公開日 2016/03/04 10:00

“第二の鼓膜”とは? 新生ブランド64 AUDIOのカスタムIEM「ADEL Aシリーズ」に迫る

【特別企画】1964 EARSの技術を受け継ぐブランド
レビュー:NetAudio編集部 浅田陽介/記事構成:Phile-web編集部
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【3】Net Audio編集長・浅田がADELシリーズ注目の4機種を試聴レビュー!

今回試聴レビューを担当する季刊Net Audio誌の編集長・浅田陽介は、以前に1964 EARSのカスタムIEM「1964-Q」を作ったこともある1964 EARSユーザー。1964 EARSの音に馴染みのある浅田が、その派生ブランドである64 AUDIOの実力を知るべく、A12/A10/A4/A2の4機種の音を体験した。(※プレーヤーはAstell&Kern「AK380」を使用)

Aシリーズを試聴するNet Audio編集長 浅田陽介

ADEL Aシリーズから、
注目の4機種をピックアップして音を体験
Text by 浅田陽介


▼A2

2ドライバーを搭載するA2。メーカー側の説明ではハイ、ローというよりもミッドが強めとされているが、実際にはハイ側もかなり広く出ている印象だ。ドライバー数としてはシリーズ中最も少ないものの、その情報量は十分で、かつ音楽全体として力強く表現される傾向が強い。

A2を装着したところ

試聴で使用したエルビス・コステロ&ルーツの『ワイズ・アップ・ゴースト』(44.1kHz/24bit FLAC)では、シンプルな楽器で構成されるバンドのサウンドを抜け良くかつしっかりとした力感で表現する。また、1990年代〜2000年代前半の音源にはかなりローを強く入れたうえで音圧を強めた音作りのタイトルが多いが、そうした音源を長時間聴いていても疲れない。このあたりは、いたずらに低域を伸ばさないドライバー構成とADELテクノロジーが余計な音圧を逃してくれるがゆえの効果といえそうだ。

ジャンルとしては、サンプリングを多用したクラブ/エレクトロニカ系や、現代的なロック系との相性が良い。音楽をパワフルに聴きたいユーザーにおすすめだ。

▼A4

64 AUDIOの母体となる1964 EARSのカスタムIEMを聴いた際、実は個人的に最も好みだったのが4ドライバーモデルだった。A4はローに2基、ミッド、ハイにそれぞれ1基の4ドライバー構成となる3ウェイ基となるが、1964 EARSで聴いた4ドライバーのサウンドとはかなり傾向が異なり、かなり太い低域が支配的なバランスとなる。

A4を装着したところ

一般的にはここまでの量感を持つ低域表現の場合、音階の表現が甘いサウンドとなることが多いのだが、A4は解像度をしっかりキープした低域となっていることは大きな特徴だ。「重い」というよりは「軽い」ながらも太さはあるという、なかなか聴くことのできない絶妙な表現力といえるだろう。

全体的なサウンド傾向としてはA2にローのエネルギーを足したイメージ。ロバート・グラスパー・エクスペリメント『ブラックレディオ2』(96kHz/24bit FLAC)はかなり低域情報が入った録音だが、A4で聴くと豊かな低域で生み出されるグルーヴが本当に気持ちいい。

また、個人的に非常に相性が良いと感じたのは、全体に硬めの音作りが多い80年代半ば〜90年代半ばくらいの楽曲。このグルーヴ感の表現は、一度ハマると抜け出せなくなる。

▼A10

2基のロー、4基のミッド、4基のハイという10ドライバー構成となる。通常、ドライバーの数が多くなればなるほど、位相のコントロール等は難しくなるが、A10はレンジの広さはもちろんのこと、定位の表現に至るまで極めて高いレベルを実現している。おそらく、シリーズ中で最も音のバランスが良く、また最もオールマイティな表現力を持っているといえる。

A10を装着したところ

驚くのは、個々の音に対する描写力。スナーキー・パピー『シルヴァ』(44.1kHz/24bit FLAC)は10人編成近いバンドとメトロポール・オルケストという世界最大級のジャズ・オーケストラとの共演作になるが、A10ではこの大人数だからからこその演奏の迫力や、多彩なリズムが重なって生まれる“音楽的な面白さ”が存分に体感できる。もちろん、小編成の楽曲の表現も極めて優秀で、例えばピアノ・ソロの楽曲を聴くと収録場所の広さを思い浮かべられるほど。この豊富な情報量の再現は特筆したいポイントだ。

イヤホンにありがちな閉塞感もかなり少なく、開放感すら感じられるサウンドはADELテクノロジーによる効果か。おそらく、サウンド的にはA10がシリーズ中のフラグシップ。生音から電子音まで、広く対応できるカスタムIEMである。

▼A12

ADELシリーズのなかでも、最も数の多いロー、ミッド、ハイそれぞれ4基という計12ドライバーを搭載したモデル。バランスとしては、A10のロー〜ミッドローを強めにしたような印象で、音楽全体のフォルムも大きめに聴こえてくる傾向だ。しかしそれぞれの解像度は高く、グリップの聴いたベースラインや骨格の効いたキックドラムなど、この低域の質感は他のイヤホンではなかなか味わえない。

A12を装着したところ

一般的に低域のふくよかさと音色的なタイトさはトレードオフとなる要素なのだが、A12ではこれが見事に両立されている。カスタムIEMならではの解像度の高さと、イヤモニではなかなか表現しづらい音楽のスケール感を実現したことこそが、A12の最大の魅力といえそうだ。

今回の試聴で“さすが”と思わされたのは、クラシック系のソース。鼓膜の直近で音を鳴らすイヤホンでは、なかなかクラシックならではの広がりあるホールトーンを表現するのは難しいが、A12では低域〜高域までの豊富な情報量で見事にその空気感を表現する。低域から高域まで、実に広い帯域にわたって情報量が豊富なので、オーディオファイル向けの録音作品では独壇場とも言える再現力を発揮する。

(レビュー執筆:Net Audio編集長 浅田陽介 / 記事構成:Phile-web編集部 杉浦みな子)


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