誘惑の音楽体験!ピュアマルチチャンネルの薦め<特別編>
貝山氏が挑む!フォステクスのGX103で構成するハイCPマルチチャネルシステムの構築
●サウンドクオリティをチェック
微妙なニュアンスを見事に再現し、付帯音の少なさもG2000並みである
まず、BDの音楽ソフトをサラウンドで聴く。『小澤征爾サイトウ・キネン・オーストラ』(NHKエンタープライズ NSBS-13457)からベルリオーズ《幻想交響曲》を選び第2楽章から最後までを再生した。
これは5.0チャンネルのリニアPCMによるサラウンド音声で96kHzサンプリング、量子化24ビットの高音質ディスクだ。第2楽章「舞踏会」が始まって間もなく、ハープの響きに導かれるようにストリングスによる流麗なワルツが流れだす。その滑らかで緻密な響きは、このシステムの基本的な音の美しさを端的に表すものである。第3楽章「野の風景」の冒頭のイングリッシュ・ホルンと遠くから聴こえるオーボエの寂しげなメロディを吹くが、その響きには不安や心の動揺などという心理的な不安定要素が感じられる。
聴いていてこうした微妙なニュアンスが分かるのは、微細な音色の変化や、強弱の変化、テンポの変化が正確に再現されているからだ。それを造り出しているのはシステムの分解能の高さであり、音の立ち上がり、立ち下がりの良さであることは体験の積み重ねと音響理論の知識から感じ取れるものだ。中・高音の付帯音の少なさは、G2000に限りなく近い。これはGX103の基本帯域を再生する2本のウーファーの内部損失の大きさがもたらす立ち下がりの素早さが素直に活きた部分だと評価していいだろう。
口径10cmのユニットにもかかわらず雄大な低音が生まれたことに驚いた
圧巻は第4楽章「断頭台への行進」と第5楽章「魔女のサバトの夢、サバトのロンド」のスケール感あふれる音表現だ。この曲の演奏では通常のオーケストラの編成より、ハープ、ティンパニ、グランカッサ(大太鼓)、チューブラーベル(鐘)が増えているが、そこから生まれる迫力はただものではない。2基のティンパニと2基の大太鼓の強打は身体に直に響くし、2基のチューバも厚い低音を奏で、鐘も大音量で鳴り渡る。驚いたのは口径10cmのウーファーとボトムウーファーからこれだけ雄大な低音が生まれたこと。これは〈低音効果〉のないディスクだから、サブウーファーはいっさい働いていない。にも関わらずかなり沈みこみの深い低音が得られたのは、ボトムウーファーの設計が巧みで、その上2基のウーファーとのコビネーションが好ましく整っているからだ。
この2つの楽章では全奏部分でやや気になることがあった。このディスクではTA-DA5500ESのボリュームを-4dBに設定して聴いた。一般的な部屋での聴取を考えればかなり大きな音だが、大音量再生派の私には音量がやや小さめだと感じてしまう。ボリュームを上げればまだ音量は上がるが、-4dBで止めたのは、このアンプの美点である精細な表現がきっちり表出できるぎりぎりの音量だったからである。もしさらなる大音量を望む人には独立したバワーアンプの起用を薦めたい。
今回のスピーカーとアンプのコンビは管楽器の再生部分で能力をフルに発揮
SACDの試聴で使用したディスクは佐渡裕&ベルリン・ドイツ交響楽団の演奏する『トヴォルザーク/交響曲第9番《新世界より》』(エイベックス AVCL-25442)。これは最近発売されたSACD盤の中で最も高音質のディスクだ。この曲では第1楽章と第3楽章を聴いた。
このディスクは基本的に高めのレベルで収録さている。TA-DA5500ESのボリューム位置が-4dBのままだと、ピアニッシモで始まる冒頭のイントロダクションが大きすぎるきらいがある。結局-7dBで再生したが音量の不足感は全くなかった。
