【インタビュー】テレビ需要を盛り上げる“エンタメおまかせAQUOS”。「常識に囚われる必要はない。楽しければそれが正解だ」
シャープ高橋秀行事業部長インタビュー
家庭でのテレビの位置づけや楽しみ方が大きく変化するなか、有機ELとMini LED液晶の二刀流フラグシップ&フルラインナップ戦略で、お客様の心をがっしりと掴むシャープ「AQUOS」。“エンタメおまかせAQUOS”のキーメッセージを掲げ、常識にとらわれないテレビの楽しさの提案に邁進する。同社TVシステム事業本部 国内事業部 事業部長・高橋秀行氏に話を聞く。<インタビュアー 音元出版 代表取締役・風間雄介>

シャープ株式会社
TVシステム事業本部 国内事業部 事業部長
高橋秀行氏
プロフィール/1991年 シャープ入社。AV機器営業、商品企画、経営管理等を経て、2023年4月より現職。
家でネット動画をスマホでなく、テレビで楽しむ人が増えている
―― コロナ禍のホームエンタメで一時盛り上がりを見せたテレビ市場ですが、昨年、そして今年の状況はいかがでしょう。
高橋 2024年度はようやく、コロナ禍以降下がり続けていた需要が下げ止まり、台数ベースでは445万台と2023年度を上回りました。足元の4 - 6月も当初の想定以上に堅調で、台数ベースでは対前年同期比103%です。2024年度は金額ベースでは前年割れだったのですが、4 - 6月は金額ベースも前年を上回り、いよいよ反転攻勢のフェーズに入れたのではないでしょうか。
もちろん、金額ベースで大きく伸長することは難しいですが、それでも高画質・高音質の高付加価値テレビ、すなわち有機ELテレビとMini LED液晶テレビの割合は着実に高まり、金額ベースでの構成比は2024年度に41%、直近過去1年では47%にまで拡大しています。高付加価値テレビを購入されたお客様は、画質や音質がよいテレビとして選択いただいています。
ただ、テレビの視聴時間は毎年少しずつ減少し、最新のデータでは約120分となっています。その分、スマホの使用時間が増えている、そんな状況です。内訳を見ると、リアルタイムで放送を見る時間が減っている一方で、見逃し配信やYouTubeをはじめとしたインターネット動画を見る時間が増えています。これまでスマートフォンで見ていたものを、家ではテレビの大きな画面で見る方が増えてきたということです。
Mini LED液晶と有機ELの“二刀流フラグシップ”で投げ続ける
―― このような市場環境のなか、シャープ「AQUOS」のラインナップの考え方についてお聞かせください。
高橋 弊社の「AQUOS」なら、様々なコンテンツや視聴環境に合わせて、明るい大画面で高画質・高音質の映像をテレビで楽しむことができます。これをキーメッセージ「エンタメおまかせAQUOS」としてアピールしています。ラインナップには2つのポイントがあり、ひとつは、Mini LED液晶テレビと有機ELテレビの2つの優れたデバイスをフラグシップに構えた「二刀流フラグシップ」。そしてもうひとつが、幅広いお客様のテレビの楽しみ方に応える「フルラインナップ」です。
Mini LED液晶と有機ELそれぞれにメリットがあり、また、視聴環境やよくご覧になる映像コンテンツによって好みは様々です。弊社「AQUOS」では「二刀流フラグシップ」として、Mini LED液晶と有機ELともにフラグシップモデルをラインナップしています。
2021年末に日本のメーカーとして初めてMini LED液晶を発売以来、二刀流戦略を続けており、4年間で3割の単価アップを実現しています。業界トータルでも平均単価は上がっていますが、その数字は約10%です。二刀流フラグシップはシャープのテレビ事業において売上拡大に大きく寄与しています。
上杉 Mini LED液晶と有機ELはお互いの特長を活かし、棲み分けていますが、実はそれぞれに技術開発が進んだことで、境界はかなり曖昧になっています。映画を見るから絶対に有機ELと言うわけではありませんし、逆に明るい部屋で見たいから絶対にMini LED液晶と言うわけでもなくなりつつあります。
ただ、突き詰めて考えたときに、映画を最高の状態でとことん味わいたいお客様には、やはり有機ELがおすすめであり、お客様自身にも有機ELに対する強いこだわりが依然としてあります。市場の構成比は変わっていくかもしれませんが、それぞれに対するこだわりのニーズはなくならないと思います。そうしたお客様に対し、「AQUOS」はきちんと選択肢を提供していきたい。
超大型化より目を向けたい“小さな高級モデル”
―― 2つ目のポイント「フルラインナップ」についてご説明をお願いします。
