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アンカー・ジャパン 代表取締役CEO 猿渡歩氏

【インタビュー】目指すは“ガジェット界のユニクロ”。アンカー・ジャパン 強さの秘密を猿渡歩CEOに聞く

公開日 2025/09/16 06:30 編集部
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アンカー・ジャパン 猿渡歩 代表取締役 CEOインタビュー

Empowering Smarter Lives」(テクノロジーの力でスマートな生活を後押しする)をミッションに掲げ、手掛けるカテゴリーをすべからくトップブランドへと押し上げ、右肩上がりの急成長を続けるアンカー・ジャパン。昨年度売上げは対前年比150%728億円とさらに大きく飛躍を遂げた。その強さの秘密はどこにあるのか。一挙手一投足が注目を集めるアンカー・ジャパン 代表取締役CEO・猿渡歩氏に話を聞く。<インタビュアー 音元出版 代表取締役・風間雄介>

アンカー・ジャパン株式会社
代表取締役CEO
猿渡 歩氏

プロフィール/Deloitteにてコンサルティング業務やIPO支援に従事後、PEファンド日本産業パートナーズにてプライベート・エクイティ投資業務に携わる。Ankerの日本事業部門創設より参画し、同部門を統括。参入したほぼ全ての製品カテゴリーでオンラインシェア1位を実現するとともに、創業12年で売上728億円超を達成。現アンカー・ジャパン代表取締役CEOおよびアンカー・ストア株式会社 代表取締役CEO。他EC関連企業の社外取締役や顧問も務める。著書「1位思考」。

 

ただただお客様の方を向いて改善を続ける

―― 20131月に設立されたアンカー・ジャパンは、2018年に売上げが100億円の大台を突破。直近3年間は2022年に350億円、2023年に494億円、2024年に728億円と右肩上がりで成長を続けています。お客様のニーズやそれに応える製品が大きく変化をしていくなか、猿渡社長は常々「お客様の方を向いて常に改善を続ける」と仰っています。

猿渡 「どういうことをしているのですか」とよく聞かれるのですが、特別なことはしていないし、何かひとつの製品が大ヒットしたわけでもない。本当に当たり前のことをやっているだけだと私は思っています。充電関連製品にしてもオーディオ関連製品にしても、ひとつひとつしっかり丁寧にチャネルを広げたり、プロダクトのシェアを上げるために品質改善を行ったり、お客様の方を向いて事業をしています。

現在の売上規模にまでなると、さすがに差別化のためのプロモーションに費用はかけますが、プロモーションをかけなくても売れる製品、お客様がいいと言う口コミだけで売れていくのが一番理想的です。

モバイルバッテリーは不動のシェア1位を誇る 

直営店のAnker Storeには、量販店や商業施設に入っているものや路面店など様々あり、オペレーションも異なりますが、以前、セールを実施したときに一部の店舗が対象外となってしまっていたことがありました。社内のメンバーからオペレーションについて説明を受け、それは確かに理解できましたが、お客様からしたら何ら関係ない。お客様にとってはすべて同じAnker Storeですし、どのAnker Storeも同じ条件でないのはおかしいわけですから、解決するために限界まで努力をしなければなりません。

「お客様にとってどうなのか」がすべて。ひとつでも不満の声があれば、そこは無視できません。社員全員がそう考えた上で仕事をすべきと考えているので、「なによりもお客様の方を向いて仕事をしましょう」という話はよくしています。

また、Amazonを利用してAnkerグループ製品を購入された方のVOC情報の集計を行っています。星1つから3つを「ネガティブレビュー」と呼んでいて、その割合が何パーセントあり、どう変化し、どんな声が寄せられているかといったレポートが毎週上がってきます。何かのミスですぐに改善できる見込みがある場合を除けば、星が3.5といった低水準の製品はお客様の満足度を満たしていないのだから売るべきではない。製品によりますが、中には半年や一年でなくなる製品もあります。

―― そこをなかなか徹底できない会社も多いのではないでしょうか。合理的に、かつスピーディーに判断されているように感じます。

猿渡 お客様の方ではなく、上司や会社の方を向いて仕事をしているのはどうなのか、と思います。お客様にメリットがなく、社内の過去事例に囚われた意味のないルールは要らない。余談になりますが、うちは外資系ですが、新規店舗を自由に出したり、CMを出稿したりと日本法人に裁量権があり、そこは自由に行っています。

プレスリリースも重要なものはすべて目を通しますし、直営店は下見とオープンにはすべて足を運んでいます。現在約40店舗(※20258月時点)ありますが、売上・利益・店舗図面・店長名はすべて頭に入っていて、数字を見た瞬間におおよその状況はわかります。事前に情報を見なくても判断できるようにしておかないと、意思決定が遅くなってしまいます。