演奏が最初のクレッシェンドに差しかかり、ティンパニの連打が響き渡るが、芯の強い力感に満ちた響きは迫力に満ちている。コントラバスの強奏はみずみずしく響きこのソースと再生システムの分解能の高さを解からせてくれる。この曲で聴くべきは管楽器のさまざまな音色の表現と表情の変化、そして音離れがいいか悪いかという判断。GX103とTA-DA5500ESのコンビは、手前に飛んでくるような管楽器の響きで持てる能力をフルに発揮した。
音の締まりと躍動感をチェックできる曲が第3楽章のスケルツォ。バイオリンとからみ合うようにティンバニがリズムを造り出す部分では、かちっとした音の締まりと、活き活きとした躍動感が課題となるが、今回のシステムはここでも高得点を得た。マルチチャネル再生では音場の臨場感と音像の存在感をリアルに表現することが肝要だが、5本を同じスピーカーで構成したこのシステムでは苦労しなくてもごく自然な音場感と音像定位が表出できる。
サブウーファーは効力を発揮したが今回のシステムでは1台で十分と判断
マルチャンネルのソフトでは0.1の信号に記録されている〈低音効果〉が加わったサウンドを聴きたかったが、SACD盤は5.0chが多く5.1chが少ない。そして5.1と表示されたディスクでも〈低音効果〉が十分に楽しめるディスクは非常に少ないのだ。BDでも音楽ソースでは5.0が多い。結局、BDの映画プログラムでの試聴を試みた。使用したのはアニメーション映画『AKIRA』(バンダイ・ビジュアルBCXA-0001)。音声はドルビーTrueHD5.1ch、192kHzサンプリング24ビットの高音質ディスクである。
このディスクでは重低音が要求されるシーンが数多くある。建物の破壊音や崩壊音、そして兵器の爆発音、発射音、ヘリの飛翔音などだ。今回のシステムではサブウーファーCW200A、2基をバラレルにつなぎ、左/右スピーカーとセンタースピーカーの間にセットし、再生レベルはTA-DA5500ESの自動音場補正機能で調整している。サブウーファーを併用すると低音域の表情が変わる。重低音方向への沈み込みが深く、低音が減衰する帯域が少なくなり、低音全体のバランスが整い力感が増したことが分かる。この結果から判断すれば、このシステムではやはりサブウーファーの使用が望ましいということになる。ただし2個の使用はオーバー。サブウーファーを左/右独立で使える機能を持つAVアンプがあれば2基使用すると効果的だが、その機能を持たぬ今回の組み合わせでは1基で十分である。
●試聴を終えて
GX103を5台使用したシステムは高度なマルチチャンネル再生を実現
GX103とTA-DA5500ESのコンビから生まれたのは、映像と音の高度な再生条件を満たすシステムであった。上を望めば切りがないが、SACDやBDの本格的なサラウンド再生を楽しめるという意味では見事に過不足ないシステムに仕上がったと思う。
今回使用したハイエンドのプレーヤーの代りに推薦する機種は何か。私はデノンの新しいユニバーサルプレーヤーDBP-4010UD(25万2000円)を推薦したい。AVアンプとの価格ハランスもよく、画質・音質ともに満足できる。
【執筆者プロフィール】
貝山知弘 Tomohiro Kaiyama
早稲田大学卒業後、東宝に入社。東宝とプロデュース契約を結び、13本の劇映画をプロデュースした。代表作は『狙撃』(1968)、『赤頭巾ちゃん気をつけて』(1970)、『化石の森』(1973)、『雨のアムステルダム』(1975)、『はつ恋』(1975)。独立後、フジテレビ/学研製作の『南極物語』(1983)のチーフプロデューサー。この時の飛行距離は地球を6周半。音楽監督を依頼したヴァンゲリスとの親交が深く、同映画のサウンドトラック『Antarctica』は全世界的なヒットとなった。94年にはシドニーで開催したアジア映画祭の審査委員をつとめる。『ボーン・コレクター』のフィリップ・ノリス監督、『ハムナプトラ』の女優レイチェル・ワイズとの親交を深める。カナダとの合作映画『Hiroshima』でのアソシエート・プロデューサー。アンプの自作から始まったオーディオ歴は50年以上。映画製作の経験を活かしたビデオの論評は、家庭における映画鑑賞の独自の視点を確立した。自称・美文家。ナイーヴな語り口をモットーとしている。
