20Mbpsで配信

世界初、4K&ハイレゾのインターネットライブストリーミングを体験!ベルリン・フィル生演奏を日本で

公開日 2019/03/01 13:32 編集部:風間雄介
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(株)インターネットイニシアティブ(IIJ)は日本時間2月28日夜、インターネットを使った4K映像・ハイレゾ音源のライブストリーミング配信という世界初の試みを行い、成功させた。その模様や、IIJがこのライブ配信を手がけた背景、今後の展開などをレポートしていく。

配信が行われたのは、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(ベルリン・フィル)のリハーサルの模様。指揮はズービン・メータだ。この演奏を、東京へインターネットを介して配信。IIJが持つCDN(Content Delivery Network)をチューニングするなど、後にくわしく述べる数々の工夫を行うことで、ベルリン - 東京間という長距離にもかかわらず、安定したライブストリーミングを実現させた。

ベルリンから送られてきた4K/HDR映像とハイレゾ音声を同時にライブストリーミング

映像は4K(HDR/HLG)で、映像圧縮にはH.265を採用。音声は96kHz/24bitで、MPEG-4 ALSを採用した。ビットレートは映像がおおむね15Mbps、音声が2〜3Mbps。オーバーヘッドも含め、約20Mbpsのデータ転送速度だったという。

なお、4K/ハイレゾ配信は、これまで一対一の実験は行われていたが、今回はインターネットを介した一対多のライブストリーミング配信を可能にしており、これをもって「世界初」を謳っている。

圧巻の「HDR感」と「ハイレゾ感」

視聴デモには、パナソニックの4K有機ELテレビ「TH-65FZ1000」、テクニクス“R1 シリーズ” のネットワークオーディオコントローラー「SU-R1」、ステレオパワーアンプ「SE-R1」、スピーカーシステム「SB-R1」などが用いられた。

数分間のライブストリーミング配信をじっくり見て、聴いたが、一瞬映像が固まった瞬間があっただけで、映像の圧縮ノイズはほとんど目立たず、音切れなどもなかった。金管楽器の煌めきなど、映像の随所に「HDRらしさ」を感じた。

実際の映像を撮影したもの。楽器のディテールまでしっかり見通せる

金管楽器の輝きもHDR映像でしっかり表現

また音声についても、ダイナミックレンジをたっぷり確保した、ハイレゾの優位性をしっかりと使いこなした音づくりで、テクニクスの最高峰であるリファレンスクラスが、豊富な情報量を悠々と鳴らし切る。フルートの流麗な響きにひそむ細かなニュアンスや、打楽器の一つ一つの音の粒立ちは、通常のストリーミング配信で使われるAACなどとは、当然ではあるが次元が異なる。また、時おり楽団員の演奏が熱を帯び、体をぐっと乗り出したときなど、床が軋む音までがリアルに聞こえ、その場にいるような臨場感が得られる。

ベルリン・フィルがパナソニックの協力のもと、4K/HDR映像制作を行っていることは、2017年8月にベルリン・フィルのコンサートホールを取材し、以前に当サイトの記事でも紹介した。

その際に9台の4K/HDRカメラが設置されていると説明を受けたが、これは今も変わっていないそうだ。これらのカメラはリモートで操作され、1台の操作担当者が9台のカメラをコントロールしているのだという。

また、今回のライブストリーミングの視聴アプリには、ラディウスの「NeSTREAM」が使われた。これをパナソニックの4Kチューナー「TU-BUHD100」にインストールし、ストリーミングされてきたデータをデコード。映像はHDMIから、音声はUSBから出力した。

左がパナソニックの4Kチューナー、右の白いボックスが「ドコモテレビターミナル」

なお「NeSTREAM」はiOS版アプリも用意されており、iPadやiPhoneでも、このライブストリーミングを視聴できることがデモされた。この場合、iPadやiPhoneの画面解像度が4Kではないため、ダウンコンバートされて表示されるが、それでも元が4Kなので、非常に精細な映像が楽しめる。さらに音声はLightning端子から同じくラディウスのDAC搭載ヘッドホンアンプ「AL-LCH81K」に出力し、96kHz/24bitのハイレゾオーディオを聴くことができた。

ラディウスの「NeSTREAM」はiOS版アプリも用意されている

こちらはiPhoneでのデモ。96kHzまで信号が来ていることが視覚的に理解できる

そのほか、今後はNTTぷららが開発している「ドコモテレビターミナル」でも、同アプリを使って4K/ハイレゾ配信を体験できるようにする予定だ。

20Mbpsのデータを安定的にストリーミングする工夫

さて、ストリーミングを受ける側の環境については上記の通りだが、送り出し、つまりベルリン側のシステム構成はどうなっているのか。

映像は前述のパナソニック製4K/HDRカメラで撮影し、フレームレートを変換するコンバーターを介する。4K/50pで撮影しているので、これを変えないと日本のテレビでは表示できない。一方で音声については、ノイマンなどのマイクを使って収録したものをミックスする。

そのあと、映像と音声をエンベデッダーで一つのストリームにするのだが、どうしても音の方が処理が速いため、ふつうにやると映像が遅れてしまう。このため、エンベッドの前段で、音をわざと遅らせる装置を噛ませる。昨夜のデモ時には約0.55秒、音声を遅らせていた。

