでありました。日野皓正さんやジョージ大塚さんを、客として聴きに行ってましたよ。
スタジオセッションでは演歌からコマーシャルから何でもやり
いつもスケジュール帳が真っ黒で10時から夜中までベタでこなした
68年に稲垣次郎さんと一緒に初めて「ピットイン」に出演を果たした
当時は怖くて絶対へぼはできないと・・・
松木:そうです。68年ですから19か20歳の頃です。次郎さんにバンドに誘われて、ああこれでジャズができると思いました。
佐藤:いま思うとソウルメディアは純粋なジャズではないよね。
松木:ちょっと前で言う、アシッド・ジャズ。
佐藤:当時としては画期的だった。一歩も五歩も十歩も先を行っていた。まだ本格的にフュージョンが出ていない時代ですから。フュージョンがまだクロスオーバーと言われていた、さらに前の音楽だからね。
松木:次郎さんは確かに進んでいました。アメリカではジャズロックと呼ばれていたのかな。ラムゼイ・ルイスたちが8ビートや16ビートの上にジャズをのせていた。そんなサウンドにブラスを入れたシカゴやブラッド・スウェット・アンド・ティアーズが出てきた時代。彼らの音楽が日本に入って来る前に、次郎さんは始めていたわけですからね。
佐藤:最初に「ピットイン」のステージに立った時の記憶はあります?
松木:あります。なんか恐い感じでした。「ピットイン」の客は耳が肥えているというのは当時から有名でしたから。それと、あそこに座っているのはミュージシャンじゃないかと思うわけですよ。従業員もミュージシャンだったりする。ヘボは絶対できない。
佐藤:私が憶えている「ピットイン」に出始めた頃の松木さんは、体重が48キロぐらいで、髪が背中ぐらいまであった。いやあ可愛らしかったですよ。いまではどこかのお寺の住職みたいですけど(笑)。
松木:グハハハハ。
佐藤:20歳を過ぎた頃かな、ライブだけではなくスタジオにも呼ばれてセッションをこなし始めたのは。これは相当やったんじゃないの。
松木:演歌からコマーシャルから何から何までやりました。スタジオに行ったら勝新太郎さんがいましてね。座頭市の音楽でした。三味線を弾きながら「おめえさん、こういう風にやってくれねえか」と言われた(笑)。
佐藤:本当に引っ張りだこで、その収入たるや莫大なものだったでしょ。
松木:スケジュール帳は真っ黒。朝の10時から夜中までベタで入っていた。お金はかなり動いていましたね。銀座で飲み歩いて、翌日の朝、スタジオの駐車場で寝てました。
佐藤:宵越しの金は持たない気質で、うらやましいことに、金がなくてもどこからか出てくるんだよね(笑)。
松木:でもいままで借金は一切ないですよ。
佐藤:そのへんはきっちりしていて、ミュージシャンっぽくないよね。そんな時代を通過して、遂にピアニストの鈴木宏昌(コルゲン)さんと出会い、プレイヤーズの結成になるわけですね。
(後編に続く)
写真:君嶋寛慶

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松木恒秀さん Tsunehide Mtsuki(ギタリスト)

1948年8月8日東京生まれ。1963年、渋谷宮益坂サイトウ楽器にてギター購入、アマチュアバンドのほか、幾つかのバンドに参加。その後、1968年に稲垣次郎ビッグソウルメディアに加わり新宿PIT INNに初出演。佐藤允彦、益田幹夫、村上 寛らと経験を積み、鈴木宏昌とコルゲン・バンド(後にプレイヤーズ)に加わった。以後、日野皓正、ジョージ大塚マラカイボ、渡辺貞夫バンドなどに参加しながら、同時平行して自己の松木バンドで活動を行う。また数々のライブセッションや山下達郎、竹内まりや、吉田美奈子、トゥーツ・シールマンス等、数々のレコーディングのスタジオレコーディングに参加するなど活動の幅を広げていった。また、ナンシー・ウィルソン、阿川泰子、伊藤君子など多くの歌手と共演。TV「今夜は最高」にレギュラー出演し、タモリ、渡辺貞夫らのレコーディングにでも活躍した。その他、作編曲、プロデュースの他、岡沢章、和田晃、他数多くの才能を発掘し、近年では、2004年〜2008年にソニージャズレーベルの高田みちこのCD制作にスーパーバイザーとして加わり、「What is HIP?」でレコーディング。
ホームページアドレス http://www.t-matsuki.com/
いろんな所に呼ばれるようになりかなりの収入を得るようになった
佐藤:そうするとプロになるきっかけは何かあったのかな。