―― 直営店の展開も加速していますね。全国に約40店舗を展開されています。

猿渡 2018年夏の「Anker Store ららぽーとEXPOCITY」(大阪府吹田市)が1号店になります。グローバルでも直営店展開のノウハウはなかったため、まずはポップアップストアとして3カ月、なにもない状態から、私ともう一人の2人で始めました。

写真は2024年にオープンした「Anker Store 渋谷」 

期間限定のポップアップストアでしたが、交渉して少しずつ期間を延長しました。初めての挑戦でしたが、大きな失敗がないようにリスクはできるだけ最小化する。新しいことは実験をして、小さく始めて徐々に広げていくことを意識しています。いきなり何億もかけてテレビCMを打つこともありませんし、Jリーグ川崎フロンターレとのパートナー契約も、最初は小さな金額から始めて、効果を見ながら丁寧に拡大し、現在はトップパートナーを務めています。

機能を上げることと価値を上げることでは意味が異なる

―― チャージングブランドの「Anker」から始まり、その後、スマートホームブランド「Eufy」、オーディオブランド「Soundcore」、プロジェクターブランド「Nebula」などを手掛け、いずれも各カテゴリーにおけるトップブランドに成長しています。

VGP2025 SUMMERで「ホームビジュアル大賞」を受賞した「Nebula X1」。ワイヤレススピーカーと組み合わせた4.1.2ch立体音響でホームシアター級のサウンドが体感できる 

猿渡 Soundcoreの完全ワイヤレスイヤホンは昨年、数量シェアでトップとなり(※1)、今年は売上げでもソニーを抜きました(※2)。プロジェクターも日本ではシェアが半数以上ありますが、マーケットはまだ相対的に小さいため、完全ワイヤレスイヤホンという大きなマーケットで、チャージングに次ぐ2つ目の柱がつくれたことは非常に大きな意味があります。

当時、市場の製品を見渡すと高価格帯の製品が多くあり、4万円、5万円する製品に手を出せる方もいますが、完全ワイヤレスイヤホンのユーザーには学生もいますし、できるだけ価格を抑えた製品にした。今年522日に発売した「Soundcore Liberty 5」は、シリーズで国内累計150万台を販売した2022年発売のヒットモデル「Soundcore Liberty 4」シリーズから、スペックも大きく進化を遂げながら、価格は変わらず税込14,990円です。製品の企画から開発、日本での展開まで様々な場所で試行錯誤することで、この価格でも、これだけ価値を高めた良いものを作ることができます。

Soundcoreの人気シリーズの最新作「Soundcore Liberty 5」 

スペックを上げると言っても、機能を上げることと価値を上げることでは意味が異なります。20個ぐらいボタンがついているような洗濯機などもありますが、普段使うのは基本の機能のせいぜい5つくらい。残りのボタンはほとんど押したことがない。その押さないボタンや機能のために値段は上がっているかもしれないけれど、価値は上がっていない。機能と価値は違います。

例えばApple社の製品はボタンも少なくシンプルですよね。削ぎ落していく意思決定が大切。お客様にとって本当に価値あるものはどれか、これもお客様の方を向いているかどうかです。

―― 製品の投入サイクルも非常に速い印象がありますが、展開する製品についても日本法人の裁量は大きいのですか。

猿渡 売上げや利益の話はもちろんありますが、それをどうやるかはあまり細かい話はせず、お客様に満足していただいた上で結果を出していればいいのではないかというスタンスでやっています。完全ワイヤレスイヤホンにしても充電関連製品にしても、それぞれの国でお客様が満足する製品は異なります。

例えば、パーティースピーカー。ピカピカ光る大きなスピーカーを日本でも販売してはいますが、そもそも日本ではパーティーをする機会そのものが米国等に比べると少ないため、ラインナップはかなり絞り込んでいます。グローバル全体で見てお客様に求められる地域があるのであれば展開する、あくまでグループ全体の全体最適で判断されます。

―― 製品の開発には日本の意見も反映されるのですか。

猿渡 外資系メーカーというと販売代理店的な色合いが濃い場合が少なくないのが普通ですが、Ankerグループでは外資系には珍しく、かなり現地法人の意見を反映してくれます。製品の製造が完了してから「こんなの売れるわけがない」ではどうにもならないですから、コンセプトの段階から意見を出しています。例えば、完全ワイヤレスイヤホンは日本の売上げも大きく、「Soundcore Liberty 4」の“シャンパンゴールド”のカラーは、日本のお客様の「アクセサリーのように肌に馴染む色のイヤホンが欲しい」という意見を日本から起案し、アイデアが取り入れられたものになります。

