JAPANNEXT 代表取締役 ベッカー サムエル氏インタビュー
ポータブルモニター、給電モニターなど次々に新製品を発売、さらに数々の日本初・世界初の製品を発表し、ディスプレイ市場で躍進する「JAPANNEXT」。創業者であり代表のベッカー サムエル氏はフランス・プロバンス地方の出身。小さなころから日本に興味を抱き、幾度となく日本を訪れ、やがて日本へ移住。「日本のメーカーを立ち上げたい」と強い思いを込めて創業された“JAPANNEXT”。その強さの秘密を聞く。<インタビュアー 音元出版 代表取締役・風間雄介>

株式会社JAPANNEXT
代表取締役
ベッカー サムエル氏
「日本移住」と「起業」、2つの夢を叶える
―― 「JAPANNEXT」の商品が家電量販店のディスプレイコーナーでも大変多く展示されています。JAPANNEXTは、代表取締役を務めるベッカー サムエルさんが2016年に日本発のブランドとして立ち上げられました。ベッカーさんは母国がフランスで、15歳の時に初めてホームステイで日本を訪れたそうですね。
ベッカー 本当に日本が好きで、最初は漫画やアニメ、ビデオゲームに惹かれました。15歳の夏休みには初めて日本を訪れ、フランス人の目にはエギゾチックなことばかりでさらに大好きになりました。それからも日本のことが気になり調べていくと、どれも面白くて。フランスでは当時、6月中旬から約3か月の夏休みがありましたが、毎年そのうち2か月間を日本に来て過ごしていました。
―― どんな漫画やアニメが好きでしたか。
ベッカー 一番は『ドラゴンボール』。あとは『らんま1/2』とか『ハイスクール!奇面組』とか。小さいころ本屋さんには日本の漫画がいっぱい並んでいました。70年代まではあまり知られていませんでしたが、80年代になると子供向けの朝の番組はすべて日本のアニメだったんです。フランス人の子供は皆それを見てから学校に行っていました。今、日本の漫画の数は半端ないですし、フランス人にとって日本の漫画・アニメはとても身近な存在です。
―― しかし、毎年来日されるとなると旅費も大変ですね。
ベッカー 帰国する前に秋葉原でパソコンや電子辞書など日本の精密機器を買い付け、それをフランスで販売して旅費に充てていたこともあります。ほかにもよくヒッチハイクをしていて、東京から鹿児島まで行ったこともあります。これが、普段は見られない日本の社会を垣間見られてとても面白いんですよ。皆すごく優しいし、多くの仲間ができました。
フランスの大学を卒業したころには「日本に住みたい」との思いが強くなり、一生懸命勉強をして、日本の文部科学省の国費外国人留学生として留学が叶いました。そして、在学中に小さなころからの夢だった起業をして今に至っています。
―― 在学中に起業された仕事と今の仕事とは関係があるのですか。
ベッカー あまりないですね。日本のゲームやエレクトロニクス製品の輸出から始まり、円高で輸出が厳しくなると、逆に日本市場向けに海外から輸入・販売、その後、国内家電の販売も行いました。ハロウィンのコスチュームやパーディーグッズも、今のようなブームになる15年くらい前から、アメリカから輸入する事業を手掛けていました。

事業は大変順調で、約5万アイテムを扱うまでに成長しました。しかし、「自分は何をやっているのだろう」「本当に好きなことをやるべきではないのか」「自社で自信をもって作った製品を世の中に送り出したい」との気持ちが高まり、事業は売却して、その資金で新たに立ち上げたのが「JAPANNEXT」になります。
フットワークの軽さを活かしたチャレンジで示す存在感
―― 創業翌年の2017年2月には、世界初となる65型4K曲面モニターを発売され国内外から大きな注目を集めました。その後も日本企業初となるHDMI 2.1対応4Kゲーミングモニターを発売されるなど、過去5年では売上げを10倍に伸長されていますが、ここまでの成長をどのように感じていますか。
ベッカー 実感としてはもっと成長できたのではないかと思います。ドラマで見るスタートアップのようにかっこいいものではありませんが、地道に地味に真面目に、毎日努力を積み重ねてきました。製品開発においては、お客様のこだわりを実現することを常に考えています。そのために基板メーカーと交渉をしたり、ファームウェアを開発したり、できることはすべて行っています。
例えば、BtoBのパートナーから「こんなモニターが欲しい」と相談されれば、販売台数が見込めないものであっても、作れそうなら取り敢えず開発してみます。ニッチで細かなお客様のニーズは限りなく存在するため、小回りが利く強みを生かして、他社があまりやりたがらないこと、小さなことをやり続けてきました。
―― 市場ではモバイルモニターが人気を集めていますが、一番初めに出されたのはJAPANNEXTさんですか。
