英国名門 PMC、その徹底したエンジニアリングへの信頼。トランスミッションラインの進化の詳細をCEOが解説
イギリスの名門スピーカーブランド、PMC。「Professional Monitor Company」の頭文字をとったブランド名であり、その名の通り“スタジオモニター”としてイギリスを中心に世界中の放送局や音楽スタジオなどで活用されてきた。
その二代目CEOであるオリバー・トーマス氏が来日。コンシューマー向けオーディオ製品の輸入を手がけるエミライ主催の元、PMCの製品説明会が開催された。レッドブルでF1の研究開発にも関わっていたと言う“生粋のエンジニア”であるオリバーさんに、PMC独自の音響技術のこだわりについて解説いただいた。
“エンジニアリング”を大切にスピーカー開発を続ける
PMCは、現在大きく分けてスタジオ向けのプロフェッショナルラインと、コンシューマー向けのHiFiオーディオラインを擁する。スタジオ向けの国内展開はミックスウェーブが、コンシューマー向けの展開はエミライという棲み分けがなされている。オリバーさんの来日も、コンシューマー向け展開をさらに強化するとともに、11月19日(水)から開催されていたInterBEEの視察、という意味合いも込められているのだろう。
今回の製品説明会では、PMCの最新スピーカー「Prophecy」に搭載された最新テクノロジー「アドバンスト・トランスミッションライン」(ATL)と、ポート技術「Laminair X」、そして中高域に設けられたウェーブガイドの背景について重点的に解説された。
まずはPMCというブランドの背景から。PMCは1994年、オリバーさんの父親であるピーター・トーマスさんが立ち上げたブランドである。ピーターさんはイギリスの公共放送・BBCのスピーカーエンジニアとして働いており、BBCメイダヴェールスタジオのためにスピーカーを開発したことがPMCの始まりだと言う。初号機「BB1」の開発から、その後何代かの進化を経て、「BB5 XBD ACTIVE」というモデルは現在でもBBCスタジオのモニターとして採用され続けているという。
オリバーさんは2013年にPMCにジョイン。スピーカーエンジニアとして数年働いたのち、PMCのエンジニアリング部門の統括に就任、今年頭にピーターさんからCEOを引き継いだ。このことからも、PMCが非常に“技術”を大切にしてスピーカー開発を続けていることが窺える。
オリバーさんはPMCの理念として、「全体的なアプローチによる設計で、着色のない最高の解像度を持つオーディオを創造する」ことにあると言う。スタジオとホーム向けについても同じ開発理念で行っており、先述の「トランスミッションライン」という低域増幅の方式はいずれのスピーカーにも採用されている。またR&Dにも積極的に投資を行っており、7年前にはR&Dと製品開発のチームを分けることで、基礎研究のチームが短期的なプレッシャーを考えずに研究に邁進できる環境も整えたと語る。
著名な映画スタジオの多くに採用されており、『タイタニック』『007 スカイフォール』『ゲーム・オブ・スローンズ』の映画の音はPMCのスピーカーを活用して制作されている。またここ数年はドルビーアトモススタジオにも力を入れており、アメリカのキャピトルスタジオや、日本でもユニバーサルミュージックのドルビーアトモス用ミックススタジオにPMCのスピーカーが導入されている。
ATLとLaminair Xの詳細を解説
続けて、「Prophecy」(予言という意味)のスピーカーについて詳しい解説が行われた。先述の通り、このスピーカーには「アドバンスト・トランスミッションライン」(ATL)と「Laminair X」という2つの新技術が搭載されている。

まずATLについて。トランスミッションラインとは、スピーカーにおける低音の増幅方式のこと。ウーファーユニットの背面から、スピーカーの内部に長い音導管を設けることで低域を増幅するというのが基本の考え方である。トランスミッションライン方式は、(現在においてメジャーな方式とは言えないものの)キュードスやアルベドなど、いくつかのスピーカーブランドで採用されている。
オリバーさんはトランスミッションラインの特長として、「歪みがなくパワーのある低域を出すことができる」利点があると解説。この「Prophecy」というシリーズについてはそれが“アドバンスト”であることが非常に重要で、管のなかに5種類の特殊な化学素材を適切に配置することで、不要なサウンドを吸収し、良質な低域だけを取り出すことに成功しているという。この吸音材の配置にはさまざまなコンピューターモデリングを用いており、シミュレーションと聴感の双方で実験を重ね、スムーズなレスポンスを実現したという。
もうひとつの「Laminair X」について。これは元々存在した「Laminair」という技術を進化させたもので、Prophecyはその進化版となる「Laminair X」を初搭載したモデルとなる。こちらも高度な流体力学の理論をベースに構築されたもので、トランスミッションラインの「出口」となるポート部分の“乱流”(空気の乱れ)をコントロールするものとなる。
「Prophecy」のスピーカーの下部に設けられた、U字型に窪んだ縦長の小部屋に分かれた黒い部分が、トランスミッションラインの出口となる。この形状が重要で、ポートの長さやフィンの数などを適切に設計することで、「レイノルズ数」と呼ばれる空気の流れの乱れを示す数値を下げることができる。結果的にそれがポートノイズの低減、低域増幅の効率にも寄与しているそうだ。この設計にもコンピューターシミュレーションが活用されているそうで、F1開発で培ったオリバーさんの知見が多分に生かされているのだろう。
最後にウェーブガイドについて、こちらもさまざまな実験を繰り返し、トゥイーター用・ミッドレンジ用とそれぞれに専用に設計。ウェーブガイドの有無や形状について無響室での計測を繰り返し、「広い指向性を確保する」とともに、「エネルギーより広く強く拡散させることができる」設計を追求しているそうだ。
最後に現在のPMCのラインナップについて。現在国内向けには、「Prodigy」と「Prophecy」という、下から2つのシリーズが輸入されている。日本に未導入のラインとして、トップグレード「fenestria」、クラシカルなデザインを採用した「SEシリーズ」(パッシブ/アクティブの両面展開)、それにアクティブスピーカーの「twenty5」というラインを擁する。オリバーさんは「アクティブスピーカーも大好き」だそうで、今後のHiFi市場に向けてアクティブスピーカーの大きな可能性も感じているようだ。
BBCモニター由来の伝統技術を踏襲しながら、それをコンピューターシミュレーションや自動車業界における知見も大いに活用した現代ならではのスピーカー設計。PMCのスピーカーはすべてイギリス生産となっており、組み立てから試聴テストまで一貫して行い、徹底したクオリティコントロールを維持していることもPMCの大きな誇りだという。
オリバーさんの語りからは、“エンジニアリングを追求することで、より優れた音質を追求できる”、その強いメッセージを感じられた。そのぶれない開発への信念が、スタジオ向けとホーム向けの双方で強い信頼を獲得する背景にあるのだろう。
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