―― 米国ではこれだけ売れている、だから日本でもこれくらいは売れるはずだと数字が降りてきて困るといった外資系の会社の声もよく聞きます。

猿渡 そうしたときには「あなたの指摘はおかしい」と普通に言いますね。そもそもグループ全体として「本社が偉い」という発想がベースにありません。全員が分業して取り組んでいるという発想です。お客様の方を向いていない製品を出しても意味がない。非合理な内容をゴリ押しする上司がいても、それは全体最適でも合理的でもないため、結果として評価が上がらないシステムになっています。

米国でパーティースピーカーなどアウトドア用途が盛り上がり、日本での売れ筋製品であったBluetoothスピーカーの「SoundCore 2」の“次”がなかなか出てこなかったときに、日本から企画、提案したのが、グローバルでヒットしている「Soundcore 3」です。部屋の中に置いても馴染むシンプルなデザインと、迫力のある低音が特徴の製品です。日本ではパーティースピーカーが売れないと文句を言うだけでなく、プロダクトチームに対してきちんと提言することが本質的。Ankerグループは外資系メーカーとしては珍しく、そうした声にもきちんと耳を傾けてくれます。

まだまだベンチャー。もっと大きくしていく

―― アンカー・ジャパンは、売上だけでなく社員の数も増えています。人づくり・組織づくりについてのお考えをお聞かせください。

猿渡 グローバルでは5,000の社員がいて、それこそいろいろな人が集まっていますが、日本はようやく200人の規模(※アンカー・ジャパン単体)、昨年は百数十名でした。メーカーとしてはかなりレアで少数精鋭となります。

―― 少数精鋭ということですが、生産性の指標に「一人当たり売上高」がありますね。

猿渡 2014年に数名でやっていた時期も20億円の売上があり、会社の規模が拡大した今も、一人当たり3億円以上は維持したいと考えています。忙しいから人を増やす、そのことに問題はないですが、それで売上が増えないのなら意味がない。優秀な人を採用して、一人一人がパフォーマンスを発揮していかないと実現はできません。一方で200人を超えて、採用の難しさを感じています。

優秀な社員がいるからここまで売上げを伸ばせました。単純に地頭がいいだけでなく、皆でアンカー・ジャパンを伸ばしていこうというパッションを持っています。本社は中国で上場はしていますが、まだまだベンチャー。アンカー・ジャパンで学ぶのではなく、自らの力でアンカー・ジャパンをもっと大きくしていくんだというマインドを持った人たちと一緒にやれていることが何より大きいですね。

Ankerグループの行動指針である「First Principle」「Seek Ultimate」「Grow Together」の3つのバリューと、コーポレートミッション「Empowering Smarter Lives」については社員にもよく話をします。どのような心持ちで働くか、しっかりと意識してもらっています。

やはりマインドセットがないと、例えばインターハイを目指している高校の部活で、「なんでそんなに頑張るの?」と言う人がいたら嫌じゃないですか。1人ならその人が浮くだけですが、2人、3人と出てきたら周りのモチベーションは明らかに下がってしまいます。アンカー・ジャパンを今以上によくしていきたいと思っている人材を集めるように努力しているので、他の企業に対して差別化できていると思います。

今でも正社員は全員の面接をしています。スキル面はマネージャーが主に確認しますが、私はカルチャーマッチを見ていることが多いです。これまでの社員もすべて同様でした。最終面接を通過した候補者は所属する部署のメンバーや上司となる人とランチまたはディナーに行くのが通例となっています。入社前に雰囲気がわかるし、人間性を大事にしています。

―― 組織づくりにおいてはどのような工夫をされていますか。

猿渡 特に強調したいのは「全体最適」です。大事なのは個人よりもチーム、チームよりも日本法人全体。ボーナスも他地域の個人主義が強い国では個人主義のボーナス体系ですが、日本では私の意見で仕組みを変え、個人の結果に紐づいたボーナス以外に、会社全体が伸びればボーナスが増える仕組みをハイブリッドで導入しています。

仕事ではプロフェッショナルに意見を言い合いますが、メンバー同士お互いリスペクトしていて、雰囲気はすごくいい。数字は競いますが、ギスギスしている感じはなく、外資系ですが明るくてノリがいいメンバーが多いですね。

昨年はファミリーイベントとしてクリスマスパーティーも催しました。パートナーやお子さんを連れてくるのは任意ですが、多くの社員が連れてきました。職場の人に家族やパートナーを紹介したいと思う人がこんなにたくさんいる。そういう雰囲気はこれからも大事にしていきたいですね。

目指すは“ガジェット界のユニクロ”