ベッカー 私たちが出す以前に他社に1モデルあったようです。「モバイルモニター」というカテゴリーはもちろんまだなく、誰がこんな商品を欲しがるのか日の目を見ない商品でした。
しかし、自分が出張してホテルで仕事をしているときに、持ち込んだノートパソコンの小さな画面を大変不便に感じたことで、「こんな商品があればいいのに」という想いのもとに開発、製品化したところ、数多くのお客様に喜んでいただくことができました。
その後もサイズや解像度のバリエーションを増やし、わずか数年で40機種以上をラインナップしています。当時は市場が存在もしていないのに、いきなり数多くのモデルを出してきて大丈夫なのかと思われていたかもしれません。
9月に開催された発表会では、新しくデュアルタイプを発表しました。出張先のホテルでもディスプレイ2台持ちに匹敵する効率の良さで仕事ができます。モバイルモニターで今一番大きいサイズが23.8型、一番小さなものが10.5型。いずれも人気を集めているほか、さらに大きなサイズも発売をする予定です。BtoBで組み込んで使われるケースも多く見受けられ、いろいろな相談をいただきますが、そうした場面でもすぐにサンプルをつくり、提案できるのが当社の大きな強みになります。
「給電モニター」もモバイルモニターと同じく、先行して商品はありましたが、高価でなかなか手が出なかったようです。そこへお求めやすい価格にして商品化すると、「こんな商品を待っていた!」と言わんがばかりに多くの支持を集めることができました。
実は僕がよく忘れ物をするものですから、ケーブル1本で済むというのは大変便利なことなんです。3、4年前にはまだ対応しているパソコンが少なかったですが、ここに来てどんどん増えてきていることも需要が伸長している背景のひとつです。
―― ユーザーのニーズを吸い上げる工夫やノウハウがあるのですか。
ベッカー とにかく話をよく聞くことですね。ただ、わざわざ数百台しか売れないものを新たにラインナップに加えるのは、いかにお客様のためとはいえ、普通の会社なら開発コストが見合わず発売に至る見込みは立ちません。しかし、うちの強みを生かせば可能ですから、取り敢えずチャレンジしてみます。
もちろん発売してうまくいかない場合もありますが、1回チャレンジをすると、次の機会にパーツや技術を踏襲したり、活用したりできることが少なくなく、開発のスピードが断然違ってきます。
スピーディーかつ細かな対応力で広がる導入事例
―― ユーザーニーズに徹した結果、発売される製品の数が、昨年は「166」に及ぶとお聞きしています。まさに御社ならではと言えますね。
ベッカー おかげさまで売上げも好調で、家電量販店やECサイトでもブランド別ナンバー1となっているところもあり、さらに、壁掛け金具、スタンド、モニターアームなどのアクセサリーも非常にお求めやすい価格であることから大変高い支持をいただいています。
製品の数が非常に多いことから、ひとつひとつのモデルをPRしていくのはなかなか難しいため、公式アンバサダーを募って、弊社製品を徹底的に使用、検証していただいたレビューをご紹介しています。
―― BtoBでも細かな要望に応えることができる御社の技術力とスピーディーな対応力から、企業やホテル、専門学校、各種施設など導入事例が増えているそうですね。
ベッカー たとえば宮城県にある大規模温浴施設「愛子天空の湯 そよぎの杜」(株式会社GEN)様では、岩盤浴を行った後のお客様がリラックスする場所があるのですが、そうした場所でスマホでコンテンツを楽しまれる方がいました。それならば大きな画面で見た方が楽しいし、タッチパネルならゲームアプリなども一味違う体験ができて面白いのではとの要望にお応えして、リクライナーにスマホも接続できるタッチパネルを搭載した21.5型のモニターを設置しました。
導入後、お客様がモニターのメニューから入力を切り替えてしまう想定外の事態が発生したとのご相談にも、切り替えができないようにする専用ファームウェアを開発して提供しました。
また、セントラルシネマ宮崎様では、壁の上部に65型のモニター、壁面にはポスターを活用した広いロビーがあり、お客様にもっと立ち止まって見ていただけるようにしたいとの要望をいただき、上部は98型にして予告編の動画を流し、壁面もすべて55型のサイネージに一新しました。その結果、立ち止まって見るお客様が増えたそうです。
その他にも、エイチ・ツー・オー・リテーリング株式会社様では、新しいオフィスビルのフリーアドレスのスペースに、ACアダプターを持ち込む必要がないType-C給電が可能な4Kモニターや会議室用の大型モニターなどを200台以上導入していただきました。

並行して数多くのテレビドラマや映画作品に美術協力も行っています。ラインナップが非常に多いことから、情報を事前に収集し、例えば病院が舞台なら白いモニター、ベンチャー系の会社ならゲーミングモニターとシーンに適した製品の提案を行うことが可能です。また、eスポーツのチームや施設のスポンサーシップを通じて、eスポーツの発展も支援しています。
