公開日 2020/01/16 06:30

テクニクス最上位イヤホン「EAH-TZ700」は “現代の名機” だ! 50数年の技術が小型筐体に凝縮

【特別企画】あえてこだわったダイナミック型の可能性
岩井喬
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1ヶ月使い続けた。エージングで音はどう変わった?

今回1か月近く、ほぼ新品状態のEAH-TZ700のデモ機をお借りし、エージングによる音質の変化も確認してみた。非常に柔らかいフリーエッジ構造を持ったプレシジョンモーションドライバーは、通常の同一素材で構成されたダイナミック型ドライバーに比べ、開封直後から低域が豊かに響く印象だ。しかし若干制動性が弱く、豊かな低音の余韻が残るように感じる。高域もやや刺激的な傾向だ。

3Dハウジングは指先に絶妙にフィット。この持ち方のまま耳に挿入することで最適なリスニングポジションに収まるよう設計されている

そこから2日間程度バーンイン音源を流し続けると低域の見通しが良くなり、リズム隊のアタック&リリースも正確で、音像の引き締めも適度に感じられるようになった。弦楽器の質感も艶良くしなやかだが、高域のエッジの粗さはまだ残る印象だ。その後1週間ほど聴き込むと高域の響きも落ち着き、相対的な効果か低域もアタックの硬さが取れ、ローエンドの伸びやかさ、音像のボディの厚みも高まっている。全体的にほぐれ良く分解能の高い緻密なサウンドとなった。

これ以降は基本的に変化は少なく、本質的なバランスの良さ、ワイドレンジでシームレスなナチュラルサウンドを聴かせてくれる印象だ。開封直後であっても基本的な音質は高く、他のハイエンドモデルよりは極端なバランスの偏りがない、鳴らしやすい感触である。

シングルエンドの音質。ナチュラルだがキレや抑揚表現も申し分なし

では、より詳細にそのサウンドを確認してみよう。用意したのはAstell&Kern「SP1000M」だ。まずは標準の3.5mmステレオミニプラグ仕様を用いたシングルエンド接続でのチェックだが、密度高く伸びやかで、ローエンドの響きは量感がありつつもリズムのキレは的確に表現する。音像は厚みがあり、輪郭を作り出す倍音表現も過度に誇張せず、ナチュラルな艶程度にまとめ、耳当たりが良い。

オーケストラの旋律のきめ細やかさ、余韻の清々しさは非常に上品であり、音場の静寂感も見事に引き出す。管弦楽器は純度が高く、ハーモニーの響きも倍音豊かに描写。ホールトーンも澄み切っており、低域の押し出しも弾力良くクリアにまとめている。抑揚感よく旋律を描き、フォルティシモも実に躍動的だ。

DSD音源では余韻の自然な伸びを柔らかく描き、弦楽器や声の艶をハリ良くしなやかに引き出している。ボーカルは音離れ良く潤いに満ち、付帯感なくリアルに定位。ボディ感も自然だ。ウッドベースの胴鳴りも膨らみすぎず、弦のアタックのたわみもリアルな太さを感じられる。ホーンセクションの旋律も粒立ち良く引き立たせ、タンギングのキレ、余韻の残響も落ち着き良く表現。ピアノの響きも低域方向から高域にかけ自然な厚みを持ち、アタックの硬さも適度に持たせている。ハーモニクスも素直にまとめ、倍音の爽やかさも相まって有機的な響きを生み出す。

ロック音源のリズム隊もグリップ良く跳ね、ベースとキックドラムの描き分けも明瞭だ。エレキギターの質感も丁寧にまとめ、僅かなリヴァーブ感も掴み取れる。ボーカルはボトムの軸を的確に持たせ、安定的に描く。口元はハリ艶良く浮き立ち、スネアドラムのキレ感とも喧嘩せず、抑揚豊かに表現。シンバルワークも粒立ち細かく、余韻の階調も丁寧にトレースしてくれる。