―― 「まだまだベンチャー」と仰いますが、それでは、どのような状態になったらベンチャーでなくなりますか。

猿渡 挑戦者としてのマインドは忘れてはいけないし、ハングリー精神でやり続けたい。シェア1位のカテゴリーは多いですが、それならば競合他社に勝つとか何かを追いかけるのではなく、自分たちが市場をどう盛り上げ、お客様に新しい価値を届けられるか。それはシェア1位の会社がやるべきことだし、実際にまだまだやれることがあります。

例えば、ロボット掃除機。日本での浸透率はまだ低いですが、十年前とは性能は段違いです。ボタンひとつ押すだけでゴミを収集し、水拭きまでしてくれます。掃除は誰もがしていることですし、こんな便利な製品があれば一度使ったら後には戻れないなと。その価値を十分に伝えきれていないのは、弊社を含めたメーカーに責任があると思っています。

全自動ロボット掃除機の新製品「Eufy Robot Vacum Omni E25」。「掃除力、賢さ、セルフクリーニングの全てをEufyにおける“最高峰”に進化、極限まで掃除の手間をなくした製品」とアピールする 

―― 色々なブランドや新しいカテゴリーを投入されていますが、今後、特に力を入れていきたい分野はありますか。

猿渡 何かを重視しているということはなく、すべてのカテゴリーにまだまだ伸ばせる余地があり、そこに丁寧に取り組んでいきます。例えば、オープンイヤータイプの完全ワイヤレスイヤホンの市場が伸びていますが、ここもその良さが十分に伝え切れていません。充電器の購入を考えた時に「とりあえずAnkerを見てみよう」と思っていただける、その認知度とシェアを他のカテゴリーでも実現していきたい。

目指すのは“ガジェット界のユニクロ”です。ユニクロに服を買いに足を運ばれたときに、一緒に付いていった人まで購入してしまうケースがよくあると思います。ガジェットを買うときに同じように、品質と安心感から誰もが迷うことなくAnkerを選んでいただける、そこまでの存在にしていきたいですね。

―― 新たな挑戦として家庭用蓄電池に参入されました。ここではどういった強みを訴えていかれるのでしょうか。

猿渡 家庭用蓄電池そのものはかなり前からあるビジネスで、私たちは後発になります。製品単価が3桁万円と高額であり、市場規模が大きく防災用途や電気代高騰を背景にニーズは高まっています。課題のひとつは、ほとんどが訪問販売で今の時代にそぐわないこと。見積もり・工事・保証・メンテナンスなどすべてバラバラでわかりにくく、お客様にも大変手間がかかります。そこを「Ankerですべてできます」とわかりやすい仕組みを提供できればと考えています。

家庭用蓄電池は製品そのものでの差別化は他カテゴリーに比較すると難しいですが、お客様もスペックの差はあまり重視していません。求められているのは“安心感”と“わかりやすさ”です。本当は欲しかったのに訪問販売で面倒くさそうだからと断念しているケースも珍しくありません。オンラインで見積もり取得ができ、よりスマートな買い方を提案できれば、そこにチャンスはあると思っています。

すでにモバイルバッテリーとポータブル電源で強みがあり、家庭用蓄電池まで手を伸ばすことができれば、日々の身の回りの生活から家全体まで、すべてAnkerで揃えることができます。モバイル充電関連だけでなく、電力全般でお客様に安心をお届けできる存在を目指しています。

―― これからの抱負をお聞かせください。

猿渡 No.1になることと、圧倒的なNo.1になることは違います。製品やカスタマーサービスで真似したくなる圧倒的No.1の企業に共通するのは、単に売上だけではなく、会社として愛され、従業員や従業員の家族に働けることがうれしいと感じてもらえる憧れの会社であること。アンカー・ジャパンが次のフェーズとして目指すのは圧倒的No.1。会社も、従業員も、お客様も、各方面に良い体験をお届けすることを目指しています。

わたしたちは皆さんの生活をよりスマートに、そして豊かにすることができます。モバイルバッテリーやロボット掃除機といった製品を単に売りたいわけではなく、目的はその先にあるお客様のスマートな生活を実現することにあります。Ankerがその担い手となり、皆さんから「Ankerグループ製品を買ったら生活が豊かになったね」と言っていただけるよう製品をお届けしていければと思います。

 

1 直営店を除く主要販路において/完全ワイヤレスイヤホンにおける、20247月全国有力家電量販店の販売実績集計(外部調査会社のデータをもとにした自社調べ)/完全ワイヤレスイヤホンにおける、20247月大手ECプラットフォームのランキングをもとにした自社調べ

2  20251-3月における外部調査会社のデータをもとにした全国有力家電量販店の販売実績集計/大手ECプラットフォームのランキングをもとにした自社調べ/直営店などでの販売を除く

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