高橋 「AQUOS」の4Kのラインナップは、77V型から43V型まで幅広いサイズを揃えています。量子ドット有機EL(QD-OLED)、有機EL(OLED)、Mini LED液晶(XLED)、液晶、合わせて24機種。さらに2Kモデルが43V型から19V型まで計7機種。合計で31機種のフルラインナップを展開しています。
弊社はテレビを長年に亘り作り続けており、技術やノウハウを蓄積してきました。フラグシップからエントリーモデルまで、これからも様々なニーズにお応えすることが大事だと考えており、フルラインナップはしっかり継続していきます。
現在、5月14日に発表した有機ELテレビ8機種、Mini LED液晶テレビ5機種、計13機種の新製品が大変好調で、昨年のモデルと比較した発売後9週間の実売で前年比約1.3倍、とりわけMini LED液晶テレビ「HP1ライン」(75V型/65V型/55V型)は、昨年の「GP1ライン」の実に2.3倍を記録しています。
―― テレビ売り場では、中国勢を中心に100V型クラスの超大型モデルの充実も目を引きますが、そこへのラインナップ拡充についてはどうお考えですか。
上杉 米国や中国での売れ筋は70V型や80V型へと進んでいますが、日本では55V型や65V型が売れ筋サイズとなっています。中国市場ではシャープも100V型をラインナップしますが、日本の住宅事情では搬入・設置に制約があり、設置に追加費用がかかるケースもあるなか、超大型のニーズがどの程度あるのかを慎重に見極める必要がありそうです。マーケット全体を見ながら、より多くのお客様にご満足いただけるサイズ展開をしていくことを優先していきたいと考えています。
弊社はむしろ、“小さな高級モデル”に着目しています。Mini LED液晶テレビは55V型以上が主流ですが、弊社は2024年から50V型、43V型のミドルサイズを投入しています。「設置スペースに制約はあるが、よい映像でエンタメを楽しみたい」というお客様向けに開発し、当初供給面で迷惑をおかけするほど、想定を上回る実売となりました。どのようにお客様に喜んでいただけるかを考えながら日々メンバーで議論しています。
―― あれこれブランドを見比べて比較をしなくても、シャープ「AQUOS」を選んでおけば間違いないといった世界観ですね。
上杉 テレビを買いたい、買い替えたいと思ったときに、まずはシャープの「AQUOS」を思い浮かべていただける、そんなブランドであり続けたいと思っています。キャッチコピーの「エンタメおまかせAQUOS」にはそうした想いも込められています。
高橋 ここ数年、この2つのテーマに注力した結果、台数・金額ともに業界トップクラスのシェアを堅持しています。これからも高付加価値を追求した様々なご提案により、業界をリードする存在であり続けたいと思います。
エンタメおまかせAQUOSを際立たせる「極上」「らくらく」「安心」
―― シャープ「AQUOS」では多彩な機能も大きな特長となっています。テレビに対するニーズや向き合い方が多様化していくなか、お客様の生活をもっと楽しくする、便利にするさまざまな機能がどのようにして生まれてくるのか、お聞かせいただけますか。
高橋 例えば、音質ひとつとっても、従来は「総合出力○ワットの大迫力」など、スペック競争に陥りがちでした。現在は、そのスペックがお客様にどのような価値を提供できるのかを常に考えています。“エンタメおまかせAQUOSを”「極上」「らくらく」「安心」の3つの切り口から説明させていただきます。
「極上」は、テレビメーカーとして画質と音質にはとことんこだわりますということです。画質面では、今年は“輝き”に着目し、フラグシップの有機EL(HS1ライン)では従来機比で2倍、Mini LED液晶(HP1ライン)では1.5倍に輝きを向上しました。輝きのなかでも豊かな色彩を表現するために、また、最近は量子ドットを使用しないMini LED液晶も出てきましたが、これらフラグシップモデルでは量子ドットを用いた色鮮やかな映像が再現できることもアピールポイントのひとつです。
音質面では、画面の上下にスピーカーを配置した「AROUND SPEAKER SYSTEM PLUS」により、映像を音で包み込むような立体的な音場を再現します。例えば、スポーツ観戦ではまるで観客席にいるような臨場感を味わうことができます。
下部のスピーカーのみでは、どうしても音が下から聞こえてきますが、上部スピーカーを合わせることで、画面の真ん中から音が出てくるように感じられ、映像と音の一体感が出ます。これらの画質と音質は、当初想定した以上の反響をいただき、大変好評です。店頭で体験いただくだけでなく、その仕組みをきちんと説明し、ご理解いただけるよう注力しています。