イヤーピースは専用設計で、一般的な真円型(写真右上)と外耳道に沿いやすい楕円型(右下)の2種類を4サイズずつ、計8ペアを用意

9人のボーカルと、複雑かつ様々な楽器が重ねられているAqours「HAPPY PARTY TRAIN」では、力強く躍動するベースやキックドラムの押し出しの良さと、ソリッドかつシャープに浮き立つセンターのボーカルの対比の良さが印象的。大きな盛り上がりを作るサビの描写も個々のパート、楽器のフレーズが飽和せずクリアに描かれる。特に2コーラス目のAパートからサビにかけてはメロディを引っ張る爽やかなストリングスが鮮やかにフィーチャーされ、フレーズごとに入れ替わるボーカルの声色もキレ良くクリアに描き分ける。

ハイレゾ版の井口裕香「HELLO to DREAM」ではドラムの分厚さとベースの朗々としたプレイを土台に芯のぶれないしゃきっとしたボーカルのクリアさ、ボトムの密度感を実感。Aパートにおける休符でのベースの余韻も量感を残しつつスッと収束。Lch側のディストーションギターの厚みとRchサイドのエレキギターの小気味良いクリアで粘り良いフレーズの対比もコントラスト良い。

続く#2の「We are together!!」ではファットに繰り出すエレキベースと広がり良く繰り出されるキックの量感に圧倒されつつも、音場全体のクリアランスは確保されていることに驚く。豊かな低域に負けない明瞭で厚みのあるボーカルの艶も見事だ。コーラスやクリーンギターの爽やかなフレーズ、ふわりと浮き上がるシンセサイザーの輝きもきれいに分離し、前後感良く展開する。

バランス接続ではアタックのキレと分離の良さが向上

バランス駆動ではより制動性が高まり、アタックのキレと分離の良さが向上。リヴァーブ成分のきめ細やかさもより良く掴め、S/Nの高さが際立つ音場の清々しさ、余韻のリアルなトレース力も見事である。ボーカルの凛としたメリハリ良い佇まいも凄味があり、口元の動きや息遣いの生々しさ、僅かな潤い感の表現も申し分ない。楽器のニュアンスも緻密かつ丁寧にまとめ、フォーカス良く鮮烈だ。リズム隊の引き締めと立ち上がりの素早さ、立下りの見事なコントロールにより立体的で奥行き深い、臨場感あふれるサウンドを実現してくれている。

テクニクスの技術が結集した現代の名機

本体がぴったり収まるキャリングケースも付属するため、外への持ち運びも安心だ

かつてのハイエンド機であるRP-HV100の、物量がものをいう大口径ウーファーによる低域表現と比較し、EAH-TZ700のプレシジョンモーションドライバーは1発でも十分な低域の量感とレンジの広さ、優れた音場感を両立している。むしろマルチウェイの必要性を全く感じない、シームレスで分離良い高解像度サウンドで、EAH-TZ700の圧倒的な表現力には終始感心しきりだ。

プレシジョンモーションドライバーは、ダイナミック型ドライバーの構造から見直すことで、スペック的にもそして音質的にも、これまでにない領域にまで踏み込んだ高いクオリティを実現することを証明した。

特性偏重ではなく、しっかりと音楽性に寄り添うサウンドチューニングに気を配っている点は、新生テクニクスならではの美点だ。

EAH-TZ700はダイナミック型の新たな可能性であるとともに、50年以上の歴史を持つテクニクスで受け継がれた技術力の高さも十二分に堪能できる、現代の名機といえるだろう。



■試聴音源
・飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』〜第一楽章(96kHz/24bit)
・デイヴ・メニケッティ『メニケッティ』〜メッシン・ウィズ・ミスター・ビッグ(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)
・長谷川友二『音展2009・ライブレコーディング』〜レディ・マドンナ(筆者自身による2.8MHz・DSD録音)
・『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』〜届かない恋(2.8MHz・DSD)
・Suara「キミガタメ」11.2MHzレコーディング音源

(協力:パナソニック)

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