さて、そうして一つのストリームになった映像と音声は、まだ13Gbpsもの膨大なデータ量がある。このため、エンコーダー(NTTエレクトロニクス製のHEVCリアルタイムエンコーダー「HC11000」)で映像を圧縮し、先ほど説明した20Mbps程度までビットレートを落とす。そこからストリーミングサーバーに送られる。

ここからが面白い。すぐに東京へデータを送るのかと思いきや、いったんロンドンにあるIIJの設備にデータを送る。そこで、ロンドン - 東京間という非常に遠い距離でもスムーズにデータを送れるよう、チューニングを施すのだという。

そこで転送効率を上げたデータは、日本に送られ、IIJが持つ国内最大規模のCDNを使って、大容量データを安定的に転送することができる。

全体の配信構成

なお、リアルタイムとはいえ、クライアント側でバッファーを持つ必要などがあり、実際には遅延が1分程度ある。ベルリンで1分前に行われた演奏が東京で流れているというイメージだ。

IIJ 経営企画本部 配信事業推進部 担当部長の冨米野孝徳氏は、「配信市場が拡大している中、パブリックビューイングやSNSでの共有など、同時性がキーファクターとして取り上げられている。このためインターネット・ライブ・ストリーミング配信の需要は拡大するとみている」と、こういったソリューションに取り組んでいる背景を説明した。

IIJ 経営企画本部 配信事業推進部 担当部長の冨米野孝徳氏

また冨米野氏は、「従来は同時性と言えばテレビの生中継だったが、放送は4K映像やハイレゾ音源など高品位なコンテンツに追いつけていない。それに対して配信は簡易的かつ低コストに導入でき、今後は5Gも開始する」と、今後のライブコンテンツ配信におけるインターネットの優位性も強調した。

IIJはこれまで、1995年に日本発のストリーミングサービスを提供して以来、映像や音声の品質向上に対応した取り組みを先んじて行ってきた。近年では、DSD 11.2MHzの配信を2017年に開始したほか、4K映像配信も2013年の段階から実験を繰り返してきた。それを組み合わせ、4K/ハイレゾストリーミング配信として結実させたのが今回のデモだった。

IIJネットワークの強み

これまでの、IIJの映像・音声配信に関する取り組み

今後の鼻息も荒い。「さらなるチャレンジ」として、音声についてはマルチチャンネルやサラウンド配信、映像については8Kによるさらなる高精細化や、マルチアングル映像などの配信にも取り組むという。

今後は、音声についてはマルチチャンネルやサラウンド配信、映像については8Kに取り組む

そのほか、コンテンツをテレビに映し出すだけでなく、VRへの活用も検討。自宅にいながらにして、音楽ライブだけでなく、舞台、スポーツなど様々なコンテンツを、VRヘッドセットで自由な視点から見ることを実現したいと語った。

IIJではこの4月から、コンテンツホルダーやコンテンツ配信事業者に向け、この配信ソリューションを提供する。配信システムの構築、エンコーダーのレンタル、ネットワークサーバーの提供、CDN配信などを行い、ソリューション費用を得ていく計画だ。

IIJはコンテンツホルダーやコンテンツ配信事業者にソリューションを提供して対価を得る考えだ

「IIJの鈴木会長はカラヤンにとっての大賀さんのような存在」

発表会の冒頭には、IIJ 代表取締役会長 兼 CEOの鈴木幸一氏が登壇。「3年前くらいからベルリン・フィルと一緒にやってきた。私自身は、4Kや8Kなど高精細な映像配信とハイレゾ配信に向かうのは必然と考えており、これらによって、インターネットを使った、全く新しい配信サービスが作れるのではないかと考えている。本音を言えばもう少し早く実現したかったが、ようやくここまで来た。これを一つのメルクマールとして、次へ邁進していきたい。ネットはさらに発展するもので、どこまでいけるかやっていきたいし、見守っていきたい」と語った。

IIJ 代表取締役会長 兼 CEOの鈴木幸一氏

また、ベルリン・フィルの活動を様々なメディアで広げることを目的としてベルリン・フィル・メディア 取締役のローベルト・ツインマーマン氏も来日し、挨拶した。

ベルリン・フィル・メディア 取締役のローベルト・ツインマーマン氏

まず同氏は、「ベルリン・フィルは世界最高峰の楽団だが、常に最新技術に高い関心を持っているところがほかの楽団と違うところ」とアピール。「1940年代、磁気テープが開発されたとき、最も早くそれを使った。カラヤンも多くのLPを残した。カラヤンが大賀氏に助言してCDの記録時間が決まったという話もある」と過去の逸話を紹介しながら、ベルリン・フィルがテクノロジーを非常に重視していることをツインマーマン氏は強調した。

同氏はさらに、「ベルリンと東京のあいだを、20Mbpsでライブストリーミングでつなぐというのは、数年前は考えられなかったが、IIJの技術力で可能になった。IIJのたゆまぬ努力に感謝している。というのは、我々は夢を持つことはできるが、実際にそれを実現する技術を開発できるわけではない。ビジョンを実現する技術やパートナーが必要だ。IIJはともにビジョンや夢を共有でき、ソリューションを提供してくれる。このパートナーシップに幸福を感じ、深く感謝している」と謝意を述べた。

その上で、前述の鈴木会長への感謝の意を改めて表明。「鈴木さんは素晴らしい起業家であるだけでなく、ものすごいクラシックファン。我々の願いを完璧に理解している。インターネットと音楽を両方理解している希有な方で、ある意味で、カラヤンにとっての大賀さんのような存在」と最大級の賛辞を送った。

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