公開日 2024/12/25 06:30

名盤『交響組曲宇宙戦艦ヤマト』の新たな船出。リミックスという選択に挑んだエンジニアの声を訊く

『宇宙戦艦ヤマト』放送50周年記念アイテム制作の裏側とは
編集部:松永達矢
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■「誰もが期待するだろう」というファンの期待に応えた「2024mix」空間オーディオ版



───前例がないという意味では正解のない「空間オーディオ」の制作についてはいかがでしたでしょうか?

塩澤 マルチテープのデジタイズというアーカイブと、それを用いたオリジナルとは異なるリミックスというのが本企画のメインです。なので、空間オーディオはどちらかというと付録的な位置付けではあるのですが、こちらも昨今の音楽コンテンツのトレンドの一つでもあるのでトライさせて頂きました。

一方で素材が16chということもあり、100ch以上の構成からイマーシブ音源をつくる現代のポピュラーソングみたいな方向性は難しいし、それを意識したアレンジを加えていくのも違う。「どういったコンセプトの空間オーディオに仕上げるか」というのがまず悩ましかったですね。

妙に音を拡げても不自然ですし、オリジナルの定位感と違いすぎても困る。そんな中思いついたのが「スタジオ録音をしているような臨場感」です。スタジオのアンビエントを感じられて、宮川先生が指揮を振っているときにこんな音を聴いていたんじゃないか? というニュアンスですね。その聴こえ方については八木とも随分話しました。

ステレオ音源とともに空間オーディオ版も日本コロムビアのスタジオにてモニタリング

空間オーディオ版の音情報マッピング。ハイトチャンネルにもさまざまな音を振り、臨場感あるサウンドが楽しめる

八木 トラックの音が鮮明になっているので、ステレオと比較して広いところで聴いている感じで創っていくといいんじゃないかなとは思いました。ジャケットのデザインのように広い宇宙の奥にスターシャがいるような感じがリンクして音像が広がるような。

───付録的とはいいますが、ぜひ環境を揃えて聴いていただきたい没入感があります。

塩澤 そうですね。スターシャの声が宇宙から聴こえてくる……かのようにスキャットをハイトチャンネルから流すなど「誰もが期待するだろう」ということもしっかり抑えておりますので、こちらもチェックいただけると幸いです!

■サウンド同様にこだわり抜かれたジャケット装画。音同様に新旧比較を楽しめる仕掛けも



『YAMATO SOUND ALMANAC 50th PREMIUM 交響組曲 宇宙戦艦ヤマト 2024mix』CDジャケット

───「2024mix」は配信だけでなくCD/LPレコードとフィジカルで出されますが、ジャケットの装丁などでもこだわりはありますか?

八木 音と一緒でこちらも鮮明化を図っております。宇宙とヤマトとスターシャの3つの素材でレイアウトを取られていて、スターシャについては原画、宇宙に関しては当時の一番解像度の大きいポジ、ヤマトについては紙焼きを出来るだけ大きい画像で再スキャンし直しています。

特にスターシャとヤマトに関しては保存されている元の原画や、紙焼き自体も劣化しているので、スキャンデータをそのままということではなく、レタッチというよりも美術品の修繕といったアプローチでスキャンデータに手を加えています。できる限りオリジナルのイメージを崩さずに丁寧に施したいということをCGグラフィックの方とデザイナーと綿密なやり取りを行いました。

スターシャは、鼻筋、口元、目元にもう少し鮮明に色彩が出ていたであろう、ということを意識して掘りをだいぶ残しました。ヤマトについても紙焼きであるという他にも色彩が特殊なイラストになっています。アニメの色指定とも違うものでセル画でもない。当時こういう色合いで描かれていた」だろう、ということ想像しながらレタッチをしていただきました。

また、ヤマトのイラスト素材は大きなものではないのですが、パーツごとに8Kスキャンを実施しました。素材が小さい分デジタル化してしまうとボケてしまうのですが、それを拡大して全てに線をいれたということをしています。プラモデルでいうところの「スミ入れ」みたいな細かい作業でディテールを損なわないようにしています。

宇宙は空間オーディオでもリリースされることを意識して、奥行きや広さが拡がるイメージの加工をしていただきました。元素材に星を足して、同様のイメージでデザインしていただきました。タイトルのレタリングも「2024mix」を少し添える形でなるべくオリジナルの形を踏襲しています。

