増やすと音が良くなるワイヤレススピーカー!? 自由な設置で“立体音響”を実現、Cear「Pave」のフシギ
最近、Appleをはじめとした大手メーカーがいわゆる「空間オーディオ」音源を広めていて、立体的な音の体験が身近になってきた。
一方でそうしたフォーマット上の立体音響の音源とは別に、普通のステレオ音源でも立体的な音場を再現できるスピーカーが人気を集めている。それが、昨年レポートした鹿島の「OPSODIS 1」やCear(シーイヤー)の「pavé(パヴェ)」に代表される、いわば「仮想音源型」の立体音響スピーカーだ。
音響ソフトウェア技術を背景にスピーカーを開発
仮想音源型というのは、スピーカーの本来ある位置を超えた位置から音が聴こえてくるような製品だ。今回は最近話題のCearのpavéについて、Cear社でインタビューした内容を交えて紹介していく。
2018年に創業したCear社は音響関係の測定とソフトウェア開発、技術提供をする会社であり、多面的な顔を持っている。筆者がCear社に興味を持ったのは、final「ZE8000」発表会で細尾社長が「Cear」という名を何回か口にしたからであり、後にpavéを知ることになった。
Cear社の歴史は2011年に共栄エンジニアリング株式会社の一部門として始まり、当初からCSR(現在はクアルコムに買収)と関係が深かった。2015年には自社ブランド製品も手掛け始め、これがpavéにつながる。こうした点が同社を多面的に見せているのだろう。
そして2023年には今回取り上げるpavéをクラウドファンディングで発売開始、初日で1000万円を超える支援を集める大成功を収めた。
クロストーク・キャンセルが立体再生の鍵
pavéは片手で持てるような小型の立方体の形をしたワイヤレススピーカーだ。最小限のミニマルデザインだが、このシンプルなスピーカーが立体音響を可能とする秘密は、内部に2個反対向きに搭載されたスピーカーと、Cear社独自の空間音響技術「Cear Field」にある。
自在に音の出る場所をコントロールするような仮想音源型のスピーカーを実現するためには「クロストーク・キャンセル」と呼ばれる信号処理技術を使用することになる。これは基本的にはOPSODIS 1もpavéも同様だ。
クロストークとは左右の音が混ざることを指す言葉で、普通のスピーカーでは必然的にクロストークがある。そのためリスナーの脳ではスピーカーの位置が物理的な位置に(いわば正しく)判断されてしまう。それをいったん打ち消すのがクロストーク・キャンセル技術だ。打ち消してから、自由な位置に音源を持ってくるようにクロストークを制御して人工的な定位を作り出すわけだ。
具体的には左のスピーカーからは左チャンネルの通常の音と、右チャンネルの逆位相の音が同時に出ている。もちろん言うほど簡単ではなく、ここに各社のノウハウが詰まっている。内部的な演算処理が重要なのは言うまでもないが、その外形デザインにも特徴が表れている。
例えばOPSODIS 1では周波数特性に応じて3つに分けたスピーカーを近接配置して直接リスナーに向けるデザインだが、pavéにおいては左右2つのスピーカーを背中合わせに配置して一つの筐体に収めている。これはつまり両者のアプローチに違いがあると言うことだ。
pavéのアプローチは、従来の立体音響スピーカーの制限を超えて立体音響を感じることができるということだ。従来の立体音響スピーカーではスイートスポットにいると立体音響の効果が高いが、スイートスポットを外れてしまうと効果が薄れてしまうという難点があった。特にスイートスポットから出るとボーカルがなくなりやすいということだ。
この課題に対するpavéの解決策は、クロストーク・キャンセルを最小限にするということである。そのため、物理的にはもともとクロストークが少なくなるようにするために、スピーカーが正反対に背中合わせとなって設置されている。次にデジタル処理で音源から情報を取り出す際に、ボーカル成分にはあまりクロストークをかけないという手法が取られている。
1台でも、複数台でも活用できる
