「世界に誇れるレコードが出来た」情家みえ『ボヌール』、レコ発イベントをレポート!
本日発売となる、ウルトラアートレコードの新譜・情家みえ『Bonheur(ボヌール)』のレコード。オーディオ評論家の故・潮 晴男氏と麻倉怜士氏が立ち上げた音にこだわるレーベルらしく、編集なしの「一発録り」を実施、録音からカッティングまでアナログ工程で制作された、近年非常に珍しいタイトルだ。
そんなレコードを、発売に先駆けてハイエンドオーディオシステムで試聴できるイベントが、去る4月4日(土)に学芸大学のオーディオ専門店 ホーム商会で開催された。
潮 晴男氏の遺作となったレコード
読者諸氏もご存知のように、2月13日に潮 晴男氏が急逝し、本作が遺作となってしまった。今回のイベントは生前に潮氏からホーム商会に直々に打診があったそうで、ホーム商会の村山氏も「今日たくさんの方に集まっていただけたのは、潮先生のおかげかなと思っています。とにかくいい音を目指してきた方なので、その音を皆様にしっかりと聴いていただきたいと思っています」と話していた。
その言葉の通り、あいにくの空模様だったにもかかわらず、会場には多くのオーディオ愛好家が詰めかけ、開始前にすべての席が埋まってしまうほどの盛況ぶりだった。進行は潮氏の後を継いでウルトラアートレコードの代表に就任した麻倉氏で、ゲストとして情家みえ氏も駆けつけた。
冒頭、麻倉氏から、「潮さんが急に亡くなってしまいどうなることかと思ったんですが、なんとかレコードが完成しました。当初の予定からは1か月ほど遅れましたが、4月15日に発売します。今日はその前に、集まってくれた皆さんにお披露目をしたいと思います」と挨拶があった。
続いて情家氏も、「今日は雨の中おいでいただき、本当にありがとうございます。出来上がりを一番楽しみにしていた潮さんが今日ここにいらっしゃらないですけれど、麻倉さんと一緒に思いを受け継いでいきたいと思っています。ぜひ応援してください」と、その想いを語っていた。
厳選したアナログシステムで再生
カートリッジとトーンアームを準備してくれたカジハラ・ラボの梶原弘希氏は、「潮さんからの厳命で、4月4日にイベントを開催するからカートリッジとトーンアームを用意しろと言われていました。今日はイケダのフラグシップトーンアームに、ミューテックの『HAYATE』を取り付けて、いい音になるように頑張りました」と製品選びについても潮氏から指定があったことを明かしてくれた。
続いて潮氏と親交の深いサエクコマースの北澤慶太氏が登場、接続に使ったケーブルについて解説した。「スピーカーケーブル、ラインケーブルともサエクのフラグシップの『STRATOSPHERE』シリーズで接続しています。電源ケーブルにはサエクとキャメロットテクノロジーのモデルを使いました」とのことで、電源から伝送系まで細かな配慮がされていることもわかる。
アンプ、スピーカーについては、フューレンコーディネートの北村浩志氏が紹介。今回準備されたのは、オクターブのプリアンプ「HP700SE」とパワーアンプ「RE320」と強化電源「Black Box」、さらにピエガのスピーカー「Coax611」だ。
北村氏は、「潮さんには、ピエガのスピーカーが代替わりするたびに試聴してもらっていたんです。毎回 “いいね” とは言ってくれるんですけど、“でも、ちょっとここは……” という指摘があったんです。でもこの世代では、“いいね” だけで終わった気がします。今日も朝から準備をしましたので、皆さんにいい音を楽しんでいただきたいと思います」と、潮氏らしいエピソードを話してくれた。
音質のために45回転LPを選択
ここから、麻倉氏によるレコード紹介が始まった。麻倉氏は、「『ボヌール』は情家さんのボーカル第2弾で、去年の9月にCDを発売しました。こちらは、デジタル録音した音源を使っています。その際に、同時にアナログテープでも録音していて、今回のアナログレコードにはその音源を使いました。
また今回は45回転LPです。というのも、CDに収録している10曲を33回転レコードにしようとすると、両面でも7曲しか入らなかったんです。そうなると、2枚組にしましょうという話になりますよね。そこで潮さんから、2枚組にするんだったら、45回転にしようという提案があったんです。45回転の方が線速度が早いので、情報量も多く入りますからね」と品質にこだわった結果、このフォーマットが選ばれたようだ。
アナログとCD、それぞれの持ち味の違い