微妙なニュアンスを見事に再現し、付帯音の少なさもG2000並みである
まず、BDの音楽ソフトをサラウンドで聴く。『小澤征爾サイトウ・キネン・オーストラ』(NHKエンタープライズ NSBS-13457)からベルリオーズ《幻想交響曲》を選び第2楽章から最後までを再生した。
これは5.0チャンネルのリニアPCMによるサラウンド音声で96kHzサンプリング、量子化24ビットの高音質ディスクだ。第2楽章「舞踏会」が始まって間もなく、ハープの響きに導かれるようにストリングスによる流麗なワルツが流れだす。その滑らかで緻密な響きは、このシステムの基本的な音の美しさを端的に表すものである。第3楽章「野の風景」の冒頭のイングリッシュ・ホルンと遠くから聴こえるオーボエの寂しげなメロディを吹くが、その響きには不安や心の動揺などという心理的な不安定要素が感じられる。
聴いていてこうした微妙なニュアンスが分かるのは、微細な音色の変化や、強弱の変化、テンポの変化が正確に再現されているからだ。それを造り出しているのはシステムの分解能の高さであり、音の立ち上がり、立ち下がりの良さであることは体験の積み重ねと音響理論の知識から感じ取れるものだ。中・高音の付帯音の少なさは、G2000に限りなく近い。これはGX103の基本帯域を再生する2本のウーファーの内部損失の大きさがもたらす立ち下がりの素早さが素直に活きた部分だと評価していいだろう。
口径10cmのユニットにもかかわらず雄大な低音が生まれたことに驚いた
圧巻は第4楽章「断頭台への行進」と第5楽章「魔女のサバトの夢、サバトのロンド」のスケール感あふれる音表現だ。この曲の演奏では通常のオーケストラの編成より、ハープ、ティンパニ、グランカッサ(大太鼓)、チューブラーベル(鐘)が増えているが、そこから生まれる迫力はただものではない。2基のティンパニと2基の大太鼓の強打は身体に直に響くし、2基のチューバも厚い低音を奏で、鐘も大音量で鳴り渡る。驚いたのは口径10cmのウーファーとボトムウーファーからこれだけ雄大な低音が生まれたこと。これは〈低音効果〉のないディスクだから、サブウーファーはいっさい働いていない。にも関わらずかなり沈みこみの深い低音が得られたのは、ボトムウーファーの設計が巧みで、その上2基のウーファーとのコビネーションが好ましく整っているからだ。
この2つの楽章では全奏部分でやや気になることがあった。このディスクではTA-DA5500ESのボリュームを-4dBに設定して聴いた。一般的な部屋での聴取を考えればかなり大きな音だが、大音量再生派の私には音量がやや小さめだと感じてしまう。ボリュームを上げればまだ音量は上がるが、-4dBで止めたのは、このアンプの美点である精細な表現がきっちり表出できるぎりぎりの音量だったからである。もしさらなる大音量を望む人には独立したバワーアンプの起用を薦めたい。
今回のスピーカーとアンプのコンビは管楽器の再生部分で能力をフルに発揮
SACDの試聴で使用したディスクは佐渡裕&ベルリン・ドイツ交響楽団の演奏する『トヴォルザーク/交響曲第9番《新世界より》』(エイベックス AVCL-25442)。これは最近発売されたSACD盤の中で最も高音質のディスクだ。この曲では第1楽章と第3楽章を聴いた。
このディスクは基本的に高めのレベルで収録さている。TA-DA5500ESのボリューム位置が-4dBのままだと、ピアニッシモで始まる冒頭のイントロダクションが大きすぎるきらいがある。結局-7dBで再生したが音量の不足感は全くなかった。
演奏が最初のクレッシェンドに差しかかり、ティンパニの連打が響き渡るが、芯の強い力感に満ちた響きは迫力に満ちている。コントラバスの強奏はみずみずしく響きこのソースと再生システムの分解能の高さを解からせてくれる。この曲で聴くべきは管楽器のさまざまな音色の表現と表情の変化、そして音離れがいいか悪いかという判断。GX103とTA-DA5500ESのコンビは、手前に飛んでくるような管楽器の響きで持てる能力をフルに発揮した。