2024mix(写真左)と1977年発売の『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』(写真右)のジャケット比較。照明の照り返しもあるが、宇宙の青味とまたたく星々、スターシャのディテール表現に手を加えるなどの「修復」が行われている

音と同じように鮮明にするという言い方が合っているのかは難しいところですが、ジャケットの各素材についても時間の経過とともに変わっていく部分に対して、綺麗にもう一度素材として保管できるように整えましょうというコンセプトもあります。

また、フィジカル盤に付属するブックレットには、オリジナル盤には無かった要素として、『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』発売に伴って当時行われた記者会見の写真や、新聞各社に掲載された広告などを関連資料として掲載しています。また、今回使用したマルチトラックテープのトラックリストなんかも載せています。CD/LPレコードともに共通の内容ですがLPレコードの方が大きく、より鮮明に楽しめますね。

───配信もやっていますが、これは是非フィジカルを買って頂きたいという内容ですね。

八木 そうですね。でも、両方聴いていただければ気付きもあると思います。フィジカルだけでも、同じマスターからカッティングしているにも関わらずLPレコードとCDで聴こえが全然違いますよ。

塩澤 この違いについては自分で創っておきながらすごい感動できたもの(笑)。レコードだと倍音の響きと立ち上がりが良いね。特にリズム隊とかが入ってくると立ち上がり感に強いニュアンスを感じますね。

2024mix(写真左)の違いを楽しむにはLPどうしの聴き比べがおすすめとのこと。『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』(写真右)をお持ちの方には「ぜひ聴き比べて頂きたい」と太鼓判

2024mixのLP版はコロムビアスタジオ内のNEUMANN「VMS70」にてカッティング。数々のLPを世に送る武沢 茂氏によって手掛けられた

八木 当時の『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』アナログ盤と「2024mix」のアナログ盤との聴き比べをしてみるのが、今回のリミックスの面白さが一番伝わると思います。流石にメーカー在庫はありませんが、大きなヒットを記録した製品でもあるので市場流通量も多く、入手もそんなに難しいものではありません。当時のLPレコードを愛聴してくださっている方にはぜひ聴き比べて頂きたいです。

もちろん、今回リリースするCD/LPレコード/ハイレゾ/空間オーディオそれぞれに「違いの良さ」が表れています。ご自身の環境に合わせて聴いて楽しんでもらえれば何よりです。

───本日はありがとうございました!





■YAMATO SOUND ALMANAC 50th PREMIUM 交響組曲 宇宙戦艦ヤマト 2024mix
音楽:宮川泰

・CD:COCX-42417  税込3,300円
1.序曲(OVERTURE)2024mix
2.誕生(THE BIRTH)2024mix
3.サーシャ(SASHIA)2024mix
4.試練(TRIAL)2024mix
5.出発(TAKE OFF)2024mix
6.追憶(REMINISCENCE)2024mix
7.真赤なスカーフ(SCARLET SCARF)2024mix
8.決戦〜挑戦=出撃=勝利〜(DECISIVE BATTLE〜CHALLENGE=SALLY=VICTORY)2024mix
9.イスカンダル(ISKANDALL)2024mix
10.回想(RECOLLECTION)2024mix
11.明日への希望〜夢・ロマン・冒険心〜(HOPE FOR TOMORROW〜DREAM・ROMANCE・ADVENTURE〜)2024mix
12.スターシャ(STASHA)2024mix

・LPレコード:COJX-9527 税込4,400円
Side-A
1.序曲(OVERTURE)2024mix
2.誕生(THE BIRTH)2024mix
3.サーシャ(SASHIA)2024mix
4.試練(TRIAL)2024mix
5.出発(TAKE OFF)2024mix
6.追憶(REMINISCENCE)2024mix

Side-B
1.真赤なスカーフ(SCARLET SCARF)2024mix
2.決戦〜挑戦=出撃=勝利〜(DECISIVE BATTLE〜CHALLENGE=SALLY=VICTORY)2024mix
3.イスカンダル(ISKANDALL)2024mix
4.回想(RECOLLECTION)2024mix
5.明日への希望〜夢・ロマン・冒険心〜(HOPE FOR TOMORROW〜DREAM・ROMANCE・ADVENTURE〜)2024mix
6.スターシャ(STASHA)2024mix

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