松木:音楽についていうと、こっちは小学生時代から習っていましたけど、バンドの仲間はド素人なんですね。だからジャズやりたいと思ってもできない。ベンチャーズとかビートルズになる。その頃、ちょっとした喫茶店や公会堂でダンス・パーティを開いてパー券を売るやつが出てきた。バンドが呼ばれて行くわけです。そうすると一人5千円もらえた。これが毎週のようにある。当時の大学初任給が2万円前後、これは食えると思っちゃった(笑)。そのうち、うちのバンドのギターが都合悪いから出てくれとか、どんどん呼ばれるわけです。
佐藤:そこから売れっ子セッションマン人生が始まっているわけだ。
松木:現在までずっとそのパターンですね。どこかのバンドに行ったら、そのベースの人から違うバンドを紹介されたり。そこに行ったら、また別のバンドに呼ばれたり。
佐藤:人との付き合い、つながりはとても大切にするよね。人間関係を重んじている。
松木:そんなことを言われると、こっちも良武さんを持ち上げなくちゃならない(笑)。
佐藤:これは本当にそう。ミュージシャンは我の強い人が多くて、足の引っ張り合いも時にはありますからね。お父さんからの血筋なのか義理人情に厚い。決して裏切らない。人脈も広がるよね。となると、ここからプロになったという境目があるのではなくて、なんとなくアマからセミプロ、そしてプロになっていったという感じだね。
松木:そうですね。ダンスホールで演奏したり、グループサウンズ・ブームが到来して、そういうバンドに加わっていたりとか。その頃になると「ピットイン」の評判は耳に入っていました。演奏者とお客さんが、がっちり向かい合うジャズのライブハウスはほとんどなかった。ぜひ一度は出たいと思っていましたね。「ピットイン」に出れば一流、という空気はミュージシャンのなかでありました。日野皓正さんやジョージ大塚さんを、客として聴きに行ってましたよ。
スタジオセッションでは演歌からコマーシャルから何でもやり
いつもスケジュール帳が真っ黒で10時から夜中までベタでこなした
68年に稲垣次郎さんと一緒に初めて「ピットイン」に出演を果たした
当時は怖くて絶対へぼはできないと・・・
佐藤:最初に「ピットイン」へ出たのは稲垣次郎さんのグループ、ソウルメディアの一員としてですよね。
松木:そうです。68年ですから19か20歳の頃です。次郎さんにバンドに誘われて、ああこれでジャズができると思いました。
佐藤:いま思うとソウルメディアは純粋なジャズではないよね。
松木:ちょっと前で言う、アシッド・ジャズ。
佐藤:当時としては画期的だった。一歩も五歩も十歩も先を行っていた。まだ本格的にフュージョンが出ていない時代ですから。フュージョンがまだクロスオーバーと言われていた、さらに前の音楽だからね。
松木:次郎さんは確かに進んでいました。アメリカではジャズロックと呼ばれていたのかな。ラムゼイ・ルイスたちが8ビートや16ビートの上にジャズをのせていた。そんなサウンドにブラスを入れたシカゴやブラッド・スウェット・アンド・ティアーズが出てきた時代。彼らの音楽が日本に入って来る前に、次郎さんは始めていたわけですからね。
佐藤:最初に「ピットイン」のステージに立った時の記憶はあります?
松木:あります。なんか恐い感じでした。「ピットイン」の客は耳が肥えているというのは当時から有名でしたから。それと、あそこに座っているのはミュージシャンじゃないかと思うわけですよ。従業員もミュージシャンだったりする。ヘボは絶対できない。
佐藤:私が憶えている「ピットイン」に出始めた頃の松木さんは、体重が48キロぐらいで、髪が背中ぐらいまであった。いやあ可愛らしかったですよ。いまではどこかのお寺の住職みたいですけど(笑)。
松木:グハハハハ。
佐藤:20歳を過ぎた頃かな、ライブだけではなくスタジオにも呼ばれてセッションをこなし始めたのは。これは相当やったんじゃないの。
松木:演歌からコマーシャルから何から何までやりました。スタジオに行ったら勝新太郎さんがいましてね。座頭市の音楽でした。三味線を弾きながら「おめえさん、こういう風にやってくれねえか」と言われた(笑)。
佐藤:本当に引っ張りだこで、その収入たるや莫大なものだったでしょ。
松木:スケジュール帳は真っ黒。朝の10時から夜中までベタで入っていた。お金はかなり動いていましたね。銀座で飲み歩いて、翌日の朝、スタジオの駐車場で寝てました。
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