音の締まりと躍動感をチェックできる曲が第3楽章のスケルツォ。バイオリンとからみ合うようにティンバニがリズムを造り出す部分では、かちっとした音の締まりと、活き活きとした躍動感が課題となるが、今回のシステムはここでも高得点を得た。マルチチャネル再生では音場の臨場感と音像の存在感をリアルに表現することが肝要だが、5本を同じスピーカーで構成したこのシステムでは苦労しなくてもごく自然な音場感と音像定位が表出できる。
サブウーファーは効力を発揮したが今回のシステムでは1台で十分と判断
マルチャンネルのソフトでは0.1の信号に記録されている〈低音効果〉が加わったサウンドを聴きたかったが、SACD盤は5.0chが多く5.1chが少ない。そして5.1と表示されたディスクでも〈低音効果〉が十分に楽しめるディスクは非常に少ないのだ。BDでも音楽ソースでは5.0が多い。結局、BDの映画プログラムでの試聴を試みた。使用したのはアニメーション映画『AKIRA』(バンダイ・ビジュアルBCXA-0001)。音声はドルビーTrueHD5.1ch、192kHzサンプリング24ビットの高音質ディスクである。
このディスクでは重低音が要求されるシーンが数多くある。建物の破壊音や崩壊音、そして兵器の爆発音、発射音、ヘリの飛翔音などだ。今回のシステムではサブウーファーCW200A、2基をバラレルにつなぎ、左/右スピーカーとセンタースピーカーの間にセットし、再生レベルはTA-DA5500ESの自動音場補正機能で調整している。サブウーファーを併用すると低音域の表情が変わる。重低音方向への沈み込みが深く、低音が減衰する帯域が少なくなり、低音全体のバランスが整い力感が増したことが分かる。この結果から判断すれば、このシステムではやはりサブウーファーの使用が望ましいということになる。ただし2個の使用はオーバー。サブウーファーを左/右独立で使える機能を持つAVアンプがあれば2基使用すると効果的だが、その機能を持たぬ今回の組み合わせでは1基で十分である。
●試聴を終えて
GX103を5台使用したシステムは高度なマルチチャンネル再生を実現
GX103とTA-DA5500ESのコンビから生まれたのは、映像と音の高度な再生条件を満たすシステムであった。上を望めば切りがないが、SACDやBDの本格的なサラウンド再生を楽しめるという意味では見事に過不足ないシステムに仕上がったと思う。
今回使用したハイエンドのプレーヤーの代りに推薦する機種は何か。私はデノンの新しいユニバーサルプレーヤーDBP-4010UD(25万2000円)を推薦したい。AVアンプとの価格ハランスもよく、画質・音質ともに満足できる。
【執筆者プロフィール】
貝山知弘 Tomohiro Kaiyama
早稲田大学卒業後、東宝に入社。東宝とプロデュース契約を結び、13本の劇映画をプロデュースした。代表作は『狙撃』(1968)、『赤頭巾ちゃん気をつけて』(1970)、『化石の森』(1973)、『雨のアムステルダム』(1975)、『はつ恋』(1975)。独立後、フジテレビ/学研製作の『南極物語』(1983)のチーフプロデューサー。この時の飛行距離は地球を6周半。音楽監督を依頼したヴァンゲリスとの親交が深く、同映画のサウンドトラック『Antarctica』は全世界的なヒットとなった。94年にはシドニーで開催したアジア映画祭の審査委員をつとめる。『ボーン・コレクター』のフィリップ・ノリス監督、『ハムナプトラ』の女優レイチェル・ワイズとの親交を深める。カナダとの合作映画『Hiroshima』でのアソシエート・プロデューサー。アンプの自作から始まったオーディオ歴は50年以上。映画製作の経験を活かしたビデオの論評は、家庭における映画鑑賞の独自の視点を確立した。自称・美文家。ナイーヴな語り口をモットーとしている。