公開日 2015/10/30 12:06

フルバランス構成の新プリメイン登場。パイオニアA-70A/A-70DAを徹底レビュー

アナログ入力専用機の「A-70A」とデジタル入力を加えた「A-70DA」

■レスポンスのいい俊敏な低音。スッキリと見通し良い、爽快なサウンド

A-70Aにバランス接続でSACDプレーヤーをつなぎ、早速音を聴いてみた。NHK交響楽団が演奏したR.シュトラウスの《ドン・ファン》を聴くと、低音楽器の鋭く切り込む俊敏な動きにすぐさま耳が反応した。そして、これまで聴いたことがないほどキレの良いティンパニ。胸のすくような低音の動きに支えられて、高弦や木管楽器の目まぐるしい動きもいつになく軽快に聴こえる。N響の首席指揮者に迎えられたパーヴォ・ヤルヴィは、第一弾のレコーディングで早くもこのオーケストラから世界最高水準の現代的なサウンドを引き出すことに成功したのだ。

このディスクには、次世代につながるN響のフレッシュな音がたくさん詰まっているが、その新しさをひとことで言えば「躍動感」に尽きるだろう。楽員たちの自発性が生む高揚した音が集合して、一瞬たりとも停滞することなく前に進んでいく。俊敏な低音はそうした躍動感を支える重要な要素の一つだが、A-70Aの低音はまさにそこにアドバンテージがあると感じた。重く沈み込む低音とは対極で、床を這うような低音ともまったく感触が違う。音が放たれた瞬間、空気の塊が勢い良く前に動き、消えるときはスッと一瞬で動きが止まる。今回組み合わせたELACのFS249もそうだが、小口径ウーファーを積む良質なスピーカーと組み合わせると、本機の低音の質感の高さを強く実感することができる。



ベースとヴォーカルのデュオを聴くと、「停滞しない低音」の良さが一段と鮮明に浮かび上がってきた。ウッドベースのピチカートにタイトな音色を求めるベーシストは、張力が強めの弦を張り、それに合わせて楽器の調整を追い込む。ムジカ・ヌーダのフェルッチョ・スピネッティはまさにそんな弾き手の一人で、彼が刻むリズムの推進力の強さは半端ではない。A-70Aは一音一音の立ち上がりの速さと短い音符のキレの良さを期待通りに引き出し、爽快さすら感じさせる。そして、ベースの軽快な動きに同期して、息つく間もなく単語を繰り出すペトゥラ・マゴーニのヴォーカルが耳を心地よく刺激してくる。A-70Aは中高域にも付帯音を乗せず、輪郭を強めることもないため、その刺激は歌手のクリアな発音がそのまま伝わることで生まれるもの。強調感が生む嫌な刺激とは正反対だ。

低音の動きの良さの一方で量感不足に陥ることはないのかという疑問をお持ちの読者もいるかもしれない。重く沈み込む低音ではないと書いたので、豊かな低音が出にくいと誤解されるかもしれない。そこで、もう一つ例を挙げてエネルギーバランスにも触れておくことにしよう。

コントラバスを含む4本の弦楽器とピアノで構成されるシューベルトの「ます」を聴くと、すべての音域にバランス良くエネルギーが乗っていることがわかる。そして、和音を支えるコントラバスやピアノの低音部は、分厚さやふくらみはないが、他の楽器に比べて量感が足りないという印象はない。すっきりした低音だが、立ち上がりが速いので音の実在感が強く、和音が曖昧になることはないのだ。低音の音圧が下がると調性がわかりにくくなることがあるが、本機で聴く「ます」は、イ長調やニ長調の和音の響きをはっきりと聴き取ることができる。特にピアノの左手で進行する低音の動きはとても鮮明で、コントラバスの持続音の音程にも曖昧さはない。本機の自然なエネルギーバランスは、ハイファイアンプとしてむしろ好ましいものだと思う。


■USB入力は高S/N。パイオニアのESS製DAC使いこなし力を実感



最後にA-70DAのUSB入力についても紹介しておこう。CDからリッピングしたオルガンとオーケストラのハイレゾ音源に共通して強い印象を受けたのは、弱音を精妙に再現するS/Nの良さと音場の透明感の高さである。ノイズフロアが低いことに加えて、特にハイレゾ音源では気配感や暗騒音を再現する能力が高く、演奏現場の空気感を引き出してくる。ESS製DACを活用するうえで、豊富な経験を積んでいることを思い起こさせる完成度の高い再生音である。

  ◇ ◇ ◇  


ここで紹介した低音の反応の良さや澄んだ音場の見通しの良さはクラスDアンプの特徴と判断していいだろう。パイオニアはAVアンプの上位機種で数世代にわたってデジタルアンプの音を磨き上げてきた経緯があり、その経験をベースに前作のA-70でハイファイアンプにも採用を決めた。ハイファイモデルでは本機が第二世代ということになるが、そこには明らかな進化を聴き取ることができた。今回のリファインはプリアンプのバランス化など、主にアナログ領域で行われている。デジタルアンプのポテンシャルを引き出すうえで、電源部やアナログオーディオ回路の吟味が重要な意味を持つということにあらためて気付かされた。

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