公開日 2014/11/21 12:55

【第106回】ヘッドホン/イヤホンの「バランス駆動」徹底解説!− 基礎知識から聴き比べまで一挙レポート

[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
高橋敦
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■バランス駆動の利点

回路構成全体の複雑化、大規模化が必要なバランス駆動は、コストや小型化などの面で不利だ。しかし採用例が増えつつあり、認知度も高まっている。音質面での有利があるからだ。

▼各アンプの負荷が減少してスルーレート向上

バランス駆動では信号の増幅を正相と逆相のアンプが分担して担当する。すると各アンプの仕事量は軽くなり、具体的には例えば各アンプの出力電圧はアンバランス接続時の半分になる。各アンプは負荷の少ない状態でより素直に軽やかに動作できるわけだ。

先ほどの表現を踏襲して、不正確にはなるが多少なりともビジュアライズしてそこのところを説明してみよう。アンバランス駆動の場合は、
_M_
だけでの増幅なところが、バランス駆動だと
正相:_M_
逆相: ̄W ̄
での分担になる。

アンバランス駆動では基準線の_からMの頂点までの高さが信号の振幅だが、バランス駆動ではMの上の頂点からWの下の頂点までの落差が信号の振幅だ。なのでバランス駆動なら、MとWのそれぞれの高さはアンバランス駆動のMの高さの半分ずつでそれと同じだけの落差、信号の大きさを得ることができる。なのでそれぞれのアンプへの負荷は低い。そういうわけだ。

すると得られるのが「スルーレートの向上」という利点。スルーレートとは応答速度のことで、「入力された音声信号に対してどれだけ遅れなく増幅して出力できるか」といった意味合いだ。スルーレートの向上は、わかりやすいところでは音のアタックやリリース(立ち上がりと立ち下がり)の再現性の正確さに現れる。音楽的なことで言えばわかりやすいのはリズムの再現性の正確さ。またアタックは音色を決定付ける要素のひとつでもあるのでそこへの影響も見落とせない。響きの成分など微細な信号も、微細であるからこそ立ち上がりがはっきりしていないとぼやけやすいだろう。

さらに、人が感じる音圧”感”は波形のピーク(頂点)の大きさ、つまり絶対的な音量だけではなく、そのピークに至るまでの波形、アタックの出方にも影響される。そこが正確に再現されることでダイナミクス表現向上するかもしれない。スルーレートの向上は、そういった多くの部分での効果を期待できるものなのだ。まあぼんやりとしたオーディオ用語で言うところの「駆動力」の向上だと、大雑把にはそう捉えておけばよいかもしれない。

▼グラウンド電位の安定

音声信号本体に対して地味な存在なグラウンドだが、電気回路においてこの役割は極めて重大だ。電気回路はグラウンド電位というものを基準にして動作しており、その安定は回路全体の安定動作、オーディオ回路であれば音質に少なからずの影響を及ぼす。デジタルオーディオにおける同期の基準となるクロックの重要性。ああいった感じを想像してもらえればわかりやすいだろう。

そのグラウンドがアンバランス駆動の場合ではドライバーを介して、アンプから入力される信号、変動する電流にさらされている。もちろんそれが致命的なまでに全体のグラウンド電位を変動させるようのことはないにしても、しかし影響は避けられない。

対してバランス駆動では、ドライバーは正相と逆相のアンプによる動作。すると正相からの電流は逆相、逆相からの電流は正相のアンプに吸収され、グラウンドには流入しない。なので基準としてのグラウンド電位の揺らぎが少なくなり、全体の音質向上に貢献する。

▼クロストークの減少

クロストークとは隣接する信号の相互干渉。カセットテープを知る世代ならステレオの左右の磁気信号の混じりを思い浮かべてみてほしい。そしてオーディオの場合で問題になるのは主に、ステレオの左右各回路の相互干渉だ。ここについてはアンプ本体だけではなく、ヘッドホンとアンプ、それを接続するケーブルの構造にまで視点を広げたほうがわかりやすいし説明しやすい。

左がアンバランス(仮)3極、右がバランス(仮)4極のピン型の端子

アンバランス駆動の場合、ケーブルの内部には、

・L(左の音声信号)
・R(右の音声信号)
・LRのGND(グラウンド)

の3つの信号を流すための3つの導体(線)が用意されている。そのことはケーブルを分解するまでもなく、接続端子部分を見ればそれを確認できる。プラグ接点の金属部分が2箇所の樹脂で絶縁され3箇所に分割されている。いわゆる3極端子だ。各部は先端側からチップ、リング、スリーブと呼ばれており、順にL、R、GNDの接点となっている。

対してバランス駆動の場合、後述するように端子の形状は様々だがいずれにせよ4接点4極。そしてそこに流される信号は、

・L/HOT(左正相の音声信号)
・R/HOT(右正相の音声信号)
・L/COLD(左逆相の音声信号)
・R/COLD(右逆相の音声信号)

…だ。

アンバランス駆動は前述のようにそもそもグラウンド電位の変動を起こしやすい上にその影響を受けやすい繊細さが弱点であるのに、さらにケーブル導体や端子において左右のグラウンドがひとつにまとめられてしまっていることで、その問題がさらに複雑化し悪化する。そしてその複雑し悪化する要素のうちの大きなひとつが左右のクロストークであり、それによって左右のセパレーション、ステレオの定位や位相の再現性が低下する。

対してバランス駆動はそもそもグラウンド電位の変動を起しにくいのでそもそもそこにはあまり問題がない。これもバランス駆動の大きな優位のひとつなのだ。

次ページバランス駆動を実現するためには

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