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【特別企画】鴻池賢三が迫る!

シャープ 次世代液晶テレビ “ICC PURIOS”大解剖 − 業務用マスモニを彷彿とさせる民生機

公開日 2013/02/08 12:00 鴻池賢三
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●“目の当たりにしている光景のような自然な表現”− 画質・音質レビュー

技術的な解説が先行したが、出てくる画は、理屈抜きに新たな時代を感じさせるものである。風景を4Kカメラ撮影し、ブルーレイに収録した2Kのデモ映像では、圧倒的な奥行き感を見せる。

ブルーレイのデモ映像を視聴する鴻池氏

被写体の前後の位置関係という、書き割り的な立体感ではなく、例えば水面のように水平線に向かって連続的な奥行きを持つ構図で威力を発揮する。その光景を目の当たりにしているかのようなナチュラルな距離感は、従来の映像装置では得られなかった感覚である。

またガラス、金属、水面に映る風景は透明感を伴い、それぞれの質感が手に取る様に判別できるのも面白い。この辺りの繊細な描き分けは、ICCの創造性と、シャープの培った精密な表示技術のシナジーと言えそうだ。

従来モデルAQUOS(左)との画質を比較


左が従来AQUOS、右がICC PURIOSの表示画面。ICC PURIOSではキャンバスの質感まで再現されている
ブルーレイ映画の表現力は、筆者がリファレンスの一つとしている『The Tourist』でチェックした。まず目に止まるのは驚くべき精細感。『The Tourist』は4K撮影され、また比較的尖鋭感のある映像で、フルHD解像度でも充分な情報量が得られると思っていたが、フルHD機と4K ICC PURIOSを横並びで比較すると、フルHDがピンボケに見えてしまうくらいの違いがある。一度4Kの解像度を体感すると、2Kに戻れないと思ってしまう。

ヴェネチアの町並みをロングショットで捉えているシーンでは、小さな建物が折り重なる様子も克明に描き出す。一方、シュートでディテールが損なわれる事はなく、瓦一枚一枚の形状が把握でき、建造物の曲面も滑らかに描き出しているなど、硬柔の描き分けも絶妙だ。

『The Tourist』を視聴する鴻池氏

暗闇で照らし出される水滴やしぶきの輝き、ゴージャスな装飾品やクリスタルの煌めくような輝きも、解像感が伴うことでより鮮烈な光沢を放ち、そのコントラスト感に見とれてしまった。この感動的な感覚は、一般的な超解像で得られないものであり、ICCが脳に訴えかけている…という片鱗が感じ取れる。

音質面では、全面に配置されたスピーカーと、後方に音が逃げない台座のバッフル効果により、音が前方向に力強く放出される。総アルミの筐体や台座の剛性が功を奏し、重心の低く澄んだ音が印象的だ。「MIXER’S LAB」モードを適用すると、低音と中高域の分離が良く、スッキリと聴き易くなる。テレビの枠を超えた巧みなチューニングだ。



本機の最大の魅力はICCによる革新的な映像表現にあるが、それを可能にしたのは、シャープが長年培った液晶技術、パネル生産、完成品としてのテレビ設計および生産技術の高さに他ならない。また、ICC PURIOSの肝は、ベースのクオリティーに加え、1台ずつ丹念にチューニングする徹底ぶりである。詳細は明かせないが、精度に対する要求スペックは業務用のマスターモニター以上の厳格さで、チューニングに使用している機材も時間も、超弩級であるという。

本機は税込みで262万5千円と、民生用テレビとしては破格であるが、業務用のマスターモニターと比べると非常識な価格ではない。ICCや4Kを備え、60型の画面サイズとチューニングも含めた精度の高さを考えると、むしろリーズナブルと言っても良いかもしれない。

もちろん、誰もが手に入れられる価格ではないが、マスターモニターを熱望するマニア、映像クリエイター、写真愛好家なら、一度はじっくりと視聴してみて欲しい。


◆鴻池賢三 プロフィール
THX ISF認定ホームシアターデザイナー。ISF認定映像エンジニア。AV機器メーカー勤務を経て独立。現在、AV機器メーカーおよび関連サービスの企画コンサルタント業を軸に、AV専門誌、WEB、テレビ、新聞などのメディアを通じてアドバイザーして活躍中。2009年より(社)日本オーディオ協会「デジタルホームシアター普及委員会」委員/映像環境WG主査。

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