公開日 2020/12/29 07:00

坂本龍一による「MUSIC/SLASH」初のハイレゾ配信を、本気のオーディオで聴いてみた

坂本龍一『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 12122020』体感レポート

■iOSにはUSBカメラアダプタ、AndroidにはUSB-C→AのOTGケーブルが必要

スマートフォンとDACとの接続には、iOS端末のiPhone 12 ProではUSBカメラアダプタ、Android端末であるXperia 1 IIにはUSB-C→USB-AのOTGケーブルが必要となる。“SAMPLE MOV”音声も本番同様96kHz/24bitファイル(楽曲は「energy flow」)が用意されていたので、iOS端末とAndroid端末での場合、どのように音質が変化するのかスクランブルチェックを行った。用意されたサンプル楽曲と本番の録音環境が違うため、本番中の音質傾向ではないことを予め踏まえたうえで、各DACの音質について軽くレビューしておきたい。

APPLE「iPhone12 Pro」からのデジタル出力には、USBカメラアダプタが必要

そもそもなぜ本番中にDACを切り替えてチェックしないかという点についても説明しておくと、USB-DAC交換の都度、通信が切れるとアプリとの連携に支障が起き、DAC側を認識しなくなることがあるからだ。ライブストリーミングも生のライブと同様、一期一会。DAC交換で音が途切れるだけでなく、DACを認識しなくなるとアプリやスマートフォンを再起動しなくてはならず、場合によっては1曲単位でライブを見逃してしまう。サンプル音源でどの程度まで本番を想定できるのかは挑戦であったが、本番中はできるだけ演奏に集中したいためこのようなスタイルでの試聴となった。

■DAC4機種を切り替え、スピーカーで比較試聴する

まずティアックUD-505からサンプルのピアノ音源を聴く。iOS端末との組み合わせではまとまり良く、すっきりとしたアタックとまろやかに響くハーモニクスの豊かさが耳馴染み良い。一方Android端末ではまろやかな響きの傾向は同様だが、アタックの倍音成分は強めで低域方向は太く伸びやかだ。

続いては『TATSURO YAMASHITA SUPER STREAMING』でも用いたコルグNu1である。iOS端末を接続したUSB-DAC DIRECT出力の音はスッキリとした余韻の清涼さと押し出し良い逞しいアタックを聴かせ、ペダル音も鮮明だ。その反動か、リヴァーブは幾分控えめに聴こえてくる。Nutube HDFC機構を使ったLINE出力では低域弦の厚みもあり全体的にスムーズでナチュラルな傾向。Nutube HDFCを入れるとより高域のブライトさが際立ってくる。そしてAndroid端末に切り替えると高域にかけて倍音の穏やかな響きを載せつつ、芯の逞しいサウンドが展開。こちらもペダル音など細やかな描写を克明に引き立てる。音場感も自然だ。LINE出力においては腰の太いずっしりとした低域弦の響きが印象的で高域のエッジもスッキリとまとめ、ハーモニクスもまろやか。リヴァーブは深く伸びる。

3機種目はラックスマンのDA-06だ。iOS端末では艶良くしっとりとしたトーンで、低域方向も素直に伸び、ハーモニクスも豊か。全体的に落ち着き良く重心の低いサウンドだ。Android端末においてもしっとりとした上品な音色傾向であるが、高域の倍音のエッジが幾分強めである。ハーモニクスを丁寧にまとめ、リヴァーブは深くリッチに表現。ボディ感もしなやかで響きが美しい。

スピーカーから聴くDACの最後となるのはハイエンド機、アキュフェーズDC-950である。iOS端末だが、他の機種と接続したときとはアプリの挙動が異なり、アプリ内のボリューム操作が必要になった。音質傾向としては中低域の響きがどっしりとした骨太な描写となり、高域の煌びやかな倍音表現も適度にあり、耳当たり良いサウンドとしている。中域のエナジーが強くリヴァーブも伸びやかだ。Android端末でも骨太のどっしりとした音質傾向であり、ハーモニクスはマイルドな響きとなり、落ち着きのあるサウンドとなる。描写性は甘い部分もあるが、これはDACの性能というよりストリーミング音源の粗が明瞭となる印象で、ハイエンドDACならではの難しさを実感した。

プリアンプにアキュフェーズ「C-3900」、パワーアンプはアキュフェーズ「P-6200」×2、スピーカーはB&W「803D3」を用いた

■イヤホン/ヘッドホン環境ではソニーTA-ZH1ESが良好

さらにイヤホン/ヘッドホン環境での試聴だが、まずイヤホン環境としてUSB-C端子直結型のiBasso DC03をAndroid環境用としてチェック。全体的にクリアな傾向で、低域方向もナチュラルに表現。ペダル音も鮮明で、高域の響きは倍音表現が強めに出ている。ディテールは多少ざらついた質感であり、DC-950同様ストリーミング環境のウィークポイントが目立ってしまう結果となった。

ヘッドホン環境はソニーTA-ZH1ESで試したが、HD800 Sとの接続はより緻密で解像感、S/N表現に優れたバランス接続で確認。iOS環境ではキレ良くスッキリとした音質傾向で、アタック音も鮮明に描き出す。倍音の伸びも良く、コシの太い安定傾向のサウンドだ。ペダル音やリヴァーブの分離も良い。Android環境では引き締まり良くリアルな音質傾向で、丁寧かつスムーズに描写。スッキリとしたクリアな表現はiOS環境と同じベクトルにあるもので、低域弦と高域弦の定位も明確だ。

次ページ本番ではラックスマンとiPhone12 Pro。ソニーTA-ZH1ESとXperia 1 IIで臨む

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