そしていよいよ試聴がスタート、今回はアルバムの全曲を再生するという内容だ。1曲目は「ラバー・カムバック・トゥ・ミー」で、この曲について麻倉氏は、「アルバムの1曲目にどれを選ぶかはかなり難しいんですが、前向きで、元気な曲がいいと思って、これを選びました」とのこと。
さらにこの曲では、昨年9月に発売されたCDとの比較も行った。CD、LPの順で再生すると、どちらも非常にいい音なのだが、微妙に聴こえ方や印象が異なっている。もちろんプレーヤーによる違いもあるだろうが、音の作り方、鳴らし方自体に違いがあるように感じる。
ここについて麻倉氏も、「音の構造が違うような感じがしますね。デジタル録音のCDは音像がくっきり立って、シャキシャキした音ですが、レコードの場合は、まとまった音場の中でボーカルや楽器がそれぞれ主張してきます。どちらも持ち味があって楽しいですよね」と解説してくれた。
録音裏話とともにレコードの音を堪能
以降は45回転LPでの試聴となり、1曲ごとに麻倉氏や情家氏が収録の狙いや苦労話を披露している。以下で主な内容を紹介しよう。
<3曲目>「ホワット・ザ・ワールド・ニード・イズ・ラブ」
「お客さんの後ろの真ん中で聴かせてもらっていますが、自分の口の中の動きまで再現されていて、汗だくになってしまいます。私がその場で歌っているみたいな声が聴こえてきて、鳥肌が立っています」(情家氏)
<4曲目>「ザ・シャドウ・オブ・ユア・スマイル」
「この曲は6テイク録りました。最初は普通のテンポだったんですが、テイクのたびにピッチが遅くなっていったんです。でも遅くなったバージョンもすごくよかったから、ディスクにはそっちを入れてくださいって言ったんですが、潮さんが“ダメだ”って。最終的にこのテイクになりました」(情家氏)
<6曲目>「イット・ドント・ミーン・ア・シング」
「『スイングしなけりゃ意味がない』の邦題でも知られている、かっこいい曲ですよね。これも一発録りでしたが、最初の部分にちょっとリズムをつけましょうってリハーサルで話し合ってから、収録しています」(情家氏)
<7曲目>「ラブ・イズ・メニー・スプレンディド・シング」
「香港が舞台の映画『慕情』の主題歌です。我々は去年、『香港ハイエンドオーディオ&ビジュアルショウ2025』に参加して、そこで情家さんのライブも開催したんです。そこでこの曲を歌ってもらったら、凄い歓声でした。それくらい人気の曲で、本当にたくさんの方が感動してくれました」(麻倉氏)
<8曲目>「アルフィー」
「潮さんが『アルフィー』を入れたいということで、結構ロマンティストなんだなと思っていました。でも、どうやら違う曲を考えていたようなんですよ。どの曲なのか結局わかりませんでしたが」(情家氏)
<10曲目>「アイ・キャン・シー・クリアリー・ナウ」
「この曲は、情家さんが今まで歌ったことがなかったそうです。でも、そんな曲を、よくこんなに素晴らしいものに仕上げたなと、制作側ながら感動しました」(麻倉氏)
「これも、なかなか苦労しましたよ。収録曲が決まったのがレコーディングの2週間前で、どうしてもこの曲を入れたいって潮さんが言い出して。結局、人前で初めて歌うのがレコーディングスタジオでの収録だった、そういう曲です」(情家氏)
「世界に誇れるレコードが出来た」
ここまで休憩を挟みながら2時間弱、全曲フルコーラスが再生されたが、来場者の皆さんも真剣に耳を傾けていた。記者も後方で聴かせてもらったが、情家氏のボーカルの情感の豊かさに思わず引き込まれたし、ピアノやギターの細かな再現、さらにはベース、ドラムの低域の力強さにも圧倒された。
情家氏によると、サンプル盤をチェックした潮氏から、「世界に誇れるレコードが出来た」と連絡があったそうで、本LPでは潮氏が目指した“いい音”が楽しめるのは間違いない。
情家みえ『Bonheur(ボヌール)』は、PHILEWEB.SHOPでも本日から販売をスタートしている。現代最高品質のアナログレコードを楽しみたい方は、ぜひお求めいただきたい。
<当日の試聴機器>
・アナログプレーヤー:ラックスマン「PD-191A」
・MCカートリッジ:ミューテック「HAYATE」
・トーンアーム:イケダ「IT-407CR1」
・SACD/CDプレーヤー:ラックスマン「D-100 CENTENNIAL」
・プリアンプ:オクターブ「HP700SE」
・パワーアンプ:オクターブ「RE320」
・スピーカーシステム:ピエガ「Coax611」
・ケーブル類:サエク製品
















































