公開日 2016/05/24 09:29

5,000円で買えるゼンハイザー。CXシリーズ「CX 1.00」レビュー

ゼンハイザー「CXシリーズ」を聴く(3)
では音の印象を述べていこう。まずは今回一斉に試聴した各モデルの特徴をざっくり一言ずつ紹介した上で、このモデルの印象について詳しく書いていこうと思う。

●CX 5.00|目立つ主張をあえてしない本当に上質な音
●CX 3.00|鋭さや太さをしっかり届ける明快な高音質
●CX 1.00|低域控えめだが高域の綺麗さは上位に肉薄

このシリーズ全体は名門ゼンハイザーの入り口となるエントリークラスにふさわしい正統派の音色やバランス。それを基調とした上でその範疇の中で各モデルの個性もある。価格帯的に設計の余裕もあると思われる「5.00」はその基調に最も忠実なモデルだ。対して「3.00」はコストの制限がある中で、音作りの工夫とそれを活かした個性でプラスアルファの魅力を獲得したモデルと言える。

ではこの「1.00」はというと、さらに厳しいコスト制限の中であえて「3.00」のような音作りはせず、シリーズの基調となるサウンドをこの価格帯で可能な範囲で素直に提示したモデル、といった印象だ。

具体的には、高域の感触は他のモデルよりも少し硬めでその鋭さや明るさは少し強く感じるが、荒っぽくない細やかなシャープネスという方向性はしっかり維持されている。女性ボーカルについては、やはり上の価格帯のモデルが持つしなやかさがうらやましくなる。しかしシンバル、ギターのカッティングなどのリズムは硬めにかっちりと立っている方が好みという方には、こちらの方が合うかもしれない。

「シリーズの基調となるサウンドをこの価格帯で可能な範囲で素直に」というところをより強く感じるのは低域だ。「5.00」ほどの総合的な存在感も「3.00」のような太さの演出もないので、比べると薄味には感じるだろう。

「CX」シリーズの上位モデル「CX 5.00」(左)と、中核モデル「CX 3.00」(右)

例えばQ-MHz feat. 小松未可子さん「ふれてよ」のベースは、歌と並ぶ主役…ではないが、彼がいなければ物語が成り立たない最も重要な脇役だ。それをもう少し前に出してくれると、この曲の表現としてもっと充実すると思う。このモデルだと音像はクリアなのでベースラインはしっかり届いてくるが、重みであるとか強さであるとかは少し物足りない。

『Q-MHz』

しかし、物量投入での低域制動などが難しいこの価格帯で低域を無理に出そうとすると、「低音が出るには出たが抑えきれずに出まくってる」ということにもなりがちだ。この曲のようにベースが「最も重要な脇役」だとしても、あくまで脇役であり、主役ではない。主役はボーカルだ。そしてそれはこの曲に限らず、ポップスやロックの歌もの全般の鉄則であることは言うまでもない。いや歌とベースの関係に限らず音楽やオーディオ全般において、特定の楽器や帯域が「出すぎるよりは足りないほうがまだよい」というのは考え方のひとつだ。

ゼンハイザーはこのモデルの音作り、特に低域においては「過ぎたるは及ばざるよりも悪し」「無理せず素直に」と判断した、ということだろう。そのあたりにピンときたエントリーユーザーには特におすすめしたいモデルだ。

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