千葉県いすみ市に本拠を構えて地域貢献活動にも注力
―― 御社は拠点を千葉県いすみ市に置かれて、地域貢献活動にも大変力を入れていらっしゃいますよね。
ベッカー 創業は千葉県長生郡一宮町です。私が20年前から一宮に住んでいたこともあり、近場に残りたくて、2022年12月にいすみ市の廃校となっていた旧中川小学校に本社を移しました。
すごく広い土地と建物で、教室も廊下も広いため、大型モニターを問題なく置いたり運んだりできます。修理を行う部屋が4つ、ほかにもパーツを保管する部屋やカスタマーサポートもこの本社に構えています。
加えていすみ市にはふるさと納税返礼品として、液晶モニター(リファービッシュ品)の提供も行っています。いすみ市のふるさと納税の寄付金額は千葉県で2位、同市の返礼品の中では1番人気が鮭、そして2番人気が液晶モニターです。液晶モニターが返礼品になっているところは他の自治体にもありますが、製品価格が高額なために、どうしても納税額も高くなってしまいます。うちは気軽に選べる金額でもあることが、支持を集めるひとつの要因になっているようです。
ほかにも、いすみ鉄道という一両編成のローカル線ともコラボレーションを行っており、本社の最寄りとなる上総中川駅ではネーミングライツを取得し、「JAPANNEXT上総中川駅」という名称となって、駅名表記のデザインもJAPANNEXTのロゴと同じようになっています。また、ラッピング車両も用意し、昨年には実現はできませんでしたが、パリオリンピックの際にパブリックビューイングを実施しようという計画もありました。
それ以外にもいすみ市とは西隣の大多喜町にある、町の活性化をテーマとして立ち上がった3×3プロバスケットチーム「esDGz OTAKI.EXE」の応援もしていますし、今期からプロバスケットボール「B.LEAGUE」のB1に昇格した「アルティーリ千葉」もオフィシャルパートナーとしてスポンサーを始めました。
デスク周りを基点にさらなるカテゴリー創造に挑戦
―― 9月に開催された発表会では当時企画中の製品として、Qi2対応のワイヤレス充電、Apple Watchの充電、ワイヤレスイヤホン等の充電が1台で行える「3in1チャージャー(JN-CG-155Q3N1)」を発表されています(※その後、2025年10月31日に正式発売)。今後、ディスプレイ以外の事業についてはどのようにお考えですか。
ベッカー 3in1チャージャーは、磁石で取り付けたスマートフォンをモーター駆動で水平/斜めの2種類に角度を切り替えられるため、充電をしながらYouTubeや映画を見たり、SNSやメールを確認したりすることができます。デスクの上はもちろん、ベッドの横でも使えます。僕もよくイヤホンの電源が切れてしまうので、何かをしている間に手軽に充電できるのはとても便利だと思います。
また、今まではモニターと周辺アクセサリーでしたが、これからはもう少しデスク周りに広げていきたいと考えています。お客様とのタッチポイントを増やす機会にも、売上げを伸ばすチャンスにもなります。販売チャネルが一緒という点でもメリットがありますが、完全に新しいチャレンジですから、どこまで売れるかは予想がつきません。
―― 4K液晶ディスプレイのなかには、65/75/85/98型もラインナップされ、ご家庭ではリビングに置かれるケースも多いと思われます。市場ではチューナーレステレビが増えていますが、「テレビ」という商材についてはどうお考えですか。
ベッカー 数年前から検討は行っていますが、優先順位としては、ゲーミングの強化やさきほどのモバイルモニター、給電モニターのような新しいカテゴリーを増やすことが先で、引き続き議論は重ねていますが、発売の予定はありません。

「モニター」として一括りに見られがちですが、チューナーレステレビとなると販売店や売り場も異なり、販売条件や競合も異なるためにビジネスとしての可能性は読みづらくなります。その一方、すでに43型クラスのモニターでChromecastなどを使いコンテンツを楽しまれている方も珍しくなく、それならば、チューナーを搭載したテレビを他社とは違った戦略でアプローチする方法もあるかと思います。単に市場が伸びているからではなく、あくまで全体で考えて「会社として取り組むことが賢いかどうか」次第になります。
―― 今後の飛躍に向けて、意気込みをお願いします。
ベッカー 今後は色域のカバー率や明るさなど、スペック面でさらに高い付加価値のモデルのラインナップを増やしていきたいと考えています。もちろん従来の市場には見られなかったものを出す挑戦も続けていきます。さらに、ひとりでも多くの人がジャストフィットするデスク環境を手に入れられる世界を目指し、モニター周りにもいろいろ面白いのを提案していく予定です。どうぞ楽しみにしていてください。