それでは実際の音はどうなのかと、デモをしてもらった。実のところ筆者は何度かpavéの音を聴いたことがあるが、何回聴いてもこれには驚かされる。
事務机の上にポンと一つのpavéを無造作に置いただけだが、どこから音が鳴っているのか分からないくらい、大きなスピーカーかサラウンドスピーカーから音が鳴っているように感じられる。しかも迫力があり、アコースティックギターやボーカルもクリアできれいに聴こえる。オーディオ的に聴いても違和感はなく、普通に音質が良いと感じられる。処理を最小にするというアプローチが、結果的に立体音響なのに音質が良いということにもつながるようだ。
そしてこの記事のためにメモを取っていたノートパソコンの液晶の裏に置いても、立体音響は変わらない。液晶を閉じても同じように聴こえる。
仮想音源というよりは「魔法音源」とも言えるような不思議な音の包まれ感があるのに驚かされる。pavéは人がスイートスポットに行くのではなく、スピーカーを持ち運んで人に合わせられるようなものとも言えるだろう。実際に購入者からはスピーカーの位置を意識しなくともよいという意見も多いそうだ。
コンパクトで持ち運びやすいと言う他に、pavéにはもう一つの「自由」がある。それはワイヤレスの自由だ。これは単体で置き場所が自由というだけではなく、組み合わせる自由があるのだ。
これはクアルコムのファームウェアに長けたCear社らしいところで、BluetoothのAuracastに独自の拡張をした「Cear LINK」という複数台リンクの仕組みを有している。ワイヤレススピーカーを複数台リンクすることで新しい音の世界が創出できる。つまりpavéを複数個重ねるだけで、ワイヤレスPAのスピーカーアレイのようなことができるのだ。Snapdragon Sound対応の低遅延特性も有しているそうだ。
ここでまたデモをしてもらった。実のところ一つだけでも複数スピーカーがあるように感じられるのだが、そこに数を増やしていくとどうなるかというと、音量が大きくなるだけではなく、より低音が深く本格的な厚みや豊かさが感じられてくる。つまり音質が良くなってくるように感じられるのだ。
ひとつだけだとそれなりに音質が良いBluetoothスピーカーというサウンドだが、複数組み合わせるとまるでBluetoothスピーカーが、据え置きの本格的ハイファイ・スピーカーにでも変身したかのように音質が向上する。これはまさに不思議な感覚としか言いようがない。
PA現場の活用にも期待
こうしたpavéの特徴はすでに現場でも使用されている。例えば昨年夏の大阪万博で開催されたBluetooth SIGのイベントにおいては、座る場所によって英語と日本語でアナウンスが聞こえるようにするためにpavéが使われたという。また、さっぽろ雪まつりではスピーカーの設営が困難な環境下で、ユニットを重ねるだけで必要な音圧を確保できるPA代わりのソリューションとして重宝されたそうだ。
pavéのサウンドに関しては、実際に聴いてみないと分からないという面もある。この2月から「二子玉川 蔦屋家電」1階、住のフロアにおいて予約制でpavéの試聴が可能で、興味がある方は実際に聴いてみて欲しい。試聴というよりは体験と言った方が良いかもしれない。
鹿島建設のOPSODIS 1とCearのpavéは似て非なるものだ。OPSODIS 1がヘリやラジコンカーが耳の後ろへ回り込むような立体音響を精密に再現することに優れているのに対して、pavéではどこに座っても立体音響に包み込まれる感じがし、スピーカーがどこにあるか分からないような包まれ感を楽しめる。またpavéには複数ユニットを組み合わせていく自由な面白さがある。
端的に言えば一人で椅子に深く腰掛けて、映画やゲームの音響に没頭したいならOPSODIS 1、部屋中を歩き回ったり複数人で心地よい音のベールに包まれたいならpavéということになるかもしれないが、もちろんリスナーそれぞれの使い方に委ねられている。それぞれのライフスタイルに合わせて、この新しい音の世界を楽しんでみてはいかがだろうか。
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