―― 2つ目の「らくらく」で注目されるのは「AIオート」ですね。
高橋 視聴するコンテンツや部屋の環境に合わせて、「部屋が明るいから輝度を上げよう」「ニュースになったから中間域を重視した聴きやすい音にしよう」のような調整は従来のテレビでも可能でした。ただし、都度映像や音質のモードを切り換えたり、数値の設定をしたりする必要がありました。最新モデルは、映像モード「AIオート」に“おまかせ”でいいんです。
例えば音楽番組では、MCとアーティストの会話は声をクリアで聴きやすく、アーティストが歌声は音の広がり感が出るように、シーンに合わせて画質と音質をAIが最適に調整してくれます。今年は新たに「空間認識AI」を搭載しました。
例えば自然や町並みなどの風景は、人の目では遠いところはぼやけて見えます。超解像度技術で画面全体の精彩感を均一に高めると、遠くまでくっきりと見えてしまいます。ぱっと見はきれいですが、自然さは失われます。新搭載の「空間認識AI」が、被写体の遠近を認識し、明暗と精彩感の強弱を使い分けることで、その場にいるような自然な奥行きを復元します。「AIオート」を初めて搭載してから4年目を迎えますが、毎年新しい技術を取り入れています。今後もさらに使いやすいものへと進化させていきたいと考えています。
常識に囚われる必要はない。使って楽しければそれが正解
―― 3つ目のキーワードは「安心」ですね。
高橋 今年の大きなポイントのひとつに省エネがあります。2025年にテレビの省エネ基準が変わり。トップランナー制度のもとに非常に厳しい目標基準値が課せられました。弊社が5月に発表した新製品は、13機種中12機種が100%を達成し、★印の多段階評価でも8機種で3つ以上を獲得しています。
ニーズが高まるゲーム用途では、低遅延約0.83msec、最大144Hz VRRで快適に楽しめるだけでなく、例えばアクションゲームなど視点の移動範囲が広くてプレイしづらい場合は、25 - 70%の10段階で画面サイズが変更できます。また、表示位置も移動できるため、照明や日差しの映り込みを避けることができます。
弊社の「COCORO VISION」は、テレビの新たな使い方を提案するサービスとして2016年夏に始まり、来年で10周年を迎えます。日々の暮らしをより豊かにするお役立ち情報に加え、楽しめるミニゲームや脳トレも増え続けています。また、リモコンは低消費電力のBluetooth方式を新たに採用したことで、電池寿命が約2倍長持ちになっています。
―― 次々にアイデアが出てきますね。
高橋 商品企画チームの若手メンバーが中心になって考案しています。「あっ!」と驚く新たな視点も多く、テレビでかんたんに視力チェックが行えるアプリ「めめログ」もそのひとつです。初めて聞いたときには実装に踏み切るか正直迷いましたが、発表後に「面白い」と多くの方に言っていただきました。
若手からベテランまで多様なメンバーが揃う商品企画チームから、かゆいところに手が届く提案が次々と生まれています。それをきちんと具現化してくれるのは、高い技術力を持った技術チームです。これまで大阪・堺、奈良・大和郡山、千葉・幕張と3つの拠点に分かれていたメンバーが、今年6月に幕張に集結しました。顔を合わせながら気軽に議論できる環境になったことで、これからも様々な相乗効果が生まれてくることを期待しています。
放送番組を見ないお客様が増えている一方で、インターネット動画やゲームなど、多様なコンテンツをテレビで楽しむ機会は確実に増えています。そこで私たちは、放送を見るための機器としての役割に加えて、“テレビはエンタメを楽しむ機器”として再定義しました。その結果、先ほどのようなこれまでにないアイデアが次々と生まれています。
常識に囚われる必要はありません。楽しければそれが正解です。そうした新しい考えのもとに商品を企画し、つくりあげていくメンバーやチームがいるからこそ、「AQUOS」は皆さまに最高のエンタメをご提供できるのだと確信しています。
―― テレビの反転攻勢へ、その勢いをさらに加速する「AQUOS」の活躍が期待されます。
高橋 「AQUOS」初号機が発売したのが2001年1月1日。来年2026年1月1日には、記念すべき25周年を迎え、26年目のスタートを切ります。どうすればお客様にもっと喜んで使っていただけるのか。私たちは“テレビでもっと楽しいことを”という視点で開発に取り組んでおり、新しい「エンタメおまかせAQUOS」の提案にどうぞご期待ください。
